side-9 激戦!節分イベントバトル
節分回です。
ここいる?(素)
「えっ?」
「だから、豆まきだよ」
俺は疑問の声を上げるヘルメスにそう言った。
ヘルメスは心底残念そうな顔をして、呟いた。
「二人きりで何のお話かと思ったら......豆まき?」
「そう、豆まきだ」
俺は今日だけ開催される、毎年恒例のイベント、豆まきイベントレイドボスを倒すイベントの話をした。
豆はプレイヤーの通常攻撃のダメージを反映し、豆をぶつけることでボスのオーガにダメージを与えることができるのだ。
そして、与えたダメージの総計でオルクが貰える。
ダメージ数で1位になれば、それこそ最近フリーマーケットで見た、最高品質の武器だって...........ああ、ウェポンマスターがフリマに並んでる商品も記憶できたらいいのに。
俺は何故か嫌そうな顔をするヘルメスの手を引いて、カーラマイア中心部へと向かう。
中心部近くの大公園で、メンバーを募集するためだ。
「..........なるべく総合戦闘力の低いフレンドも招待しよう」
〈超越者〉の面々などに来られてしまえば1位など夢のまた夢。
俺は適当に100人ほどいるフレンド欄をざっと見て、オンラインのメンバーの中から
なるべく戦闘力の低いプレイヤーを招待する。
「最低ですね」
「うん、最低だな。」
しかしあの莫大なオルクを手に入れるにはこれしか——————
「ようユカリ!豆まきのパーティ募集か?俺も入れてくれ!」
「ぎぃやあああああああ!」
「どうした?そんなモンスターの断末魔みたいな声出して」
全てが無駄になった。
〈超越者〉であるロイがいきなり現れ、俺が何をしているかまで当てて来たのだ。
こうなると断りづらい。
しょうがないので招待を飛ばし、パーティに入れる。
(ロイだけなら2位だし、いいか........)
俺はそう自分を納得させたが......
「マリエルとミーシアも呼ぶか!お、丁度オンラインじゃねーか!」
(やめてぇぇぇぇぇ!)
〈大魔導士〉のマリエルと〈双弓使い〉のミーシア。
どちらもレベル1000を越えた〈超越者〉だ。
〈大魔導士〉マリエルは通常攻撃に魔法攻撃力が乗る。
〈双弓使い〉のミーシアは通常攻撃の威力がスキルよりも高めだ。
この二人が来れば........2位など不可能だ。
俺は落胆しつつも、この程度で済んでよかったと思った。
◇◆◇
数分後、メンバーがそろった。
10人のパーティメンバーが勢ぞろいし、その手には豆がたっぷり入った升を持っている。
『3』
『2』
『1』
カウントダウンがゼロになり、皆が一斉に豆を掴む。
俺も豆を掴み......
「いけぇぇぇぇぇ!」
「おらぁぁぁぁあ!」
全員が全員豆を投げつけ始める。
豆が鬼に当たるたび、凄まじい数値のダメージ表示が出る。
中でも、ミーシア.......俺は初めて会うのだが、色の薄い美人アバターかと思いきや中身は中々に苛烈だった。
怖いくらいの勢いで豆を投げている。
だが.................
俺も負けてらんねぇ!
俺も豆を投げて投げて投げまくる。
そして.................
『GUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
鬼が激昂モードに入り、全身から紅い光を出してこちらに攻撃を加えてくる。
俺たちは振り下ろされた腕を素早く回避し、
腕の関節に光る.......弱点を狙い撃ちにする。
しばらく戦い続けていると、弱点の光が消え失せる。
俺たちはすぐに次の弱点.......背中を狙い撃ちにしようとするが、
ズドォォォォン!ズドォォォォン!
鬼が足踏みし、衝撃波と共に地面が隆起、陥没する。
「足元に気を付けろ!俺が誘導する、その隙に背中を狙え!」
ロイがそう叫ぶ。
流石は超越者、指示も手慣れてるな。
ロイは大きく飛び、鬼を殴りつける。
あれでダメージは発生しないが、ヘイトは確実にロイが取ったな。
「ダッシュアタック!」
「ルーンブラスト!」
「エアーダッシュ!」
パーティメンバーたちが一斉にスキルで移動していく。
俺も遅れてはいけないな。
「空転・影月!空転・天突!」
俺は空へと小刀をぶん投げ、その位置まで一気に跳ぶ。
そこから上に落ち、弱点の背中の前へと移動する。
「おおおおおおおおおおっ!」
俺は出来る限りの速度で、豆をぶつけ、ぶつけ、ぶつけまくった。
そして弱点が移動する。
最後は.........頭か。
『GAAAAAAAAAAAAAAAA!』
鬼が全身から真っ赤な光を噴き出させながら、滅茶苦茶に暴れる。
頭を狙うのは困難だ。
だが........
