Ep-690 誘拐
さて。
色々あったけど、とりあえず寝て忘れた。
目下私の予定は......
「観光だね」
「観光と言っても、大したものはないけどな」
「ショッピングだって、何でも出来るよ?」
「ユカリがいいならいいじゃねえか、なぁ?」
フォールナウトも、比較的小さい街とはいえ商店街がある。
そこに行けば、多少は暇潰しになると思う。
「だけど、何で帰らねえんだ?」
「あのねぇ、ジェラルディン、私がそう簡単に帰れると思う? 王妃様はお金ばら撒いて行かないといけないの」
依頼を受けたのも、そのための資金稼ぎの一面もある。
「あー、そういうやつか」
「少なくとも一週間はここにいないとダメ」
「分かった、分かったって」
私は素早く荷物を纏めると、寝巻きから他所行きに〈魔装換装〉で着替えた。
リュートはお金の援助をしようかと私に言ってくるけど、後が怖いのでやめておく。
何だかんだで、私も人が信用できないんだ。
「今日は白金貨30枚かな」
300万オルク。
それくらいばら撒けば十分だ。
「........ユカリ、なんかあったか?」
「何でもないよ」
何でもない。
私はくよくよ悩まないタイプなんだから。
「それより、早く準備してよ」
「もう終わってる」
「終わってるぜ」
それならいいか。
私はシロの方を見る。
「お留守番できるよね?」
「クゥン」
「よし」
私たちは宿から出る。
昨日無理やり晴らしたせいで、周辺から雲が消し飛んだ。
都市を離れるときに、ちゃんと戻ってもいいよって言わないとダメそうだ。
『新たな水神....いや、海神か? とにかく、天候を操るのを習慣にするな。そういうものは、農耕神や儂のような雷神のやる事なのでな』
雷神も私にそう言った。
他の神の不興を買うのは、元とはいえ水神としても避けたい事らしい。
神のパワーバランスが壊れると困るとかなんとか。
「ユカリ、この街は....」
「ああ、ちょっとね」
少し歩いたくらいじゃわからないけれど、フォールナウトは古い習慣の残る街だ。
よって、今までの都市に見られた魔導装置をふんだんに使った町並みなどはない。
カビの生えた、そんな都市なのだ。
でも、私はいいと思う。
「古いことに誇りを持つのは悪い事じゃないよ」
「まぁ、そうだな。別に困ってるわけでもないだろうし」
ジェラルディンも同意する。
ここの産業はダンジョンで、街で暮らす人々はその支援をして暮らしている。
その生活に、新しさは必要ない。
「ところで、私のいない間に動きはあった?」
「なし、だ」
そうなんだ。
あの人の事だから、宿に押し掛けるくらいはしてきそうだと思ったけど、そういう自制心は持ち合わせているのね。
「それにしても、どうする? 何か買いたいものとかある?」
「あるにはあるが」
リュートはこちらを向かずに言った。
「どこ?」
「あっちだ」
リュートに続いて歩いていくと、宝飾品店にたどり着いた。
「どうしてここに?」
「ちょっと買いたいものがあるんだ。ジェラルド、後を頼む」
「あいよ」
リュートは宝飾品店に入っていく。
後には私とジェラルディンだけが残された。
「何でこっちの店なんだろうな? 商店街の方じゃなくて」
「色々やりやすいからじゃないかな?」
私は呟く。
ジェラルディンはハテナマークを浮かべた様子で首を傾げる。
「つけられてる。気付いてた?」
「いや、全然.....」
「もう少し広い場所に行こう」
私とジェラルディンは、古びた噴水のある広場に抜ける。
気配は五十人くらいかな?
それらが、一斉に飛び出してくる。
「ユカリ・フォールだな!」
「覚悟!」
手に武器を持っている彼らは、一斉にジェラルディンに向けて襲い掛かってきた。
「うおーッ!!」
ジェラルディンは猛然と戦う。
壁を背にしているので、後ろを気にしなくてもいいけど、ジェラルディンには......
「ナメんなよ! クロススラッシュ!」
「ジェラルディン!?」
ジェラルディンがスキルを使った。
X状の斬撃が短い距離を飛んで、襲撃者たちを切り裂いて消える。
戦士でも何でもない、ジェラルディンが。
スキルを.....?
「俺だってなァ! ユカリを守りてーんだよ! ダブル・エッジ!」
二振りの斬撃で、更に倒す。
やばい、ちょっと格好いいかも。
そう思っていた時、背後に誰かが降り立った。
「コ――――」
「〈封印〉」
「っ!?」
直後。
意識が遠くなっていく。
これは........毒でも、呪いでも.......ない?
目覚めると、嫌に窮屈だった。
重い目を開けると、檻の中にいた。
それも、丸い檻の中に。
「ここ....どこ?」
身体を屈めなければいけないほど狭い檻の中で、私は周囲を見渡す。
白い部屋だ。
大理石とかじゃなく、薄く発光する白い材質の部屋だ。
目の前に見えている扉を除いて、一切継ぎ目がない。
「とにかく、転移を.....」
そう思ってクリエイトウェポンを使おうとした私だったけれど。
魔力が使えないことに気づいた。
それだけじゃない、聖力も、気力も使えない。
邪力は使えるみたいだけど、聖力のない状況で使ったら、どうなるか分からない。
「まあいいや」
檻を自分で破壊すればいい話。
それだけの力が、私にはある。
そう思ったけれど、
「ぐっ......!?」
檻に手を触れた瞬間、静電気のような感覚を感じて、手が弾かれた。
どうしようかと迷っていると、扉が開いた。
「あなたは......」
「やぁユカリ」
入ってきたのは、イグアスだった。
人懐っこそうな垂れ目、整った顔。
だけど、それ以上に.......闇を感じる。
「これは、何?」
「君が行けないんだよ、俺から逃げるから」
「待って、何か誤解をしてる」
「誤解なんかしてないさ。でも、もういい。ここでずっと暮らせるよ」
「暮らすって....」
何を言っているの?
困惑する私に、イグアスは歪んだ笑みを浮かべて答えた。
「簡単だよ、食事もトイレも俺が手伝ってあげる。君は愛する俺の元で永遠に暮らすんだ」
狂ってる。
そう思ったけれど、同時にとても可哀想に映った。
「...........必ず、私の仲間が助けに来るから」
「ああ、大丈夫さ。君の仲間がどんなに強くても――――魔族には勝てないだろう?」
「まさか!」
私の脳裏を、ガルズラインの顔が過ぎった。
魔族は未だ暗躍している?
「どうして、魔族と!?」
「君を手に入れるためだよ、ユカリ。あんな男に騙されて、可哀想に」
「........」
手の施しようがない。
「ここは封印の間。ここにいる間、君は普通の女の子なんだ。もうなにも気にしなくていいんだ」
「違.....」
私はそう言いかけたけど、何を言っても無駄だ。
そう感じた。
イグアスは言いたい事だけ言って、去っていく。
……….本当にどうしようかなぁ...?
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