SEP-10 集会
幻獣軍団版反省会。
幻獣の個体番号を思い出せない方は幻獣の登場回を見返してみましょう。
全話を通してこの話以外で出てこない番号はこの先もあんまり出番はありません。
王都から東に400km……
その上空を飛ぶ影があった。
その時速はまさに戦闘機並みだが、特につらそうな雰囲気は感じない。
風を切って飛ぶのは......獣の耳を持つ少年だった。
「ハァ、アセナ様も無茶言うよ。ボクの管轄から大きく離れてる場所に、集会だからって呼び出すなんてさ...........」
少年の名はマルコシアス.......D-87だ。
ナンバリングが年なので、ナンバリングが若い連中から仕事を押し付けられたのだ。
それは、集会。
王国中に散っている仲間たち........幻獣たち。
ガルム隊、マーナガルム隊、フェンリル隊.........
少年はマルコシアス隊の代表として出席するのだ。
だが集会の開催日は今より1時間後であった。
それ故、マルコシアスは頑張って空を飛んでいるという訳だ。
「はひぃ~、辛いよ」
マルコシアスは雲を突っ切って降下し、曇下に広がる森の、地平線のはてを見つめた。
「あれだ........」
マルコシアスは地平線の果てで輝く城.......
幻城へと一気に翔んだ。
「遅い到着ですね」
「ああ、すまない.......色々と苦労があるんだ」
入り口を警備しているのは、幻獣軍団とは別の........アセナが雇っている
魔族の戦士だ。
マルコシアスは入り口を通り抜ける。
すると、中庭に出る。
集会といっても、形式的だけのものではない。
参加は自由だが、最低でも隊の一人は強制参加だ。
だが、参加上限は無い。
なので..........
「よっ、マルコシアス」
「A-76!何でボクだと分かったんだい?」
基本的に幻獣は、他の個体と同様の外見、性格が同じになるように”造られている”。
なので、D-87はA-76が自分を識別できたことに驚いた。
「だってよ、毎回お前が来るじゃんか」
「そうだよね........」
そういうA-76も、幻獣でありながら独自の人格を形成し、任務に役立てている幻獣でもあるのだが。
D-87はA-76と共に城の内部へ入る。
「お前だけってことは.....いつもの報告か?」
「そうだね.....はあ、新参はつらいよ」
「頑張れよ」
A-76はそう言ってD-87の肩を叩いた。
D-87は少し歩いて、A-76が付いて来ないことに気が付いた。
「付いてきてくれないの?」
「付いてきてほしいのか?」
やれやれ、といった風に、A-76はD-87の肩を押して城のホールへと入る。
ホール内部では、沢山の幻獣たちが話をしていた。
だが、全員マルコシアスと同じ姿の者は居ない。
「確か、アセナ様は...........」
「いつも通り城の最上階さ。さあ、行ってこい。俺はほかの奴と話をしてくる。おーい!C-96はいるかー!」
D-87は仲間の名前を呼び始めたA-76を尻目に階段へと向かう。
階段は螺旋状になっていて、それがそのまま上へと続いている。
幻城は全4階建てで、1階はホールに、2階は資料室、3階は.......倉庫とされているが、アセナの許可がないと入ることが許されていないので、D-87も知らない。
そして、最上階の4階に幻獣たちの主である、アセナがいるのだ。
D-87は無言で階段を昇る。
2階…3階…と昇り、4階へと辿り着いた。
アセナの居る部屋の前には魔族の兵士が立っている。
D-87は彼らに話しかけようとするが、彼らは無言で道を開けた。
「…なんで?」
「もう慣れたわ。貴様はいつも一人でここに来るからな」
「そうですか…」
「ガイデル、このお方は幻獣様だぞ。言葉を慎め」
「そうは言うがアルマル、事実を言っているに過ぎぬぞ?」
「そうやってお前は屁理屈を…」
「お前の正論に付き合うのはもううんざりだ」
いがみ合う二人の間を通り抜け、D-87は扉を開く。
扉を開いた先は、長い回廊となっている。勿論、西洋式の城の頂上にこんなスペースは無い。魔法によって拡張された空間なのだ。
D-87は無言で回廊を歩く。
だが…
「遅い!」
扉があるはずの壁が一瞬にして目の前に現れた。
回廊が縮んだのかと思いD-87は後ろを振り向いたが、長い回廊は依然として存在している。
転移させられたのだ。
膨大な魔力を必要とし、幻獣ですら扱えない秘術を、アセナ様はまるで児戯のように扱ってみせるのだと理解し、D-87は震えた。
D-87の前で勝手に扉が開き…その先では。
