Ep-678 始まりの地、フォールオース
そしてついに、私たちはフォールオースへ近づいた。
元は背の高い木に囲まれた様子で、視界が悪かった街道は、広く切り拓かれ、地面は平らに均されていた。
「なぁ、すげえ交通量が多くないか?」
「だよね」
馬車は物凄い頻度で旅人や馬車とすれ違う。
今までも交通量の多い場所は通ったけれど、これほど活気ある街道は初めてかも。
それが、私の生まれた街に繋がっている道だというのが信じられない。
「旅人は何なんだ?」
「さぁ.....馬車に乗れないほど余裕がないか、冒険者じゃないかな? この辺のダンジョンは全部制圧済みだから、ダンジョン産業向けの運営をやってるはず」
流石にダンジョンの管理数が増えすぎて、メニューの表示がバグり始めた。
私はそれを操作しながら、簡易管理メニューに切り替えて、周囲のダンジョンの情報を見る。
「ああ、魔鉱石が採れるんだ」
「魔鉱石?」
「魔素で変質した鉱石の事だよ。ダンジョンみたいな、魔物を強化したりするための浮遊魔素が鉱石に作用して変異するの」
「つまり、鉱山として利用されていると?」
「そういうこと。まあ、モンスタースポナーで魔物は沸くみたいだけど」
「?」
スポナーとは、ダンジョンの機能で設置できるモンスターの自動ポップ装置である。
DPを消費するけど、侵入者がいるならしっかり元が取れる。
「成程なあ、そうやって産業も確保してるわけか」
「それでもこの交通量は異常だけどね」
見る限り、私たちと同じ方向に走る馬車は荷物を満載しているが、帰りの馬車は荷物を積んでいない。
何かを運び、降ろして帰っていくのだ。
まあ、近づけばわかるだろう。
そう思っていた私だったのだが...
「え...何あれ...」
馬車がフォールオースに近づき、森の切れ間からそれが見えてきた。
それは、巨大な煉瓦の壁であった。
まだ建設中のようで、足場が仮組みされている。
「城壁のようだな?」
「だったとしても、何から守るため?」
フォールオースの近辺にはダンジョンはないし、野盗や隣国の不安もない。
なんで城壁なんか作るんだろう?
場合によっては王国側に警戒されてもおかしくないと思うんだけど。
とはいえ、返しが付いていたり弓用の穴があるわけでもない。
これは、攻城戦を想定した壁ではないのだろう。
「それにしても...ちょっと、外出るね」
「あ、ああ」
私は隣に座るリュートに確認を取ると、馬車から出て上に登る。
「〈魔皇之翼〉!」
翼を広げ、遥か上へ向けて跳躍した。
そうする事で、城壁の内側を見渡す事ができた。
「えぇ...」
しかし、私はその光景に目を見開いて驚愕し、息を漏らす訳ではなかった。
むしろ困惑が上回り、どれほど無茶な増築をしているかがすぐにわかった。
もともと私たちが住んでいる屋敷があった場所は、そのまま残されている。
だけど、城下町? は解体され、周囲に家が建っている。
整然とした街並みが整備され、水路まで通っているのだ。
端の方には、魔導飛行船の発着場まで見えている。
「帰ったら問い詰めよう」
私はその考えを抱き、馬車の中へと戻るのだった。
暫く雑談しながら進んでいた私たちだったが、唐突に馬車が止まった。
ふと前を見ると、前にも同じように馬車が止まっている。
「なぜ止まっているのでしょう?」
「コルが話を聞いてくれるはず...」
コルは御者台から降りて、前の馬車に話を聞いて戻ってくる。
「ユカリ様、どうやら前の方で魔物が出ているようです」
「うーん...どうしようかな」
ここで出て行ってもしょうがないような...
この辺に出没するような魔物なんて、知能が低いか流れの魔物だもんなぁ...
「それが、かなり強いようで...護衛か冒険者がいれば心強いと」
「そうなんだ...じゃあ、コルが行ってきて」
「はっ!」
コルは頷くと、目にも止まらない速度で馬車から離れて行った。
「良かったのか? 行かなくて」
「雑魚相手に堂々と現れてもしょうがないでしょ」
大抵の魔物はコルなら一瞬でボコボコに出来る。
殺すまでは無理かもしれないけど、一応宝具の使い手だからね。
「戦ってるな」
「そうだね」
遠くから戦闘の音が響いてくる。
私はそれを聞きつつ、フォールオースに入った時のことを考えていた。
...のだが。
「ユカリ様! 敵がそちらへ!」
コルの声が遠くから響いてくる。
私は急いで馬車から出る。
「魔物じゃなくて封獣じゃん!」
予想していたものではなかったが、それが何であるかはすぐに分かった。
幻獣たちの使う召喚獣のようなものだ。
強くて当然だ、大体レッサーワイバーン3体くらいの強さがあるから...
「行け。〈六皇護兵〉」
私は魔術を発動し、六体の魔法人形を生み出す。
そして、封獣にぶつけた。
ぶつける、と言っても比喩表現であり、剣を持った騎士である人形たちは、刺したり斬ったり、様々な事ができる。
コルを下がらせて、彼らに任せることで封獣はすぐに討伐された。
幻獣と同じく、致命傷を受けた時点で光になって消える封獣。
「終わったか」
「うん」
騎士たちは消え去り、コルが戻ってくる。
馬車に戻ろうとしたとき、私は上に気配を感じた。
......いた。
遥か上空だけど、飛行型の封獣....封竜とでも呼称すればいいのか、そんなものに乗った幻獣が。
「お父さんに手出ししたらぶっ殺すから」
とりあえず中指を立てておくと、幻獣は飛び去って行った。
こんなに大っぴらに仕掛けてくる以上、今回も波乱が起きそうだ。
普通に里帰りさせてくれないかな....
『こちらはフォールオース警備隊です、魔物の襲撃報告がありましたが、大丈夫ですか?』
その時、空から声が響く。
小型の魔導飛空艇が三隻、こちらへ向かって来た。
「私とこっちのメイドが対処しました!」
『治安維持にご協力頂き、ありがとうございます......おや? もしや、王妃様でございますか?』
「まだです! まだ王妃じゃないです!」
『お帰りなさいませ! 後ほどご挨拶に伺います!』
飛空艇は踵を返して去っていく。
私はコルが御者台に上がったことを確認すると、馬車に乗り込む。
「話しかけられる前に逃げるよ!」
「了解!」
王妃バレした以上、輸送屋ならともかく商人が黙っていない。
私たちは慌てつつ、フォールオースに向けて再出発するのであった。
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