Ep-122 本選3 シュナ対ディーラ(後編)
前編の二倍くらい長くなってしまった......
破壊された結界、所々損壊した観客席。
辺りに漂う血臭。
そんな中、一人の男が立ち上がった。
「ああ、面倒くせぇ........」
その男は、頭一つ分あろうかという二本の角を左右に生やし、
背より巨大な蝙蝠のような翼を生やしていた。
だがその翼は夜の闇のように黒く不定形であった。
「なるべく人間に被害が出ねえようにしてたが........全部面倒臭ええええええええええええええええええええええええええ!」
男.........ディーラは高く咆哮する。
それだけで魔力が生き物のように流動し、
周囲を蹂躙しようとするが.......
「なっ..........?魔力が!」
荒れ狂っていた魔力が、ある地点を中心に段々と鎮静化していく。
その中心には............
『スゥゥゥゥゥゥ』
「武神、そんなに魔力を吸っても大丈夫?」
『ゴヒュウゥゥゥゥ..........大丈夫だ、まだ全体の1割も占拠してはおらぬ』
「そ、そう...........」
魔力をまるで息を吸うように呑み込む武神と、
それに呆れ果てるシュナがいた。
「なんだ、お前ら生きてたのか。」
「あんな攻撃でやられる程ヤワじゃないわよ。ユカリの攻撃の方がもっと凄まじいんだから!!」
『その通りよ、魔王と言っていたが魔王も堕ちたものよ』
「てめえら.............................死ね」
ディーラの姿が消える。
姿が消えた瞬間、シュナは槍を捨てた。
そして..........
ドゴッ
重厚な音が響き渡る。
命知らずな観客が見守る中、全員が何が起こったのかを把握した。
大剣を振り上げ、シュナへと迫ったディーラに、小ぶりな拳が突き刺さっていた。
シュナが高速で接近するディーラの腹に音速の突き上げ拳を叩き込んだのだ。
「が........あ...........」
「私は槍使いであって拳闘士じゃないんだけどね............」
『では..........ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラァァァァァァ!』
シュナが拳を引き抜くと、ディーラは頽れる。
だが、地面に倒れる暇も無く、そこに六本の腕でのラッシュが繰り出される。
ディーラは成す術も無く武神に殴られ続ける。
だが....
「う、ぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
ディーラはラッシュから地面を蹴って何とか逃げ出し、
魔術の詠唱を開始する。
「黒炎乱舞!」
ディーラの周囲に先程とは比べ物にならないほどの数の黒い炎が発生し、
一斉にシュナへと殺到する。
「武神、防がなくていい!」
『承知した!』
シュナは槍を拾い、迫り来る炎の雨に相対する。
「大車輪・回盾!」
そして、槍を回転させ円盾のようにして炎の雨を弾き飛ばす。
シュナは回転を継続させつつ移動し、着弾範囲から素早く逃れた。
「小賢しいんだよ!魔王大波!」
炎を逃れたシュナの前で、水が壁のように反り立つ。
そしてそれは、意志を持ったようにうねり、シュナに向かって放たれた。
ダッバアアアアアアン!
シュナは迫り来る暴流を見据え、槍の穂先を下に向け、斜めに構えた。
「今こそ...........やる!」
そして、全力で振りぬいた。
まるで滝下に水が叩きつけられるような音が鳴り響き、
大波が真横に裂けた。
その機を逃さず、シュナは裂け目に飛び込む。
それだけでシュナは大波を回避する。
だが............魔王は避けられることを見越していた。
『ウラウラウラウラウラウラウラウラァァ!』
「千風翔刃!地爆隆起!万雷収束!」
地面が爆発し、大地が隆起する。
シュナはそれを避けようとするが、そこに風の斬撃が迫る。
大地に殴られるか、風の斬撃に切断されるか。
その選択は........
「..............」
シュナは目を閉じた。
ディーラは、それを諦めと感じ取り笑った。
だが.........
「左、右、右、左、前、前、右、後」
そうシュナが呟く。
そして、踊るように足を動かす。
それだけで、風の刃は全てシュナをすり抜けて飛んでいった。
いや、そうではない。シュナが風の刃を躱したのだ。
裂けた土を躱し、シュナは空へと飛ぶ。
だがそこに、無数の雷が収束して襲い掛かる。
「はっ!」
シュナが頭上に槍をかざす。
雷は全てシュナではなく、槍へと集中した。
「見せてあげる..私のもう一つの能力!」
シュナは槍に移った電撃を........身にまとった。
そして、地面へと降り立った。
「な......魔術を無効化しただと!?」
「ちょっと違うわね」
シュナの体質は魔力の伝導率が高いことにある。
なので.........雷や炎など、実体を持たない魔法現象を自身に取り込み、無効化して排出、自身の攻撃の強化に使えるのだ。
シュナは、雷を地面に捨てると、槍を構えて駆けだした。
ディーラはシュナの方を向いて、迎撃しようと思ったが.........自分が何かを忘れていることに気が付いた。
『ウラァ!』
「ぐぼぉっ!?」
『ウラウラウラウラウラウラァ!』
再びのラッシュにより、ディーラは原型を失ってもおかしくないほどのダメージを受ける。
だが...........
