EX-2 壁をぶち壊すもの
この回は特にネタバレなどはありません。
安心してお読みください。
俺の名前はゴラン。
アルマージ学院三期生だ。
俺の生まれは獣人の国で、俺は留学の為にカーラマイア王国まで来た。
けれど、ここに俺の居場所はない。
何故か?
それは俺が獣人だからではない。
例として、入学時、俺に話しかけてくれた生徒との会話を出そう。
「ご、ゴランさん.......こんにちは」
「ガルルゥッシュガッハ!」
「ひぃぃっ! ごめんなさい!」
俺の生まれた部族、獅子獣人族では、ガルルウッシュガハというのが会話の始めに付ける挨拶のようなものだ。
しかしそれを威嚇ととられたのか、生徒は逃げていく。
俺の体格もあるのだろう。
見たところ、学院に居るのは草食系獣人か人間ばかり。
獅子の俺の体格は目立つ。
「ゴランさん、この問題は分かりますか?」
「ガラッシュ!」
「ひっ、何かお気に障ることでも.......?」
ガラッシュは、「わかった」という意味なのだが..........
一応王国語も使える俺だが、会話に必要だと思って居た獣人語が俺の枷になっていた。
気付けば、俺は一人。
一応、同じクラスのアレックスやクレルとも付き合いはしたが、二人は周囲に人が集まるタイプで、俺が居るとそいつらも近寄らなくなる。
迷惑だと思い、俺の方から離れていった。
それから数か月後。
冬の始め、秋の終わり頃。
クラスに一人の人間の女の子が転入してきた。
歳は分からない。
「ユカリ・アキヅキです.......よろしくお願いします。」
俺は、その娘を見て思った。
話しかけて、みようかと.......
「あー.........ゆ、ユケーリ?」
休み時間、俺はユカリに声を掛けた。
若干獣人語訛りの発音になってしまったが、問題はない....はず。
「あなたは.........獅子獣人?」
「ガルルウッシュガハ!」
「!」
しまった!!
またやってしまった。
また怯えられるに違いない..........
俺はそう思い、ぎゅっと目を閉じた。
「ガルルカッシュボン! オル、ゴラン!」
「えっ!?」
その挨拶は.........ガルルウッシュガハに対する挨拶で、オルは~さんという意味になる。
でも、どうしてユカリがそれを..........?
「初めまして、オル、ユカリ」
「うん、ゴラン」
それからというもの、ユカリが言語学の授業で獣人語、魔族語などを操ったりという話を聞いたり、有り得ないような話も聞いた。
それだけではなく........
「「「「「ガルルウッシュガハ、オル、ゴラン!!」」」」」
「ガルルカッシュボン、オル、ウレハ!」
ユカリが俺の挨拶についてクラス中に教えてくれたおかげで、俺の周囲には人が集まるようになっていた。
誰にでも威嚇する人ではない化け物から、誰にでも挨拶していたちょっと怖いけど優しい人に、印象がすり替わったのだ。
—————そして、それから数か月後。
俺はテラスにユカリを呼び、声を掛けた。
「オル、ユカリ..........君はバウスクーネンだ」
「”壁を壊すもの”? ありがとう」
「..........やっと、君にも弱点があることが分かったよ」
「何かな?」
「バウスクーネンは、壁をぶち壊すものという意味だ」
「そっか、壁を壊すものだとバウスクーになっちゃう」
俺は、懐から花束を出す。
「どうか、俺の狩った肉を生涯食べてくれないか?」
これは獅子族に伝わるプロポーズの文句だ。
受けてくれるといいのだが..........
「ふふ、気持ちは嬉しいのだけれど.......私は生涯腹が満たされているわ」
典型的な断り文句。
だが俺は、不思議と落胆することはなかった。
「そうか.........もし、お前の満足する肉が手に入らなければ、俺を頼ってほしい。俺は獣人族獅子部族の長の息子、ゴラン.........荒れ狂う者、だからな」
「ええっ!? ゴラン、そんなに凄い人だったの!?」
「ああ、だから..........この告白の答えは聞かなかったことにする、その気になれば、いつでも肉を食いに来てくれ」
「分かった」
俺の淡い恋は終わったが、俺の義務は消えてはいない。
しかし大丈夫だろう。
学院での勉強が終わったら、ユカリを迎えるために獅子部族を統一する。
甲斐性なしにユカリは靡かないだろう、頑張るぞ!
あの”壁をぶち壊すもの”に報いるためにも。
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