Ep-110 二次予選3 シュナ対カイ+おまけ
後述する理由により遅れました。
「あなたがカイ?」
「そうだよ。ボクがカイだ。よろしく、人間の子」
「なんか上から目線ね…」
「当たり前じゃないか、これでもボクはキミよりずっと年上だ」
「そう…でも、私より弱かったら歳の差なんて関係無いって証明できるわよね?」
「勿論だ」
二人は、戦闘態勢に入った。
シュナの髪と瞳の色が変わり、全身に紋様が浮かぶ。
そして、槍が神々しく輝き出す。
そしてカイも、シュナの全力を見て、自分も真の力を出すべきだと判断した。
ポケットに手を突っ込…まず、腰にぶら下げた瓶の蓋を開け、地面に中の液体をじゃばじゃばと落とした。すると、液体が形を作り、伸び、鋭く尖り…
水晶を切り取ったかのような槍が姿を表した。
そして、カイがその槍を手に取るとカイの姿が変貌する。
耳のヒレが長く伸び、全身の鱗が拡大する。そして、裸足の足も水かきのついた足へと変化した。
「………その変身が、あなたの“本気”なの?」
「ああ、そうだよ。これこそ魚人族の秘宝流水槍、その力にて魚人族は真なる姿を取り戻す。」
カイが足をトン、と鳴らすとそこから水が溢れ出し、シュナの足元を濡らす。
「これは…水?いや…大地そのものが海に!?」
「もう遅い、キミはもう、戦うことすら出来ず…溺れ、負ける」
シュナの身体が海に沈む。
驚くべきことに、空き地の中心に海が出現したのである。
どんな戦士も水中では動きが鈍る。
だが、カイのような魚人族ならば………有利に戦えるのだ。
「なるほど…負けたわ」
「降参する気に……うわっ!?」
シュナの身体を走る紋様が増加し、眼からハイライトが消えた。
槍の輝度が増し、髪が更に伸びる。
「その…姿はッ!?」
カイは吹き荒れる魔力に怯みつつも、なんとか尋ねる。
だがそれに答えたのは、シュナでは無かった。
『我を完全に降ろすとは…人格に影響を及ぼしてしまうかも知れぬのだぞ…?まあいい、相手をしてやろう』
シュナは水中では活動できない。
だが、武神なら…?とシュナは思いついた。
武神を完全にシュナに降ろすことで、シュナは全身を擬似的な神のものとし、
水中でも問題なく活動でき、疲労、飢え、呼吸、迷いなどといったものに左右されず戦えるのだ。
「ッ…後悔するなよ」
カイはシュナの沈んだ海底へと、その身を翻した。
◇◆◇
海底。
そこで、目を閉じた武神が構えている。
その姿勢は、一見隙だらけに見える。だが、何処か一箇所にでも槍を突き入れれば…攻撃者は即座にして神速の反撃により死に至る…そんな構えであった。
そこに高速で何かが降りてきた。
カイだ。
「この水中という領域で、どんな姿になろうと人間が魚人族に追い縋ることなど有りはしない」
カイはゆっくりと下降しつつそう告げる。
だが、武神は黙ったままだ。
「そして、ボクもただ槍を振り回すだけでは無い。努力の末に身に付けた、この槍術でーーーーーー」
そこまでカイが言った時、武神が目を開いた。
『御託はいい、さっさとかかって来るがいい』
「ああ、そうさせてもらうよ!」
水中とは思えぬ速度で槍が水をかき分け、振われる。
そして…
コォオオオン…
水中に金属音が反響する。
槍と槍が激しく衝突し、両者の肌を衝撃の波が撫でる。
だが、感情と身体が微動だにしない武神と違いカイは特大の衝撃に身も心も襲われていた。
「バカな…人間が水中のボクと同じ速度で動けるはずが…!有り得ない」
『くだらぬ誇りは、もう砕けたのか?』
「もう、一度ぉ!」
カイの槍が、今度は差し込む様に振るわれる。
だが………
キィイイン…
縦に構えた槍の柄にて弾かれた。
本来ならば折られてもおかしくない防御方法だったが、
武神の力により神器ともいうべき耐久性を纏った槍は、流水槍を容易く弾いた。
「くっ.......」
『それがお前の全力か?』
「う、うるさいな。ボクだって最近伸び悩んでただけで.......」
『違う。お前にはまだ出せる力があるだろう?下らぬ誇りなど捨て、その力を出すがいい』
「ボクの、力...........?」
『何だ、気づかぬのか?その槍は海神の力の一部。その力を開放すればお前は今の我と対等に戦えるだろう』
「............待ってくれるのか?」
『それほど時間を取らぬのならな。シュナの人格が心配であるし..........2分だ、2分で全力を出せ。それまでに出来なければ、お前を一突きで戦闘不能にしてやろう』
「くっ...........」
敵に情けを掛けられる、その屈辱に耐えながら、カイは槍に問いかける。
カイが流水槍を手に入れたのは、海底都市を出る切欠になった出来事だった。
勿論ペリカの事もあった。けれど、同時に流水槍を狙う魚人族と海神の信奉者たち。
それから逃れるためでもあったのだ。
(この槍の力は、ボク達魚人族を真の姿に戻してくれる。初めて手にした時、ボクは確かにあの姿になった。けど、その後その姿になることはなかった。........アレは失敗だと思ってたけど.......あれこそが、ボク達魚人族の真の姿......?)
