Ep-16 校長と白猫
「すいませーん、招待されてきたんですけど〜」
静かなロビーに俺の声が響く。
正直ここはゲームで見慣れた場所だ。お金稼ぎのために散々サブ垢を作っていたから、必ずストーリーでこの学院を訪れる。その度、受け付けは空だ。
受付の職員はおらず、応対するのは...
『招待を受理しました。指定エリアにお向かいください』
学院受付に設置された自動人形、そいつが応対し、俺に進むべき道を指し示した。
一見無防備な入り口だが、無理に突破しようとすると高圧電流結界が作動するという物騒な代物だ。それでも突破されたときのために、魔導ゴーレムが2体配備されているが。
「了解」
『待機モードに移行します』
俺が奥の入り口に進むと、自動人形は動作を停止する。
ゲーム時代もプレイヤーが周囲にいるときは活性化し、離れると停止する機能があったな。
学院ロビーで待ち合わせをするときはそれで遊ぶ人もいた。結構癖になるんだよな...
それはともかく、俺は長い廊下を進む。廊下が長いのは敵襲時に足止めするためだとか。
王都の防衛装置の要である以上、敵に狙われるのは必至の施設だ。内部の構造も防衛を考えられており、かなりの複雑さを持つ。
「こっちだったかな。その先の角を曲がる」
自動人形がお客に迷うことを強制するのは、賓客であった場合は学院側の案内があるため、自動人形が動かなければいけない来客は怪しさ満点だ。そのため自動人形はわざと道を教えず、客を試すのだ。俺はゲーム時代の記憶をフル活用し、学院側も知らない抜け道を使いつつ最短で廊下を抜ける。するとその先に階段がある。階段を進むと...
「おや?一度も迷わずに来られるとは」
「ただの勘ですよ、きっと。」
白髪の耳長少女と、同じく白い猫が俺を出迎えた。
彼女らは、その外見に見合わず校長と副校長であるアルマとフ―。
初見では、ここで名を明かされて驚く人が続出したとか。
「あなたは?」
「ああ、申し遅れたね。私の名前はアルマ。ここの校長をやってる」
「ボクはフーだよ。校長補佐...副校長をやってるよ」
俺が名乗るよう促すと、彼女たちは名乗った。
ここは俺も名乗らねば無礼だろう。
「お...私はユカリ・アキヅキ、招待に応じて参じた次第でございます。学院長」
「おお...この子、私に敬語であいさつしたよ!」
「大抵は外見で侮られますもんね、校長」
アルマは少女のような外見だが、ハーフエルフでもなくマジモンのエルフだ。
そのため少女のような姿でも、齢は1000を軽く超えている。
さらに、フーも普通の猫ではない。まず普通の猫は喋らないし喋れない。
フーは光の精霊王であり、アルマと契約している。猫の姿をしているのは姿を借りているに過ぎない。2人は後々ストーリーで戦うことになるが、連携が滅茶苦茶よくてとても戦いづらい。出来れば味方でいたいものだ。
「私が校長って名乗っても驚かないんだね。もしかして疑ってる?」
「何の冗談?その耳を見ればわかる。お前はエルフだろ?」
「ちっ、ハーフエルフじゃないのも見抜かれてるのか」
ハーフエルフはエルフの半分の平均寿命と、エルフよりは鋭くない長耳を持つ種族だが、白髪のハーフエルフは存在しない。だから、設定さえ覚えていればエルフを見抜くのは簡単だ。
「おっ、エルフを初見で見抜く人は初代の時の騎士以来じゃない?」
フーが驚いたように言う。
初代とはアルマの先祖、ティタニアのことで、騎士とはこの国の王子であった男、ガルマのことである。ティタニアに惚れ込み、王子の座を捨て騎士として仕えた男だ。最後にはティタニアと共に王宮に戻り、子を成したという伝説が残っているらしい。
「そういえば、私は何をしにここに来たんだっけな...」
「また忘れたの?これだからエルフは...招待客への説明でしょ」
エルフはストーリー中に出てくる設定からわかる通り、非常に物忘れが激しく、補佐する存在が必ずそばにいることが多い。今回もその例を見ることができた。
そして、アルマはごほんと咳払いをして言った。
「あ、そうそう。私の学院には占星術師がいるので、星が輝く家にはすべて招待状を送っています。もしかすると、あなたも英雄に一人になれる素質があるかもしれません」
「だけど、調子に乗ってはダメだよ。あくまで、英雄になれるかもしれない資質を持っているかもしれないだけだからね」
アルマがそう言うと、厳しい顔をしたフーが厳格な声で補足する。
多分そういう生徒がいるんだろうな。そもそも英雄はなんでもしていいわけじゃ無いけど、それを勘違いする輩はどこにでもいる。
「勿論承知の上で来ている」
「それなら問題ないね。次は校則について…」
「あ、ちょっと待っ…」
しかし俺の声は、説明モードに入ったアルマには通じず、2時間ほど俺は拘束されたのだった。
◇◆◇
「これで説明は終わりだよ」
「ボクが寮まで案内してあげるよ」
話が終わり、半分寝ていた俺は、ふらふらと立ち上がり、フーに付き従って寮へと向かった。
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