Ep-64 沼地の依頼
本人と仲間と敵のウェポンマスターの能力の表記違い
本人:武器を呼び出す
仲間:作り出す
敵、または他人:取り出す
「クラン活動はどーしたのよっ!」
「そっ...それは...」
悪夢を見た日から数日後、俺はシュナに迫られていた。
最初はどうしても受けたい依頼があるから俺についてきてほしい、という話だった。
だが、俺も最近全く見てないダンジョンの状況も知りたいし、レベル上げもしたい。
勿論後者はともかく前者は言っても通じ無いので、俺はクレルと一緒に行けばいいと言った。だが、頑としてシュナは俺を連れていくことを譲らなかった。
何でかは知らないが譲らない俺に、ついにシュナは痺れを切らして俺につかみかかった...という次第である。
「あら?シュナさん、ユカリさん。おはようございます」
そこにユイナが通りかかり、丁寧な仕草で挨拶をする。
流石は両家の娘といった風であった。
俺が男のままこの世界に来ていたらついアピールしちゃったかもなーと思いながら突っ立っていると、シュナがユイナに迫った。
「あなたも何とかいってよ」
「何とかも何も...事情を教えてくださらないと分かりませんわ」
シュナが事情を説明すると、ユイナは微笑んで言った。
「あら…でしたら、ユカリさんのしたい事をクランでやって仕舞えばいいのでは?」
「でも、他のみんなは予定空いてるのかな…?」
確かに、他の全員が空いてるとは限らないんだよな。
休日とはいえ、クレルはともかくアレックスは...暇そうだな。
あいつらに休日に何かすることがあるとは思えん。
仕方ない...
「エッジ」
「はい」
俺から伸びていた影の濃さが増し、ムクムクと隆起して人の形をとる。
ドッペルシャドーによる分身、エッジだ。
「私はしたいことがある、シュナは私を連れていきたい...なら、エッジを貸すよ」
「いいの?」
「うん。戦闘能力は申し分無いはず。」
「...わかった。妥協してあげるわ」
「そうしてくれると助かるよ」
そんなこんなで、俺はエッジを1日貸すことにした。
信頼は出来ないが、並列個性があるから問題行動はとらないはず...多分。
◇◆◇
グヴェジャ沼地。
そこは常に薄緑色の霧がかかり、毒々しい色の植物が繁茂する場所だ。
私はそこに来ていた。
「シュナ様、到着いたしました」
「ええ。早速依頼をこなしましょう」
私が今日ユカリを頑なに誘った理由、それは超高報酬の依頼をこなすためだ。
それは、グヴェジャ沼地にしか生えない花...というかこれ、魔生物に近いわよね?
パープルポイズンマンドラゴラというポイズンマンドラゴラの中でも最高クラスに毒性が高いが、高度な魔術の触媒になったり根っこを煮詰めて毒を分解してから食べると美味しかったりする植物...?魔生物...?を採取する依頼だ。
だが、この依頼には続きがある。
◇追加条項:グヴェジャ沼地にのみ生息するポイズンスライム、王毒亜竜、大沼蛙、プチアイランドタートルのそれぞれ毒粘液、竜鱗、蛙皮、甲羅もしくは脛甲の採取。
なお、これらの素材は数を問わず種類に応じて追加報酬が決まる。
というのだ。
勿論、王都カーラマイアからグヴェジャ沼地までは徒歩で3か月、馬車で1か月、魔導飛行船で3日の距離にある。当然高報酬には理由があるのだ。
そこで私は友人を頼ることにした。
私の友人、ユカリちゃんは未だに現代魔術では解明しきれていない空間魔術である「ポータルアロー」を使用でき、尚且つ私が1か月毎日魔物を狩ったとしても乗れない魔導飛行船に毎週末に軽々乗って実家へと帰っている。
何かしらの手段があると踏んで相談したのだが、思った以上に順調なようだ、
「さて、まずはポイズンマンドラゴラを....」
「—————【探知】」
「え?」
「【対象指定】、【分散】、【発光】」
私が何かを言う前に、エッジが立ち上がる。その目に光は無く、私は言いようのない恐怖を感じた。
エッジがぶつぶつと何かを呟きながら右手をかざすと、そこに魔法陣が展開される。
私は魔術師ではないから魔法陣の内容は読めないが、複数の陣が重なり紋様を成しているその魔法陣に少し見惚れてしまった。
そして、魔法が完成したのかエッジの瞳に光が戻ってきた。
それと同時に沼のあちこちがぼんやりと光る。
一番近くの光っている場所を見れば...
