Ep-49 技術の壁
主人公は転生に当たって幾つかの記憶を忘れています。
キッカケがあれば思い出せますが、無ければ永遠に忘れた事には気づきません。
戦闘描写がやっぱり苦手ですが、戦闘メインの小説なので頑張って書きます。
俺は左右から列を割って近づいてくる2人に注目した。
1人はデカい斧を肩に担いだゴリラみたいな男。もう1人はゴリラとは打って変わって細身の男。しかしその手にはナイフが握られており相当の暗殺者だと予想できる。
「雑魚は任せた。くれぐれも殺すなよ」
「留意しています。引き続き鎮圧シーケンスを続行」
俺は周囲で立ち上がり向かってくる団員の無力化を影に頼み、左右を見据えた。
「ちょっとは骨がありそうだな?」
「おう、筋肉の塊だぜ…ユカリだったか?」
「こちらは骨ばかりで何もありやせんが…行かしてもらいやすぜ」
左右にいた2人の男は、それだけ言うと素早く飛びかかってきた。
もっとも、速度的には痩せた男の方が速いか。
「クラフトウェポン、シルバーナイフ!」
男は俺が斧の男の方を見た瞬間に死角に入り込み、そこから俺の盲点の位置を把握しながら近づいてきた。しかし、その戦法は相手の“視界”が1つだけの場合だ。
俺は…いや、正確には影が俺に近づく痩せた男の姿を見ていたので、警告をしてくれて、ナイフを弾くことに成功したのだ。
「ほお…私の一撃を弾きやすか。フィアス殿、此奴の相手はしばらく我に任せてくれぬかな?」
「フン、俺の命令だと言ってもか?」
「これほどの相手、いくら尊敬すべきフィアス殿にすら渡したくありませんな。もし私が負けた場合、骨は拾ってくだせえ」
「ほう、そこまで言うなら任せてやる。俺は向こうで暴れてる分身の相手をするからな…ルドルフ、死ぬなよ!」
「当たり前でさあ!」
俺が攻撃を弾いたことにルドルフという男は動揺はしたようだが、直ぐに俺を好敵手と認めたのか引き下がり、何やらフィアスという斧の男と相談を始めた。
勿論それを待ってやる俺ではないので、挨拶がわりに攻撃を放つ。
しかし、〈武器使い〉の能力でアシストされてるとはいえ素人丸出しの攻撃は簡単にかわされた。ルドルフは俺の攻撃をかわしながら話をまとめ、フィアスが斧を振りかぶって影の方へと突進していった時点で避けるのをやめて攻勢に出た。
「くっ!?」
「やはり、強力なスキルや魔法を使えても武器そのものの技術が追い付いていない…ユカリ殿、私の勝ちですな」
キィィィン!と音を立ててナイフとナイフがぶつかり合い、ギャリギャリと擦れ合う。だが、相手の方が技術では上回っているので、実際は受け止めている俺とさっとナイフを戻そうとするが俺が戻そうとしないので少し苦戦しているルドルフだ。
「小賢しい」
「あぁっ!」
ルドルフはナイフを戻したが、その時の衝撃で俺はナイフを弾き飛ばされた。
俺は動揺したりはせずにバックステップで後ろに下がったが、ルドルフはそれを視るなり同じ速度でこちらへ向かって跳んだ。
「セェイッ!」
「くぅっ!?」
ルドルフの一撃が俺の左手を襲う。
首を狙われたので咄嗟に庇ったが、ロングディフェンシブエンチャントが消えているのを失念していたのでそのまま深手に抉られた。
「痛えっ!痛えええ!」
「おや、先程の威勢はどうしたので?」
「クラフトウェポン、再生の魔導書!スキルセットチェンジ、セットメイジ!ハイヒール!」
「アンチヒールフィールド」
「なぁっ!?」
「私はこれでも魔力持ちでしてねえ、これくらいしか使えませんが…充分ですな」
アンチヒールフィールドって何だ!?
ゲーム時代はなかった技に、俺は対策が出来ておらずハイヒールは不発に終わった。お陰で左手からは連続の激痛、視覚からは致死級の連撃、聴覚からはルドルフが発する言葉で集中がもたない。
「くっ、クラフトウェポン、不沈盾!スキルセットチェンジ、シールドセッ…うわっ!?」
「させませんぞ?」
「スキルセットチェンジシールドセット!」
「盾を出しましたか。しかし私には通用しませんな」
そう、通常盾は前面にしか構えられない。
防いでも後ろから攻撃されれば成す術はないのだ。
しかし、これならどうだ!?
「全球盾!」
「ほう、目には見えませんが…全方向への障壁ですか…」
「これで、あとは影がこちらへ来るのを待つだけ…」
「安心しているところ悪いでやすが…強化刺突!」
俺は全球盾を展開し、安心していたが。
ルドルフは俺の想像の上を行った。何とスキルで、障壁を貫いたのだ。
勿論、そこからヒビが広がって…などは起こらなかったが、何度も傷つけられれば全球盾は簡単に崩壊する。
どうすればいい?この状況を打開する術は?
俺は必死に考える。しかし、予想外の連続で混乱した頭ではいい結論など出なかった。そうしている間にも、メニューに表示されている全球盾の耐久力数値は減少していく。
「中々に硬いですなぁ。しかし、ハンス兄貴もこんな雑魚に負けるとは。稚拙な技術で武器を操り、私に攻撃一つ当てられず壁の中に篭りきりとは…」
「クソッ、どうしたら…!」
頭の中を激情が支配した。
いつだったか、悪質プレイヤーにも似たような事を言われた記憶が蘇る。
『〈武器使い〉ってスキルも地味だし後ろで経験値だけ吸ってるイメージなんだよな〜。ボスの時も正直邪魔だしバフだけかけとけよ雑魚〜』
その時も俺は怒りに駆られてそいつに攻撃し…
うん?俺は忘れていた事を思い出した。
俺の攻撃を途中で防いだ人を今の今まで忘れ去っていたのだ。
「アケミ…さん…」
レベル1000という、最大レベルに至っていた最強格のプレイヤーは、俺の攻撃をやすやすと防いだ。当然怒る俺をアケミさんはある言葉で黙らせた。
『うんうん、自分の強さや技術を否定されて怒るのはいい事だ。でも、やり返しちゃったら君もこいつと同じだよ?』
何故今まで忘れていたんだ?色んな事を教えてくれ、その背中から大事な事をたくさん学んだ彼女を。
そして、俺は彼女のセリフを思い出した。
『技術の壁にぶち当たるのは誰でもある事さ。でも、ぶち当たったのが戦闘中だったら?…その時は、考えてみるんだ。何がダメだったのか、どうすべきだったのか。違和感や問題点を熟考し、結論へと結びつける力が君を強くする…ちょっとクサい台詞だったかもしれないね』
違和感…
俺は全ての違和感や問題点を考えた。
そして、俺はその瞬間、今まで全く感じていなかった大きな違和感を自覚した。
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