Ep-694 到来する嵐
十五時間後。
フォールナウトの城壁前に立っていた門番は、早朝の警備に欠伸をした。
冬のフォーランドは日の出が遅く、しかし日が出れば交代の時間である。
「ふあーあ..................」
兵士は、黄昏が始まったのを目にしてその目を見開く。
地平線より光が溢れ、空が朱火色に染まる。
「今日も平和だなぁ............」
兵士は地平線を見る。
山脈もなく、森の向こうから太陽が顔を出そうとしている。
冬の透き通った空が創り出す芸術を、その兵士は愛していた。
だが――――その日の夜明けは、少し違った。
遥か向こうに少し顔を出した太陽を、巨大な何かが遮っていた。
「な、何だあれは..................!?」
その姿は、巨大な逆三角形。
そして、その周囲を魔導飛行船の大型版のような艦艇が飛翔していた。
『オーディン様、フォールナウトを視認しました!』
その大陸のような船の正体は、独立型大戦略輸送機『フリングホルニ』。
超巨大な飛行魔石を二つに分割し、両翼に装備する形で浮力を得ている。
指揮官はオーディンであり、その名の通り五万の戦力を同時に輸送できる。
「騎竜隊を発進させよ、魔法放送を開始するのだ」
『了解!』
フリングホルニ、それからその周囲を飛ぶ中型大型魔導戦艦『スキーズブラズニル』からも、100を超える飛竜が飛び立つ。
飛竜の背にはホブゴブリンが騎乗しており、飛竜たちはホブゴブリンと友情を築いた者ばかりである。
『フォールナウトの民たちに告ぐ。先日、この街にて王妃の誘拐事件が発生した。我々は王妃の反応を独自に追い、その位置を特定した。場所は、ヘンズレイ子爵家の地下である。繰り返す、ヘンズレイ子爵家に王妃は囚われている。子爵家並びにその関係者は、直ちに該当人物を引き渡せ、直ちにこれが行われない場合、五時間後に総攻撃を開始する』
あっと言う間に、フォールナウトは大混乱に陥った。
名指しで子爵家を攻撃すると宣言し、更にその空を無数の竜が飛び交っているのである。
飛竜と竜ではだいぶ違うが、見慣れぬ者たちからすればどちらも同じである。
「あ、あんなデカい船が来たら俺たちはおしまいだぜ!?」
「ど、どうすれば――――」
その時、西の空が輝き巨大な魔法陣が開かれる。
そして、極太の雷がフリングホルニに突き刺さった。
「無駄だ」
だが、その雷はフリングホルニの張った魔導障壁により完全に無効化され、直後にフリングホルニから飛んだ砲撃が、空にいた何者かを巻き込んで大爆発を引き起こした。
「索敵は終わったか」
「はっ、西に反応が多数、魔族式の術式で暗号化されたものです」
「よし............では、頼んだぞ............ゼパル」
「言われなくとも」
魔王ゼパルがフリングホルニの背より跳躍し、雲を吹き飛ばすほどの衝撃波を伴って西へと向かう。
「愚かしき人間ども、我らがグランドマスターを謀りに巻き込んだその罪...............必ず償わせてやろう」
オーディンは鼻を鳴らし、フォールナウトを見た。
「まさか、オークロードが実在するなんてな...............」
「全ては我が主の膨大なる力の恩恵によるもの。貴君の友人なのだろう? より敬う事だ」
「そう、だな...............」
ジェラルディンは震えつつ、誤魔化すようにティーカップを傾けた。
当然ではあるが、オークロードは英雄を嬲り殺しに出来る程に強い存在である。
怒らせれば、到底敵わない相手である。
「気にすることはない。仮に俺が貴君を害したとして、その後俺は自害する。グランドマスターのご友人殿に手を出すことなど不敬を越えて万死に値する」
「は............はは...........................」
ジェラルディンはより一層震えつつ、苦笑いを浮かべたのだった。
「..................」
私は目を覚ます。
八方塞がりで、とりあえず寝ようと思ったけれど、この体勢で寝るのはなかなか難しい。
「(どうしようかな)」
メニューも出ないので、私はこの状況から脱出する手段がない。
最後の最後の手段として、黒龍刀を使うというものがあるけど............
これも除外。
他にできることは...............
「起きてたんだね」
「............!」
その時、扉を開けてイグアスが入ってきた。
私はイグアスを睨むけれど、何もできない。
イグアスはお盆を持っていて、その上にはお粥のようなものが乗せられていた。
「食事を持ってきたよ」
「どうやって............」
「俺が食べさせてあげよう」
最悪も最悪だ。
でも、逆らえない。
檻には触れられないし...............
「ほら、あーん」
「.....................」
私は突き出されたスプーンを、閉じた口で弾く。
施しは受けない.........それに、何が入っているか分かったものじゃない。
「食べなよ、無理はしない方がいい」
「........................」
「そのままじゃ辛いだろう?」
「...........................」
「いいから食べろ!」
「.......................................」
私はその後も、それを断り続けた。
イグアスの欲望を満たすくらいなら、餓死した方がましだ。
「まあいい。いずれ食べたくなったら、いつでも言うんだよ」
イグアスはそう言って去っていった。
それにしても、どうすればいい............?
水神の力で排泄は何とかしているけれど、食事だけはやらなければいずれ死ぬ。
魔力が使えない以上、〈魔皇之再誕〉も使えない。
「........................助けて、誰か」
呟いてみるけれど、救世主は現れない。
でも、今ここに居なくても、これから現れないわけじゃない。
ジェラルディンが生きてるなら、救援は必ずやってくる。
「(絶対、諦めない...............)」
私は身動き一つできない封印の牢獄で、一人決意を固める。
コルは修行に出しちゃったからいないと思うけれど、ジェラルディンかリュート、それかシロが絶対に助けに来てくれる。
もし来なくても............それなりの理由があるって思うから。
無理だけはしないで欲しいとは思ったのであった。
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