幕間
現在、帝国編を更新しております。
こちらの話は、割り込み投稿の場合正常に最新更新期日が表示されないため、小説の更新が止まっている扱いになってしまうために急遽投稿したものであり、同時に本編の更新をお待ちの読者様方に宛てたものになっております。
帝国編のガイザンアガン山脈編が終わり次第、すぐに本編の更新を再開いたします。
ご了承ください。
旅を続けるユカリ達は、ドミニキアとフォーランドの国境地帯へと来ていた。
だが......
「ええっ!?」
ユカリの驚いた声が響く。
なんだなんだと、ジェラルディンが訪ねる。
「ユカリー、どうしたんだー?」
「嵐が来るから、船は出せないって」
ドミニキアとフォーランドの間には大きな湖があり、それを回避するためには、馬車を船に乗せて輸送する必要がある。
「魔物を召喚して運んでもらうとかじゃ、駄目なのか?」
「うーん.......こんな事で呼ぶのは可哀想だと思う」
ユカリは悩んでいる様子だった。
ユカリの膂力であれば、馬車を抱えて飛ぶことは難しくない。
だが......
「それに、私が乗せて飛ぶとしても、飛んでる最中の隙が気になるんだよね」
「流石に、こんなところにまでいないんじゃないか?」
リュートがそう言うが、ユカリは少し不安げだ。
「皆を巻き込んじゃうのはなあ...それに、海神の力と水神の力があれば、嵐くらい何とかできそうなんだよね」
「となると、嵐が来るまで待機か?」
「....うん、そうなるね」
ユカリは申し訳なさそうに言う。
「継承者、実は少し休みたかったのでしょうか?」
「.....」
後ろにいた水神がそう言ったが、ユカリは目を逸らした。
話を聞いていたコルが、シロを起こす。
「ガルルル.....」
「シロ、どうやら野営のようです」
「....グルル」
眠りを妨げられたことに不満だったのか、シロは唸りながら馬車から降りる。
だが、ユカリの姿を見た瞬間、尻尾を振って駆け寄った。
「シロぉ~」
「ユカリ、悪いが....その、どこに泊まるつもりなんだ?」
「あ、それは大丈夫――――〈魔皇之王喚〉」
直後、黒い魔法陣が浮かぶ。
そしてそこから、ハルファスが姿を現した。
「新しく使えるようになった魔術で、私に忠誠を誓っている魔王にだけ、相互で召喚魔術を発動できるんだ」
ユカリに忠誠を誓っている魔王は、ダンタリアン、ゼパル、ハルファスの三人だけである。
アムドゥスキアであるベルは、忠誠を誓っているわけではないので呼ぶことはできない。
加えて、
「相手の意識に割り込むから、例えばハルファスが気絶していたり寝ていたりしてたら、呼べないんだよね」
「ユカリ様が私を必要としているのであれば、いつでも直ぐに起床して参ります」
「(そこは寝ないとかじゃないんだ...)」
ユカリは少し思ったが、全ての魔王がゼパルのように狂った身体性能である訳ではない。
一週間寝ないで動けたりはしないだろう。
「じゃ、ハルファス...お願い!」
「お任せを」
ハルファスは自らの権能を使い、塔を建てる。
作り出された塔は、何重もの魔法結界に覆われて、換気と寒さを防ぐ構造を作り出した。
「内装はこの権能に含まれませんが...」
「大丈夫、そこは全く問題ないよ」
「では、守りを固めましょう――――〈迅築戦塔〉!」
塔の周囲に柱が立ち、それぞれが攻撃・防御・援護の役割を担う。
「これで問題ないでしょう」
「ちょっと過保護かもね...」
ユカリは呆れ気味にそう答えたのだった。
旅模様というのは、様々な景色を旅人に見せる。
嵐が来るという事で、風が吹き始め、雨が降り始める。
だが、ユカリが吹き飛ばすべき嵐はもっと後に来る。
「......ユカリ、何見てるんだ?」
数時間後、外を見ていたユカリを、ジェラルディンが出てきて呼び掛ける。
ユカリは視線を外から逸らさずに答えた。
「別に。雨っていいよね...って思っただけだよ」
「振られると嫌だけど、こうして屋根があるところから見るといいよな!」
「うん...そうだね」
ユカリはそう言うと、ジェラルディンに向き直る。
「それで、何の用?」
「コルが、昼飯出来たって」
「コルが...うん、分かった。行こう」
「ああ!」
二人は、塔の中へと消えていった。
嵐が到来するまでの間、塔を見つけた魔物が襲い掛かるものの、攻撃塔に迎撃されて死んでいた。
仮にも魔王の魔術である。見た目は地味だが攻撃能力は下位の勇者クラスであった。
そして、嵐がやってきた。
ユカリは外に出て、〈魔皇之翼〉を使って飛ぶ。
雨の中を飛んでいくが、水神の権能がその雨を弾いていた。
「本当に話が通じるのかなぁ....?」
「継承者、貴女は上位神の卵です。いくら強力な精霊といえど、神の前では首を垂れるほかないのです」
「....分かった、やってみる!」
ユカリは低気圧の塊の内部へと入り込む。
そこでは、雷や氷の粒が襲い掛かる領域ではあるが、ユカリにそれらは通じない。
「嵐の精霊よ、我が声に応えよ――――応えねば、この場で嵐ごと滅殺してくれよう!」
『貴様、何者だ!』
その時、ユカリの前に光の玉が現れた。
精霊との親和性を持たないユカリにはその姿は見えないが、声は聞こえる。
「私はユカリ。貴方に命ずる、この空域から立ち去れ」
事前に太陽神から、「とにかく強い態度に出るんだぜ!」と言われていたユカリは、追い詰めるように嵐の精霊に命じる。
『人間風情が偉そうに!』
「頭が高いぞ!!」
ユカリから神気が吹き荒れる。
途端、嵐の精霊は今までの態度は何だったのかとばかりに屈服し、
『.........ま、まさか....海の神であらせられたとは......』
恐るべき海の神の伝承は、精霊の間では忘れられることなく伝わっている。
海の神に逆らえば、一瞬で消されてしまうことも。
「分かったか? 退け」
ユカリは理解した。
海の神は恐神なのだと。
恐怖神であるからこそ、その権威は慎重に使うべきなのだと。
『た、大変失礼いたしました....どうか、消さないでください!』
「とっとと退くのならな」
『ははーっ!』
こうして、嵐は去った。
来た時の三倍の速度で。
「行っちゃったね......」
「継承者、どうするのですか?」
「うーん.....ちょっと、船頭さんに船が出せるか聞いてみるね」
ユカリは翼を畳み、遥か下へ向けて降下していくのだった。
「継承者は、中々怖いですね....」
水神は呟くと、ユカリの後を追った。
こうして、船が出ることとなり....
「いやぁ、まさか聖女様がこの地に訪れてくださるとは....素晴らしい偉業ですな」
「いえいえ。こちらこそ、急に船を出すように言ってごめんなさい...これ、聖水です。大切にお使いください」
「おお、ありがとうございます!」
晴天の下に、ユカリと船頭の楽しそうな会話が響くのだった。
面白いと感じたら、感想を書いていってください!
出来れば、ブクマや高評価などもお願いします。
レビューなどは、書きたいと思ったら書いてくださるととても嬉しいです。
どのような感想・レビューでもお待ちしております!
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。




