side-4 〈魔物使い〉の少女
最近ちょっと忙しくて更新が遅くなります。
後、学院編は権力闘争の要素が入るのでそれらを整理しながら書くのが大変ですのでサイドストーリーを多く出すかもしれません
良く晴れたある日...
俺はマナ回収効率のいいリラム大迷宮というダンジョンのチーム募集をしながら、このゲームにおける天候の変化とその規則性について考えていたのだが...
すぐそばにテレポートの光が見えたので我に返った。
テレポートは敵のものなら紫、他プレイヤーなら赤、ギルドメンバーなら青なのだが、テレポートの光は青色だったのだ。
そして、光が収まったところにいたのは...
「ユキさんか。どうしたの?」
Yuki127...というユーザー名で知り合い、ユキという愛称で呼んでいるクランメンバーの女性だ。
〈魔物使い〉という特殊な職業を選んでいて、俺もアドバイスのために頑張って勉強したものだ...
「それが...召喚!あー...くろとかげ!」
「...白いじゃないか」
「進化させたら、白くなっちゃったんです!進化プレビューでは黒だったのに...」
うーん、分からん。分からんから、適当にステータス画面を見てみるか。
俺は”くろとかげ”のステータスを表示する。
「比較したいから、通常の魔物のステータスも出してくれる?」
「あっ...はい!召喚!ふわふわ!」
ふわふわという名前の通り、全身もこもこのプチウルフが召喚される。
これでもレベルは132あり、かなり鍛えられているようだ。
俺は”ふわふわ”のステータスを”くろとかげ”のものと比較する。
「...この五角形のマークはふわふわには付いてないな。...参照」
「特殊個体...?」
「進化の際にたまに起きる現象みたいだな。自然に発生することもあるみたいだ」
「そうなんですか!ありがとうございます」
帰ろうとするユキさんを見て、少し〈魔物使い〉に興味が湧いた。
せっかくなので、彼女のルーチンに付いてってみるか。
俺は1/10から30分近く動かない募集ウィンドウを消し、ユキの方へと向き直る。
「...せっかくだから、育成に付き合うよ」
「え?いいんですか?」
「ああ。クランの戦力強化のためなら手間は惜しまないさ。」
せっかく高レベルプレイヤーなのだから、運良く得た低レベルの数少ない職業持ちに恩でも売っておくか...そう考えつつ、俺は建前を口にする。
「じゃあ...その、ふわふわちゃんの試練イベントに付き合っていただけませんか?」
「試練イベントか」
試練イベントとは、レベルが一定数を越えた魔物と共に挑めるクエストらしい。
大幅なレベルアップが見込めるうえ、魔物を上位種へと進化させられるチャンスでもあるようだ。これが発生するかしないかで、まるで生きているような魔物を切り捨てたり生かしたりする厳選が辛すぎて、やめていく〈魔物使い〉は多い。
たまたま試練イベントを引ける彼女はもしかすると豪運なのかもな...
「ふわふわちゃんはプチウルフなんですけど、試練イベントをクリアすればミニウルフに進化できるんです」
...それ、大して変わってなくね?
プチもミニもあんまり大差ないと思うんだけどなあ。
しかしシステム上ではそうではないようだ。レベル上限が200になりレベルが30上昇、大幅なステータスの増加とスキルの獲得といった凄まじい効果を得られるらしい。
ただ...
「このクエスト、適正レベルが300なんです...」
「あー...」
試練クエスト、〈極小狼の勇気〉は出現魔物の平均レベルが200、ボスのエルダーブラックファングウルフに至っては330レベルという難関だ。
このゲーム、レベル差が100あるとまともにダメージが通らないので、彼女がこの試練に挑戦すると成す術も無く雑魚の狼にボコボコにされて終わりだろうな。
しかしそこに付添人としてレベル800の〈武器使い〉がいれば...
