Ep-130 本選5 リンドヴルム対アドラー(後編)
お待たせしました。
本当、描写が難しい戦闘です............
誰もが勝ったと思った。
だが................
「.....危ないところだったよ」
「.......余裕が無さそうだな」
「当然。.........この力を扱うには、並大抵の苦労じゃすまないのさ。」
先程とは口調も雰囲気も、大きく変わったアドラーが、閃光を纏ってリンドの後ろへと降り立つ。
「それを我に言っても良いのか?」
「竜帝。あなたは全力を出すと言っても、それはきっと何百倍にも薄めた本気だろう?俺が疲弊しようとしていまいと、出すのは常に一定の力。舐められているように感じないわけじゃないけど、周囲の人間を傷つけないためには必要な措置だ。」
そこでアドラーはいったん言葉を切り、目を細めた。
「もう勝つことは目的じゃない。俺はあなたの全力の一端........我が身の全力で確かめてやる!」
「そうか」
リンドはそう言いつつも、その眼には迷いが浮かんでいるのを俺は見た。
リンドは常に全体の力を100….いや、1000に分けている。
そして、1000の”全力”のうちの一つすら、リンドはまだ使っていないのだ。
のだが............もしその、1000分の1ですら全力を出せば.............
俺たち全員無事では済まないだろう。
俺はとりあえず、周囲の精霊に.....と言っても俺には見えないんだが。
呼びかける。
「あの結界が吹き飛んだら、俺を守ってくれ」
俺はスキルが使えるようになったとはいえ、防御系の型はまだ使えない。
リンドの全力に巻き込まれたら、流石に死ぬ。
「では、行くぞ」
「ああ。..........リンド」
そして、戦いが始まる..........かと思ったのだが。
アドラーはただ立ち、リンドに呼びかけた。
リンドは顔を上げ、挑戦者へと応える。
「.........俺が〈崩死〉って呼ばれている理由...........教えよう」
「その力、思い出した。270年ほど前にいた.....確か、崩壊・腐食・壊死。それらを全て併せ持つ〈崩滅〉のツェルァー・ラーグマ。......それがお前の力だろ?」
「はっ、お見通しか..........じゃあ、アドラー・ラーグマ...参る!」
「受けて立とう!」
再び、両者が激突する。
だが、互いの戦法は先程と大きく変わっていた。
リンドは慎重な剣士のような戦法から、熟練の武芸者のような立ち回りへ。
アドラーはただ力任せに技をぶつけるだけだった、そう見える戦い方から、実直で堅実な先方へと変化する。
今だって、ほら.......
「ここだ!」
「ぬぅん!ガァア!」
「あぶっ....!らぁ!」
「ハァァァア!」
アドラーが崩壊の槍を放ち、それがリンドの心臓を確実に貫く———前にリンドがそれを避け、爪でアドラーを切り払う。
アドラーは爪を身体ごと姿勢を低くすることで避け、後転しながら閃光の弾を連続で放つ。
リンドは魔力を纏った両手の剣爪で閃光の.....崩壊の弾を弾き飛ばす。
後転から直立へと戻ったアドラーが、閃光の奔流をぶっ放すが..........
「グルゥオアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
リンドが咆哮した。
それだけで閃光の奔流は何かに弾かれたように反対側に吹き飛ばされ、結界がびりびりと震える。
離れているのに、結界で守られているのに、ここから逃げ出したくなるような恐怖が襲う。
当然、アドラーは........
「ぐッ.......うう....」
水に濡れた子猫のように震える。
俺でさえこれなのだ、アドラーには、リンドが恐怖で数十倍もの大きさに見えているのかもしれない。....俺も似たような経験をしたことがある。
「・・・・・・・・・・」
そして、リンドが迫る。
アドラーにはどうすることも....................
「リンド!危ない!」
「「「「「危ない!リンドヴルム!」」」」」
観客が、ほぼ全員叫んだ。
リンドの真下の地面が.....
それだけではない、闘技場の地面全てが砕け散り、朧気ではない、実態を持った閃光が姿を現す。確実にリンドを捕まえるために伸ばされたそれらは、まるで地を割って咲く一輪の薔薇のようだった。
リンドは空に逃げようとするが、噴き出した薄い閃光の粒子が、霧のように周囲を覆っていく。
「見えない......」
そう、完全に舞台は眩い霧で覆われ、俺たちの目から二人の最後の対決を隠した。
◇◆◇
閃光の霧の中で。
翼を生やしたリンドと、全身から閃光の粒子を.....いや、身を閃光そのものへと変えているアドラーとの壮絶な戦いが行われていた。
「崩壊の鎌!」
「フレイムソード」
アドラーの鎌と、炎を纏ったリンドの剣爪が激しく火花を散らす。
アドラーはそんなリンドを見て、顔を顰める。
「俺なんかに本気を出すわけにはいかない.....そういう魂胆か?」
「そちらも全力ではないだろう、戯言を」
「ちっ........」
リンドは、アドラーが本気を出すつもりが無いのを理解していた。
いや、本人はあくまで本気を出すつもりなのだろうが、むしろリンドが先に”本気”を出して欲しいのだと。
(我に本気を出させた。そうすることで自身の何かに決着を付ける気か)
リンドはそう思いつつ、振るわれた鎌の攻撃をすべて受け流し、躱した。
そして、アドラーへととどめを刺すために爪を振るう。
だがそれは、アドラーへと届く前に勢いを殺される。
もっと力を込めようかと思ったが、その前に地面より閃光の魔手が伸び、それを妨害する。
どうすればいいのだろうか、とリンドは自問する。
(ユカリならどうしたであろうか?ダンタリアンならば?呪王ならどうしただろう?)
