Ep-124 本選3 ベル対アイ(後編)
辺りを焦げた匂いが包む。
『ふむ......この程度か』
「さっき自分で言っておいてそれは無いと思うけど。」
見事にダンタリアンがフラグを建て、巨大な炎が砂煙を破って飛んできた。
ダンタリアンが自分の杖で弾き飛ばす。
直後、砂煙が吹き飛ばされ、先程とは大きく姿を変えたプロメテウスが現れた。
「ダ、ダンタリアンンンン!やっと俺も力が戻ったぞ!さぁ、ぶちのめしてやる!」
『やれやれ......懐かしい姿になったと思えばその自分の魔力で煮え滾った筋肉に侵された脳みそは何とかならんのか』
「御託は要らねぇんだよォォォォ!死ねぇ!」
プロメテウスが剣を地面に振り下ろし、そこから火柱が噴き上がって、地面を砕きながらダンタリアンへと迫る。
『ハア.....剣士なら鍔迫り合いくらいせぬか?』
ダンタリアンが持っている魔道書のページの幾つかがはじけ飛び、数百のページが竜巻のような形を形成して、火柱とぶつかり合う。
「ダンタリアン、あれ燃えないの?」
『我が魔道書は我の魔力と同義だ。ページは我が魔力尽きぬ限り無限で、我が魔力の塊であるが故に燃えはせぬ』
「それってさ」
『うむ』
「普通に魔力を放出したほうがいいんじゃない?どうして本のページにするの?」
『いや.....それは........我は』
「まあ、いいけど」
『う、うむ.......』
二人が話し合っている間にも、プロメテウスは攻撃の準備をしていた。
そしてそれは放たれる。
「ダンタリアンンンン! アムドゥスキアァァァァァ! 何イチャイチャしてんだ殺すぞォォォォ!!! 〈魔炎不死鳥〉!」
『「イチャイチャなんてしてない(おらんわ!)」!』
プロメテウスが剣をバッターのように振ると、そこから巨大な炎の鳥が放たれた。
「タイダルウェイブ!」
『アクアスプレッド!』
二つの魔法が混ざりあって、火の鳥を一瞬にして消した。
それらはプロメテウスにも押し寄せるが......
「しゃらくさい!」
大剣を一振りすると、迫って来ていた波は全て蒸発し、爆発する。
「もうお前ら結婚しろォォォ!」
「ダンタリアンとどうやって結婚すればいいのよ!」
『我は記憶のないアムドゥスキアと婚姻を結ぶ気はない!』
上空に展開されていた全ての砲台が、凄まじい魔力を収束させる。
そして、一瞬の後に全ての砲台が雷....いやまるで光線と見紛う魔術を全力で放射した。
しかし...........................
「その攻撃はもう見飽きたぞォォォォ!」
プロメテウスが大剣に魔力を纏い、地面に突き刺す。
すると先程とは違う横幅の長い火柱が上がり、全ての魔術をせき止めた。
『なるほど、やる。だが.......』
プロメテウスの後方に幾つもの魔法陣が開き、そこに魔力が収束する。
プロメテウスはそれに気づいたのか、大剣に更に魔力を込める。
火柱が完全にプロメテウスを覆う形となる。
「ケチ臭えぞ、ダンタリアンンンン!俺にこんな戦いをさせるなァ!突っ込んで来い!」
『では、お言葉に甘えさせてもらおう』
ダンタリアンが杖をベルに預け、駆けだす。
途中、「収納空間」で剣を取り出すし、前に構えた。
「ダンタリアン、剣使えるの?」
『嗜み程度にはな』
ダンタリアンは身体を一瞬魔法に近づけ、火柱を突破する。
そして、プロメテウスに斬りかかった。
「オオオオォォ!!ダンタリアン、俺の邪魔をするなァ!」
『プロメテウス、何故そんなに怒っているのだ?お前は脳筋ではあったが、それほどまで制御を失うほどに怒ったりはしなかっただろう。』
ダンタリアンが最大の疑問を口にする。
『少年の身体に縛られていることに怒っているのか?それとも自分が殺された過去に?』
「違う!!」
プロメテウスが口調を強めた。
剣へと籠る力がさらに増大し、ダンタリアンの腕が軋む音がする。
「俺が怒っているのは、あの勇者の事だ!!」
『勇者.......?ああ、勇者ガレスか。奴がどうかしたのか?』
「勇.....者.....」
ベルは勇者という言葉を反芻する。
以前ダンタリアンから聞いた話では、魔王と人間の戦いにおいて勇者は
複数存在したという話だった。
各地に勇者の名を冠する家があるのはそういった所以なのだという。
「奴を絶対に許すわけにはいかねえ!あいつは俺の妻であるリエルを四肢を切断し犯しながら惨殺した挙句、その首を俺の家の庭に飾り立てやがった!おまけに、奴と戦った時、俺は奴の卑怯な手に引っかかり死んだ!あいつを勇者に仕立てたガレオス王国を滅ぼしてやる!」
『ああ、そういうことか...................』
ダンタリアンは、目を細めた。
自分が生きていた時代にも、同じことを思う魔族は沢山いたのだ。
だが、魔術師としてあらゆることから目を背けることを許されないダンタリアンは、
愛するものを殺された魔族が、同時に何十もの誰かが愛した人間を殺したという事実に気が付いていた。
それに............
