SEP-11(A) ダブルデート(前編)
二話連続前後編とか飽きるし、何より戦闘回ばっかなのも嫌なので日常回。
「いい加減あの二人をくっつかせよう」
「へ?」
執務室で、溜まった書類を片付けていた俺は、思わずそう言った。
もう耐えられない。
クレルが俺の呟きに反応して、本から顔を上げた。
「ユカリ、何言ってんだ?」
「いや、クレルも見たでしょ、アレ」
アレ、とはアレックスとユイナのことだ。
彼らは婚約者同士.....らしいが、実際の心の距離は友達以上恋人未満である..................................にも拘らず、物凄いイチャイチャ密度なのだ。
例えば、食堂でパンを買う時。
「じゃあ俺は普通のパンで、ジャムありますか?」
「あら.......なら私もアレックスと同じものにさせていただきます」
「ユイナ........俺に合わせなくていいんだぞ?プレーンのパンなんて女の子にはあんまり向かないと思うんだが......」
「いえ、私はアレックスのと同じでいいのですわ」
「じゃあ、俺はユイナが選んだのを選ぶよ」
「そんな、悪いですわ」
などと、もどかしいやり取りをするのだ。
他にも図書室で偶然同じ本を同時に手に取ろうとしたりするし、
アレックスが出かけるときはユイナが、ユイナが出かけるときはアレックスがそれぞれ理由を付けてついて行ったりする。
もうあんなの見せつけられて恋人同士じゃないって両方が思ってるのがもどかしい。
さっさとくっつけてしまいたい。
「なんか.....意外だな」
「でしょ?ユイナがこんなに内気だと思ってなかった、もっと積極的に....」
「いや、ユカリが、だよ」
「へ?」
俺はつい首を傾げた。
俺のどこが意外だと言うのだろう。
「いや......ユカリが恋愛とか、コイバナとかに興味あるとは思ってなかったからさ」
「ああ......そういうこと」
「そういうのに興味があるんだったら.....」
「クレル、近い!近いって!」
クレルはいきなり顔を至近距離に寄せて来た。
顔が熱くなる。
やめろ!俺は元の世界に帰るまで男とも女ともそんな関係には絶対ならないからな!
でも、割とこういうのも、悪くないかも......?
「へへ、冗談だって」
「趣味悪いな、もう」
とんだ悪趣味だ。
人を弄んでいいのは神と運命くらいのものだよ。
ともかく......
俺はインベントリからあるものを取り出す。
「.......それは?」
「定員二人の依頼。採取依頼、場所は王都南の暗い森」
「ユカリ、俺と行くのか?」
「いや、これを二人に渡す。時間のかかる依頼で、魔物はいないけど暗い森で吊り橋効果を誘い、曖昧だった二人の仲は徐々に深まり......」
「恋愛小説の読みすぎだと思うが?」
クレルが呆れているが、俺はもうこの二人を早くくっ付けたくてしょうがない。
じゃないと、俺がどちらかを、もしくは両方を判決地獄行きにしてしまうだろうからな。
さあ、実行に移す時だ。
◇◆◇
それから二日後、俺たちは暗い森へと来ていた。
何をするかって?勿論アレックスとユイナの二人きりの冒険をチラ見するためだよ。
クレルも同伴だ。
「ユカリ、ついでだから俺も依頼受けて来た」
「まじ?」
「マジ」
クレルは懐から紙を取り出して俺に見せた。
一瞬よく鍛えられた胸元が見えてドキッとしてしまうが、慌てて抑える。
《個人的な質問なんだけど、ボクの身体ではあるけど今はマスターのものなんだよね、どうしてクレルとそう言う関係になるのを躊躇うの?》
(うるさいな、元は男だから、そういうのは.........)
《元は男だから、それを理由に踏みとどまるの?今は女なんだから、行っちゃえばいいのに》
(一時間黙れ)
俺は指令を出し、ムスビを黙らせた。
この思いは、還るその時まで、いや前世まで持っていくつもりだ。
クレルは俺のことを好きだが、シュナから奪ってまで幸せになる気はない。
だって、いずれ還る俺がクレルにたった一瞬の幸せをなんて、実に無責任じゃないか。
「へえ、エメルドローズか」
「ディアムローズの近縁種で、売ったらそこそこいい値段になるみたいだぜ」
「でもどこに生えてるの?」
「アレックスとユイナが向かうエリアの、少し先の場所に生息地があるらしいが、エメルドローズの満開時期と下等翼竜が営巣する時期が被るってんで、誰も行かないらしい」
「はあ.....」
まあ下等翼竜の営巣地なんて、行っても大量の翼竜に襲われるし手に入るのはせいぜい数百万オルクのエメルドローズ数株だしな。
A、Sランクのお小遣い稼ぎクエストとしか思えん。
でも、ついでに行く程度ならいいか。分身で気を引きつつ、エメルドローズだけさっと取っていけばいいしな。
俺たちは森を進む。
ただし、見つからないように俺は〈暗殺者〉の固有スキルで、クレルは〈空遁術〉で身を隠している。
「アレックス、この茸は綺麗ですわね......」
「綺麗な薔薇には毒がある、その茸も多分毒キノコさ。でも不思議だな」
「なんですの、アレックス」
「綺麗な薔薇には棘があるというけれど、ユイナには棘なんて無いように見える」
「まあ!?私は薔薇というほど綺麗ではありませんわ」
「いやいや、ユイナは可愛いよ」
やり取りが聞こえてくる。
俺はイラついたので、石を拾って近くの茂みに投げ込んだ。
ユイナが短く悲鳴を上げてアレックスに抱き着いた。
アレックスが困惑した表情になる。
「あ、アレックス、この森、魔物がいますの......?」
「いや、居ないはず。まあ、居ても........」
「なんですの....?」
「俺が守ってやるから」
アレックスが滅茶苦茶イケメンな台詞を吐いた。
こっちは余りのイケメン具合に顔真っ赤である。
クレルの方を振り向くと、クレルはぼそっと、
「だ、大丈夫.....俺だってユカリを守れる」
「そう.......」
クレルの戦力にはあまり期待してないんだよね。
クレルは閉鎖空間や狭い範囲での戦闘が得意だが、土地勘が無いこの場所ではちょっと厳しい。魔物が出ても厳しいだろう。
俺はあまり頼りにならないダメ男を放って先に進む。
この森、マジの吊り橋があるんだよね。
「あ、あああ....アレックス、揺れますわ!」
「大丈夫だって、落ちてもユイナは精霊が助けてくれるだろ」
「で、でもそれだとアレックスが怪我を.....」
「俺は頑丈だからヘーキだ」
本当この二人、なんで恋人同士じゃないんだ........?
さっさと付き合ってしまえ!畜生!
そんなことを思いながら、俺は下の川をジャンプで渡る。
クレルはヘタレなので、対岸にナイフを投げて渡った。
「そういう使い方していいの?」
「本当はユカリを抱えて川を渡ろうかな?と思ったけど、普通にジャンプで渡られたから.......」
「え、そんなことしなくてもいいのに」
「何言ってんだ、俺は女の子..........いや、ユカリが足を濡らすなんて絶対許容できないからな。」
「クレル...........」
ちょっとイイ事言うじゃん。
俺は感動しつつ、アレックスとユイナが消えた崖上へと跳んだ。
アレックス、クレルはユカリとフラグ立てまくってますが、ユカリとは結ばれませんが、
クレルだけは終章後へのフラグが残ります。
ま、シュナとユカリの尻に敷かれるんですけどね、初見さん。
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