雑魚の処理とボス戦でのバフ要員と大活躍できるだろう。
そんなことを予想しながら俺は、ユキさんが飛ばしてきたパーティ申請を受諾した。
◇◆◇
パーティ申請を俺が受諾した数秒後、
俺とユキさんは暗い森の中に飛ばされていた。
多分フィールドの雰囲気からして”西の大樹海”のコピーマップだな。
マップが開けないし、正規のマップではないのだろう。
「うわ!いきなり!?」
「下がってろ!クリエイトウェポン!銀翼剣Ⅹ!」
俺は取り回しがよくてダメージも出せる片手剣を召喚し、
近くの草むらから飛び出してきたブラックファングウルフを両断する。
レベル差が大きすぎるため経験値は入らないが、同じパーティの彼女には極小だが経験値が入っているはずだ。
「ユカリさん!」
「3匹同時か!空転・影月!」
俺は攻撃判定の無い小刀をぶん投げ、その位置にテレポートする。
「竜巻切り!」
そして、ブラックファングウルフ3匹の真ん中で回転攻撃を放つ。
細切れになって消滅するブラックファングウルフ。
後からついていく形にすると、ユキさんたちが攻撃にさらされてしまうな。
担いでいこうか。
「よいしょっと」
「ゆ、ユカリさん!?」
「こうしないと攻撃が当たっちゃうから」
ついでに”ふわふわ”も抱きこむ。
よし、ボスのところまで直行だ!
「空転・雷動!」
「え、ちょっと待...ひゃわああああ!」
「わふうううう!?」
突然移動したから驚かせちゃったか。
全然鳴かない”ふわふわ”も必死の形相で泣き叫んでいる。
よしよし、我慢してくれよ。
俺はエアーハンマーというエアー系上位スキルで移動しながら、進路上にいる狼たちを斬り捨てていく。
そうやって進んでいくうちに、狭い森の道が少しずつ開けてきた。
...遠くに広場が見えるな。
多分あそこにボスがいるんだろうな。
「よーし、もうすぐボスだぞー」
「えっ!?もうですか!?」
俺がそう言うと、ユキさんは驚いた声を上げた。
そりゃそうか。
皆こうやって高速攻略してるのかなあ...
だとしたら楽でいいけど...と考えていたのだが。
「なっ!?」
突如、周囲に壁が出現した。
壁と言っても半透明のガラスのような壁だが...
「中ボスか!」
狼の猛攻をしのぎながら何とかボス戦までたどり着いた人への試練というわけか...
俺たちの前に光が集まり、そこから立派な角を持った灰色の狼が出て来た。
さしずめホーングレーウルフってとこか。
「でも邪魔なんで消えてねークリムゾンスラスト」
銀翼剣はもういらないのでクリムゾンスラストを使って俺は中ボスを一撃で消滅させる。
「ひぃっ!?」
「わふっ!?」
それを見て後ろのユキとふわふわが驚いていたが、別に高レベルプレイヤーって皆こんな感じだと思うんだけどなあ...
前に会ったレベル600の〈魔物使い〉は巨大な赤いドラゴンを使役していて、ブレス一発で魔物を灰燼へと変えていた。
そのプレイヤーと俺はただならぬ縁の導きで龍種である黒龍の使役に付き合わされるのだが、それはまた別の話だ。
「よし、やっぱり中ボスだったな」
「はわ、はわわ...」
「クゥ~ン...」
中ボスを撃破したので、俺は放心状態の1人と1匹を連れて森の奥の広場へと向かう。
広場へと立ち入った瞬間、暗い森が完全に暗くなる。
空が暗くなり、辺りを暗闇が覆いつくす。
「...何が起こるんでしょう...?」
「来るぞ!」
俺がそう言った瞬間、俺たちの頭上を巨大な影が通過する。
影...いや、エルダーブラックファングウルフは広場の中央へと降り立ち、
咆えた。
「ウォォォォォン!」
「わおおぉぉぉん!」
空気が振動し、木々がなびく。
しかしそれに負けじと、ふわふわも咆える。
エルダーブラックファングウルフはそれを見ると、興味深そうに姿勢を正した。
「あ、なんか喋ってます...」
「極小狼よ...その小さな勇気に感銘した、かかってくるがよい?」
俺たちがその言葉を聞いた瞬間、ふわふわとエルダーブラックファングウルフを囲むように障壁が展開される。この壁はさっきの中ボスと同じシステム的な壁である。
「あっ!?そんな...ふわふわちゃん!」
「無理だ、中には入れない。これは決闘イベントなんだ」
レベル132vsレベル300の戦いだ。
当然勝てるわけが無い。
だが、主の指示と従魔の能力でそれを覆すのが本来の内容なんだろう。
ま、俺がそれを遵守するわけないけどね。
「...一応手助けはするよ?」
「本当ですか?」
「...2,3日ステータスが下がるけど、確実に勝てるよ」
「お願いします!」
よし、頼まれたのでやってやろう!