「...パープルポイズンマンドラゴラ!」
まさか、一瞬でパープルポイズンマンドラゴラだけを探して、分かりやすいように光らせたの!?
...魔術師ってこんなこともできるのね。
パープルポイズンマンドラゴラを、耳栓をしながら引っこ抜く私。
しかし....
「ガアァァオオ!」
「ひぃっ!?」
突如、パープルポイズンマンドラゴラの近くの地面から何かが飛び出してくる。
私はそれを避けきれず、腕を持っていかれ——————
チュン!
「へ?」
る寸前で、私を襲ったなにかは横より飛来した何かによって吹き飛ばされて地面に転がる。
地面に転がったそれは...王毒亜竜だった。
頭蓋と胴体の境目に大きな陥没ができていて、私を襲った時には下半身が土に埋もれていたのにもかかわらず、地面に転がる死体は下半身がある。
「何て凄まじい力...エッジ、気を付けて........」
私は王毒亜竜を一撃で即死させ、その重い身体を地面ごと跳ね上げた恐ろしい威力の攻撃を放てる襲撃者に注意するよう、エッジに向かって振り向き...
いつものように創り出したのであろう弓を構えたエッジを見た。
「ご心配なく、シュナ様。周囲の警戒は半径5㎞、360°の範囲に魔術的探知結界を展開しています。」
「.......ユカリに関する物には、あまり深く考えてはいけないのかしら....」
どうやらやったのはエッジらしい。
「...水中に敵正反応を複数感知、攻撃に移ります」
「ま、待って!」
「枝・雷帝の怒号」
パァン!
私の制止も間に合わず、不気味に曇った空から雷が何本も落下した。
それだけで、ぷかぷかと魔物が浮いてくる。
数秒も立たず沼は浮いてきた魔物で溢れかえった。
違う...私の思っていた魔物討伐とは違う...!
「エッジ」
「何でしょうか、シュナ様?」
「...次の魔物は私が倒すから、出来得る限り支援して」
「了解しました」
そう言って、私はパープルポイズンマンドラゴラ採取と、魔物の...良く言えば素材の剥ぎ取り、悪く言えば死体漁りを実行した。
数時間後、全ての素材を回収し次元袋...見た目よりも大きい容量を持つ袋に仕舞った。
今回の依頼者が、依頼を受けてくれる人間に無償で貸してくれたものだ。
盗まれないかと心配になるが、これほどの容量の次元袋をタダで貸して、高い報酬も支払えるのは王族か貴族だけだ。
次元袋を盗めば一生追われ続けるのだろう。
そんな事を考えながら、最後の素材を仕舞った時...
ギギギギギ...
どこかで、何かが軋む音がした。
「...魔術的熱源を感知...位置、沼中央」
「!」
沼の中心の島が砕け、生い茂る木々がメキョメキョとねじ曲がり折れていく。
そして、姿を現したのは...
「ゴーレム?」
「ウゴォォォォ...」
「危険!回避行動をとってください」
ゴーレムは私を認識した瞬間、唸り声を上げながらその腕をこちらへと叩きつけた。
横っ飛びに避ける。
ドゴオオォォォン!
「...支援を!」
「分かりました。クラフトウェポン、■■■、スキルセットチェンジ、セットバファー」
そして、支援魔術の光が私に降り注ぐ。
見ていて、父さん。
この槍で、私は...格上を倒す!
「ヤアァァァ!」
槍を抱えて走る。
それだけで槍の周囲から風圧が巻き起こる。
だが、そんなことは気にしてはいられない。
ゴーレムの腕がすでに私の軌道上へと入ってきているからだ。
「トウッ!」
私は軽く地面を蹴り、腕を回避する...つもりだったが。
「えっ!?」
高く飛びすぎてしまった。
ゴーレムが私の身体を掴もうと迫ってくる。
私は空中で身動きが取れない。
どうしたら...
悩む私に、槍がぼんやりと光って助言をくれた。
...槍にこんな力が?
だが、一々気にしていれば私は捕まってしまう。
「ハァァァッ!」
私は槍で思いっきり水面を叩く。
どう考えても届かないが、槍が魔力を刃の形にし水面に叩きつけたことは分かった。
それによって発生した勢いで、私の身体は少し横にぶれる。
これなら!