「全く…妾を何時間待たせる気じゃ?何のつもりかは知らぬが、マルコシアス隊はいつもお前しか遣さん。ただでさえ報告はノロマで遅いわ言葉に詰まるわビビリだわ…」
「す、すいません…」
“造られた”存在である幻獣でも、数年間活動するうちに個体差が出る場合も稀にある。マルコシアス隊の中でもD-87は一番の弱虫で、優柔不断な性格なのだ。
D-87はビビリながら報告を始めようとする。
しかし…
「そういえばお主、さっきA-76と接触していたな?」
「?はい、そうですが…」
「もう関わるでない」
「何故ですか!?」
友人と引き剥がされたことに激怒するD-87だったが、
次の一言で凍りついた。
「A-76はイレギュラーな性格の変化が任務に影響を及ぼしていると妾が判断した故、リセットして再教育することにしたのじゃ」
「そ、そんな…」
「お主の報告が素早く鋭く、そして分かりやすければ、お主の助命嘆願を聞き入れよう」
アセナはどこからか取り出した扇子を口に当て、そう言った。
D-87は俄然やる気を出した。
「で、では…どこからお話ししますか?」
「ふむぅ…学院での潜入作戦はどうなったかの?」
「あっ…!し、失敗しました」
D-87がそう言った瞬間、アセナから強烈な殺気が放たれた。
気絶しそうになりながらもD-87は何とか耐えた。
震えるD-87にアセナはニッコリと笑った。
「…よいよい、お主が悪いわけではないであろうしな。続きをはよ言うのじゃ」
「は、はい!が、学院の乗っ取りは混乱を起こさぬよう秘密裏に行われたはずでしたが、末端の部下として雇っていた冒険者が勝手な行動で学院内の生徒に攻撃を仕掛け、返り討ちにされ、生徒の調査により計画が崩壊しました。」
「ふむふむ…その、生徒の名は?」
「ユカリ・A・フォール。エルドルム地方、フォーランド出身と判明して…います」
「ほぉ、そうかそうか…それで、D-28は?計画の失敗の責をお主に押し付けて逃げたわけではあるまい?」
「で、D-28は………戦死、なさられました…」
アセナがカッと目を見開いた。
そして、ワナワナと唇が震えた。
「バカな…バカなバカなバカな!D-87、それは確かか?」
「は、はい!D-28との結魂石が破壊されたので、事実です」
「有り得ぬ…ゼアス様がお造りになった幻獣は、あの黒騎士団の灰騎士と互角の能力のハズ!王都にいる戦力で撃退できるはずが………誰だ!D-87!それを成したのは誰か報告せよ!」
「は、はい!D-28は…ユカリ・A・フォールと交戦し…殺害されました」
「ユカリ?ユカリだと………?」
アセナは目を細めた。
「アセナ様………?」
「誰だ…?そんな冒険者も、戦士も旅人も聞いたことが無い…妾が知らぬ存在が王都に入ってこようものなら、幻獣たちが勘付かないハズがない!まさか黒騎士の奴…いや、違うな」
アセナは乱れた髪を櫛で整えながら、続きを促した。
「えっと、学院での出来事は以上です」
「そうか…王城の方はどうなっている?」
「こちらもイレギュラー事態が発生。ジルベール次期王子の妃として用意した駒の他に強力なイレギュラーが出現し、ジルベールがそれに惚れてしまうという最悪の事態が起こっています」
「バカな…?次期王子たるジルベールがそうぽんぽん女に現を抜かす存在ではないことくらい妾も知っておるわ。お主…まさか冗談ではないであろうな?」
「い、いえ!そんな!アセナ様に冗談などボク…私めには過ぎた態度でございますぅぅぅ!」
思わず平伏するD-87にアセナは指を突き付け、言う。
「ならば、ジルベールが惚れた女の名を言ってみろ!」
「は、はい!ユカリ、ユカリ・A・フォールでございますぅぅ!」
アセナの顔が固まった。
そして、髪を掻きむしり始めた。
「本当か?本当なのか?D-87!」
「じ、事実です!さらに、ユカリ・A・フォールは現王ロイアハイトの正統な子を王族として王に報告!王がそれを認め、新王族アルバートが誕生しました!平民を経験した王族ということで、国民からの人気を獲得しており、いずれはジルベールの次期王子の地位を脅かす可能性が………」
「があああぁぁぁぁあああああああっ!」
アセナが手を振り払った。
その方向にあった棚が粉々に破壊され、壁に大穴が空いた。
震えあがるD-87を無視してアセナはぶつぶつと呟く。
「よくも…よくもよくも…!計画を悉く潰してくれたな…!」
「アセナ様………?」
その時、扉が開き、
黒コートを着た長身の幻獣と、黒コートを着ていない幻獣が姿を表した。
「アセナ様!?具合はよろしいのですか…?」
「あ?…すまぬな、ちとマルコシアス隊の者が無能で…」
