SEP-05 「智識の魔王」ダンタリアン.....の杖
リンド「魔王如きが我のベルを奪えると思うなよ!」
ダンタリアン「だが我は前世からベルを知っている!お前が勝てる要素は存在しない!」
リンド「何だと!ブ男の癖に...我のほうが魅力があるわ!」
ダンタリアン「見た目でしか上に立てないのか竜帝よ。我は内面も高潔で誇り高いぞ」
リンド「何だとこの魔王!」
ダンタリアン「何だとこの竜帝!」
とある晴れた日の夕方...
いや、晴れてねえわ。曇ってるわ...不気味なほどに。
俺は自室でメニューを眺めつつソファーに寝転がっていた。
片手にはベルが焼いたクッキー。
学院では昼寝なぞしようものなら猛毒ナイフを持った生徒が”偶然”転んで俺のことを突き刺すからなあ...安全とはアラドみたいなのがいるから言い難いが、この部屋が一番安全であろう。
だが、何故俺がここに居なくてはならないのだろうか...
まあ、ベルが今危険な実験をしているからだが。
「ほら、最初会った時に調べていた古い魔導書があったじゃない。あれを調べてみると、本全体に及ぶ大きな魔術的起動術式が組まれていたの。...ただ、いくら調べても効果が分からない上に、どう調整しても制御できない魔力を必要とするのよね。だから、ユカリは自分の部屋か居間でゆっくりしてて。何かあったら呼ぶから来て」
とベルは俺に言って、奥の部屋に消えていった。
なんかベルの私室はベル側の意向で特殊装甲が張り巡らされていて、滅多なことじゃ傷つかないらしい。
というわけで俺は安心してクッキーを摘まんでいるというわけだ。
うーん、美味いなあ。
前世で食ったクッキーより美味い。
なんかこう...手作りの良さっていうのかな?
そんなどうでもいいことを考えつつ、メニューを弄る。
〈ダンジョン状態〉
ダンジョン名:ユカリ謹製魔改造ダンジョン(薄暗い洞窟) Lv:MAX
総モンスター数:22350021
階層数:83
平均レベル:1066
獲得マナ:5400/1d
獲得DP:32000/5m
統合ダンジョン数:93
…...バグってないか?
といつも思うが、数週間前からこんな感じだ。
あいつら勢力を拡大しろと言ったが何もここまでする必要はないんだけどなあ...
平均レベルも1000だし、俺はあいつらと絶対に敵対したくない。
しかし、勢力を広げすぎだろう。
この間レベル上げに行ったダンジョンで、ダンジョンモンスターにユカリ様ユカリ様と崇められお茶を出されたりマッサージをしてもらったりしたのは記憶に新しい。
ルーンの強化も進み、俺は今約300レベル分に相当するバフを得ている。
今度あのダークロードバットに何を言ってやろうかと考えながら、時は過ぎていった。
◇◆◇
「ユカリ!来て!」
その言葉で俺は飛び起きる。
いつの間にか寝ていたようだ。
慌てて飛び起き、ベルの部屋へと駆け込む。
そこでは、ひっくり返ったテーブルと、尻もちを着くベルの姿があり、
部屋の中心ではあの魔導書が禍々しい光を放っていた。
『ギギギ.....ギ...!』
「やっぱり封印か召喚系の術式だった!ユカリ、警戒して!この魔力......相当に強い!」
「な.....」
まさか、こんな隠れ脅威が存在していたとは...
いや、魔力を注がないと何も起きないんだから記憶に残るわけないか...
魔導書の魔力は徐々に勢いを増していき.........
………………………………….何も起こらなかった。
「へ?」
「魔力が...安定した?」
『..........久々の目覚めだ...』
魔導書が黒く輝き、紫電とともにローブを着た男が現れた。
髪の色などはわからないが、その頭には大きな角がある。
「誰っ!?」
『おお、声を荒げるな。美しき人間よ。』
ベルが尋ねると、男は目を瞑り優雅な礼を披露した。
『我が名はダンタリアン!智識の魔王にして大魔王軍第六軍団長!......だった』
「だった?」
『我ら大魔王軍は既に敗れ、我もまたこの本に身をやつし何とか生き延びている。して…』
肩を落としたダンタリアンだったが、急に体を起こした。
それにビビる俺たち。
「何故我を呼び覚ましたのだ?遊びでは済まされんぞ。狂信も結構だ。目的はなんだ?智識か?我の力か?」
「えーと、私は古代魔術を研究してて、その過程でこの本を見つけたから研究をしていたのだけれど…」
「嘘を吐くな、小娘。我の封じられた本は魔王の系譜にしか開けられぬ部屋に置いたのだぞ!…まさか」
あ、ヤバい。
この流れは…
「貴様まさか、遺跡荒らしの一味かッ!何という悍ましい....まとめて殺してくれるわ!」
「クラフトウェポン、デモンシールド!」
俺はダンタリアンの放った雷を魔法耐性の高い盾で防いだ。
「馬鹿な!?以前より力が落ちたといえ、我の一番得意な雷魔術を防ぐとは...」
あ、これで全力なのか。
なら大丈夫そうだなーと思って盾の耐久値を確かめると...
耐久値は残り20%となっていた。
ひっ...
「ん?その盾...」
あ、もしかして耐久値の低下を見抜かれたか?
これ以上連射されると困るんだけどなあ...
