Ep-106 予選6 タツミ対アレイン&ビート対アスキー
今年最後の本編投稿!
夜にまたなんか上げます。
さて。
タツミの試合は見るべきところが無かった。
何故なら、相手は貴族の御坊ちゃま風の少年だったのだが…
「女が武器を持って戦うなんて…お前たちは箒や雑巾でも握っていればいいんだ!」
「.................................」
「おい!誰に命じられたんだ?どうせお前は侍女だろう、代わりに試合に出ているだけの」
「..............................」
「答えろ!シューベルト家に逆らうのか!?」
「...................」
もうね、見たらわかる雑魚なんだよね。
なのでタツミは敢えて答えない路線で行くことにしたようだ。
そして…
「始め!」
「シューヴェルト家を愚弄した罪は重いぞ!死ねえぇぇぇええ!」
そしてアレイン・シューヴェルトはタツミに真っ直ぐ走っていき…
タツミから3mくらいの位置に入った時、ふとタツミが呟いた。
「不斬撃」
その途端、アレインが真っ二つになった。
....あの感じだと、死んだかな?
にしても、何が起こったんだ…?
俺には、タツミが呟きながら刀を鞘から刀身が見えないくらい少しだけ抜き、その後すぐ納めてチンという軽やかな音を鳴らしただけだ。
《簡単です。タツミはマスターの認識速度を超えた速度で抜刀し、アレインを斬りつけ、それを鞘に戻しただけです》
動作としては単純らしい。
だが、俺が知覚できないとなると…速すぎる。
恐らくだが、一瞬仮面とローブの強化効果を乗せて凄まじい速度を出しているのか。つまり全力を出せばタツミは俺を一瞬で殺せるくらいには強いってことだな。
まずいぞ、それじゃあ誰も相手にならないじゃないか。
《大丈夫です。マスターがダンジョンの力を200%受け取れば、タツミが止まって見えます》
120%ですら身体が弾け飛ぶレベルなのに、200%ってそれ死ぬだろ。
それほどの強さなのか…
でもまあ、悪用することはないだろうし、敵の手に落ちたり暴走したりしてもリンドに頼んで止めてもらおう。
◇◆◇
「ビート選手!アスキー選手!入場してください!」
アナウンスにより、剣士風の男....ビートと、筋骨隆々だが剣も何も持っていない男、アスキーが入場する。
「おい、あんた」
「何ですかな?」
「丸腰で大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですな…」
アスキーは思わせぶりな笑みを浮かべる。
それにビートは剣を抜き掲げる。
「ハハハ、俺の剣は魔剣だ!魔剣黄金剣!全ての攻撃が致命傷となる。お前に勝ち目はない!」
「そうですか...それはそれは素晴らしいですな。ですが...」
アスキーがトン、と足を鳴らすと、空に巨大な魔法陣が浮かぶ。
そしてそこから...金属の塊が現れ落下する。
だがそれは、地面に落ちるより先に動いた。脚のようなものが出、着地する。
そして、身体を抱くようになっていた腕が開かれる。
「な、何だソレは!?」
「こいつでお相手しましょう。名は特殊人型決戦兵器、アスクレイです!」
アスキーが叫ぶと同時に、人型の金属…アスクレイが動き出す。
まるで巨人が中に入っているかのように滑らかな動きでアスキーに手を差し伸べたのだ。アスキーはそれに乗り、ユカリが想像するようなロボットなら本来首があるべき場所に作られた剥き出しの運転席へと運ばれた。
「さあ、かかってきてください」
「ふざけるな!こんな真似が許されてなるものか!大会スタッフ!これは反則だろう!?」
「い、いえ...試合開始後の物質召喚や外部からの干渉はルール違反ですが...このような事例はルール違反にはなりません」
当然だろう。今までそんなことをする人間はいなかったのだから。
皆が呆れ返る中、試合が始まる。
「始め!」
「ふん、まあ…動きは鈍重だろう。」
ビートはそう言いつつ、アスクレイへと駆ける。
だが.........
「各部制御システム、異常なし...魔導駆動機関、最大出力!アスクレイ発進ンンンンンン!」
アスクレイがブゥゥウウウウウウンという独特の起動音を響かせた後...