頭の中で、自分が認めた人間たちならどうするかを考える。
その時、頭の中でとある思い出が蘇った。
『この間、アラドが言ってたんだけどさ』
『ああ。.....何を言っていたのだ?』
『馬車を庇いながら戦った時が一番辛かったって』
『.....そうだが?』
『全力を出せれば一瞬で倒せる魔物を相手にしてたらしいけど、馬車が邪魔で全力は出せない。それがもどかしかったんだって。』
『...........それが何か関係があるのか?』
『言ってみただけだよ。リンドなら、どうする?』
『我か....?我は....................』
考え突く最善の方法を探し、敵を倒す。
昔の俺ならそう考えていただろうな。
リンドは薄く微笑む。
「我は.....いや、俺は仲間を信じる!」
リンドが力を解き放つ。
その途端、閃光の魔手も、霧も、そして結界も全て消し飛んだ。
少し巨体の人間であっただけのリンドの姿が膨れ上がり、大きなシルエットが太陽に照らされる。
リンドが元の姿の二割ほどの大きさの姿へと戻り、
その巨大な瞳でアドラーを睨み付ける。
「やはり我は..........面倒事は嫌いだ」
リンドは一瞬、観客席で自分を見上げる巨体...........アヴァロンに視線を向ける。
そして、その巨体で咆哮する。
周囲の建物が崩壊していくが.......
キィィィン!
数秒後に、リンドとアドラーを囲むように円筒状の結界が生成された。
リンドが眼をやると、地上で見慣れた黒髪の少女が、杖を輝かせている。
これで......
「お前が見たがっていた本気、今見せてやろう!刮目せよ、これが......竜だ」
リンドはブレスを思い切り吐き出した。
アドラーはそれを打ち消そうとしたが.......
拮抗すらできなかった。消滅の壁は一瞬で砕け散り、アドラーは全身を吐息に焼かれ、
死という絶対的な概念を目の前にして、ただ何もできずにブレスの勢いに身を任せた。
そして、アドラーを通過したブレスは結界に激しく衝突し、外側へと大きく結界を歪ませる。数秒と持たないだろう。
「そろそろ良いだろう」
リンドがブレスを吐くのをやめ、
人間の姿へと戻る。
そして、ブレスの残滓の残るアドラーの居た場所へと降り立つ。
そこでは、全身に深い傷を負い、しかしまだ息はあるアドラーが倒れていた。
「大丈夫か?」
「ああ、降参するよ........最後にこんな戦いができて良かった」
アドラーはそれだけ言った。
一瞬リンドはアドラーの”最後”の意味が分からなかったが、
それはすぐに明らかになった。アドラーの身体が端から閃光の粒子となって消えていくのだ。
「まさか、貴様........」
「ああそうさ、もうすぐ俺は死ぬ。けどそれが何だっていうんだい?」
「何を...........」
「マルコシアス!聞こえてるんだろ!俺が優勝したらくれるという”褒美”......それに値するものを俺は受け取った!さっさと帰れ!」
突然、アドラーは叫ぶ。
それだけで崩壊は加速していく。
「動くな、今治してやる......」
「良いんだ、俺の願いは.........〈崩死〉の力を真正面から打ち破る圧倒的な相手......それと戦う事だったんだから。本当はマルコシアスと戦いたかったんだが......がはっ...〈竜帝〉が居るとは予想外だったね。」
「動くな、と.......」
「リンドヴルム、あなたは俺の人生を輝かしいものにしてくれたんだぜ?」
「......................」
「そうだ、最後に.......これを俺の家族に」
アドラーは胸から焦げてはいるが無事な紙を取り出し、リンドに見せた。
リンドはその紙を受け取ると、立ち上がった。
「我の、勝利だ!」
「アドラー選手......死亡!勝者、リンドヴルム選手!」
歓声ではなく、拍手が上がった。
リンドヴルムは、アドラーが何を狙っていたかをやっと理解した。
アドラーは何の計算もなく、自分の本気を出させ、そしてアドラー自身を殺してほしかったのだと理解した。
リンドヴルムは何の事情も知らない。
だが、受け取った紙くらいは届けてやるかと思って、会場を後にした。
「リンド!」
「ああ、ユカリか。どうした.......ぐおっ!?」
話しかけてきたユカリに適当に返したリンドだったが、次の瞬間グーで殴られた。
何をするんだという風にユカリを見ると、ユカリは持っていた杖を見せる。
「全く.........私が膨れ上がった魔力に気づいてなかったら、観客にも死傷者を出してたかもしれないんだよ!?分かってるのリンド」
「ああ、それはすまな........御免、すまなかった!頼む......」
疲れていたリンドは適当に乗り切ろうとしたが、ユカリが龍神の王冠を取り出しそれを捻じろうとしたので、態度を改めた。
「済まない。だが.....我は信じてみたかったのだ、仲間を......それに、ユカリを」
「そう」
ユカリは何だか嬉しそうだったが、竜帝はもう既に、ベルの作ってくれる軽食について考えていた。
アドラーさんは4話だけの登場人物ではありません......と言いたいところですが、
リンドの今後の展開次第で変わってくるんですよねぇ。
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