Ep-47 早まる決闘と裏話
今回はちょっと長くしました。
感想で悪い点などを教えてくれると助かるんですけど...
スタンスが定まらないのでコロコロ文字数と文体が変化します。
数日後。
俺は襲撃に遭っていた。
...繋がりがよくわからないだろ?俺もそうなの。
普通に街に繰り出して商店でベルお気に入りのジャムを買って帰る最中に、急に人がいなくなったな...と思っていたら案の定襲撃だよ!
勿論〈拳闘士〉のスキルで半殺し程度に済ませているが。
「オラアアアアア!死にさらせェ!」
「遅い...ナックルブラスト!」
「ぼごあああああ!」
しっかし、本当にスキルってのはすごいな。
前世も鍛えてはいたがこんなボゴォン!とかズドォン!みたいな音のパンチは出せなかった。...というか人間には無理臭いよなこれ。
「クソっ、お前強すぎるだろ!」
「お前らが弱いんだよ!キックブラスト!」
「ま、待っ...ぴぎゃああああああ!」
悪いが俺は襲ってきたやつに情けを掛けたりわざわざ話を聞いてやったりしない。
ラノベやファンタジーの主人公より優しいわけでもなく余裕がある訳でも無いし...
「おわっ!?」
「へへ、どうだいアタシの技は!」
「知らんね!グランドアッパー!」
「ぐぎゃ!?」
〈拳闘士〉のスキル構成は複数の分岐スキルを操るといったもので、個々のダメージは低い。沢山のスキルを操り手数で圧倒する。正直〈武器使い〉と同じくらい難しいかもしれない...はずだ。ともすると〈武器使い〉が不人気職なのは操作の難しさ以上の何かがあるのかもな~...
◇◆◇
数十分後、俺は襲ってきた奴らを全員叩きのめして地面に転がした。
ジャムはしっかりインベントリに入れてあるので無事である。
しばらくすると、昨日の男とは違うハンスの部下らしいマルクという男が急いでやってきた。
「重ねてすいません、姐御...」
「御託はいいよ。次に重ねて謝りな」
やっぱりこのノリ、男の時のノリに似ててやりやすいな...
この世界に来てから、人に対する恐怖も薄れている。チンピラ程度にもビビらなくなったので大きな態度に出られる。
「それとー...」
「なんだい?」
「俺の頭の上がらない姉貴の部下、さっきやっちゃいましたよね?」
「誰の事?」
いや本当に誰?
イルマ姉貴、というのは会話に出てきたがその部下までは聞いていなかった。
「知らなかったとはいえ、イルマ姉貴の部下をぶちのめしたので...もう逃げられませんよ?」
「なんだい?いつの間にやら決闘から逃げる気だと思われてやがる...舐めんな」
「ひぃっ!すいません!...決闘の日時は5日後でしたが、1日後..明日に変更になりました」
お、予定が早まってグッドだな。
本当は明後日辺りに行ってしまおうかと思っていたので丁度いい。
一応誤魔化しておくが。
「おおっ!?随分と早めたねえ、準備が間に合いそうに無いよ」
「…逃げるのですか?散々大口を叩いて」
「勝手にそう思ってな」
お、こいつ俺が慌てたふうにしたら途端に勝気な目をしたぞ。
さては俺の外見が女性だからって舐めてるね?
ま、複数でかかればどうとでもなるとでも思ってるんだろうな。
実は〈武器使い〉を倒すには複数で掛かるより単騎で行った方が効率的なのだが…
まあコイツらにそれが理解できるとも思えないししょうがないか。
俺は倒れてるチンピラどもとマルクを放って帰路についた。
◆◇◆
「何!?また部下どもが暴走しただと!」
丁寧に整えられた一室でハンスは叫んだ。
どうも最近様子がおかしい。かつてはどんな決定でも黙って聞き入れてくれた部下達が言うことを聞かない。
いや、理由はとうに分かっている。俺のために力を尽くしているに違いないのだ。
可憐な幼い少女に俺が負けたとあって、俺が魅了されていたり洗脳されていると踏んで、俺の目を覚まそうと姐御を殺そうとしているに違いねぇ。
「言ったよなぁ?姐御に手出しは無用だと」
「ですから、部下が暴走したと…」
「すっとぼけるな!」
俺は壁に拳を叩きつける。拳が壁にめり込み、壁に大きなヒビが走る。
それだけで口答えする女幹部は黙り込む。
コイツも俺が魅了されたという虚構に嫉妬して姐御を殺そうとしてるに違いねえ…
いや、俺が魅了されたというのは事実かも知れねえな…
その、儚く可憐な見た目ではなく、見た目にそぐわぬ強さ。
それに俺を負かした時の目…それら全てに惹かれちまったんだからよ。
「とにかく、お前らもこのハンスの部下ならいい加減従え。姐御は決闘で力を示してくれるそうだ。お前ら、奇襲や襲撃なんぞ卑怯な事をするな。ハンスの名が廃る!」
俺は俺が洗脳されていると信じて疑わねえ馬鹿どもに向けて全力で叫ぶ。
これ以上暴走する部下が増えたら団の運営にも関わるし、何より次に姐御に会った時…どんな目に遭わされるか分かったもんじゃねぇからな!
同じ頃、別室で話し合う男女がいた。
「んで?ケイン、用があるならさっさと言いな」
「姉貴、協力しないか?」
「その言葉を待ってたんだぜ?」
ドアの正面に立つ男、ケイン。
その正面に部下の少年を侍らせ座る女こそ女幹部イルマであった。
ケインの横にいるのは先程ユカリに要件を伝えたマルクという下っ端だ。
イルマは腕を組み、ケインの練った作戦を聞いた。
「なるほど、そいつはいい手だ。親分の言う“決闘”を汚さずに済む」
「だろう?それに俺たちの組織内での格も上がッ!?」
自慢げに言ったケインの首をイルマが締め上げた。
何をするんだという非難の意を孕んだ視線をケインとその部下から浴びせられ、イルマは怒りに燃えた顔で答えた。
「俺たちの?何言ってやがる、アタシの格が上がるんだよ!お前はついで。それに私は親分に気に入られて出世コースよ。冴えない男のアンタとは違ってねぇ?」
「イルマ…てめぇ!」
「あら、やらなくてもいいけど親分は正気には戻らないわよ?あの女結構手練みたいだし」
「何?」
「あら、知らないの?ノーリが送った刺客皆半殺しで地面に積み上がっていたそうよ…あんた、部下を大切にしないとそういう情報も教えてもらえないわよ」
そう、下っ端ことマルクは襲撃が失敗したとは言ったが全員が返り討ちにされた事実は伝えていなかった。全ては自分のせいではないのに責任を取らされるのが嫌だからだ。
「チッ、マルク…覚えてろよ」
「文句は無いみたいねえ?じゃあ、明日はよろしく頼むよ」
2人は険悪な雰囲気ながらも、何事もなく解散した。
ここで喧嘩でもして怪我を作れば全ては無駄になってしまうからだ。
ハンスに怪しまれても終わりである。
もっとも、部下を信じて疑わないハンスは、イルマとケインの作戦には全く気付いていなかったが…
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