Ep-68 学院(裏)大決戦(前編)
結局眠らせるのか....
アラドのスキルは学院編だけの登場ではありません。
楽しい日々を過ごしていた俺だったが、
遂に運命の日がやって来てしまった。
生徒会長選である。
明日、ここ...闘技場で俺たちは討論を行い、真なる生徒会長を決めるのだ。
前期までは生徒会長候補が全員消えたので行われていなかったが、今回は違う。
『自由な学舎を』ユカリ・A・フォール
『更なる強さと魔道の探求を』リンドヴルム・ドラゴンカイザー
『貴賤の無い学び舎、秩序の強化』メリア・サウリア
と、3人の異なる公約を掲げる生徒会長候補が並び立つのだ。
メリアの公約はどうせ守られず、彼女のスポンサーである貴族組に有利なルールと、秩序という名の圧政が敷かれることになるので、俺に票が集まるだろう...と思っていたのだが、
全生徒に圧倒的な強さを見せつけ、先日も襲い掛かってきた生徒を返り討ちにした挙句、その罪を赦し配下としたという伝説を持つ『竜帝』のリンドも以外に人気を獲得している。
多分、メリアそっちのけで俺とリンドの戦いになるだろうな...
そんなことを考えながら、闘技場を散歩していた俺だったが。
「ッ!....誰だ!」
突如、何者かの気配を感じ後ろを振り向いた。
そこには、大きく剣を振りかぶったアラドの姿があった。
「クラフトウェポン!護国剣!」
ガッキィィン!
大きな金属音を発生させ、アラドの剣と俺の剣が激しくぶつかった。
凄まじいほどの剣圧が発生し、闘技場に散らばっていた剣などの備品を吹き飛ばす。
「っくぅ…!」
「恨みは無いが、ここで仕留める!」
アラドは剣を横に構え、特徴的な姿勢を取った。
「リヒト・シュヴェーアト!」
すると、大剣が光を帯び、光の剣身となって伸びた。
リーチが伸びるのは厄介だな…!
「死ね!リヒト・カノーネ・ドラッヘンシュトラール!」
大剣が眩い光を放ち、こちらに向かって竜の形をした光の砲弾を撃ち出す。
「クラフトウェポン、不沈盾!」
ガアァァァァァッ‼︎と音を立てて俺の盾と竜の砲弾が衝突する。
「何でいきなりこんな事を?こんな騒ぎを起こしてメリア陣営を崩壊させたいのか?」
俺は疑問を口にする。
それに応えるように、アラドは剣を振りかぶりこちらへと跳んだ。
ギィィィン!
再びの衝突で、激しい金属音が闘技場に響く。
ステータスがあって良かった…
アラドの剣は重く、前世の俺や今の華奢な体では本来到底受け止められないだろう。
それを理解しているのか、アラドは慎重な立ち回りを崩さない。
「マグナ・カノーネェ!」
「スキルセットチェンジ!シールドセット!ヘビーシールド!」
アラドは後退し、ノータイムで例の攻撃を放ってくる。
これ、どうやら魔力の塊らしい。
魔法が使えない代わりにこうやって攻撃に転化してるのかな?
ま、ヘビーシールドの前には無力だ。
ガガガガガガガガ!
