side-07 クリスマス
クリスマスですね!皆さんは彼氏、彼女さんと街へ出かけられますか?それとも家でゆっくりしますか?自分は後者でございます。
まあ今年は風が強くて寒いので、家でゆっくりした方が自分には合ってますね....(彼女が居るとは言ってない)
12月24日.......そう、クリスマスである。
言わずと知れたこの日には、身も凍るような寒さの中、そんな寒さをも跳ね除けるアッツアツのカップルたちが街を歩き、街路樹に施された光の装飾や、色とりどりのクリスマス商品に目を輝かせる。.......そう、カップルはな!
彼女もいない寂しい高校生である俺は、一人暗い部屋でVRマシンと一つになっていた。
もう無理矢理だが、VRマシンが彼女みたいなものである。
今日も今日とて俺は、光の扉を潜って落ち、いつもの広場へと『ログイン』する。
目の前に浮かぶ12月の特別仕様ログインボーナスの画面をポチポチと押し、報酬を獲得する。
「はあぁ.......俺も彼女が欲しいなあ」
オークストーリーオンラインにも『結婚』システムは存在し、お揃いの指輪を付けた男女のアバターが、何人も街を歩いている。
それらから眼を逸らし、俺はひとり呟いたのだが、
「なってあげよっか?彼女~」
「フローラさん、勘弁してください」
後ろから抱きつかれた。
いくらアバターが女性だからといって、俺にこんなことする奴は一人しかいない。
卍flora_smell卍さんだ。フローラという愛称で親しまれている、〈淫魔剣士〉という特殊職業の超高レベルプレイヤーだ。そのレベルはなんと1012。
俺よりも上なので、当然俺も頭が上がらない。
振り返ると、サンタの格好に身を包むフローラさんがいた。
「何よ~、からかい甲斐のない.......」
「からかわないでくださいよ」
「ユカリちゃんって、可愛いから仕方ないじゃない。リアルじゃ男みたいだけど、仕草も喋り方も女の子そのものみたいだしぃ」
「みたいだしぃじゃないですよ、こんな人通りのあるところでこんな事したら、低レベルプレイヤーからどう騒がれるか分かったもんじゃないですよ」
「いいのいいの、あんな底で燻ってる馬鹿どもの事なんて気にしなくて....」
「とりあえず離れてください」
俺はサンタフローラさんを引き剥がす。
ちょっと強い力だが、これくらいじゃないとこの人は離れてくれない。
「で、どーしたんですか、こんなところで」
「これよ」
フローラさんは胸の谷間に手を入れ、そこから何やら手紙のようなものを取り出す。
それを俺にさっと投げて来た。
受け取ると、[超越者・求道者・挑戦者限定クリスマスパーティー]
という項目と、会場にワープできるアドレスが表示された。
超越者はレベル1000超え、求道者はレベル999からレベル800、挑戦者はレベル799からレベル600の事だな。つまり上級者だけでのクリスマスパーティーというわけか。
「これにお誘いしようかと思ってね」
「お断りします」
俺は速攻で断った。
ウェポンマスターでレベル800という特殊性を持つ俺は、ランキングには乗っていて知名度はあるもののあまり公の場に顔を出すことはない。
それに、
「上級者限定クリスマスパーティーって、どうせ話すことはゲームの事ばっかでしょう」
「........よく分かったじゃない。レベル800のウェポンマスター様の....〈武器王〉様の強さを語ってもらおうと思ったのよ」
「.....その名前、よく覚えてましたね」
「グラムリーヴェソロ討伐という、派手なデビュー。忘れるわけないじゃない」
「出来る限り早く忘れてください」
〈武器王〉とは、かなり前のこと、グラムリーヴェという魔導士のボス最大難易度をソロ討伐したとして、ランキングの上位に躍り出た俺に付けられた異名だ。
これのお陰で一気に〈武器使い〉は有名になり、誰もが新しく始めたが....難しすぎて殆どが挫折したそうだ。仮にサブで初めて武器も防具も課金で最高にしたとしても、自慢ではないが俺のようにうまくは操れないので〈武器王〉の称号が誰かに移ることは多分一生無いんだろうな....
そんなことを考えつつ、俺は断る理由を脳を高速回転させて探す。
「あ、そうそう。今日はクランで個別にパーティーやるんで、そっちには参加できませんね。すいません」
「あらそう......じゃ、〈超越者〉の面々にも声かけとくわ。私も後で行く」
「え......」
方便のつもりが、本当にしなければならなくなってしまった....嘘はつくものじゃ無いね。
俺は内心溜息を吐きながら、クラン全員にクランルームへの招集を飛ばすのであった....
◇◆◇
数時間後、クランルームでは二十数名のプレイヤーが集まっていた。
緊急招集にも関わらず、これだけ集まってくれたのだから俺がいかにイベント好きかが見抜かれているな....いや、クリスマスはひたすら素材集めに徹しようと思っていたのだが、
フローラさんのせいで全部お釈迦になった形だな。
「よく集まってくれた、スリーハイフンさん、ユキさん、シェロさん、ヘルメスさん、お台バルモンドさん、イプシロンさん、デュークさん。」
俺はとりあえず、今この場にいるメンバーに挨拶をする。
他のメンバーはみんな部屋の向こうで談笑している。
ここに居ないメンバーは俺の性格をよくわかっているので、何時ものように集まっても俺の話に付き合ったりはしない。.....あのメンバーは、純粋なクランの戦力であり同胞なのだ。
さて、この場に集ったのは.......
