Ep-102 予選 ユカリ対エリオット
1日サボったせいで更新頻度がやばいことになりそうです。
なんとか大晦日までに終わらせないと。
(12/29)アムドゥスキアスの名前がシュナに付いてました。
ベルですね…
大会の予選は国立の競技場………から少し離れた空き地で行われる。
あらゆる攻撃を想定し何重にも防護結界で守られている場所らしい。
俺たちが到着すると、既にそこでは事前参加者の確認を行なっていた。
「ユカリ・フォール様、いませんかー?」
「はーい、居ます!」
丁度自分の点呼の所だった。
危ない危ない、この世界では時計は高価だ。
5分前後でいろんな事が始まる。
しかし、俺が手を挙げて答えた瞬間、侮蔑の視線を向けてきた奴が参加者にいるな。それも複数…
「なんだ、ガキじゃねーか」
「ボコボコに負かして後でそれをネタに強請ろうぜ」
「見ろよあの顔、屈辱に歪ませてみたくなるぜ」
参加者の数人がこちらにも聞こえる声で何か言っていた。
後ろを見れば、クレルが懐に手を入れ、シュナが背中に手を回し、ベルが杖を手が白くなるほど強く握りしめ、魔杖ダンタリアンが雷を帯びている。そして、タツミは刀の柄に触れているな。…全員静かに怒っている。
どう止めようかな…と思っていると、リンドが口を開いた。
「やめろ」
「「「どうしてっ!」」」
「気に入らないのなら、予選でボロボロにしてやればよい。それが一番手っ取り早いだろう」
「たしかに…」
というわけで、殺意に溢れる選手団の入場である。
全員が揃った事を確認すると、すぐに説明が始まった。
「それでは、これから説明を始めます。…皆さん、宜しいですか?」
「当たり前だ!」
「早くしろ!」
気弱そうなスタッフが説明を始める。
所々で野次が飛んでスタッフが萎縮するので、俺が要約しよう。
・試合は空き地中央、多重防御結界が集中する場所で行う。
・強化魔法や強化薬は使用可能。ただし試合中の使用は認められない。
・回復薬、魔法は使用禁止。魔力回復は薬魔法問わず許容。
・試合開始後決着まで乱入や外部からの干渉は禁止。
・決着が付かなかった場合10分で試合終了、点数が高い方が勝ち。
・即死系の攻撃は禁止。
・その他大会規則に違反する行為を確認した場合即失格。
というところかな。
乱入禁止という事は、しっかり説明しないと俺の分身が扱えないな。
後ちなみに場外は空にも適用されるらしい。
フィールドはかなり広いので、空中戦をやっても何とかなりそうではあるが。
「これから予選組分けを行います!」
スタッフが叫び、箱を取り出した。
そして、箱に手を入れて籤を取り出して俺たちを振り分けしていく。
しっかしまあ、予選だけあって人は多いな…
お、他の職業の代表キャラも来ている。
〈弓使い〉のシルヴァーとか。
俺が眺めている間に、俺の番が来た。
「ユカリ・フォール!」
「エリオット!」
俺の相手はどうやら、さっきの野次馬男の一人らしい。
ニヤニヤと笑っている。
やれやれ、テンプレな展開だが乗ってやろうじゃないか。
「クレル・アーサー!」
「ユーリカ・エステラン!」
クレルの相手は…魔術師か。
〈神眼〉で解析した限りではかなりの潜在能力を秘めているはずだ。
巧妙に隠してはいるが、クレルが負けるとは思えないな。
「シュナ!」
「ゴードン!」
シュナの相手は筋骨隆々の男だ。
まあ、変態筋肉ダルマのハンスや、忠誠筋肉塊のアスキーには勝てないだろうが。
本人も自信過剰な様子はないし、単純な腕試しなんだろうな。
「ベル・アムドゥスキアス!」
「イルマ!」
おや?ここに来て身内か。
しかも、解放団メンバーか…
「イルマ!?お前居たのか!?」
「そうよ、団長もこっそり出るらしいから、アタシも出るのよ」
「団長もか!?」
…どうやらハンスも出るらしい、
まあ、いい戦いが見れそうだな。
「リンドヴルム・ドラゴンロード!」
「ロイエンタール!」
リンドの相手は…ただのおっさんか。
銃を二挺吊っているが、まあリンドの前じゃただの飾りである。
「フウカ・タツミ!」
「アレイン・シューヴェルト!」
おっ、貴族様っぽい奴が来た。
サーベルを腰に吊っているが、アレで戦えるのかね…?
