Ep-644 第三の神殿
私は大遺構の床に足をつける。
調査隊が調査できないわけだ、こんな深い場所に、しかも広大で調査がしづらい場所なのだから。
海人族の手助けを借りないと調査なんか出来るわけがない場所だ、本来なら。
「契約者、これも珊瑚なのですか?」
「いや...それは流石に違うけど」
遺跡を構成している素材はよくわからない。
淡く発光しているけれど、緑光石ではないと思う。
緑光石と違って薄暗い光ではなく、明るいのにも関わらず眩しくない。
そんな不思議な光源なのだ。
「とりあえず片っ端から記録してはいるけれど、どれが何やら...」
私は学者じゃないから、絵と文字の区別は付けられない。
あちこちに彫ってある文字や絵を記録して、慎重に探索を進めていく。
時折、海の魔物と遭遇するが、大体水神が片付けてくれた。
水で満たされたこの場所は、彼女の独壇場なのだ。
「それにしても......なんだか、神秘的というか」
「契約者、私より神秘的なものが存在するのですか?」
「うーん...詳細がわからないというよりは、表現し難いという意味で神秘的な場所だなと思って」
「そうですね...多くの人々がここで生きた、しかし今は沈黙の水底で、朽ち果てるのを待つように眠る、これは神秘といっても差し支えないと思いますよ、契約者」
発光する都市は、以前どのような様相だったのか全く想像がつかない。
建物は残っているけれど、塗装や装飾といったものは全て年月という避けることのできない劣化に晒され、綺麗になくなってしまっている。
「ふぅ、こんなものかな」
私は一旦調査を打ち切り、そこらの建物の残骸に腰掛ける。
水中で摩耗した建物は、予想していたゴツゴツした印象を受けなかった。
「〈リフレクティング・ウォーター・クロスリンク〉」
通信魔法を起動して、魔道具に記録した映像をダンタリアンに転送する。
ダンタリアンがそれをベルに共有し、魔王書架に記録することで、地上で待っている神々もそれを読むことができる。
ベルの知識と神々の知識が合わさり、翻訳結果はより綿密なものになる。
しばらくすると、翻訳結果が共有され始める。
『ベルの解読はあまり芳しいものではなかったが、一部を除いて翻訳できた。恐らくは絵を含んだ何かの記録だろう』
「月が描いてあるし、もしかすると収穫の時期についてかも」
『その可能性もあるだろうな、我らはこれで以上だ。神どもの意見はまた別に聞くがいい』
「うん、ありがとう」
私は通信を切り、神聖陣を水鏡に合体させて通信を行う。
こうすると聖力がガリガリ削られる代わりに、魔力の消費が抑えられる。
「みんな、どう?」
『何とか読むことが出来た、軍神の俺は平民の古語しか知らないゆえに苦労したが...』
神たちは、水中で活動できないので仕方なく上で待機している。
私だけを海中に降ろすのは申し訳ない気持ちがあったのか、翻訳結果はすごく正確だった。
「うん、やっぱり。今と全然違うけど、収穫の時期についてだ」
「契約者、古の時代には太陽神と月神の神殿は遥か空にあったのですね」
「水神の神殿も、全ての水が沸き立つ山の頂上にあったみたいだね」
勿論これは人間が描いたもの、想像や妄想の産物かもしれない。
でも古の時代、神々はもっと力ある存在だったみたいだ。
「よし、装置の方に行こう」
「もう良いのですか、契約者?」
水神が不思議そうに尋ねてくる。
それに私は笑って答えた。
「最初に装置を調べないと、装置周辺の翻訳がわからないでしょ?」
「それもそうですね、流石は私の契約者...叡智に溢れ、若さから来る活力を存分に活かしています」
水神から褒められつつ、私たちは水中を泳いで中央の建物へと侵入する。
屋根が崩れていて、中に入るのは簡単だった。
「本当に神殿だったんだ...」
長い年月が経っても、神殿特有の清浄な雰囲気は消えないようで、幻想的な雰囲気につい足を止める。
「契約者、急がなくてはいけないのでは?」
「うん、分かってるけど...もう少しだけいてもいい?」
「契約者、あなたは許可を求める必要はありません。貴方が在る事が私の在り様、遠慮は必要ありません」
しばらく休んだ後、私は中央の穴を潜って装置の元まで辿り着く。
「これは...?」
「うーん、確かに起動方法がわからないね」
私は装置の操作板の様なものを触ってみるが、反応がない。
「契約者、この装置の動力が足りないのではないでしょうか」
「でも動力なんて、どこから...」
装置の動力源がもう動いてなさそうな現状、直接供給するしかないが...
そのエネルギー源もよくわからない。
「要調査だね」
「はい」
私は神殿の壁に向き直る。
周辺の都市に存在していた石板と同じように、びっしりと文字が彫られている。
私はそれを記録して、再び転送した。
といっても、そう楽な話ではないけれどね。
神殿は全部で八階層あり、その全ての階、円筒形の神殿の内壁にびっしりと文字があった。
それらを記録するのは至難の業で、何時間もかかってしまった。
「...今日はもう帰ろう」
「ええ、あなたの生命力はだいぶ衰弱しています。貴方が死ねば、私はどうして良いかわかりません」
結局、装置を起動させる事なく帰還することになった。
呼吸できるけれど、体温は奪われていく。
ガス欠になる前に上がらないと低体温で倒れてしまう。
「行くよ!」
「ええ!」
私は水神と共に、遥か上の海面目指して上昇するのだった。
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