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【300万PV突破】不人気職の俺が貴族令嬢に転生して異世界で無双する話 ~武器使いの異世界冒険譚~  作者: 黴男
第一章 王都決戦編

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Ep-638 災害の予兆

「で?」

「で、とは?」


入港した私たちは、本当の本当に丁重に持て成された。

飲まなかったけれどお酒が大量に出て、質素ながら彼らの基準で言えば贅沢であろう食事が振る舞われた。

そして、殆どの海賊たちが酔い潰れた頃。

親分、首領、ボス、そんな呼ばれ方が相応しい、むくつけき大男だ。


「あいつらの嘘なんかすぐわかるさ、依頼を受けたって言っても、今の俺たちに何を頼む? 大交易の時期でも、トーホウの重役がこっちに来るって話もない。だとすりゃあ、あんたは俺に用があって、あいつらをブチのめして言う事を聞かせたんだろう」

「......流石、と言った方がいいかな?」


私は持参の水筒から水を飲む。

海賊の樽からの水なんて、何が混じってるか分かったものじゃないし。


「お褒めに預かり光栄....と言った方がいいのか、お嬢様よ」

「人を見る目は確かみたいだね」

「おうよ、で.....何が目的だ?」


私の所作だけで、ある程度の正体を見破ったらしい。

凄いな、人のまとめ役って言うのは。


「最近、本来の活動海域を離れて操業してる、って聞いててさ。漁師が漁に出れないから、どうにかしてくれって頼まれてるんだよ」

「大人しく引き下がれってか?」

「どうして最近になって突然、あの海域に出たのか。それさえ聞ければ帰るよ」


首領は威圧をぶつけてくるけど、私はそれを容易に押し返す。

誰に喧嘩を〜...みたいな三下の台詞は言わないつもりだけど、相手を選んで威圧して欲しいな。


「...見返りは?」

「命と財産を助けてやるのっては?」


別に断っても殺しはしないけど。

こういう時は死んだ方がマシな目に遭わせた方が良いってジルも言ってた気がする。


「...俺たち全員に勝てるとでも?」

「勝てないなら言ってないよ、私...これでも女一人だから」


本来なら勝てるはずのない戦いだけど、この世界ではそれは容易に覆る可能性がある。


「あんまり粋がるんじゃねえぞ?」

「こっちもお仕事だからね」


直後、短い殺気が首領から放たれる。

そして首領は、サーベルを抜いて襲いかかって来た。


「ウオオオオオオ!」


しかし、サーベルは結界に衝突して弾かれる。


「魔法使いだって警戒もしないの?」

「杖を持ってる筈だろうが...!」


確かに。

私も、〈武器使い〉と魔皇剣がなければ魔法はそんなに使えないし、魔法使いなら杖は当然のイメージかな。


「で、反撃はして良いの?」

「やれるもんならな!」

「じゃ、行くよ!」


私は事前に詠唱を始めていた〈魔素激震(デモンシェイカー)〉を放つ。

空気がビリビリと震え、周囲の魔力が一斉に魔皇の魔力に屈服する。

それは即ち、体内の魔力にも作用して...


「がばあっ!? な、何だ...?」


首領は、吐血した。

体内の魔力が急速にコントロールを失った結果だろう。


「さあ、交渉する気にはなった?」

「......クソォ、仕方ねぇ...知ってる事は話すから、とっとと出て行きやがれ...!」

「うん、ありがとう」


どうやら、多少力づくとはいえ交渉は纏まりそうだ。

少しでも役に立つ話が聞ければ良いけど。




「あれは、一週間ほど前だったか?」


そんな言葉と共に、首領は語る。


「ここより東で、トーホウの交易船の到着を待ってた俺たちの船は、恐ろしいものを見ちまったんだ」

「それは?」

「バカデカいタコみたいな触手が、俺たちが襲うはずだった船を海に引きずり込んだんだ」

「クラーケンだね?」

「知ってるのか? まあいい、その後、魚と人間が合体したような奴が、船に群がってきやがった」


半魚人かぁ....

カイみたいな魚人と違い、知能を持たないサハギンと呼ばれるような種族である。

私もゲーム中でしか会った事がない。


「あんなのが徘徊してちゃあ、海賊稼業も上がったりだ。だから、船を西に出して島や岩礁を探してたのさ」

「どうして突然そんなのが?」

「さあな、イキナリ現れたんだ。トーホウ側の奴らと連絡を取ったが、あっちにはまだ来ていないらしいんだと」


そのうち通常の商船が通る海路にも現れるだろうな.....


「これが全部だ。俺たちだって必死なのさ」

「ふうん、じゃ帰って報告するけれど、いいよね?」

「ああ、構わねぇよ――――――生きて帰れるならな」


直後、背後に人がいることに気づく。

私も完全に油断していたけれど、酔い潰れたふりをしていたみたい。


「正直、その程度で殺せると思うなら認識を改めた方が良いと思うな」

「なにぃ...!?」


刺突を背後に回した手で弾く。


「Aランク冒険者は、基本的に強いよ。海賊の首領、あなたが100人いても勝てないくらいには」

「くそっ、野郎ども! ここを封鎖しろ、一人も帰すな!」

「バイバイ」


私は〈魔皇之翼〉で天井近くまで飛翔する。

そして、甘い作りの天井をぶち破って空高く舞い上がる。


「お前っ! 鳥人だったのかっ!」

「じゃあね」


私は喚く首領を放って、港まで一気に飛翔する。

そして、キールの船まで一気に急降下する。


「キール! 起きていますか!?」

「は、はいよっと!」

「逃げますよ、出航です!」

「しょ、正気かよ...」


文句を言いつつも、キールは出航のための準備を始める。

その間に、私はもやい綱を黒龍刀で切断する。

普段だったら怒られるけど、この状況はキールも危ないしね。


「クリエイトウェポン、ハンターボウ」


私は矢を構え、こちらに乗船しようとしてくる海賊たちの手前に連続で三発放った。


「うわっ!?」

「ビビんな、行けぇ!」


流石に止まらないか。

私はスキルセットを切り替えて、矢に魔法を付与する。


「スリープショット」


矢を放ち、当たった海賊を眠らせていく。

殺すのは容易いけど、それをやったら終わらなくなる。


「キール、まだですか!?」

「もう少し待ってくれ! 今錨を上げてる!」


錨なんて外して出ればいいのに、変なところで律儀だなぁ。


「錨は後で弁償しますから、出航してください」

「へい!」


錨が根元から外れ、船は後退を始める。

この辺どうしているのかな、と思ったら、喫水線の辺りからオールが突き出て船を動かしていた。


「漕ぎ手がいるんですね」

「魔導機械だよ、結構高かったんだぜ...まあ、今は一回使うのも大変だけどな」


魔導機械は維持費が高いが、少なくとも今までのセステラロッカーネではそんな事は無かったのだろう。

魔力を補充するのに魔法使いはうってつけの依頼先、魔塔があるならば魔法使いも豊富だったので、安価に依頼できたんだと思う。

でも魔塔がなくなって、今では魔石かうちのダンジョンが小規模で売り出し始めた魔導バッテリー(魔族の国にも同じようなものがあるらしい)でしか魔力を補充する手段は無くなってしまった。


「魔石を多少お分けしますよ」

「ありがたい!」


船はセステラロッカーネの方を向き、動き出した。

夜間なので、陸地から吹く風が帆を膨らませている。

こうして、私たちは海賊の入り江を離れたのであった。

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