「バースト・クリエイトウェポン!龍髭の鞭!スキルセットチェンジ、セットテイマー!」
俺の手に、よくしなる黒い鞭が現れる。
俺はそれを詠唱しながら振るった。
「夢幻進化!」
鞭は障壁を貫通し、ふわふわを叩く。
結構いい音が鳴ってふわふわのHPが3減少する。
「きゃうん!?」
「ユカリさん!?何するんですか!」
「まあまあ、見てろって」
鞭で叩かれたふわふわはもうその時点ではもこもこではなかった。
小さな体躯は大きく逞しく、ふわふわだった毛は硬くしなやかに変化していた。
そう、〈夢幻進化〉はスキルレベルに応じて最大で10段階上まで魔物を進化させられるのだ。今のふわふわはプチウルフの8段階上...レベル500相当のマグナウルフだ!
「よし、いけ!ふわふわ!」
「ガオオオオォォォン!」
「ふわ...ふわちゃん!?」
ユキさんが驚くのを尻目に、ふわふわは俺でも見切れないほどの速度でエルダーブラックファングウルフへと噛み付きにかかる。
「グオオオォォ!」
しかし、ふわふわの攻撃はサッと避けられ、
代わりに閃光のような爪がふわふわを襲う。
「ガウウウゥ!」
ふわふわはそれを難なくいなす。
そして、この攻撃を繰り出すために大きな隙を作ったエルダーブラックファングウルフに向けて...スキルを放った。それは、攻撃というにはあまりにも強力すぎた。
ふわふわは眩い光と化して神速を以てエルダーブラックファングウルフに突撃し、その体を通り抜けて再び地面に降り立っただけだったが...
「見事だ...!」
「ウォォォォォン!」
次の瞬間、エルダーブラックファングウルフは力尽きて地面に倒れ、捨て台詞を残して消滅した。ふわふわの勝利だ!
「...え?ええええええええ!?」
やっと復活したらしいユキさんが驚愕の声を上げる。そりゃそうか...
自分の愛犬が突然かっこよくなって敵を瞬殺したらそりゃ驚くよな。
だが、驚きはそれだけではなかった。
『ユキ様、大丈夫か?』
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」
なんとこいつ、喋ったのである。
いや、エルダーブラックファングウルフが喋るのだから上位種であるマグナウルフが喋ってもおかしくは無いのだが...
1人と1匹はしばらくコントのような問答を続けたが、
身体から立ち上る白い粒子に気づいたふわふわが言った。
『どうもこの状態は長持ちしないようだ...しかし、せっかく我が意を伝えられるのならば...ここまで育ててくれてありがとう。』
「そ、そんな...!こっちこそ、ずっと付いてきてくれて、ありがとう!」
『それを聞けて嬉しい...さらばだ』
そう言うと、ふわふわは光り輝き...
「わふん!」
元の姿へと戻った。
ユキさんはこっちをつぶらな瞳で見て、
「また今度、同じのやってくれますか?」
と言った。
勿論やれないことは無いが、せっかく目標ができたんだ、背中を押してやろう。
「それよりも頑張ってレベル上げをして、毎日話したほうが楽しくないか?」
「それはそうですけど...何か月もかかりますよう...」
「自分の力で成し遂げたほうが、数倍喜びも増すと思うけどなあ...?」
「...わかりました。やってみます!」
「頑張れ!」
ということで、ユキさんは再びマグナウルフのふわふわと再会すべく、毎日レベル上げにいそしむのであった...
数か月後、〈夢幻進化〉の姿とはまた違う〈特殊個体〉のふわふわちゃんと再会し、俺のところに相談にやって来たのだが、それはまた別の話であった。
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