『だが、ガレオス王国はもうないぞ?』
「なに?」
そう、ガレオス王国は悪逆非道っぷりで有名である。
だが........それは童謡の中のお話であり、ガレオス王国自体は二百年前に滅んでいるのだ。
よって、ガレスも、ガレオスももう存在していない。
「でも、ダンタリアン..........それじゃ」
『..................』
「ガレオス王国は滅んだ............か。」
プロメテウスがそう呟く。
危険な兆候である。
そこでプロメテウスは前を向き、ダンタリアンに質問をした。
「ガレオス王国の民は生きているのか?」
『否、伝承によれば竜の怒りを買い国民諸共全員死んだようだ』
「ふふふふふふふふふ...........」
急に笑い出したプロメテウスに、ダンタリアンとベルは戦慄する。
まさか、残った血筋すらも見つけ出して殺そうとするのでは?
と思ったからである。
だが、プロメテウスは剣を構え直し、笑顔を浮かべた。
「ざまあねえな!よし、ダンタリアン!最後の戦いをしよう」
『プロメテウス、復讐はどうするのだ?』
「何言ってんだ?ガレオスの奴らは自分の犯した罪を自らの命で償っただろ?」
『.................』
「.................」
怒りが軽すぎるプロメテウスに、ベルとダンタリアンは一瞬呆れた。
だが直ぐに、前を向いた。
「ダンタリアン、最後の戦いだって!」
『望むところよ!』
二人は互いに、内部の魔力を解き放った。
『〈原雷解放〉』
「〈真炎解放〉」
そして、激しい炎と雷の魔力のぶつかり合いが始まった。
ベルは置いてきぼりである。
「オオオオオ!」
炎の化身と化したプロメテウスが、風を巻いてダンタリアンに斬りかかる。
だが、雷を纏った本のページが生き物のようにプロメテウスに襲い掛かり、動きを抑える。
『〈轟雷砲〉』
強大な魔力が収束され、プロメテウスに至近距離から放たれた。
「何の!〈金炎防御〉!」
プロメテウスの纏う炎が金色になり、それらの魔力全てを受け流す。
プロメテウスはそのまま反撃に転じる。
「〈金炎刺突〉!」
金色の炎を纏った剣から鋭い突きが放たれ、ダンタリアンに向かう。
ダンタリアンは咄嗟に防御魔法を展開する魔法陣を複数展開し、突きを止めようとするが....
バキィイイ!
「ダンタリアン!」
『この........程度!〈轟雷砲〉!』
再び魔力が放たれ、プロメテウスを弾き飛ばした。
「ぐぉおおお!」
『プロメテウス.........お前が勝てば何をしてもよいが、俺が勝ったなら..........』
「俺が負けるわけねえだろ!〈陽炎爆縮〉ゥゥゥ!」
『....ッ、拙いな。〈閉鎖領域〉!〈紫雷封滅〉!』
プロメテウスが最後の勝負に出た。
ダンタリアンはそれを一瞬で察知し、周囲に結界を張る。
プロメテウスの全身が炎と化し、一瞬魔力が一点に集中する。
直後..........
ドゴオオオオオオオオオ!
プロメテウスが大爆発を起こし、結界内を三千度を優に超える爆炎が荒れ狂う。
対するダンタリアンは....................
魔法体が消滅し、全てが雷となって結界内を埋め尽くした。
そして、荒れ狂う炎を包み込むように広がり、静かに金色の炎を征服した。
「.........見事だぜ、ダンタリアン....!」
『当然だ』
そして、ダンタリアンの雷がプロメテウスを完全に呑み込んだ。
結界が消え、ベルがダンタリアンへと駆け寄る。
「大丈夫?」
『.........ああ。その杖がある限り我は問題ない』
「....そう、よかった。」
黒煙が晴れ、大の字に伸びるアイの姿が現れた。
プロメテウスは深刻なダメージを負い、アイの中へと戻ったのだろう。
「アイ選手、戦闘........戦闘不能!勝者、ベル選手!」
一瞬外傷のないアイの姿に迷ったが、アナウンスがベルの勝利を宣言する。
大歓声が上がり、ベルはダンタリアンを抱きしめた。
『何をする』
「いや........ダンタリアン、かっこよかったわよ」
『そうか....。フム、褒められるというのも、意外と悪くないものだな』
そして、ダンタリアンは杖へと戻り、ベルはその場を後にしたのだった。
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