Ep-50 違和感の正体
ユカリが大きな技を使わないのは人を殺したく無いからです。
無意識的に平和な世界の常識を適用しています。
薄々感じていたことがある。
それは、スキルを使用したりパッシブの恩恵を受けるときである。
例えば、雑魚モンスターと戦うのと下等翼竜と戦う時ではスキルの威力が違うのだ。
最初は威力を抑えているとか意志の強さ=威力なのかと思っていた。
しかしそれらは全て間違っていたのだ。
俺は遂に気づいた。この世界はゲームそのものではないのだと。
つまり、より現実的なシステムがスキルや魔法、強化やアイテムの使用などに適用されているのである。
「やっとわかったぜ...スキルを”意識”するんだな」
そう、意志の強さとはまた違う、スキルそのものを強く意識することで俺はその力をより引き出せるのだ。
〈武器使い〉という名前のスキルは武器の扱いをアシストしてくれるといった効果のものだったが、この世界では武器が軽くなったり威力が上がったりするだけで単純な実力が上がるというわけではなかった。
しかし、〈武器使い〉のスキルを強く強く、意識すれば...
武器の扱いはより繊細に、そして精密になる。
そうすれば、殺さずにこいつを制圧することだってできるはずだ。
◇◆◇
バキィィン!
俺が前をしっかりと向いた瞬間、障壁が破られた。
しかし、俺の心は先ほどとは違い安定している。今ならいけるはずだ!
「おやおや、障壁も破られてしまいましたな...では、終わらせてもらいます」
「終わるのはまだまだ先だぜ!クラフトウェポン、両刃槍!スキルセットチェンジ、セットスピア!」
俺は両端に刃の付いた槍を呼び出し、ルドルフの挑発を跳ね除ける。
頼んだぞ、〈武器使い〉!
俺はルドルフに向けてエアーダッシュで急接近する。
「また自信を取り戻せたようですが...どこまで持ちますか...なッ!」
「甘い!」
ルドルフは急接近した俺に神速の一撃を放った。
しかし、俺は〈槍使い〉のパッシブスキル、「見切り」を意識してそれを避けた。
本来は一定時間無敵になれるスキルだが、この世界ではただの回避スキルのようだな。
あらゆる攻撃のラインが見え、同時に速度も非常にゆっくりに見える。
「ぐぎぎぎぎ...」
「おや、まさかソウルバーニングなどのスキルですかな?アレは寿命を縮めるので止されたほうがいいと思いますがねえ...そんなに私に殺されるのがいやですかな?」
このスキルもただの無敵スキルとなっているわけではなかった。
現実化している以上、大きいメリットを受け取るなら相応のデメリットを背負わねばならないのだ。そう、「見切り」はゲーム時代の「ドッペルシャドー」と同じく脳に負担をかける代物であったのだ。ドッペルシャドーと違うのは、視聴覚を介しての情報処理か、脳に直接負担がかかる処理かだけである。
「おおおお!スピアラッシュ!」
「セェェェェイッ!」
「見切り」への意識を切らさずに今度は〈槍使い〉のスキル、「スピアラッシュ」に意識を注ぐ。「見切り」で見えていた攻撃のラインが明滅し、俺の手は〈武器使い〉の相乗効果により完璧なラッシュを繰り出す。
しかしこの男も大したもので、それらの攻撃を全てナイフだけで弾いて見せた。
だがその顔は焦燥に彩られており、汗が飛び散るのも見えた。
「仕方がありませんな、こちらも本気で行かせてもらいやしょう」
「今までは本気じゃなかったのか?」
「正直舐めきっておりましたな。いやはや、私相手にここまで持つものもそうそういませんよ...もっとも、あなたは障壁の中でじっとして耐えただけでしたかな?」
「抜かせ、これから実力を見せつけてやるよ」
「では...行かせてもらいますぞッ!」
ルドルフは凄まじい速度で懐に手を入れ、そこからナイフを取り出す。
そして、投げた。
俺は当然それを槍で弾くが、視界の横でルドルフが音もなく消えたのを見た。
「見切り」でも見切れない超高速で移動したようだ。
直後、戦っていた影から〈念話〉が届く。
『危険。後方に注意してください』
「後ろ!」
後ろを振り向くと、そこには刺突の構えを取ったルドルフが立っていた。
完璧な姿勢で、音もたてず気配さえ感じさせず、そこに立っていた。
「セェェイ!」
「回槍円盾!」
咄嗟に槍を高速回転させ前面への盾とする。
それに刺突が突き刺さり、止まる。
「覇ッ!」
「おっと」
刺突が止まったので、俺は回転を止め高速で槍をルドルフに振るった。
しかし、ルドルフは懐から素早く別のナイフを取り出し、それで槍を止める。
そして、俺が槍を引き戻すより早くそれを投擲してくる。
避けようと身をひねるが避けきれずにナイフは俺の肩を切り裂いた。
...今度、肩当てを買おうかな。
痛みが走るがそんなことを気にしている暇はない。
俺は痛みを無視してスピアラッシュを放つ。
ルドルフはそれを余裕な顔で全て受け止めた。
だが、連撃ならどうだ?
「スピアラッシュ!スピアラッシュ!スピアラッシュ!」
消耗戦に持ち込むことにしたので俺はメニューでステータスを覗いてみた。
HP:6934/7200
MP:706/2500
まずい!
非常にまずい!
MPが4分の1まで低下している。
もう魔法は使えないな。スキルと通常攻撃だけでこの戦いを終わらせないと…
でも、なんでこんなに減ってるんだろう。それに、MPだって影もスキルや魔法を使うんだから尽きてないとおかしいはず…
ん?影?
俺は影の方を見る。
すると影はMPポーションを取り出してパシャパシャと自分にふりかけていた。
そういう使い方もできるのか…
じゃなくて、現実化の影響で影がペットのような動作をするようになったのか。
あ、ペットというのは有料またはイベントで手に入る存在で、自動でアイテムやポーションを使ってくれる存在だと。経験値アップや獲得オルク増加などのバフを持ったペットもいる。しかし、それらがいなくとも影が勝手にポーション使ってくれるのはでかいな。これで消耗戦は俺の勝ちかな?
「スピアラッシュ!スピアラッシュ!」
「セェイ!セェイ!セェ…ぐあっ!」
数分間スピアラッシュを打ち込み、それをルドルフが受けるという事をしていると、ルドルフの動きが鈍ってきた。どうやらあの高速移動もスキルだったようで連発できないようだ。俺のスピアラッシュから逃げられず受け止めるという選択肢しか取れないらしい。そして、ついに一撃がルドルフにかすり、ルドルフの動きが鈍った。ここで仕掛けなければ後はない!
俺はルドルフに最後のラッシュを仕掛けるべく、あるスキルを放った。
「クリムゾン・スラストォ!」
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