ヘビーシールドに光線が突き刺さり、凄まじい音を響かせる。
ふう、やっぱり突き破れないか。
この世界ではアラドは相当の実力者なんだろうな。
ただ、相手が悪かった。
ステータスで強化された俺は見かけとはかけ離れた戦闘能力を持っている。
負けるはずが無いのだ。
…そうやって余裕をこいていると、ふとアラドの気配が消えていることに気づいた。
「どこへ!?」
「お前の後ろだ」
衝突で生まれた砂埃に紛れるようにアラドが低姿勢からの突き上げ攻撃を放って来た。慌てて護国剣で受け止める。
ギャリギャリと音を立てて両剣がぶつかり合う。
俺は盾を構えて盾スキルを放つ。
「シールドバスター!」
「ぬぅっ!?」
盾スキルであるシールドバスターは盾から魔力の杭をぶっ放す数少ない盾職の攻撃スキルだ。アラドはそれを食らって吹っ飛ぶ。
「空転・雷動!」
吹っ飛んだアラドに俺は空転・雷動で追いつく。
そして盾を構える。
「シールドバッシュ!」
このスキルは盾職の数少ない行動妨害スキルで、相手を数秒間…ボス級なら1秒間動けなくさせる事ができる。
「デリートウェポン、不沈盾!スキルセットチェンジ!セットクロスセイバー!クラフトウェポン!破敵剣!」
俺は盾を消し、スキルセットを〈双剣使い〉の物に切り替える。
更に空いた片手に護国剣と対になる破敵剣を呼び出す。
護国剣は防御を、破敵剣は攻撃をそれぞれ司る。
「双剣十字斬」
「ぐあぁああああ!?」
俺は剣をX状に構え、〈双剣使い〉の上位スキルを放つ。
シールドバッシュによって動けないアラドはそれに対して何もできずモロに食らう。血が飛び散り、吹っ飛んで壁に激突する。
「かはっ…やる…な」
「勝算も無いのに何故かかってきた?」
「それはだな…」
アラドは懐から瓶を取り出し、傷口にかける。
それだけで傷がみるみる癒えていく。
「俺も、後には引けないってことだ!リヒト・シュヴェーアト・ドラッヘンシュトラール!」
アラドの剣が再び眩い光を帯びる。
アラドが大剣を振り上げると、光の粒子が噴き上がり竜の形を成した。
「喰らえええええッ!」
「護国神手ッ!」
アラドは叫びながら大剣を思い切り地面に叩きつけた。
いつか見た、あの攻撃である。
当然だが、防がせて貰う!
俺は護国剣の武器スキルを発動する。
俺の左右から現れた大きな光の手が俺を包み、護る。
アラドの攻撃が衝突するが、このスキルを破ることなどできない…
ピキ…
ミシミシ…
と思っていた矢先、不穏な音が聞こえた。
見れば、結界にヒビが…
嘘だろ?
「その時を待っていたぞ!」
アラドが凄まじい速度で肉薄し、俺の結界斬りつける。
それだけで、俺の結界は砕けた。
更に、2撃目が迫る。
俺は慌てて双剣で受け止めようとしたが…
「がぁっ!?」
双剣ごと砕かれ、意識が一瞬飛ぶ。
何故だ?何故結界が破れた?それに、攻撃を受け止められるはずの護国剣が何故砕けた?
前者の答えはすぐに出た。
ステータス異常でも食らったのかと思い、ステータスを参照したところ…
ユカリ・A・フォール 職業:ウェポンマスター Lv:82
HP5200/13500
MP16/3200
MPが足りないー!
ゲーマーとしての自覚が足らなかった…
MP管理くらいオークストーリープレイヤーなら普通に出来なければいけないのに!
「では、死ね」
「私もだ…」
「なに?」
「私も、後には引けない!」
俺はインベントリからエリクサーを取り出し、飲む。
それだけでHPとMPが全回復する。
こっちもガチで行かなきゃやられるな!
「クラフトウェポン!黒竜大剣!スキルセットチェンジ、セットソードファイター!」
俺は竜の角で作られたという設定を持つ、一撃の威力が高い大剣を呼び出し、更にスキルセットをタイマンの斬り合いに特化した〈大剣使い〉のものに切り替える。
「でやぁぁぁぁっ!」
「はあああああぁぁ!」
二つの剣が激しくぶつかり合う。
だが、それで俺は先程より感じていた違和感の正体に気づいた。
重いのだ。最初は受け止められていた剣が、重くそして力強いのだ。
何が起こった?
「くっ!」
俺は重い一撃を受け流し、後退する。
見れば、アラドの頭上から神々しい光が降り注ぎ、全身を光の粒子が覆っていた。
これが急な強化の原因か?
「それは一体何だ!」
「分からん、だがこれこそ天佑神助!今こそ貴様を倒す!」
嘘をついているのか本当にそうなのかはわからないが、
どうやら彼のスキル効果ではないらしい。
俺は再び恐るべき速度で迫ってくるアラドの攻撃をギリギリでかわす。
どう考えてもおかしい。この世界標準の強化術では、
俺のステータスに追いつくことは到底不可能だ。
なのに、何故?
しかし、熟考している暇などない。一撃貰えば大ダメージを喰らうであろう一撃が次々と繰り出される。
「メテオスラッシュ!」
「効かんわ!かぁあっ!」
メテオスラッシュが弾かれた!?
全力で繰り出したメテオスラッシュが弾かれた…
これ、勝てなくね?
