Ep-35 タツミの苦悩
他人視点はおそらく初めてなので、ちょっと変かもしれません
私はタツミ・フウカ
よくタツミって言われるけど、タツミは苗字。フウカって誰も呼んでくれないの。
そして私は今、行動不能に陥っていた。
理由は単純。日曜日のあの日、なぜか学院の廊下にあった部屋(後で見てみればそんな部屋はなかった)に安置されていた仮面を被ってしまったが故である。
しかし、あの部屋に入った時点で、いや、あの部屋を見つけた時点で私に逃げるという選択肢はなかったのだろう。部屋に入った瞬間、私はまるで操られるかのように仮面を身に着けた。そこから、一切の自由行動ができなくなったのだ。
(ユカリちゃんになんとかこの事を伝えないと...)
そう思った私は、何とか支配をはねのけて、後輩にユカリちゃんを呼ぶように言った。
数分後、ユカリちゃんが来てくれたが...私は何もできなかった。
大事なことを伝えようとした瞬間頭が締め付けられるような痛みに襲われて何を言いたかったかを忘れ、床に倒れてしまったのだ。
「大丈夫ですか?」
私に駆け寄るユカリちゃん。
しかし、今私に近づけば死ぬかもしれない。
私は毎日、仮面をかぶって校舎内を徘徊し、両手に持った刀。
1つは私の刀、もう1つは仮面が作り出したらしい刀。それで出会った生徒を斬りつけて回る。さらに、対象は1人で歩いている人間のみ。
なんて卑怯な。武士道に反している。
しかし逆らいたくとも逆らえない。
今ユカリちゃんが私に近づけば、同じように仮面はユカリちゃんを傷つけるかもしれない。
そう思った私は声を絞り出して言った。
「ううん、大丈夫だから...行っていいわよ」
突き放すような形になってしまったのは申し訳ないが、
私に起こっている異常を伝えられない以上、彼女を巻き込めない。
しかし、仮面はそんな私の気持ちなど無視しているようだ。
ユカリと別れるや否や私は自由を失い、鞄から仮面を取り出す。
そしてそれを被る。両手に刀が出現し、それをしっかりと持って私は歩みだす。
次なる目標を探すために。
◇◆◇
そして、次なる目標はすぐに見つかった。数時間後、
誰かと別れた後なのか1人であった理事長のアスキー。
誰かをこの手で傷つけるたびに私は酷い罪悪感に襲われる。
この人も昔は威張り散らして嫌われていたが最近はすっかり真面目になったという。何故私はこんなことをしなければいけないのだろうか…
いつも通り、音もたてずに肉薄し、反応できていない彼を袈裟斬りにする。
「ぐああああああああああっ!」
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!)
彼の苦しそうな悲鳴を聞き、私の心は壊れそうになる。
しかし、その時やってきた希望に私の心は守られた。
「誰だ、お前は!」
ユカリちゃん!
私はここだよと叫びたかったがそれはできない。
そして、仮面のせいで私だとは気づけていないユカリちゃんに、私は接近して斬りつける。おそらくユカリちゃんには認識できないであろう速度で。
希望は、儚く散り—————
「ビルドウェポン、炎竜刀!」
キィン!
散ることはなく、私の前に立ちはだかった。
ユカリちゃんが縦に構えた刀で私の一太刀を受けたのだ。
私は今まで、ユカリちゃんの戦う姿を見たことがなかった。
それもそのはず、まだ出会って2週間であるし、女子は武術の授業はない。
だから私は、ユカリちゃんがこんなに”格好いい”なんて気づかなかった。
「うおおおおおおお!炎竜化ァ!」
素早く接近する私に対してユカリちゃんは全身から炎を噴き出させることで対応した。
その姿はまるで炎の竜のようだ。あれに近づけば当然熱いし、火傷も負うだろう。
仮面はそれも当然わかっているようで、炎を避けながら攻撃しようとするが、それも上手くいかない。すると突如、脳を弄られるような感覚を受け、視界が暗転しそうになる。
しかし自分の意志では目を閉じることもできないので苦しい。
「.......鎌鼬」
そして、私が覚えている風属性の技を仮面が使った。
先ほどの脳を弄る感覚はきっとこれを放つためのものだったんだろう。
そしてその一撃で炎が消し飛ぶ。これでもう彼女を守るものは何もない。
仮面は無防備なユカリちゃんに急接近したが、私は気づいていた。
(認識している?)
ユカリちゃんが私の動きを目で追っていたのだ。
そして...
「.........命斬」
「させるか!カウンターッ!」
二つの技が交差するとき、仮面はその技の危険性に気づいたのか一気に後ろへと避ける。
そして...こちらが再び体勢を立て直して構えを取ろうとしたとき、彼女が叫んだ。
「スキルセットチェンジ、セットサムライ!」
直後、凄まじい悪寒が私を襲った。
本能が避けろと叫ぶ。
ブワッと説明のつかない何かがユカリちゃんから噴き出す。
「天裂破断・十文字斬り!」
そして、空間が避けた。
窓が吹き飛び壁が割れ天井と床は裂けた。
そしてそれを避けきれなかった私は...
(あああああああああッ!痛い痛い痛い痛い痛い!)
避け切れなかった部分が裂けて血が噴き出す。
当然動くことなどできず私は床に倒れる。
ユカリちゃんは可愛いけど、強いわけではない。魔法も使えるみたいだけど、非戦闘員っぽい雰囲気だとそう無意識化で侮っていた私に嫌気が差す。なんて強さだ。こんなものに勝てるはずがない。
しかし、仮面はあきらめるつもりなど毛頭ないようだ。
「さあ...もう動けないだろ?大人しく...」
ユカリちゃんが近づいてくる。しかし、
「ッ!?」
ユカリちゃんが驚きの声を上げるとともに、私の傷が治っていく。
その代わり、体の内から何かが抜けていったような感覚を覚える。
そして仮面は、私の傷が治りきると...逃げ出した。
やっぱりね。仮面といえどもこればっかりは...
と安心した私だった。こうしていればいつかはユカリちゃんが私ごと、
こいつを止めてくれる。私の正体に気づいていないユカリちゃんが絶望するのは悲しいけど...そう甘く考えていた。
だが、私は仮面の人間性という間違ったものを信じてきた。
結局のところ、これは機械だったのだ。
翌日、クレルという生徒がロビーで私に話しかけてきた。
彼はちゃん私が思いつめた顔をしているのを見て、何か勘違いしたらしく、ユカリちゃんについて教えてくれた。
「あ、そういえばタツミ先輩。ユカリなら今日はいませんよ。西の”沼地”に1人で学院の採取依頼で出発しました」
できれば言わないでほしかったな...
という願いは願うだけ無駄であった。
情報を得た仮面はすでに出発したユカリを追うべく、昨日の回復と同じく謎の力で学院の外へと転移した。急に景色が変わって驚いたものだ。
(ユカリちゃんに不意打ちで対抗する気ね)
仮面は真っ向勝負で勝てなかったユカリを脅威と認識し、
卑怯にも奇襲でとどめを刺そうとしているようだ。
そして、全力で走り続けること30刻砂、仮面はついにユカリちゃんを発見した。
こちらに気づくこともなく、屈んで採取に勤しんでいる。
瞬間、急に歩調が変わる。空気すら動かさず、物音を全く立てず接近して、
その首筋に刀を振り下ろし———
ガキィィン!
「待ってたよ、タツミ先輩...いや、『呪王の仮面』!」
その刀は受け止められた。
不敵に笑うユカリちゃんによって。
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