その巨体に見合わぬ速度で動き出したのだ。
「何っ!?」
「アスクレイキック!ですぞ」
そして放たれる凄まじい質量を内包した蹴り。
ビートはなんとか避けたが、避けきれずにショルダーガードが巻き込まれてひしゃげた。
「そんな!?ミスリル製のショルダーガードが!?」
何故ショルダーガードをひしゃげさせたのか…何故かと言えば、アスクレイの脚部には純粋オリハルコンが使われているのだ。
その他に各部重要部分にも大量に使われている。
王侯貴族でも随一の資産家であるロイヤルブレーン家だからできたことである。
「くそっ、死ね!」
ビートは脚の根元を狙い、剣を振るった。
しかし、剣は根元に激しくぶつかったが火花を散らすだけで傷すら入ることは無かった。
「馬鹿な...?」
「ほらほらほら、足元だからと言って油断すると危ないですぞ?アスクレイキック!」
音速の蹴りが再び放たれる。
ビートはまた食らっては堪らないとばかりに距離を取る。
「そうか、お前のソレは遠距離攻撃手段は無いん......だ...な?」
「勿論、ありますぞ!」
アスクレイが右手をビートに向ける。
すると拳の少し上の左右についていた蓋が開き、そこから短い砲身が出てきた。
ドドドドドドドド!
「こんっ!なのぉ!聞いてないぞ!」
砲身が火を噴き…いや、明確には吹いていない。
放たれたのは魔法の矢だ。
詠唱に時間がかかり、連射性もないが威力は高い魔法の矢なのだが…
それが連射されていた。
勿論当たったら、ミスリル鎧のビートと言えどもタダでは済まない。
ビートは頑張って避けるのだが…
「アスクレイ第二兵器、高出力魔力砲ですぞ!」
右腕を覆うようになったアーマーの、一番上。
そこがガコンと開き、巨大な砲身が姿を表した。
そして…
ドドォン!
空気を揺るがす一撃が放たれ、ビートの真横を通過した。
そして、天をも衝くような爆音と振動。
ビートが後ろを振り返ると、弾が当たった場所は半径3mほどのクレーターと化していた。
「はは、冗談キツイぜ…」
ビートが前を向くと、次の一撃が放たれようとしていた。
流石に連射は無理のようだが、それでも数十秒で再び撃てるのだ。
あの凄まじい威力の砲撃が。
「おおおおおおおおおお!」
ビートはプライドも何かもを投げ捨て、ジグザクに動きながら駆け出した。
砲弾がビートを掠めていくが、一つも当たらない。
そして、ビートはアスクレイの元へと辿り着いた。
「アスクレイキック!」
「もう当たらないぜ!」
ビートはアスクレイの蹴りをギリギリでかわす。
そして、至近距離の魔力矢と砲弾をこれまたギリギリで回避する。
「ええい、猪口才な!アスクレイパンチ!」
「それを待ってたぜ!」
ビートはアスクレイの大振りなパンチをかわし、手の上に飛び乗る。
そのまま腕を昇り、操縦席まで辿り着いた。
「操縦席がお留守だぜ!死に晒せぇ!」
ガイーン!
ビートは操縦席にいるアスキーに剣を振おうとしたのだが…その直前で何かに阻まれて止まった。
「これは…結界!?」
「弱点をわざわざ晒すはずが無いでしょう?」
壁にぶつかったビートを見据え、アスキーがニヤリと笑う。
「クソッ、ならまずは距離を取って......どうせその結界や魔力矢、長くはもたないだろう!」
「おや、鋭いですね.......」
ビートは気をよくしたのか笑いながら、アスクレイから降りて距離を取った。
だが、ビートは振り返っていなかったので気づかなかった。
アスキーが貼り付けたような笑いではなく、本物の笑みを浮かべ続けていたことに。
「照準良し、水平安定機安定起動、安全装置解除———————ロケットフィスト」
アスクレイが右手を構える。そして脚から杭のようなものが飛び出て、アスクレイを地面に縫い付けた。
そして、構えた右手の先端だけが.........耳を劈く爆発音とともに発射された。
それは風を切りながら飛び............
距離を取り駆けているビートへと到達した。
流石にビートも、背後から感じた風圧で後ろを振り向いたのだが........
見たものは自身に迫る巨大な拳だった。
「......え?」
パァアアアン!
何か巨大なものが壁にぶつけられたような音がした後、拳が空地の入口の柵へと突き刺さった。
「この手に限りますね」
「ビート選手、戦闘不能......!勝者、アスキー選手!」
ワァァァァァァ!と、今までの試合に負けずとも劣らない歓声が上がった。
それはそうだ。
今までの戦いも凄かったが.............観客は魔術の事などさっぱりわからない。
だがこれは違う。鋼鉄の巨人が巨体で暴れ、拳を飛ばしたのだ。
庶民向け小説で、広く広まっている小説.......「魔鋼巨人英雄譚」の一風景のような場面を見せつけられたのだ。それは歓声を上げたくもなる。
そういうわけで、アスキーも二次予選に出場である。
アスクレイはまだまだ隠し兵装がたっぷり入ってます。




