siseS-12 粛正されし学院
ビビッと来て慌てて書いた話なので遅れました。
私の名前はセドリック。セドリック・リア・ロイヤルファイナスだ。
王室の財産や国庫の管理を行なっている。
さて、そんな私だが…陛下より学院の視察を命じられた。
本来であれば、クレイン・ロイヤルブレーンが行うべき仕事なのだが、
彼は今来年度の予算案組に忙しい。
なので、私が行くことになった。私は嫌だったのだが、
王命ならば仕方がない。
「ここか…懐かしい」
「セドリック様は家庭教師では無かったのですね?」
「ああ。少しな」
私の親は私を忌み嫌っていて、私を学院に追いやった。
勿論両親とも全員自然死に見せかけて始末してやったが…
あの顔を思い出すと胸糞が悪くなる。
だが、この門を見つめているともっと胸糞が悪くなる。
『おい平民!退けよ!貴族様のお通りだぞ!』
『は、はい…』
かつてこの門を潜った時、私は到底信じられぬ光景を目にした。
それは、平等を謳ったこの学院で貴族が平民を足蹴にする光景であった。
奴等は自分より身分の高い私に楯突きはしなかったが…
嫌なことは沢山目にした。
だが直ぐに気付いた。学院に通う様な貴族からすれば、私は変人なのだと。
高貴な血の流れる貴族が平民を足蹴にするのは当然の行為であり、平民と平等に学び合いたいと思っている私は少数派なのだと。
けれど私は…理想を捨てられなかった。
「はあ〜…セドリック様、このシャンデリアは美しいですね…ロイヤルファイナス邸のものにも劣らないかと」
「ふ、そうだな…」
従者が私にそう言う。
気付けば私はロビーへと辿り着いていた。
ここから学院内部までは複雑な迷宮の様になっている。
だが…
「お待ちしておりました、貴方がセドリック様で宜しいですね?」
「はい、今日はよろしくお願いします」
30年程前とあまり変わらぬその顔…ハイエルフと言われる学院長、アルマがロビーにまで迎えに来てくれていた。
彼女に助けを求めたこともあったな…
『アルマ校長!貴族が平民にあのような事をするのを許容していいのですか!?』
『変ですね…報告書には何もありませんでしたが?』
『しかし、僕は確かに…!』
『うーん、考えてみましょう、まずはスポンサーの貴族と相談して決めていきましょう』
そして何も変わらなかった。
恐らくだが当時の彼女は校長としての権限はあるが、
決定権は貴族に委ねられていたのだと思う。
しかし当時の私は彼女を無能と罵った。
何も変えられぬ、懐古主義で偏屈な女だと。
彼女がそれを覚えているかは知らないが…
私と従者、アルマは廊下へと出た。
廊下を見渡す。それだけでは私の脳裏に記憶が蘇った。
『おら、平民!布なんて使うな!舐めて掃除しろ!』
『おい、それだと俺たちの床が汚くなっちまうぞ?』
『そうだな、ギャハハハハハ!じゃあ服で掃除しろ!』
そんな会話をし、平民の女の子に冬だというのに水を被せ、濡れた服で床を拭かせていた。
そんな想像をする私の前に、生徒が現れた…のだが。
「何で俺がこんなこと…」
「あら、いいの?貴方が女の子たちにしようとしていたことを集会でばら撒いても!」
「ひいいいぃぃ、それだけはやめてくれ!」
貴族の様な格好をした少年が、比較的質素な服装の少女と一緒にモップを持っていた。言動からすると脅して無理に仕事をさせている様に思えるが、少年の仕事ぶりは実に熱心だ。少女も嘲る様な素振りは見せていない。
まるで普通の学生同士の様だ…
「セドリック様?」
「ああ、すみませんね…少し思うところがあったもので」
「そうですか」
学院長は相変わらず、特定の生徒以外には無関心だ。
ここに居るのも、前王との約束で居るだけだそうであるし…
知識と学びを提供し、自分は安息を享受する。
何も苦労は背負わない姿勢なのだろう。
私たちは廊下を抜け、階段を降り…校庭へと出た。
校庭を通り、寮へと行く。
そして、驚愕した。
かつては平民と貴族の寮は分かれていたが、今はそうではなかったのだ。
平民と貴族が同じ屋根の上で寝食を共にしている。
多少の不和はあるようだが。
おまけに…
女を侍らせている貴族が一人も見当たらない。
『ははははは!お前らはただの玩具に過ぎん』
『は、はい…そうです』
『黙れ!玩具は喋らない』