まあ、予選を抜けられれば大きく話題になる。
タツミのことを明らかに侮っているし、本来の実力を見抜く技量も無くどうせ雑魚ばかりだからと忖度だらけの剣術修行で膨れ上がった自信のまま参加しているって感じだろうな。…タツミ、お手柔らかに。
「アラド!」
「ボブ!」
アラドの名が出た瞬間、ボブという普通の少年っぽい奴は漏らした。
普通にズボンに染みができた。…汚いな。
「かかかかか、係員さん!」
「どうしました、ボブ選手」
「き、棄権します!〈黒牙〉のアラド相手じゃ戦いにもなりません…」
「そうですか?…残念です」
どうやらアラドは不戦勝か。
まあBランク冒険者じゃビビるのも当然か…
その後はハンス、アスキー、カイ、ノーラなどの面々や、
ゼイン、フィーナとリンドの弟子などの対戦相手が決まった。
ヒショーもちゃんとした相手が割り振られたな。
クレルたちは明日行われる試合だが…
「ユカリ、頑張ってな。応援してるぜ」
「勿論。クレルが応援してくれるなら頑張るよ」
俺はクレルの応援を受けつつ、自分の出番…
大会で一番最初の試合へと出場した。
◇◆◇
「これより、ユカリ・フォール対エリオットの試合を開始する!」
「へへ、余裕だぜ…」
「………」
こんな奴と話しても無駄なので、俺は黙ってエリオットを見つめる。
エリオットは何を勘違いしたのか、「お、俺に惚れちまったか?なんせ俺は戦場での立ち姿が一番カッコいい男だからな」などとほざいている。
良くも悪くもモブ顔なので、正直微塵もカッコ良くはない。
なので…薄く笑ってみることにした。
「お、おい…お前何で笑ってる!…その笑いをやめろ!俺をそんな目で…」
「始め!」
「見るなああぁぁぁぁぁッ!」
エリオットは、開始の合図とともに思いっきり駆け出してきた。
腰の剣をまあまあの速度で抜き、俺に駆け寄る。
「死にさらせぇ!」
「遅い」
うーん、遅い。
前世じゃ避けられなかったが、今世じゃ経験が違う。
こいつからしたら充分速いだろうが、
俺からしたら遅い。…子供のヘロヘロパンチより遅いかもしれない。
「なっ!くっ!そぉ!…何で当たらねえんだよ!当たれ!当たれよぉ!」
「…………………」
俺はエリオットの剣を無言でかわし続ける。
何故無言なのかと言えば、何も言うことがないからだ。
圧倒的な弱さ。…まあ、予選じゃこんなものなのかな?
俺はあまり人を見下したくはないが、これではどう言っても見下した表現になってしまう。ライオンがアリを誉めようと頑張っているようなものだ。
「その笑いをやめろ!不気味なんだよぉ!」
しかし、エリオットも弱いながらに頑張ってて、ただの雑魚ではないことを感じさせてくれるな。剣もただの縦振りではなく、型やフェイントを使ってきている。
だが、届かない。圧倒的に速度が足りない。
ちなみに、ここまで俺は丸腰だ。…武器を出すほど脅威も感じちゃいないしな。
「…そうか、お前は避けるので手一杯なんだなっ!…だから喋らないのか!じゃあこのまま攻め続ければお前は負けるわけだ!」
攻撃を避け続けて3分くらいで、いきなりエリオットがそんなことを言い出した。
誰が見ても俺が手を抜いている事はわかるはずなのだが、多分自己防衛が働いてるな。そろそろ終わらせてあげないと精神的にも可哀想だ。…どうか安らかに。
「ふふふ」
「笑うなぁああ!」
俺は今までより強く、速く振われた、
おそらくエリオットの全力の一撃を難なく避け、言った。
「本物を見せてやろう」
「なに…?」
「空転・雷動!」
俺は雷を纏いながら、後方…場外ギリギリまで下がる。
「逃げるのか!?卑怯者ぉぉぉ!」
「メイクウェポン、ブロードソード!」
俺の手に剣が出現する。
そして俺は、駆け寄ってくるエリオットを見据え、唱えた。
「空転・略撃」
次の瞬間、俺はエリオットの正面に、剣を構えた姿勢で移動した。
エリオットは偶然か必然か、俺を視認しているようだ。
その眼が見開かれるのを見ながら、俺は剣を振るった。
ザシュゥ
そんな音を立てて俺のブロードソードはエリオットの腰から肩を、下から一気に袈裟斬りにした。皮の装備がバターのように裂け、鮮血が飛び散る。
「これが…本物だ」
見ていた観衆や参加者から、一斉に歓声が上がった。
これで少しは見直してくれるといいんだけど。
「………エリオット、戦闘不能。…勝者、ユカリ・フォール!」
「おい!救護班急げ!回復薬を!中級だ!」
これで、俺は二次予選に進むこととなる。
しかし、この時の俺は知らなかった。
無言で剣を避け、無言でエリオットをざっくり斬り捨てた俺は、
『無言の執行者』という二つ名で呼ばれるようになることを。
大会編は唐突に始まり唐突に終わります。
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