Ep-667 海神の記憶
上位神は大体こんな感じです。
800年前。
我は、圧倒的な力で矮小なる人間共を従えていた。
ある時、南の果てに魔族なる種族がいると知り、戦争が始まった。
人間共は魔族にただならぬ憎しみを抱えていた故に、我が加護を与えてやった。
――――魔族共を、何故殺す?
「魔族共は、我々弱き人間を、傲慢にも襲ったのです! このままでは我々は全滅してしまいます! どうかお力を!」
我の問いに、神官はそう希った。
疑問を感じつつも、加護は寵愛へ、そして度が過ぎた介入へと変わった。
他の上位神と組み、魔族を殲滅する戦線を組んだのだ。
しかし、魔族側も負けてはいなかった。
「魔王などと僭称する魔族が、我々の戦線を押しています!」
――――それはいけないね、奴らの抱える闇はこの世に存在してはいけない
――その通りだ
その場にいた光神がそう言い、それに炎神が賛同する。
――――して、ルキウス、プロメテウス。どうする?
我は、二柱に問う。
魔王に対抗するために、どうするかを。
――――――ポセイダル、勇者を作ろう
――――作るだと?
――――勇者は、神の寵愛を複数受けた人間の事を言うんだ、僕らならそれが出来るだろう。邪悪な魔族を消すためなら、多少のルールは破ってもいいだろう?
そして我々は、最大の禁忌を犯した。
本来生まれないはずだった勇者の因果を捻じ曲げ、上位神たちの寵愛をこれでもかと浴びせかけ、勇者を大量に製造した。
だが、勇者は敗北した。
――――あのルシファーなど名乗る者は何だ!
――魔神の関係者だよ、生かしておけない、僕らの敵だ
その時、神々の神殿にはもう炎神の姿はなかった。
情けない事に炎神は魔王に絆され、我々に背を向けたのだ。
神々の恥である。
我々は人間共から炎神の情報を抹消し、炎神の信奉者をその家族に至るまで潰した。
それから数十年戦いは続き、何百人もの失敗作達が消えていった。
人間共は愚かにも戦いをやめようなどと言い出し、光神がその力で人間共を洗脳し、継続させたのだ。
魔王共は領土を捨てて南下し、団結して抗戦を始めた。
「また、街が陥落しました!」
「アルシュト王国が陥落しました!」
勢いを増した魔族共は、その卑怯な力でどんどんと進軍を行い、風のように撤退していった。
上位神や下位神も、少しずつ魔王やルシファー共に殺され、神殿には以前の活気が戻ることはなくなった。
弱気な事に、神々は少しずつ各地に逃げ始めたのだ。
だが、魔族は滅ぼされなければならん。
そして、事態は最悪となった。
大魔王が、我々の最終兵器である最後の勇者と相打ちになり、我々は歓喜していた。
そのせいで気が付かなかったのだ。
その裏で蠢く強者の存在に。
――――光神! 誰にやられたのだ!
――――白い、獣人だ......
獣人。
混じりモノ如きが神を殺すなど、不敬である。
直ぐに我らは教義に獣人迫害を加え、犯人を炙り出そうとした。
だが、上位神は一人ずつ消えていくばかりで、一向に対策などできなかった。
――――行くのか?
――――ああ
――卑怯者めが
我は仕方なく、当時の王都を後にして海の民が住む地へと向かった。
海の民は矮小にも我を迎えるなどと愚かなことをしたが、我を隠せとの命に従ってくれたので許すことにした。
――――我を底に封じ込め、500年に一度生贄を捧げよ
水底で眠るのもいいが、一柱では寂しいものだ。
そこで我は、水の民に生贄を捧げるように言った。
海中では長持ちはしないだろうが、話だけ聞いて捨てればよい。
こうして、我は水底に身を隠すことにした。
そして。
それから数千年がたった時、我の棲み処に一人の聖女が降り立ってきた。
訳の分からぬことを口にし、結果として戦闘になった。
そして、その聖女はあのルシファーの生まれ変わりと知った。
なんという卑怯な種族か。
矮小な人間に落ちぶれてまで、我らを殺そうというのか?
ろくに人格もない殺神人形であるというのに。
――――許されぬ、あってはならぬ
矮小な人間如きが、少しばかり手が滑って傍にいた水神を殺しかけた程度で、我に傷をつけたのだ。
許されることではない。
水神など死んでもまた生まれ変わる種族ではないか。
だが、許されざる事はまだ続くのだった。
――――私の名前はエステリア。あなたが、次期水神です
我の眷属たる水神が、愚かにも矮小な人間と魔族の心を受け継いだ悪魔に魂を売ったのだ。
そして奴らは、力を合わせ我を追い詰めた。
許されざることである。
「死ねッ!!」
そして、我は敗北した。
我の身体が消えていく。
脳裏に、かつての生贄たちの顔が過る。
――――許せとは言わんぞ、人間共
生贄達に手を引かれ、我は地の獄へとその身を沈めた。
もはや我に出来ることもない。
ならば......
――――貴様の行く先に、我が望む全ての絶望と呪いを!
そして。
――――我を倒した貴様に、海神の座と精一杯の祝福を。
精々頑張るがいい。
矮小な人間よ。
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