『……………』
『何とか言え、孕み袋風情が!』
『っ…!』
必ずこんな会話が繰り広げられていた。
その度私は彼女らを庇ったが…
『ノーラ!お前は何故リシャを殺したんだ?』
『リシャ………?ああ、あの生意気な袋か。あんまり五月蝿いから、俺に斬られる栄誉を与えてやったよ』
『ノーラ、てめえぇぇ!』
殆どが殺されておしまいだった。
彼女らは身分を弁えず貴族と決闘し、殺されたということにされて処分された。
だが…かつては校庭に溢れていた女を侍らせる貴族は一人もおらず、居たとしても傍の女性は一人だけだ。
それに関心を覚えた私は貴族風の少年を一人捕まえて、尋ねた。
「少年、君は女を侍らせないのか?」
「…出来るものならしたいんですけどね、生憎モテないんですよ」
「しかし、君は貴族だろう…?平民の女なら逆らえないじゃないか」
「やめてくださいよ!そんな事を知られたら、『粛清秘書』に斬り殺されてしまいます!」
「だが、君を殺せば問題に…」
「『粛清秘書』の飼い主は生徒会で、生徒会にはアスキー・ロイヤルブレーン様がバックにいるんですよ!?大抵のことは揉み消されてしまいます!」
そうか、結局は貴族がこの学院を牛耳っているのか…
と思った私だが、次の一言で印象は変わった。
「アスキー様は生徒会長の命令で平民にもすごく優しく接してくれて、相談にも乗ってくれます。俺たち貴族は、平民と同じ待遇ですが…逆らわなければ何もされませんから」
…アスキーか。あの男は典型的な貴族様だった気がしたが。
彼を変えるとは、一体…?
私は興味を持ち、尋ねた。
「アスキーを従える生徒会長というのは、どういう人間なのかね?」
「えっと…確か、ユカリ・A・フォール様です。かなりの美人ですね。今までに貴族平民問わず沢山の人間が求婚したらしいですが、相手にすらされなかったそうです。穏和な雰囲気ですが、かなり強いそうで、前にこの学校を牛耳っていた生徒会長の暗殺者やら部下を全て跳ね除けて、不正も無しに生徒会長の座に就いたらしいですよ」
「そうか…」
それは本当に人間なのか?
貴族で、美貌で、強く、高潔。
なろうと思ってなれるものではない。
私もそんな人間にはなれそうにはない…
だが、彼女の話はまだまだこれからであった。
「ユカリ様は〈竜帝〉とかいう伝説の竜族も従えていて、彼女の側には常にあの無才の長男だったはずのアレックス・エストニアと、クレル・アーサーが控えているとか。」
竜帝だと…?
陛下からそんな話は聞いていない。
だが、それが本当ならやはり恐ろしい人物だ…
カリスマもあり、竜をも従える。それでいて野心が無いと予想できる。
「そうか…それで、彼女に会えるかね…?少し聞きたいことがあるのだが」
「あー…えっと…大貴族の方ですよね?」
なんだ、この少年…私の顔を知らないのか…
まあ、いい。
聞いておこう。
「ユカリ…様は王子に求婚されたとかで、今休学中です」
「何?」
私は慌てて従者の方を見る。
従者は大慌てで鞄から資料を取り出してパラパラとめくる。
「あ、すいません…ユカリ・A・フォール様は確かに王妃候補の方です。ジルベール殿下からの熱烈な愛を受けていますが、本人の意向で現在保留中ということです」
やはり野心が無いというのは正しかったか。
次期王位継承者確定の人物に求婚されて一度断るとは。
私は踵を返すことにした。
「あの、セドリック様…?」
「調査は従者に任せる」
「えっ、俺ですか!?」
「私の目で直接確かめる必要はない。これほどの人物が治める学舎に問題があるわけがなかろう」
「…分かりました、調査を続行します。けれど、帰りの護衛は…?」
「要りません。私にもコレがありますから」
私は腰の剣を指で指し、
踵を返した。
学院は確かに変わった。
だが、そのうちの7割ほどはきっと、あのユカリという女のお陰だろう。
彼女は、どれだけ高潔なのか…生徒たちに選ばれるほど素晴らしいのか…
竜帝が従うカリスマを持っているのか…そして、私をも見惚れさせる美しさがあるのか…
いつか、一度会ってみたいものだ。
でもセドリックとユカリが会う話はありません。
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