「エアバースト!」
私は上に向けて魔術を放つ。
クレルから教えてもらった護身術で、移動にも使える優れモノだ。
それによって私は地上へと吹っ飛ばされる。
上手く姿勢を整え、着地した。
ゴーレムは素早い標的には弱いようだ。
だが、その圧倒的攻撃力....余波でも私は大けが、まともに喰らったら待っているのは死だけだ。
「呼・槍の精霊!」
私はユイナから分けてもらった精霊に呼びかける。
ユイナは精霊を視ることができ、会話もできるが私にはそれは出来ない。
けれど、意志は確かに感じる。
「行く!槍術・浸撃!」
私は槍を前方に構え、そのままスキル...ではなく、磨いた技術の一端を放った。
気づけば私の姿はゴーレムの胴体を通り抜け、反対側の地面へと立っていた。
「ゴォォォ!?」
ゴーレムは損傷しなかったが、確かに内部に手ごたえを感じた。
これなら....
「ウゴォォォォォ!」
ゴーレムが突如、狂ったように手を振り回し始めたのだ。
そのうちの一つが、隙を探す私の下へと飛んできた。
「あ...」
私はつい、目を瞑ってしまった。武人にあるまじき失態である。
だが、痛みも衝撃も吹っ飛ばされる感覚も訪れない。
不思議に思って目を開くと、そこには—————
「へへ、本体が守れって言うんだ。無理してでも、守らなきゃな」
盾を構えたエッジ...?がいた。ただ、その髪はポニーテールになっており、
喋り方も何だか変だ。
後ろを振り向くと、そこにもエッジがいた。
「...『私』は支援に集中しています。そちらの個体の重篤な命令違反ですが...処罰しますか?」
「おう!アタイはユエン!」
「......いいよ。」
聞けばユカリは姐御言葉で危険な組織をまとめ上げていると聞く。
この子の性格もそれ故なのだろう。
「じゃあ行くよ!」
「おう!」
私は大きく地面を蹴って跳躍する。
それにユエンが追随する。
...強化掛かってないはずなのに、何でついてこられるんだろう....
私は深く考えるのをやめ、目の前のゴーレムへと意識を集中させる。
近づく殺気に気づいたのか、ゴーレムは暴れるのをやめ、こちらへと拳を振る。
「させないぜーっ!エアーダッシュ!」
私の横を高速でユエンが通り抜ける。
盾を構え、そのまま拳へと衝突する。
「跳撃盾!どりゃあああああっ!」
バキン!
何と、盾で自分の10倍近い大きさの拳を弾き飛ばしたのだ。
分身でこれである。
私はユカリちゃんを人外と認定した。
クレルもアレックスもユイナも、強い。
だが、ユカリちゃんはそれを激しく超越した強さであるのだ。
….上昇志向は無いのかな?
そんなことを考えていた私に、ゴーレムの胸部が迫る。
私は思い切り槍を振りかぶり、その刃でゴーレムの胸部を切り裂いた。
エッジによるきっとえげつない強化が施された槍は、容易くゴーレムの岩のような装甲を切り裂いて、魔力核を破壊した。
「ゴォォォ....」
ゴーレムはズズンと音を立てて仰向けに倒れた。
私の勝ちだ。
その後、私は回収した素材とパープルポイズンマンドラゴラをクラン名義でギルドに引き渡し、ギルドを後にした。
「今日はエッジのお陰で助かったわ」
「命令を的確に遂行しただけです」
いつの間にかユエンは居なくなっていた。
私はもう日が沈もうとしている空を眺めながら思った。
(もう、ユカリひとりでいいんじゃないかな....)
その日は普通に帰って、手に入れた報酬はユカリと私で半々とした。
何故かユカリちゃんは疲れているようで、お金を受け取るや否や直ぐに部屋へと戻っていった。もしや分身を出すのは彼女にとって負担だったのかもしれない。
私は今度、王都の美味しいスイーツ屋を紹介してあげようと心に決めるのであった...
面白いと感じたら、レビューや感想を書いていただけると嬉しいです。
もしよろしければ、ブックマークや評価もよろしくお願いします!
※感想をできる限り参考にしたいのでログインユーザー以外も書けるようにしたので感想をお願いします!
↓ 小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします!