〈征服者〉のスリーハイフンさん、〈魔物使い〉のユキさん、〈錬金術師〉のシェロさん、〈勇者〉のヘルメス、スリーハイフンさんと同じく〈征服者〉のお台バルモンドさん、〈槍使い〉のイプシロンさん、〈吸血騎士〉のデュークさんだな。
錚々たるメンバーだが、ここは俺が運営するギルド。全員まともな奴らだ。
「さてさて皆さん。今日お集り頂いたのは.....」
「クランマスター、どうせ上級者たちの宴に参加したくない言い訳でパーティーを開いたんだろ?」
「............正解だ」
俺が嘘の事情を述べようとしたところ、〈錬金術師〉のシェロさんが正解を口にした。
嘘か本当かは知らないが、IQ150であり、有名大学を卒業して就職.......出来ずニートらしい彼は、時折俺の意表を突くような行動や、恐ろしいまでの言い当てを披露する。
それだけ凄いのに何で就職しなかったんだと聞けば、
「僕は皮肉屋だからね、会社勤めが合わなかったんだ」等とほざきやがった。
今度意地でも就職させてやるからな。
「えっ、じゃあ私たちは数合わせで呼ばれたってことですか.....?」
「ようやくユカリさんとデートできると思ってたのに.....」
「い、いや。そういう事ではなくて......」
どうしよう。どうすればいい.......?
俺が女子組に詰め寄られ、視線を動かすと奥にいたメンバーと目が合った。
そのうちの一人が俺を見てウィンクし、何やら空中をタップしていた。
直後、クランルームへの入場申請が一気に3つ届いた。
「あ、誰か来る」
「誰ですか.....?」
招待を受諾し、扉が開かれる。
そこから出てきたのは........
「豪奢な部屋に、豪勢な料理.........これが現実で無いのが残念だね。....うう、寒い」
「マリエル、いい加減窓の隙間を塞ぎなさいな」
「おお、元気にやってるかー!ユカリィィ!この間の恨み、忘れないからなあ!」
レベル1004の〈大魔導士〉であり、以外にも実生活は結構貧乏であることが発言から発覚し、〈貧乏賢者〉の二つ名を持つマリエル、レベル1012の〈淫魔剣士〉、〈名は体を表す〉ことフローラ。それに、前回俺が呼んで巻き込んだレベル1182の〈竜騎士〉である〈ドラゴンスレイヤー〉ロイ・サークス。
オークストーリー界隈ではレジェンドとも呼ばれ、公式生放送にも呼ばれるような面々だ。
「はわわわわ......」
「どうした、ヘル?」
「どうした?じゃないですよ!レベル1000超え.....私じゃどうやっても届かない人たちなんですよ!?」
「そうかぁ」
「そうかぁじゃなくて!そ、そうだ!頭!頭下げないと!」
ヘルが頭を下げようとすると、3人が一斉に慌てだした。
「あああああ、僕みたいな人に頭を下げる必要はないんだ。僕はただベータテストからやってるだけのただの貧乏人さ!」
「マリエル!あなたはまず窓の隙間をラップで塞ぎなさい!........ロイ!あんたが威圧するから恐縮されちゃったじゃない!謝りなさい!ほら!」
「僕!?これ、僕が悪いのかい!?」
それを見て、俺がヘルメスの後ろに立ってその頭を手を添えて上げてあげる。
「ユカリさん......?」
「別にアイツらはちやほやされたり、有名になるために〈超越者〉になったわけじゃないからさ、頭を上げなよ。アイツらは俺と変わらない一般プレイヤーさ」
「ユカリさんだって私からしたら〈超越者〉ですよぉおお!」
良い事言ったつもりのはずだったんだが........ヘルメスは俺につかみかかった。
拙い、このままではさっきと状況が同じ.........
「ヘルメス....さんか?....エピックアイテムをあげるから、ユカリを放してやってくれ」
「.....はい」
ではなく、ロイが上手く交渉し俺は解放された。
それを後ろからニヤニヤとした顔でフローラが見つめていた。
「ふ~ん、ロイ、ユカリ、新人のヘルメス......いい画が取れたわ」
「フローラ!何撮ってるんだよ!」
「わあぁ、怖ぁい!怖すぎてこれを掲示板に晒してしまいそう!」
「晒したらお前をぶっ殺すからな」
「ああああ、ロイ、フローラ......喧嘩しないで!」
俺は取っ組み合うロイとフローラを指差し、ヘルに言った。
「ほら、ああいう奴らなんだよ..........」
「ああ......」
俺は[テレポート]を発動し、同伴対象に[ヘルメス]と[Yuki127]さんを選ぶ。
申請が行ったのか、二人が同時に顔を上げる。
そして二人に俺は言う。
「騒がしくなっちゃったな......ここを出てデート、行く?」
二人が承諾したかは、ご想像にお任せする。
ただ後日、フローラがあることないことを盛りまくったヘルメスとロイの写真が出回り、ヘルメスは同情の「クリスマスプレゼント」を大量に貰ったという。
クランのみんなも俺にクリスマスプレゼントをくれた。.......いい夜だったと自分でも思った。ただ、デートでものを買わされすぎて、俺のクリスマスイベントコインがほぼ0になり、次の日から頑張って集めたのはまた別の話。
マリエル「このマリエルが金やちやほやされるためにレベルを上げていると思っていたのかァーッ!!」
マリエル「ぼくは『みんなと楽しくやる』ためにレベルを上げている!
『みんなと楽しくやる』ただそれだけのためだ
単純なただひとつの理由だがそれ以外はどうでもいいのだ!」
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