Ep-66 貴族と貴賊
アリア=ルウェルは61話で話した女生徒です。
長期展開に飽きた著者の都合でたったの2話で消える貴族...
今回初登場のフィーナは今後ちょくちょく出てくるかもです。
薄暗い学院3階の廊下を、クレルは歩いていた。
その手には金貨が握られており、それを弄びながらぶつぶつと何かを呟いていた。
「...今日は、誰にしよっかなぁ~でも、あんまりやりすぎるとシュナにバレた時面倒だ...そうだ、2年生のあの子にしようか。初心そうだし、ちょっと優しくしてやれば落とせるだろ...」
そう、クレルは恋人というものがありながら、新しい女の子とのデートを企てていたのである。
手に握った金貨は、先日単独で受注した依頼の報酬。
これで花束を買い、お釣りを生活費に充てるのだ。
これが最初ではなく、何度もやっていることだったが。
「ん?」
しかし、突如クレルは足を止めた。
彼の敏感な地獄耳が、何者かの話す声を聞きつけたのだ。
彼は途端に足音を潜め、声のする方向へと近づいていく。
「........わね、確実に..末す....」
「わ....した」
クレルはその声が会議室の一つの中から発せられているのを感じ取った。
素早く扉の前に移動し、耳を欹てた。
「......ユカリは私に会いに今日の午後、この廊下に必ずやって来る。そこを、結界魔術で逃げられないようにして畳みかけるのよ」
「分かりました....でも、これで私を解放してくださるのでしょうか?」
「勿論。あなたのような優秀な駒を失うのは辛いけれど...恩義には報わねば貴族の令嬢とは言えないわ」
どうやら余り良い話題ではないようだ。
それを察したクレルは、周囲を警戒しつつ更なる話を聞こうと試みる。
ついでに、収納魔法のかかった小物入れから、以前女の子に見せるために魔水猫の動画を記録した映像魔石を取り出し、音声のみを記録する。
「でも、ユカリ....さんを暗殺にしては規模が大きいですね」
「心配なの?大丈夫よ。ユカリのことはオルドさんが学院の戸籍から抹消するし、廊下の損傷も事故ってことに生徒会長となったメリアさんがしてくれるわ」
「.......わかりました。心配は何もありません」
そこまで聞いたクレルは映像魔石を停止させ、扉を勢いよく開けた。
ガララッと大きな音が鳴り、窓際で話していた二人が振り向く。
「こんなところで立ち話とは、随分と余裕じゃないか?」
「ッ...あなたは確か、クレル....クレル・アーサーですね!貴族の末席にも置けぬ恥さらしがッ...!」
「んなことはどーでもいい。こ~んなところで暗殺のご相談とは、随分と余裕じゃねえか?声を潜めねえと...悪い奴に聞かれてしまうかも?」
クレルが持つ映像魔石から、先ほどの相談の音声が流れ出す。
それを見て、アリア...かつてユカリに話しかけた女生徒...は顔を歪めて言った。
「フィーナ!結界を!」
「は、はいっ!」
アリアの声を受け、もう1人の女生徒...フィーナは魔術を使用する。
教室を四角の障壁が覆い、クレルの退路を塞いだ。
「好奇心は、竜をも殺しますのよ、クレルさ・ま?」
「マジックショット!」
アリアが優しく、それでいて歪んだ微笑みを向けると同時に、
フィーナが魔法弾を放つ。
それに対してクレルは...
「態々殺されるとでも?」
軽々と魔法弾を避けた。
「でも、あなたには魔法が使えないと知っておりますの。いずれは万策尽きて死ぬかもしれませんわね...?」
「ふーむ、そりゃ確かに...」
そう言いながら、クレルは金貨を真上に投げた。
アリアも、フィーナも一瞬それに目を奪われた。
「...なら、こちらも行かせてもらうぜ!」
「ッ!?」
アリアとフィーナが慌てて前を見れば、ナイフが3本飛んできているところだった。
慌てて2人はそれを避け、ナイフは壁に突き刺さった。
「苦し紛れは、終わりですか....ッ!?」
「なっ!?」
2人がクレルの居た場所を見た時、既にクレルはその場所から消失していた。
◇◆◇
2人が驚きで固まっていると、
「どうした?俺はここにいるぜ?」
2人が振り向くと、教室の反対側で机に座るクレルが見えた。
「マジックショット!」
フィーナが魔法弾を放つが、クレルはそれを避け、再び懐に手を入れ....