「俺は行くぞ!」
「よくぞ言った、俺も行く!」
「僕も行きますよ」
「1位を狙うわ」
「..........ユカリさん、ごめんなさい」
俺が暴れる鬼へと突っ込む時、ロイ、マリエル、ミーシア、ヘルメスが追随してきた。
負けるか!
「空転・雷動!」
俺は迫ってきた拳を素早く空転・雷動で躱し、
更に俺を吹っ飛ばそうと振るわれたのであろう片方の手を見る。
「空転.......瞬突ッ!」
俺の姿はその場から消え、拳が空を切る。
次の瞬間俺は、鬼の足元へと転移していた。
「行くぞ!空転・跳躍!」
俺は鬼の脚、胴体を一気に跳躍で駆けあがり、
弱点である鬼の顔の前へと躍り出た。
「これで.........」
「終わらせない」
「残念だがユカリ.......お前にばっかり美味しい思いはさせないぜ!」
ミーシアとロイだけが、あの攻撃を掻い潜って、俺の後ろへと近づいてきていた。
今この瞬間、豆を投げても.........彼らの基本攻撃力には及ばない。
なら..........
「ええい、ままよっ!」
俺は升をぶん投げ、中に入っていた豆を全て鬼へと食らわせた。
—WIN—
俺の投げた豆は確実に鬼の最後の弱点を潰し、鬼を大地へと倒れさせた。
この勝負.......俺の勝ちだ!
そして、リザルトが出る。
..............................は?
俺は思わず、心の中でそんな声を上げた。
1位:ヘルメス
何故かヘルが最高順位で勝利を収めていたのだ。
同じく画面を見て疑問符を浮かべる〈超越者〉の面々。
だが俺は、直ぐに正解にたどり着いた。
「そうか、勇者ってスキルが殆ど使えないから、通常攻撃が..........」
「強力な上に熟練度ボーナスが溜まりやすいってわけか..........」
このゲーム、通常攻撃は「武器の性能」「基本攻撃力/魔法力」「熟練度」で決まり、
〈勇者〉はパッシブスキルによって強力な通常攻撃バフが掛かる。
よって、この戦いにおいて「武器の性能」は関係せず、〈超越者〉が〈勇者〉に負けたのだ。
「なるほどねえ.....」
「してやられたぜ!」
愕然とする面々。
「あ、あの.....ユカリさん、2位が嫌なんでしたら、獲得したお金は全額........」
ヘルメスが俺を気遣ってそんなことを言ってくるが、
俺はそれをやんわり断る。
「いいさ、たかが500億オルクなんて稼ぐ手段はいくらでもある」
「で、でも私がこんな大金、手にしても........」
「俺みたいな中級者より、初級者の方が色々と入用だぜ?それで武器でも買えばいい」
「そ、そうですか.......」
良い事したなー、と立つ
俺の肩をロイがつつく。
「何だよ」
「お前、中級者か?立派に上級者だろ」
「黙れよ超越者。アケミさんに比べたら俺はまだまだ中級者だ」
「はぁ.....若いっていいねえ」
ロイはそのまま戦場から離脱していった。
他のPTメンバーも、〈超越者〉の面々も挨拶と共に消えていった。
「ユカリさんは帰らないんですか?」
「俺はちょっとここを見ておきたいから、先に帰ってて」
「は、はい!」
ヘルメスが帰ったので、俺は誰もいなくなった戦場を俯瞰する。
......................お、あったあった。
俺は鬼の死体の陰にある宝箱を開ける。
するとそこには、1000億オルクと、その他超貴重品が入っていた。
「だあれも気が付かないんだよな、これ。運営はこういう事するから油断できない」
俺はそう呟き、金とアイテムをインベントリに放り込んでその場を後にした。
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