Ep-15 恋愛フラグ成立?
短めです
翌日、飛行船は無事に王都カーラマイアに到着した。
船体に付いた大きな傷と、焼けついた魔導機関について乗客と船員に取り締まりが行われたが、俺の事は信じてはもらえなかったようだ。
冒険者でも無い少女が謎の魔法で飛竜どもを蹴散らしたという話を信じるくらいなら、多少不自然でも“何故か”飛竜が撤退したという仮説を信じるだろう。
「じゃあ、さようならアスキーさん」
「幸運を祈りますぞ、姉御殿」
俺はアスキーと別れ、学院側に向かって歩き出す。
格好は前世でよく見たような女子の制服に近い形の服装で、スカートを着用している。思ったよりスースーするなこれ…
この世界は性同一障害などの概念が無いので、いかなる理由があろうとも学院の女子生徒はスカートを着なければいけないのだ。
「はぁ〜あ、何で女性キャラなんて使ってたんだろ」
性別なんてどうでもいいしどうせなら女性キャラにしちまえと言った適当な理由だったのだが、それで今苦しんでいる。この世界も例に漏れず女性の立場は弱い。学院内でも虐められるかもしれないし、男性に襲われても反撃して傷つけた場合やり過ぎだと言われるかもしれない。後悔は先に立たぬものなのである。
だが、まずは目の前の事に集中しなければ。学院は寮なので宿は取らなくても良いが、シーズンオフなので学院までの馬車はとても少ない。
なので、どうしても徒歩で行くしかなくなる。最短コースだとスラム街を経由するため、襲われないようにしなければいけない。
「ビルドウェポン、リジェクトシールド」
俺の手に盾が出現する。俺はそれを肩に背負い、スキルセットを変更する。
リジェクトシールドの武器スキルはパッシブで、自身に対する致命的で無いダメージが近距離で発生した場合それらを弾く効果がある。
こいつなら王都の突発クエスト発生地域トップ3位のスラム街でも何も起きないぜ!
◇◆◇
結論から言おう。
何にも起きませんでした。何故かといえば、今が平日の昼だからだろう。
スラム街に住む人達は昼に外に居たりはしない。全員生きるために仕事をしているから。この世界は魔法やスキルがあるので、スリで生計を立てるバカも出ない。
名のある魔術師の財布を盗んでしまった場合死すら生ぬるい酷い目にあうだろうからな。
「さて、これで第一関門突破…」
第二関門は正門前、アルマージ魔法学院の天才問題児の悪戯を回避しなければいけない。男性キャラなら上から水魔法が、女性キャラなら下から強風が。それぞれ高度な座標指定と魔力調節のもと行われる無駄に高度で無駄な技術が使われている。
俺はスラム街を抜け、アルマージ学院前の大通りに出る。スラム街の静けさから、一気に人の気配と行き交う人々の声が聞こえる空間に移り変わる。
それはかつての日本を連想させるが、1ヶ月ちょっとしか離れていないのでそこまで懐かしいわけでは無いので歩みを止めず俺は進み続ける。
すると…
「ッ…させないよ」
「おっ、初見でこいつを避けるとはやるじゃねえか」
バウンドしながら弱い空気弾が飛んできていた。
俺はそれをシールドスキルのバリアバーストで吹き飛ばす。
すると、正門前の建物から人影が飛び出し、俺の前に着地する。
頭に布を巻き、だらしなく見える格好をした男だ。
彼の名前はクレル・アーサー。ラスボスである邪龍討伐の英雄のうちの1人だ。
各プレイヤーはここで英雄達と出会って、最終章で英雄の1人となる。
だから、未来の英雄の一人は最初は空白なのだ。プレイヤーはまさにそこに現れる特異点というわけだ。
「学院の生徒がこんなところで何してるの?」
「おわ!?何で俺が生徒だってわかったんだ!?」
「王都で平日に学院の近くにいたら学院の生徒でしょ?」
ちょっと苦しいが、仕方ない。
自分の失言の責任は自分でとらねば。
幸い俺の言い訳にクレルは疑いを持たなかったようで、ふむと納得した顔でこちらを見て、固まった。
「………お前、よく見ると可愛いな。俺と付き合わないか?」
「お断りよ」
誰がお前なんかと。
ストーリー中で3人鞍替えするチャラ男と付き合うなんぞ地獄そのものだ。
でもオークストーリー女子プレイヤー人気筆頭である英雄の1人であるアレックスとなら付き合ってもいい。アレックスは男の俺でもドキッとするような天然イケメンだからな。
「むっ、お前今他の男と比べたな?俺は分かるぞ」
「だったら何?早く通して。邪魔」
「おおう、キツイなあ…だが俺は諦めないぜ!今日のところはこの辺で勘弁してやる」
やっと退いてくれた。
そのままクレルは逃げるように学院裏方向に走り去って行き、その途中で姿を消した。クレルのスキルは隠密主体なので、隠れることすら彼には容易だ。
俺はその姿からさっと目を逸らし、学院の門へと向かった。
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