EX-4 魔王ダンタリアンの戦い
!!!!注意!!!!
この話は重大なネタバレを含みませんが、王都大会編を最後まで読んでからこの話を読むことを推奨いたします。
数百年前..................
人間の軍が、とある敵を前に展開されていた。
その敵とは———————魔族。
魔族の背後には、魔王城とそれを囲む城壁が見える。
「...............今日という日を、どんなに待ちわびたか」
人間の軍の前に立ち、黄金の鎧を纏っている青年が、声を張り上げる。
「悪逆非道を働き、人間を虐げる悪魔どもの王—————魔王、ダンタリアン!」
「王......か、それは少し齟齬があるな、勇者よ」
同じく魔族の軍隊の中で、屈強な男と痩せた女を傍に置いている男が口を開く。
「我は大魔王様の下に着く軍団長に過ぎぬ、それでも良いのなら、相手になろう」
「はっ、命乞いのつもりか?」
「........良いだろう、始めよう勇者」
途端、両者は赤と金のオーラを天へと噴き上げた。
「ダンタリアン様、ここはワタクシが!」
「下がれブリジット、これは神聖なる戦いだ」
勇者と魔王は、共に両軍の境へと足を踏み出す。
「卑怯な魔族の邪魔はさせん! ここは聖域であり、邪なる者を通さず、〈勇域〉!」
「そちらこそ、邪魔立ては許さん。黒王が命じる、我が敵は一人のみ———あらゆる思惑を通さず〈黒王領域〉!」
勇者と魔王の領域がぶつかりあい、共に混じって一つになる。
「行くぞ魔王!」
「来い!」
勇者が足を踏み出す。
一瞬で加速して、魔王の前へと躍り出る。
「もらった!」
「甘い」
魔王を中心に、即座に紫電の防壁が形成され、勇者の持つ剣を弾く。
「〈黒王雷障〉は雷の防壁というだけではない、攻撃したものに雷が襲い掛かるぞ」
「余裕なつもりか、魔王!」
勇者は剣を一瞬放し、聖剣に雷を流させてから皮部分を握り、地面に雷を逃がす。
そして、また剣を振る。
「流星斬!」
「ほう、やるな」
勇者の一撃は〈黒王雷障〉を破壊して、確かに魔王の首を狙って振るわれた。
しかし、ギィンと音がして、剣は弾かれる。
魔王が手に雷を纏わせて剣を弾いたのだ。
「そろそろタネも割れたことだ、単調な攻撃はやめよう」
「その油断が、お前を滅ぼす!」
勇者が振った剣から、聖なる力の斬撃が飛び、ダンタリアンを打ち据える。
「〈黒王反犠撃〉」
「ぐああああああっ!?」
ダンタリアンに当たったはずのそれは、勇者を傷つけた。
ダンタリアンに当たった瞬間、雷を纏って弾き返されたのだ。
「ば........ばかな」
「単調なものはやめようと言ったばかりだな」
ダンタリアンはそこで初めて、嗤う。
「貴様が勇者でよかったな————我の秘奥を見せるとき、ただの人間では数秒も持たないのだ—————〈雷帝之魔道書〉」
ダンタリアンの手に、一冊の魔道書が現れる。
それは辞典のように分厚く、ダンタリアンと同等の魔力を秘めていた。
同時に、ダンタリアンの周囲に複雑精緻にして摩訶不思議な雰囲気を帯びる魔法陣が、8つ、9つと現れる。
魔道書から魔法文字が間欠泉の如く噴き出し、ダンタリアンの周囲を高速で回転し始める。
「...........くっ、何をしようと俺は負けな————」
ダンタリアンの魔術に見惚れていた勇者は、ふと正気を取り戻し、駆け出す。
魔術ならば詠唱者を潰すのは常識だ。
「喰らえ、これが俺の、俺達の憎悪だああああああああ!!! 隕星斬!」
「随分と軽い憎悪だな」
がっちりと勇者の剣を受け止めたのは、二体の魔法人形。
雷の魔力を纏った剣を交差させ、勇者の聖剣を受け止めたのだ。
