SEP-02 それぞれの事情
『男』の正体はいずれ分かります。
また、この時点でユカリが「ゲーム時代は〜」などと言うのはしっかりとした理由があります。
このエピソード自体は初期からありましたが設定の擦り合わせなどでなかなか出せませんでした。時系列は不明です。
多分呪王の仮面タツミ戦の数日後です。
(重要更新2):全てのネタバレ表記をバグらせました。
見たくない方は調べなくてもいいです。
なぜ、相原恭介は女に転生したのか。
何故恭介は不自然な死を遂げたのか。
ユカリは何を為すのか。
それはこの長い物語の終わりに自然と知ることになろう。
だが、せめてこの物語の裏で何が起こっているかを我が命を賭けて記述していこう。
私が命を賭ける理由はただ一つ。奴の思い通りにならぬため...
それだけだ。
◇◆◇
事の始まりは3年前に遡る。
名も無き神が言った。
「ある人物の願いを叶える」
それは神々にとってあまりに衝撃的な事実だった。
偉大なる神がたかだか人間一人の願いを聞き届けるなど。
しかしそれは、名無しの神が放った一言によって解説された。
「古に失われた[遘倩]により、その人物と自分は無理矢理契約を結ばされた。よって願いを叶える他ない」
神々は人間がたまに生み出す『[遘倩]』を滅ぼしてきた。
それは神の世界へ踏み出すものや、神を殺すものなど。
しかし断片だけの情報から『[遘倩]』を修復した人間がいると言うのだ。
神々は恐れたが、名無しの神に逆らえるほど力のある神はその場にはいなかった。
まず名無しの神が行ったのは、他の神の間では禁忌とされる[諠第弌謾ケ騾]である。
とはいえ他の神が管理している[諠第弌]を勝手に改造しては如何に上位神である名無しの神であろうと逆らえぬ[蜑オ騾?逾]から罰せられてしまう。なので名無しの神は既に放棄された[諠第弌]を選び、自分を縛った人間の願い通りに改造していった。
「恨みはないが、死んでもらおう」
神はそう言いながら、放棄された[諠第弌]の生物達を虐殺していった。
そして、[諠第弌]の神核を破壊し、人間の記憶通りに[諠第弌]を再構成していく。
足りない部分は人間のやっているという遊戯の概念から情報を貰い、継ぎ接ぎしていく。そして、人間の指定通りの[諠第弌]が完成した。
「重ねて。恨みはないが、仕方ないのだ。滅べ」
そうして、完成した異世界に呼ぶために1人の相原恭介という少年を殺して魂だけの存在に変える。
全ては『契約した人間』の為に…
そうして、全ての物語は始まったのである。
◇◆◇
————そこは、何もない場所だった。
比喩ではなく、周囲に広がるのは『虚無』だけ。
そこに、1人の男が立っていた。
「私のしもべ達よ、暗躍するがいい」
男が言うと、どこからか異なる何人かの声が聞こえた。
その声は忠誠を深く感じさせながらも、震え声であり、聞く人が聞けばそれが長年の信頼により築かれた忠誠ではなく、圧倒的な力を見せつけられ畏れによる忠誠だと気づくだろう。
「そう、まずはあなたから活躍してくれるのね」
男の声は、男にしてはとても高音だった。
そして、男の声に反応して狂気的に叫ぶ『僕』の姿を見て、男は忠告した。
「決して、裏に私がいると悟られてはならないわ。全てはあの人の為だもの」
そして、しもべ達は逃げるように『通話』を切った。
1秒でも早く男の声を聞くのをやめなければ発狂してしまうという本能の警告に従い。
「あら、もう行ってしまうのね」
男は残念そうに呟き、左手を後ろにかざした。そこに、黒い王座が出現する。
そこに男は座り、独り呟いた。
「思っていたのと少し違うけど、全ては私…いや俺の望み通り。これで彼、いや彼女は…俺のものだ!あははははははは!あははははははははははははっ!」
そして男は笑い出す。
狂った哄笑だ。それは無限に引き延ばされた空間を超えて、どこまでも響いた。
しかし、すぐに男は笑いをやめ、隅で蹲る存在に不快な目を向けた。
その存在の名は『ポチ』。[遘倩]によってこの歪んだ世界を作らされ、挙句の果てに自身を縛った『[遘倩]』によって全てを奪われ、人間よりも弱く醜くされ、それでもなお『ポチ』という人間が犬に名付けるという名前で呼ばれ辱めを受けている、名無しの神の残滓である。男はポチを蹴り飛ばし、苛立たしげにつぶやいた。
「本当はすぐにでも迎えに行きたいのに…お前が余計な邪魔をするせいで」
「ハッ、思い知ったか人間?これが神だ。もはや固定してしまった世界の理、我の力を奪ったくらいで変えることはできぬ」
ポチは笑おうとしたが、男に顔面を殴られて床に転がる。
いや、そこは床では無いのかもしれないが、それはまた別の話だ。
「まあいい、我が僕達は優秀だ。必ずやお前の浅い目論みなど無視して私は…俺は目的を達成するでしょう…だろうな!」
「おのれ、人間め…相原恭介!託したぞ!必ず、必ず勝ってくれ......」
ポチは希望を全て恭介という人間に託した。
恐らくこの男の計画に真っ向から逆らえる唯一の人間だ。
彼にはできる限りの助力はした。あとは…ユカリをモノにした男が企む恐るべき計画が実を結ぶか、ユカリが男の僕と男を粉砕し、世界を救うか。
どちらにせよポチにとっては不本意な未来だが、せめて目の前のこの元女の男の歪んだ欲望から罪の無い少年を救ってやりたい。
そう思って、ポチはただ一言呟いた。
「頼んだぞ」
◇◆◇
「はっ!?」
俺はベッドで目覚めた。
何故か視界がぐるぐるする。
変な夢を見ていたようだ。
俺は起き上がって、ベッドのそばの水差し(タツミの贈り物、正直センスが前衛的すぎる)から水をコップに注ぎ、飲んだ。
「なんだったんだ今のは…?」
前世でもこういうのはたまにあったが、こんな変な夢は見たことがなかった。
ぐちゃぐちゃの情報が断片的に再生されるような夢など。
まあいいか。
「明日に備えて二度寝か。嫌な二度寝だな…」
俺は再びベッドに寝転がり、天井を見つめた。
こういう時は余計なことを考えてしまう。
いつだったか、タツミに「ユカリちゃん。貴女は虚ろで、どこか他人事のような生き様。あなたは一体、最後に何を望むの?」と聞かれたことを思い出した。
「勿論、こんなふざけた世界を脱出して、再びオークストーリーをやるためさ。仲間達と一緒にな」
俺はそう独り言を呟き、眠りに落ちた。
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