Side-01 元の世界の話
初めてのサイドストーリーです。
冒頭のエインネックの数時間前を別視点で描きました。
私はヘルメス。オークストーリーの1プレイヤーだ。
最近オークストーリーを始めたが、思ったよりも難しく困惑の日々だ。
けれど、私には頼れる先輩が付いている。それは...
「待たせちゃったかな?ごめんね」
「いえいえ!ユカリ先輩こそ時間通りに来るなんて立派ですね!」
ユカリ先輩。最初にゲームを始めた時に、〈勇者〉という職業を選んだ私は、魔物に襲われてまともに戦えずにいた。それもそのはず、〈勇者〉という職業は条件さえ整えば最強クラスだが、メインストーリーを回ってスキルやステータスを回収しないと序盤は弱すぎる職業だそうだ。そんな私を助けてくれたのが、レベル800の〈武器使い〉のユカリさんだ。
ヘルメスというギリシャ神話の神の名前を使っている事を笑われるかと思ったが、
「うーん、俺も男なのにユカリって名前だし、それにその名前別に悪くないんじゃない?」
最初はその見た目から、女の人だと思ってた。ゲーム内での音声は全て高品質のボイスチェンジャーなので、声からも判別ができなかったが、ユカリさんは男だそうだ。
なぜ女性キャラを使っているのかと言えば、
「ん?これ女性キャラなのか?最初のキャラメイクで全部ランダムにしたからよくわからん」
と答えてくれた。
何をどうしたらランダム生成でこんな整った顔になるんだか...
◇◆◇
さて、私とユカリさんは何をしに行くのかというと、
レベル190の勇者のステータスアップクエスト、[封獣決戦]の付き添いだ。
本来は勇者一人で挑むクエストが殆どを占めているが、[封獣決戦]の他いくつかの難関クエストだけは他のプレイヤーを連れて行けるのだ。
「なーに、ヘルの実力は俺が一番よくわかってる。俺が倒すことになっても、ヘルが弱いってことにはならないよ」
ユカリさんは私が手柄を横取りされることを心配してると思っているのだろうが、
私が思っているのは違うことだ。
彼の手を、わたしなんかが煩わせるなんて...
これが歪んだ思考であることはわかっている。
だが、彼を崇拝の対象として見てしまいがちなのだ。
彼の仕草、性格、話術に惹かれて―――――――—
「お、おい!回線大丈夫か?」
「は、はい!ちょっとぼーっとしてました!」
「回線がダメなら今日は諦めるか?」
「だ、大丈夫です!」
いけない、彼にまた気を遣わせてしまった。
私は誤魔化すようにパーティ申請を飛ばし、彼はそれをすぐに許諾した。
そして、戦いが始まる。
戦闘用マップにテレポートすると、そこは荒廃しところどころ崩れ落ちた町だった。
「警戒しよう。封獣は町のランダムな場所に生成されて、うろつき回る。下手な場所で遭遇すれば、俺でも死ぬ。」
「ええっ!?レベル800でも死ぬんですか...?」
私はレベル差にして610のユカリさんが死ぬとはとても考えられず、つい叫んでしまった。
するとユカリさんは人差し指を口に当て、しーっと言いながら説明した。
「あいつは[封獣の牙]っていうスキルを持っててな。あれ即死なんだよな...攻撃範囲が狭いからまず当たらないが、この密集地帯で戦うとなるとなあ...」
「なんでこんな高難易度クエストが190くらいのイベントで発生するんですか!?」
「なんでだろうなあ...俺もよくわからん」
「わからないんですね...」
そんな会話を交わしながら歩いていると、少し開けた場所に出た。
十字路だ。
「周囲を警戒しろ!封獣は建物内を通らないからすぐに分かるはずだ。」
「わかりました!」
私たちは背中を合わせて周囲を警戒する。
しかし、周囲に何かの気配は何もない。
私が気を張って見張っていると、彼が言った。
「気を張る必要はないよ。俺が守るから」
「!!」
本当に...この人は。
その気がないのに殺し文句をどんどん言うんだから。
でも、その言葉が、何よりも私の心を柔らかくほぐした。
しかし...
「ッ!来るぞ!」
「!?はいッ!」
私が油断した瞬間、私の正面の角を何かが曲がったのが見えた。
そしてそれは、全力で私の方に向かってきた。封獣だ!
封獣はそのまま突進してきた。このままだと直撃するコースで。
「うぅ...!」
「ヘル、どうした?クソっ、回線が悪いのか!」
私は肝心な局面ですくんで動けなくなってしまった。
どうしてこんな時に...!
やはり、私は...
彼に相応しくないのだろう。
このクエストが終わったら、この死を理由に引退しよう。
そう心に決めた私は、目を瞑った。
そして...
ガキン!
迫って来ていたはずの封獣は、私の前で止まっていた。
その前に立つのは...
「クリエイト、ウェポン!不死者の盾!やれやれ、この盾があってよかったぜ」
盾を構えた、彼だった。
助けに来るのは彼の性格からして当たり前だと予想はしていた。でも、私を守ろうとすれば封獣はきっと[封獣の牙]を繰り出してくると思っていた。だから彼はきっと私を助けなかっただろうと予想していた。まさか、一瞬のチャンスに滑り込んでくるなんて...
「シールドバッシュ!」
彼は盾で封獣を殴りつける。
すると封獣の動きが鈍くなった。加えて殴りつけると、完全に動きが止まった。
そして彼は、盾を消して言った。
「クリエイトウェポン!さすまた!よし、俺が押さえつけている間にあいつをタコ殴りにしろ!それで勝てるから!」
はあ...この人は最後まで。
私はそう思ってため息をつきながら、剣を構えた。
放つのは、今使える中で最強の攻撃。
「はああああああ!メテオスラッシュ!!」
「ちょ!?俺まで巻き込むなって!」
そして私の全力の一撃は封獣をユカリさんごと切り裂いた。
さすがにユカリさんは切断されないが、封獣は真っ二つに分かれた。
〈経験値を33600獲得しました〉
〈レベルが上昇しました〉
〈レベルが上昇しました〉
〈レベルが上昇しました〉
〈レベルが上昇しました〉....
そして私は、「封印」スキルを手に入れて元の街へと戻ったのだった。
私はユカリさんに恋していた。
でも、それは言い出せない。今のこの日常が一番気に入っているから。
「じゃあ、付き合っていただきありがとうございます!」
「いやいや、いいよ。俺はこの後エインネックをソロで戦ってくるから」
「えっ!?あのエインネックを!?」
「ああ。今度こそ勝てそうなんだ、勝てたらドロップ品をあげるよ」
「いえっ!そんなもの頂けません!」
「いや、いいのさ。」
エインネックのドロップ品はドロップ率0.001%の超レア品だが、
1人で倒した場合は100%ドロップになる。
しかしそれはそうそうあげられる物のはずはない。
エインネックソロ討伐自体誰も成し遂げていない偉業なのだから。
私はそれを断ろうとした。
しかし彼は、笑いながら言った。
「どうせ倒せたらの話だしな。それに、今回勝てたならきっと次も勝てるさ。今夜ゆっくり、エインネック戦について語り合おう!」
「そうですね!」
「「さようなら」」
そう言って私たちは別れた。
まさかそれが最後の会話になるとは知らずに...
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