「人間とは違い、魔族は人間に後ろ暗い感情は持っておらぬ、我等はただ平穏に暮らしたいだけであるのに、人間というのはいつも我欲で我等を攻撃する、適当な言い分ばかりあげつらい、な」
「黙れ、そんな妄言を聞くほど愚かではないぞ!」
「ならば止めて見せよ、我を倒して先へ行け!」
勇者と魔法人形は、激しい殺陣を繰り広げる。
聖剣ですら斬れない高等な魔術で構成された人形は、着実に勇者を追い詰めていく。
「な、ならば.......ブレイブシャウトォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
結界ギリギリまで追い込まれた勇者は、切り札を切る。
勇気を昂らせて口から放ち、魔法人形の術式を破壊して停止させる。
崩れ落ちる魔法人形の横をすり抜けて、勇者は魔王に迫る。
「ブレイブブレイドッ! お前に死を、くれてやる!」
「面白い、〈黒王星雷砲〉!」
ギャルルッと魔力が渦巻き、魔法文字と魔法陣が一つの場所に重なり合っていく。
それらはゆっくりと回転を始め、紫電を纏い始めた。
ダンタリアンが手に魔法陣を浮かべれば、その魔法陣が勇者へと向く。
「死ね」
「俺は、負けない! 人間はお前ら等に、決して!———————」
「執行」
鼓膜が弾け飛ぶほどの轟音と共に、雷の災禍は放たれる。
勇者はその雷弾に真っ向から激突し—————一瞬にして灼き尽くされ、焼け焦げた聖剣が地面にカランと転がった。
〈黒王領域〉が消え、魔族側から雲を吹き飛ばさんばかりの歓声が上がった。
逆に、人間側は後退していく。
「〈閉鎖領域〉」
ダンタリアンが魔術を発動し、人間の軍を半円のドームが包む。
「我が領土に侵攻し、首都ダンタリアスヴィブリアンまで侵攻してきたのだ—————当然、覚悟はできているだろうな」
ダンタリアンの右手に、魔族の軍隊———ダンタリアンの領土の中でも、精鋭を集めたものだ————それらが恐怖するほどの魔力が集まる。
「〈黒王召雷〉」
黒き雷が空より走り、閉鎖領域の結界を突き破って中にて爆発した。
内部で吹き荒れる殺戮と、怨嗟の声と悲鳴と嘆き、それらを聞いていながらも、ダンタリアンの表情が変わることはなかった。
「アルヒ」
「は、はっ、王よ」
「あの者の聖剣を魔道の探求者に渡してやれ」
「はっ」
魔道の探求者とは、ダンタリアスヴィブリアンの図書要塞と呼ばれる内側の要塞に所属する、研究者たちの事である。
「ブリジットよ」
「はい、ダンタリアン様........何用でしょうか?」
名を呼んでもらえたことに眼を輝かせて手を揉むブリジットに、ダンタリアンは言う。
「アムドゥスキアスは城へ来ているか?」
「.........樹の魔王様は、二日後の到着だったかと」
明らかに不機嫌になったブリジットが、低い声で言う。
「では、祝宴は控えめにするように————持て成しのためにな」
「「「「「「はっ!!」」」」」」
樹の魔王アムドゥスキアスの治める領土、幻焉樹海アムディアでは食糧は豊富だが、ダンタリアスでは食糧よりも知識が重要なため、祝宴で食料を消費するべきでないとダンタリアンは判断したのだ。
士気はその程度では下がらない。
皆強大な力を持つ魔王ダンタリアンを信じているためだ。
あとは、炎の魔王が治める禍焔地獄プロメテイアの住民程、酒が好きではないという事もある。
「さあ、凱旋だ—————帰って新しい知見を本に纏めるのだ」
「「「「「「はっ!!!」」」」」」
仲間を率い、ダンタリアンは戦場である丘を降りて行った。
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