盾のストックが少ないのはウェポンマスターとして最大の失敗だったなぁ...
「もしやその盾、大魔王陛下にしか扱えぬ魔王盾!?....ではまさか、あなた様は.......大魔王ルシファー様......?」
えー....
そんな厨二っぽい名前の奴と一緒にされても困るんだが...
ベルも何が何だかわからず混乱しているようだ。
「ではまさか、そちらの方は......何処かで見た顔..もしかして、樹の魔王アムドゥスキアス...か!?」
「えーと、人違いでは...?」
思ったけどダンタリアンといいアムドゥスキアスといいこいつらソロモンの悪魔みたいな名前だな...オークストーリーのスタッフがフレーバーテキストの手を抜いた結果なんだろうけど...
そう思っていると、突如ダンタリアンの目が輝き、背後に本棚のようなものが出現する。
なんだろう?と思っていると、身体を探られるような不思議な感覚を覚えた。
見れば、自分とベルに紫の光がまとわりついていた。
「何をする!」
「少し、魔眼で調べさせてもらっている」
数秒後、ダンタリアンはやっぱりといった顔で言った。
「お前はただの人間のようだな...魔力の波長は大魔王陛下に極めて近いが、別物だ。だが....我の封印を解いたお前、お前は間違いなく大魔王軍第三軍軍団長樹の魔王アムドゥスキアスだ。魔力の波長が完全に一致する」
「えっ」
「えっ」
俺とベルは顔を見合わせ、同時に声を発した。
そりゃそうだ。ベルが魔王だなんて...
「何で私に黙ってたの!?」
「わわわ!誤解だよユカリ!私は孤児で親が分からないけど、正真正銘人間だって!」
「いいや、我の魔眼は誤魔化せぬ!お前は確かにアムドゥスキアス!魔力も低下し、記憶もないようだが....確かに我の...いや、俺の親友だ!」
ダンタリアンは必至そうにそう叫んだ。
これで演技だったら凄いが、そうでもなさそうだ。その眼には涙まで浮かんでいる。
ダンタリアンはそのまま泣き出してしまい、数分間泣いていた。
「ところで...お前たちの名前を聞いていなかったな。教えてくれ」
男泣きをやめたダンタリアンが俺たちに聞いてきた。
それぞれ名を名乗る。
ダンタリアンはベルという名前を聞き、一瞬だけ魔法体を震わせた。
「では、ベル。お前には樹の魔王の力が眠っているはずだ。いつかどこかの遺跡で俺のような樹の魔王が遺した遺物があれば、自身の深淵を見つめ記憶を思い出してくれ」
「嫌よ」
「なっ......」
「仮に私が記憶を探すとしても、そこに目的が無ければしないわ。別に強大な魔力にも興味は無いし、樹の力を得ても遺跡探しには役に立たないし...」
「.........................」
「.........................」
ベルの遺跡荒らs......遺跡探索に掛ける情熱は一体どこから来ているんだろうか...
まあ、過去の魔術的遺物を調べ上げたいという欲望があるんだろうな~...
「そ、そういえばさ...樹の魔王アムドゥスキアスってどういう性格でどういう見た目だったの?」
「それはだな...深い緑の煌めく髪と底の見えぬ茶色の眼をした女だった。性格はあらゆるものに分け隔てなく慈悲を掛け、歯向かうものには容赦なく罰を下す表裏分かれた奴だったよ。奴と本音で会話できたのは魔王軍でも我が最初だったが、話してみると結構砕けているんだ。我は魔王という立場故色恋に現を抜かすことは出来なかったが、もし我と樹のが普通の生まれだったら...と何度夢想したか。」
......良かったな、ベル。
お前伝説の魔王と後々竜神へと至る竜帝に惚れられてるよ。
将来安泰だな。
「ふーーーーーん...で、アムドゥスキアスの一人称は?」
「我と同じく尊大に妾と名乗っておったよ」
「へえ~」
「ちょっとユカリ、何聞いてるのよ」
「ベルが妾....」
「..........ユカリ?」
「ごめんなさい」
樹の魔王アムドゥスキアスとベルの関連性が一切無いな。
ベルの得意魔術は特には無いらしいし、慈悲も特に持ち合わせていない。
うーむ、ナゾだ.............
その後、俺たちはしばらく魔王と話をして、ある契約を結んだ。
「我は魔王なき世界を見てみたい。このまま本ごと封印か破壊されるのは御免だ。それ故我は自身を魔杖と化し、ベルの護衛として仕えたいのだが、どうか?」
そう言ってダンタリアンは魔杖と化したのだが、普通にデカい。
ベルの頭の少し下ほどまである長さで、とてもじゃないが持ち歩けるものではない。
「でも、こんな大きい杖持ち歩けないわ」
「何?〈収納魔術〉があるではないか」
「収納魔術...?収納魔法ならあるけど」
「なんと嘆かわしい....」
という経緯があり、ベルは魔王から収納魔術を教えてもらった。
中に入れたものをいつでも好きなタイミングで取り出せる魔術で、現在は失われているがその容量は少なくとも小宇宙ほどはあるそうだ。
普段はそれに入れて、危険な時取り出すという方向で魔王の扱いは決まった。
「せいぜいこき使ってやるわ」
「アムドゥスキアスに使われるなら本望よ」
そういうわけで、ベルは魔王の変化した杖を手にした。
これが後々役に立つとは俺もベルも全く予想していなかったが....
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