その言葉を聞き、入ってきた幻獣…フェンリルとガルムはマルコシアスを睨み付けた。まるでまたお前らかとでも言うように。
だが、アセナが威圧を放ったことでそれをやめた。
「よせ、D-87は何もしておらぬ。マルコシアス隊の中でも著しくノロマでマヌケなことは確かじゃろうが、マルコシアス隊全体の無能を個人に押し付けるでない。D-87はまだ年長者では無いのじゃから…そうであろう、A-02、E-01。報告をせよ…お主らは数ヶ月に一度の報告をしておるから、今来ると言うことは新たな報告じゃろう?A-02、お前から言ってみよ」
アセナはA-02に目配せする。それに反応しガルムが報告を始める。
「ハッ、我らが隊の仲間、A-18が戦死しました」
「………なんじゃと?」
「原因はCランクパーティの人間の冒険者達によるものと判明しました」
「そのCランクパーティの名と、パーティ構成を告げい」
「パーティ名は『エターナル・バンド』、人間7名、竜族の〈竜帝〉1体で構成されるパーティで、パーティリーダーはユカリ・A・フォールが務めており………」
「待て!」
「は、何でございましょうか?」
「今、ユカリ・A・フォールと言ったか?」
「は、そう言いましたが…」
「クソがああああぁぁぁあ!」
アセナは叫び、右の棚を吹き飛ばした。
フェンリルとガルムが驚いた顔をする。
「「い、如何なさられたのですか、アセナ様!?」」
「どうしたもこうしたもあるか!マルコシアス隊の計画もガルム隊の計画も潰された!その原因がイレギュラー、ユカリ・A・フォールであるとはな!」
「ユカリ・A・フォールですと?」
今度はフェンリルが反応した。
「フェンリル、何か覚えがあるようじゃな…?言ってみよ」
「我が隊のE-07が現在活動中のマルコシアス隊のD-03と交渉し、新王子の歓迎式典にて暗殺を試みましたが、アルバート王子の傍にいたユカリ・A・フォールに撃退されました。E-07はなんとか逃げ出したようですが、現在謹慎処分中です」
その言葉に、アセナは崩れ落ちた。
駆け寄るフェンリルとガルムを手で制し、アセナは言った。
「うむむ…仕方がないが、全隊に伝えよ。ユカリ・A・フォールとの接触を完全に禁ずる!進行中の計画はなるべくユカリ・A・フォールに露見しないように進めることとする!」
「は、ハッ!」
「了解しました!」
フェンリルとガルムが、「では、着任いたします」と言って出て行った後、
アセナにマルコシアスが話しかける。
「あの…」
「何じゃ…?」
非常に疲れた様子のアセナに、マルコシアスが魅惑の情報を教える。
「マルコシアス隊D-03が現在、ユカリ・A・フォールが総合大会の武闘大会部門に出場することを確認しています。マルコシアス隊は総力を決してユカリ・A・フォールに手駒をぶつけ、疲弊させたところを殺害する計画がございます」
「そうか…まあ、成功すれば良い。進めさせよ」
「はい」
マルコシアスが答えた後、お互いが無言になった。
数十秒後、アセナが言った。
「帰らぬのか?」
「ボク…私めの報告は如何だったでしょうか…?できればA-76をお助け……」
「ああ……………良いぞ。妾がA-76をガルム隊から除名し、マルコシアス隊…お主の直属の配下として、そうじゃな…D-106として配属することとしよう」
「本当ですか!?恐悦至極の至り!」
「その代わり、例の作戦をしっかりと成功させるよう進行中の隊員全員に通達せよ」
「分かりました!」
「帰って良いぞ」
アセナはマルコシアスを外へと転移で飛ばした。
誰も居なくなった執務室で、アセナは独り呟いた。
「人間一人に幻獣軍団が圧倒されたなど、ゼアス様に知られれば…!ユカリ・A・フォール、貴様はここで潰す!」
叫んでから、アセナはもう夜が明けそうであることに気づいた。
何時間も会話をしていたのだ。
「妾たる者が何たる様じゃ」
アセナは左右の棚を元に戻し、引き出しから出した飴を舐め始めた。
そして獣耳が下での会話を拾った。
『よっ、報告長かったなマルコシアス』
『うん、ところで今日から君はボクの部下だって知ってた?』
『ハハ、そりゃ面白い冗談………マジ?』
『アセナ様が直々にお決めになったことだから、従ってね?』
『マジかぁ〜』
アセナはそれを聞いて少し顔を顰めた後、ニヤリと笑った。
魅力のある悪勢力を目指しています。
思わず主人公側ではなく悪側につきたくなるくらい魅力的なアットホームな職場を目指しています。
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