「おっと、さっきので全部投げちまったか――――」
「やはり、愚かですね...絶望を抱いて死になさい!」
「――――――――なーんてね!」
クレルは懐から3つ、4つ...とナイフを取り出し、それらを投げながら高速で移動する。
それらはすべて当たらないが、アリアの驚愕を更なる驚愕でもって塗りつぶした。
「何で、何でそんなに投げられるの!?」
「収納魔法の限界を越えています!」
それはクレルが50本目のナイフを投げ切り、部屋中にナイフが突き刺さった時であった。
アリアが叫び、フィーナがそれに追随する。
だが、それに答えることは無く、またナイフが飛び...アリアの右腕に突き刺さった。
「ぎぃっ!?」
「当たらないと思ったか?」
アリアは顔を歪ませながら、刺さったナイフを引き抜いた。
しかし、ナイフはボロボロと崩れ落ち、光の粒子となって消えた。
「まさか、これは魔法...?」
「いえ!有り得ません!こんな魔法、魔導書には...」
フィーナは驚きつつも、対策を考えた。
(ナイフがどこから飛んで来るかは分からない、でもあの魔法なら...)
フィーナは前に杖を取り出して構え、詠唱する。
「マジックガトリング!!」
ドドドドドドドドド!と魔法弾が次々と発射され、
会議室を蹂躙する。
しかし、それのどれもクレルを捉えるには至らない。
「見せてあげます!結界魔術の極致!...魔糸罠!」
所々に蜘蛛の巣のような魔法が張られ、クレルの足を止めようとするが...
「おっと、こいつは厄介だな」
クレルはそれらを軽々と手に持ったナイフで切り裂いていく。
「そ、そんな...!魔力糸は物理攻撃では...」
「何とかしなさい!何とかしてよ!」
クレルはナイフを構え、言った。
「君のハートに...グサリ。って奴だぁぁぁぁ!」
そして、ナイフを投擲する。
ナイフは真っ直ぐにフィーナの胸に向かって飛び...
「マジックウォール!...えぇっ!?」
直前で張られた魔力の壁すら切り裂いて、フィーナの胸へと突き刺さった。
「うあぁぁぁぁああ!?痛い、痛いよおお!」
「ッ、フィーナ!この、役立たず!」
そして、突き刺さったナイフに何か塗られていたのか、
そのままフィーナは倒れてしまった。
結界が消え、後には右腕を負傷したアリアが残った。
「さーて、じゃあこの決定的証拠を提出するか...」
「ふ、ふん!この腕の負傷と、フィーナの致命傷を証拠にすれば、あんたの証拠なんて簡単に覆せる!」
「そうはいかないんで~...」
クレルは怒り猛るアリアに何かを投げつけた。
それはアリアとフィーナの真上で破裂し、霧状になって降りかかる。
アリアとフィーナにあった傷が癒えていく。
それを確認したクレルは、その場から立ち去ろうとした。
「...待ちなさいよ!この学院は、必ず我が貴族が支配する!止まれ!止まれッ!庶民の癖に私に逆らうのか!」
クレルの後ろ姿に向かってアリアが叫ぶ。
恥も外聞も無いが、それも当然だろう。
先ほどまで上手くいっていた全てが、たった1人に覆されるのだから。
「クソォ...だが、そんな証拠で我が勢力が怯むものか!必ずや、必ずメリア様がッ!我ら貴族だけの学院を創ってくださる!」
「...貴族だけの学院か.......」
クレルは立ち止まり、呟いた。
「俺は貴族だが、お前らみたいに腐っちゃいない。お前らは貴族じゃない。貴賊だ」
「このぉ...!」
アリアは喚き続けるが、再び歩き出したクレルの足を止めるには至らなかった。
クレルは出口まで辿り着き、静かに扉を閉める。
そして、歩き出した。
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