「バインド!」
『ぬぅ!』
武神の身体に魔力の糸が纏わりつき、武神の動きを制限する。
そしてそこに、槍を持ったシュナが駆けこんでくる。
「はああああああ!スピアラッシュ!」
「簡単に負けるかよ!ファイアソード!」
シュナの本当に千の刺突と見紛う槍撃と、
ディーラの炎を纏った剣が激しくぶつかり合う。
「ここッ!」
「無駄だ!」
「ならッ.....!ここだ!」
「無駄だああああ!」
シュナの槍の穂先が膨れ上がった炎で一瞬で融解した。
「え...........」
「どっらぁああああああああああああ!」
「きゃあああああっ!」
穂先の無くなった槍を呆然と見つめていたシュナに、下から燃える剣の斬り上げが襲った。
シュナは数メートル吹き飛び、動かなくなった。
「トドメだ!」
ディーラは翼を広げて空へと飛び上がる。
そして、剣を下に構えてそのまま落下した。
構えられた剣は落下の勢いのままシュナの首を切断—————————
することはなく、その手前で半透明の手によって受け止められていた。
『まだまだだな、シュナ。』
武神がシュナと同化し、シュナの意識は「まだ、まだやれる」と叫びながら微睡みに消えた。途端、シュナの腕が剣ごとディーラを弾き飛ばした。
「なっ..........?」
『さて........貴様に見せてやろう、我が力の全てを。』
武神はシュナを気遣ってあまり強い技を使わない。
あくまでも師匠で居ようと思っていた。
だが.........弟子は一人である必要はない。
「ふざけるなっ、誰がお前なんかに.......」
『我が三つ数えるときには、既にお前は地に伏しているだろう。一』
シュナの声で、カウントが始まる。
直立するシュナに、ディーラは剣を振りかぶり......
『二』
「おりゃあああああ!」
振りかぶった剣を振り下ろす!
その途端......シュナの両手が完全に見えなくなった。
バシャアアアン!ボゴッ!
「がふぅ..............................................................」
『三』
何かが割れるような音と共に、ディーラが空中で吹っ飛び地に伏す。
その手に握っていた剣は柄しか残っていない。
一瞬にして剣を破壊され、二度と立ち直れない程の一撃を各所に入れられたのだ。
「..........................」
『我の...........いや、シュナの勝ちだ!』
激戦の中残っていた命知らずの観客が一斉に歓声を上げた。
歓声が一気に周囲を包む。
そして、動かないディーラを確認したアナウンスが叫ぶ。
「で、ディーラ選手、戦闘不能!勝者、シュナ選手!」
歓声と、視線が自分に注がれる中シュナは物憂げな表情で立っていた。
「ディーラを倒したのは私の力じゃないのに.........」
『愛する人間の子にして我が一番弟子、シュナよ。気にするでない、まだまだ主の武の道は途上。いつかは我を越えるほど強くなればよいのだ』
「武神を、超えるくらい.........?」
『そうだ』
そう言って、武神は笑いながらシュナの頭を撫でた。
後日、シュナのもとに魔王ディーラが訪ねて来た。
「お願いします!俺を弟子にしてください!」
「何言ってるの........?」
『良いだろう、だが............まずは魔力を断って修行してくるがいい。魔力に頼らぬ剣術を身に付ければ必ず強くなれるはずだ』
「分かりました、師匠!......あ、シュナ。貴様にも言っておくことがある。」
元気そうに叫んだディーラは、シュナに真面目な顔を向けた。
シュナも何かを感じ取り、ディーラの方を向く。
「シュナ、貴様も戦いに身を投じる覚悟をしっかりとしろ。最近魔国は内部の情勢が怪しい。近く、戦があるかもしれん」
「覚悟...........」
それだけ言って、ディーラはシュナの前を去っていった。
シュナは、ディーラに言われた短い言葉を反芻し続けた。
「私の...........覚悟?」
シュナの新能力
・高感覚 武神降身状態の時、周囲の様々な情報を意識することで攻撃を回避する。
・超伝導 水や土魔術のような実体のあるものではない、火や風魔術のような実体のない現象系の魔法を自身に吸収し、身に纏うことができる。
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