カイは、海の魔物に襲われて逃げた先で手に入れた二本目の槍、流水槍プリミティブストリームを手にした時のことを思い出した。
今持っている三又の槍は、都市を出るとき作ったものだ。
当時は一本目の槍が折れてしまい、流水槍を使うしかなかったが、
その後流水槍を使うことはなかった。それ故、気付かなかったのだ。
『そろそろ、二分だな』
「もう時間は取らせない!流水槍!ボクを原始の姿へ!」
カイの鱗がすべて白に染まり、ヒレがさらに拡大し、腕にも尾ひれが生える。
そして、カイの服がすべて消え去り、裸を上書きするように鱗が生える。
変身が終わった後には、白い鱗を持つ魚人がいた。
唯一魔物の人魚や魚人と違うのは頭のみ。
原初の魚人族は、魚人から派生した亜人なのだ。
今と違いその姿は、人間より魚のようだ。
「行くぞ!」
『待ちくたびれたぞ』
両者が激突する。
カイの流水槍が強い水流を生み出し、武神に叩きつけ自由を奪う。
「激流連突!」
「スピアラッシュ!」
そして、猛烈なラッシュ比べが始まる。
片や武神の力により、水中でも矢のごとく速度で放たれる槍の連撃、
そしてもう片方は水流にて加速した、圧縮された水を纏う槍の重連撃。
数と重さ。
それらが衝突し.........
「ぐぅっ.......」
『ぬぅっ....!』
弾き飛ばされる両者。
だが、武神は着地できず水中をゆっくりと下降している。
しかし.......
「激流乗突!」
槍と共に、急加速したカイが迫る。
武神は顔を顰め、シュナから飛び出した。
「くぅぅっ!?......武神!どういうつもり!?」
『シュナよ、素早く浮上しろ!我はシュナに残した核で復活できる!相打ちを.....』
「分かった!」
シュナはそのまま、海面へと上がって行った。
それを見届けた武神は、拳を構えた。
『行くぞ!』
「こぉおおい!」
拳と槍が素早く振るわれる。
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!』
「激流連突ゥゥゥゥゥ!ダアアアアアアアアア!」
ラッシュ対決は数分間続き......
『そこだ!』
「ここぉ!」
両者が槍の隙に、拳の隙を同時に見つけ...........
ドドォオオン!
その頃、水上ではシュナがぷかぷか浮いていたのだが.........
突如吹き上がった水柱と、大波に吹っ飛ばされた。
「武神.............勝ったの?」
見れば、空から何かが降ってきた。
それはカイであった。
カイは海面に落下し、槍を取り落した。
その右脇腹には大穴が開いており、戦闘不能だと一目で分かった。
槍が水に溶け、瓶へと戻ると同時に海が消え去った。
「あ........えっと、カイ選手戦闘不能!勝者、シュナ選手!」
シュナが勝ったが、歓声は上がらない。
それはまあ、そうだろう。カイが作った海の中での戦闘なので、何が起こったか観客には全くわからなかったのだから。
そして、ベルの予選試合も始まったのだが............
「おーっと、大きな雷によってジョン選手、一撃で戦闘不能!勝者、ベル選手!」
雲まで呼び寄せて放たれた大稲妻が、対戦相手のジョンに直撃し、
全身炭化の上でショックで即死させた。
ベルとしては「殺すつもりはなかった」という訳である。
幸い直ぐに治療班が治療したから良かったものの、あまりの一方的な戦いにより
ベルは観客に酷く怯えられるようになった。
しかし、元々「遺跡荒らし」等と言う二つ名があったのに、更に怯えられるとは.....
難儀な人である。
ベルの予選試合を描写するかどうかで迷ってて遅れました。
でもいちげきひっさつ!なので分ける必要はないと判断しました。
カイくんはリタイアしません。
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