Ep-646 行く手を阻む者たち
第六の神殿は、幻想海域の一番端に存在している。
この海域の特性上、接敵は多分しないだろうと踏んでたんだけど...
「嫌な予感が当たったな」
「ジジイの勘も偶には当たるか」
船の背後を、不気味な影が追いかけてきていた。
よく見えないけど、多分あれがクラーケンだと思う。
「契約者、あれはクラーケンではありません」
「えっ、違うの?」
「はい、あれはバクナワと呼ばれる魔物で、本来はもっと深き海淵に生息しているのです」
異変のせいで出てきちゃったのか。
水神の話によると、大きなヘビみたいな見た目をしているらしい。
「シーサーペントと姿は似ていますが、大きさは比較にはなりません。過去に何度も英雄があの魔物に挑み、命を散らしました」
「油断ならない相手か...」
なんでもあの影はバクナワの頭でしかないらしく、全長はこの船をゆうに越える大きさなのだそうだ。
「バクナワの死体が発見されたこともありません、恐らく古代から生きているのでしょう」
「ふぅん...」
絶対に油断ならない相手だ。
私はみんなに速度を上げるように言う。
「バクナワって、お酒に弱いとかある?」
「聞いたことはありませんが...どうなされるおつもりですか?」
私はインベントリから酒樽を取り出した。
「おおっ!?」
「ダメですよ。人間が飲む度数じゃないので...」
私は酒樽を船の右斜め後方に放り投げた。
小さい水柱が立ち、じっと船を追っていた影が少しの動きを見せる。
「今です! テイルウィンド!」
船の速度が更に速くなる。
バクナワが酒に釣られているうちに逃げ出せばいい。
そう思ってたんだけど...
「追ってくるぜ!?」
「くっ」
意外と賢い。
流石に数人の英傑を屠ってきただけはあるみたいだ。
「後部デッキに移動します、伏せていてください」
「お、おう!」
私は後部デッキまで移動して、魔皇剣を取り出す。
「スタングラップ!」
雷を剣に纏わせ、雷属性へ。
そして、詠唱を完了させる。
「〈雷帝轟雷砲〉!」
三つの雷球が魔法陣の上を沿って旋回し、陣の中央に稲妻を収束させていく。
そして、雷撃が波間を撃った。
「クォオオオオオオオオオオン!」
「...出てきてくれてありがとう!」
弱い雷撃に挑発されたのか、水面を割ってバクナワが飛び出してくる。
私はミステルティンを呼び出し、叫ぶ。
「スキルセットチェンジ! セットボウ! ミョルニルエンチャント!」
矢に雷が乗り、私はそれを番えて放つ。
矢がバクナワの腹のあたりに直撃し、乾いた音と閃光が走る。
バクナワの巨体が一瞬宙を舞い、その後大きな水柱を巻き起こし海へと沈んでいった。
「契約者、倒したのですか?」
「いや。あんなんじゃ死なないよ...ただ、今はなんとかなっただけ」
この海域には、まだまだ怪物がたくさんいる。
私たちはそれをよく理解させられた。
反省しつつ、私たちは第六の神殿に向かうのだった。
第六の神殿は、綺麗な海の下にあった。
阻むものは何もない、そう思ったんだけど...
「くっ、数が多すぎる...!」
「契約者、あなたの為に力を振るいます。後で労ってください...あなたの、為にです」
「わかってるよ、水神」
第六の神殿の周囲には、無数の建物があったんだけど...
そこから大量のサハギンが飛び出してきたのだ。
仕方ないので、私と水神で協力して迎撃する。
「邪悪なる者どもよ...悉く塵と化せ!」
「断界崩楼!」
水の中だと、私は結構不利だ。
範囲攻撃がほとんど封じられているようなものだし、スキルや魔王の技だけで戦わないといけない。
聖技でまとめて薙ぎ払ってもいいけど、聖力が尽きると溺れる。
「巽流奥義・楓月!」
本来は刀技だけど、魔皇剣を使ってサハギンを薙ぎ払う。
既に血でかなり視界が悪くなっているが、水神の加護のおかげで私の周囲には血が寄ってこない。
まあ、普段はオフにしないと仲間の魔物も近づけなくなっちゃう浄化の結界なんだけど。
「契約者、かなり数が減ってきました」
「そうだね、でもまだ隠れてるのが沢山いるみたいだ」
魔眼を開いて周囲を俯瞰すれば、魔力の反応がまだ目に見えているものより多く存在している。
「とりあえず、神殿内に入ろっか。装置を起動させて、出てきた残りも片付けよう」
「契約者、賢い判断です」
私たちは神殿内部に入る。
......入り口は崩落していたので、水と一体化して隙間から入った。
水神の権能があれば、こういうこともできるんだなぁ、と思った。
「起動させるよ!」
「どうぞ、契約者」
幸いにも、装置にはまだ聖力が残っていた。
起動させて、急いで外に出る。
「敵が出てくるよ!」
「ええ、わかりました。契約者」
装置が起動する振動で、遺跡に隠れていた魔物たちが一斉に飛び出してくる。
知能がなくてもその辺の危機は察知できるみたいだ。
まあ、残っていても起動の影響で発生した聖力の波に巻き込まれて死ぬか致命傷を負う羽目になるけれど。
「出でよ、ミスティルティン!」
海中に投げ出されたミスティルティンの精霊に文句を言われつつ、私はその弦を引き絞る。
水神が水流でサハギンたちを絡め取り、そこに私が弓を放つ。
「神族を殺す」という本来の目的に使われないためにその性能は低いものの、ミスティルティンは神話の武器であるので魔物相手には勿体無いほどの強さを誇る。
「これで終わりですか?」
「どうも...そうみたいだね」
殲滅はあっという間に終わり、見計らったかのようなタイミングで遺跡が起動して光の柱が真っ直ぐ上へと伸びる。
同時に、遺跡内にあった魔力反応が消失して、魔力が聖力に押されて一斉に周辺へと拡散していく。
「ここはもう終わりかな」
「契約者、次はどこへ?」
「......そういえば調査がまだだった...」
まだ遺跡内の碑文を読んでない。
あれがないと、次の神殿がわからないからね。
「行こう、水神」
「はい、契約者」
私は水神と共に、光の柱を噴き上げる遺跡へ戻るのであった。
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