Ep-109 二次予選2 クレル対アルメル
遅れました。
もう毎度お馴染みになり、観客も黙りこくる中、
二人が相対する。
一人はクレル。
もう一人は、頭に花飾りをつけた、新緑色の髪を持った少女。
「.........お前、魔族か?」
「ええ、そうよ…それが何か?」
アルメルと呼ばれた少女は、髪を撫で付けそう言った。
直後、髪飾りが妖しく輝き、少女の耳が伸び、左右の長さが違う角が現れた。
「魔族なのに…エルフの印である耳?」
「“訳あり”よ。さあ、始めましょう………」
「始めッ!」
そして、両者は激突する。
いや、激突では無いだろう。
アルメルは凄まじい魔力を持っているのにも関わらず、その手には何も握られていない。
クレルは何かを警戒して、アルメルから距離を取った。
杖が無くとも魔術は扱える。
なら、武器の有無に関わらず距離を取った方がいいと判断したのだろう。
「まずは一発…」
クレルは素早く懐に手を入れ、ナイフを投擲する。
しかし…投げたナイフはアルメルの手前で静止した。
「なっ…?」
「余所見をしている暇があるの?」
「ッ!?」
クレルが背後から感じた何かを信じて身体を捻ると、そこから魔法弾が飛んで行った。しかし避けきれず、上着が少し破ける。
「ちっ…!」
それだけでは無い。クレルが避けた先にも魔法陣が発生し、そこから魔弾が飛び出る。それを避ければ、避けた先に魔法陣が発生し…光線が放たれた。
「エッ、エアースライドォ!」
「あら…避けるのね。」
クレルはなんとか避けることに成功したが、無理が祟って関節を痛めた。
このままではジリ貧である。
それを素早く察したクレルは、避けることに集中することにした。
「ハァッ!」
クレルは、ナイフを投げる。
二つ、三つ、四つ…
それらは全て、アルメルの前で静止してしまう。
だが…
「え…どこへ?」
ナイフから意識を逸らしたアルメルは、クレルがどこかに消えているのを察知した。
「そうか、ナイフで意識を逸らして…なら…」
アルメルは目を閉じる。
そして、次に開いた時その眼は元の茶色から、紫色に染まっていた。
アルメルはその眼で周囲を睥睨する。
「そこ!」
「チッ!がっ!」
そして、魔法弾が放たれる。
その先に丁度クレルが居た。
クレルは避けきれず、胴に喰らって地面に転がる。
クレルは地面に倒れたまま尋ねる。
「その眼…魔眼か」
「そう」
「そうかあ…じゃあな」
次の瞬間、クレルは丸太へと変わっていた。
それに思わず声を上げたアルメル。
「へ?」
そして、無防備な背中にナイフが突き刺さった。
アルメルは背中に感じた衝撃に振り返り、突き刺さったナイフを見た。
そして…
「い、いぎゃああああぁぁぁぁ!な、なんで!?」
それを見ながら、影に潜るクレルは嗤う。
「やっぱりユカリ様様だな。俺の元々の技能だった影遁。そして、あいつの言うニンジャから、変わり身の術、分身術、水遁術なんかを教わっておいて正解だった…」
クレルが新しく身に付けた「空遁術」は、完全な隠形だ。
ただし、魔眼の看破から逃げられる訳では無い。
しかし…
「イリスが俺に遺してくれた…最大限で、最高の遺産!これを知れたのもユカリのおかげだよなぁ!」
クレルの右眼が、本来の碧眼から完全な黒色に染まっていた。
ユカリとのブートキャンプでクレルが見つけた、イリスが死の間際に自分に遺した遺産。通常魔族が持たない、「影喰の魔眼」だ。
この魔眼ある限りクレルはイーリスの残存魔力を自由に扱える。
そして…
「くっ、私の魔眼で見破れないなんて…まさか、いや…」
アルメルは魔眼で必死にクレルの位置を見破ろうとするが…
それをクレルの右眼が打ち消している。
そして…
「隠蔽版、スローナイフだぁぁああ!」
三つのナイフが投擲され、アルメルの首筋に向かって飛ぶ。
だが…
「あ、危ッ!…くっ、うううう…」
アルメルの首に飛ぶ前に、纏っていた魔力が剥がれ落ちてしまい、
アルメルに察知された。
アルメルはなんとかナイフを二つ、受け止めることに成功した。
だが、その内の一つがアルメルの腕に突き刺さった。
アルメルは一瞬激痛に顔を歪めたが…
「同じ手は、食わない!七十連連魔法陣!」
クレルが居るであろう位置に、膨大な数の魔法陣が現れ、まるで結界のように光線、魔法弾がその位置を埋め尽くす。
「はぁ、はぁ…これで少しは傷を負わせ………」
アルメルは、満身創痍といった様子でそう呟いた。
だがすぐに、後ろを振り向いた。
「そこだぁッ!ごぼふ…!?」
後ろを向いて、障壁を展開したが…
全く違う方向からナイフが飛んできて、右脇腹に突き刺さった。
アルメルは素早く脇腹からナイフを引き抜き、唱える。
「二十二連多重全方向魔法陣ッ!!」
アルメルの周囲に外向きの魔法陣が発生し、全ての方向にまるでバーナーで炙るようにゆっくり進む閃光が放たれる。
「これ、で………!」
アルメルが、焦土と化したフィールドを眺める。
「隠形!」
「そこ!」
しかし、嫌な声がすぐ近くで響いた。
そこに全力の七十連多重魔法陣にて全力の一撃を叩き込む。
そして、「ぐあっ!」と言う声が響いた。
それでアルメルは安堵し、気分を落ち着けた。
「あいつはどこに…どこに隠れてる…?どこへ…?」
「ここだよーん」
「死ねぇ!」
「実はここだったり」
「ふざけるなぁ!」
「もしもし、俺クレル。今お前の後ろにいるの」
「消えろ、消えろ!消えろおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!」
そして、分身を一つ一つ潰し、最後にアルメルは悟った。
「そうか…!あいつがどこにいるか!」
しかしそれはもう遅い。
黒い魔力が剥がれ落ち、数十ものナイフが空から姿を現す。
アルメルはそれを防御しようとするが…
「な、なんで…?」
とっくに魔力は底を尽いていた。
アルメルは、全身を切り裂かれ、突き刺された。
「ぐっ…あああああ、ぁぁあああ!」
そしてアルメルは、黒色の魔力が剥がれ落ち、空より墜ちてくるクレルを見た。
「貰った!死ねぇええええ!」
「うぉおおおおおお!」
アルメルの放った魔法弾を十字に切り裂き、
クレルがイーリスへと、勢いの乗ったナイフでの一撃を繰り出した。
咄嗟に張られた障壁で多少勢いが弱まったものの、それは腹の奥まで到達し、鮮血を噴き出させた。
アルメルは受けた傷を見て、諦めた風に言った。
「降参、するわ…勝てる訳ない」
「アルメル選手、降参!勝者、クレル・アーサー!」
歓声が上がる。
薄れゆく意識の中、アルメルはクレルに言った。
「魔国に来たら、アルメルを訪ねなさい…困ったことがあったら力になるわ…」
そして、アルメルは最後に思った。
王国南端で消息を絶った前の魔王殿下に申し訳が立たないな…と。
クレルの能力は後々他のキャラと纏めて。
ただ、デメリットの多い他仲間の能力と違いデメリットは特にありません。
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