全力を出さないとダメかと思った時、上空から何かの気配を感じた。
それは轟音を立てて天井を破壊し、俺とアラドの前に着地した。
「竜帝、参上!」
俺とアラドはしばらく固まっていた。
まあ、いくら闘技場が校舎から離れているからって、そこで大規模な戦闘を起こせば『竜帝』の感知に引っかかる。
来るのは当然と言えよう。
「仲間を呼んだか…だが、その程度で『*:#』を得た俺に勝てると思うな!うおおおおおおおお!」
なんて言ったんだ?
何かを得たというところまでは理解できたが、アラドが一瞬謎の言葉を喋った。
だが、それを考えるより先に事態は進行した。
アラドから白色の粒子が噴き上がり、感じられる圧力が何倍にも膨れ上がったのだ。
「ふむ、先程よりも…2倍程の上昇か」
「行ける?リンド」
「見くびるな、ユカリ。我はこれでも『竜帝』だぞ」
「そりゃそうだけどさ…」
そんな問答をしている間にも、アラドは光の剣を再展開し、構えを取っていた。
それを見たリンドが構える。
「油断は禁物だ、ユカリ」
「わかってる、行くよ」
少々狡いけれど、2対1の戦いが始まった。
◇◆◇
2対1の戦いが始まり、数分が経った頃。
アラドに疲弊と焦りが見えてきた。
「竜帝滅陸拳!」
「こおおおおお!」
と言っても、戦っているのはほぼリンドなのだが...
いくら謎強化によって力が増していようと、竜帝様には敵わねえってか...
今も、リンドの拳を大剣で受け止めたが受け止めきれずに吹き飛ばされている。
「がはっ!な、何故だ!何故助けに来てくれない!?」
「ふん、騙し討ちにて助けを頼りにするようでは戦士とは言えまい」
「騙したな、オルドォォォ!」
2人が近接で激しい攻防を繰り広げる。
余波で光の斬撃が発生し、壁や柱を切り裂いていく。
あー、闘技場の柱は全部で左右8本ずつ、計16本あったのだが...
左右であと2,3本しか残ってない。
アレが崩れたら終わるなこの闘技場....
そんなことを考えていると、突如リンドがぶっ飛ばされた。
更にステータスが増加したか。でも俺はそれを逆手に取る!
「はあはあ...次は貴様だユカリ!」
「クラフトウェポン!跳撃盾!」
叫びながら突っ込んできたアラドの剣を、物理ダメージ反射のある盾で受け止める。
盾が光り、アラドの剣のダメージをそのまま跳ね返す。
「ぐあああぁぁっ!?」
この盾を今まで出さなかったのは、完全ダメージ反射である故だった。
人間がダメージ反射を受ければ、死すら生ぬるい損傷を受けることになる。
魔物相手ならともかく、俺のステータスを上回れない人間に使えば殺してしまうだろう...
「眠ってもらう!クラフトウェポン、バクの杖!」
俺が杖を構えると、先端についている鼻の長い動物の鼻からピンクの泡が噴き出す。
これはバクの杖の武器スキル、〈スリーピーバブルラッシュ〉だ。
通常の相手には効かないけれど、弱った相手や疲弊した相手には数秒から数時間の眠りを齎す結構使えるスキルなのだ。.....ボス戦では効かないので誰も使わないが。
「く、クソッ....」
泡にまともにぶつかったアラドは、眠気を抑えられないようで、
「何故、俺を騙した...オル........ド.......」
と呟きながら、地面へと伏した。
そこに神速で近寄ってきたリンドがどこからか取り出した縄を使ってアラドをす巻きにする。
「これでアラドはお終いだな」
「そうだね」
安堵のため息をついた俺だったが、次の瞬間それは恐怖に変わった。
最後の攻撃反射の影響か、柱にヒビが入っている。
そして、そのヒビは段々拡大していく。
「やばい、闘技場が崩れる」
「それがどうした?我が盾になれば全員無事で済むだろう」
「...闘技場の屋根の2層目は、吸魔石」
「...........それは少し辛いな」
吸魔石は受けた魔力のエネルギーを溜め込む緩衝材だが、自然に魔力を溜め込むこともある。出来てから数十年は経っているであろう闘技場が崩れれば...
よくて全員瀕死、悪くて大爆発で即死だ。
「に、逃げるぞ!」
「うん!」
俺たちは、アラドを置いてその場から逃げ出した。
よくよく考えれば、レビューも評価もお願いするものじゃなくていいと思った人がつけるものですよね。
なので感想だけお願いします。
いい点、悪い点ともに知りたいので!




