Ep-99 修行
今日は十二時投稿です。
学院も冬休みに入り、生徒はみな思い思いに過ごすようになった。
だが、王宮の用事で学院に行かなくてもよい俺は、元々暇だったのが更に暇になった。
そこで、皆の修行を眺めることにした。
まずは、訓練場のアレックスからなのだが.......
「アレックスー、何してるの?」
「———ッ!.....ああ、ユカリか」
剣を構えて目を瞑っていたので、声を掛けると静かに目を開き、その瞳が俺を捉えると同時にビクッとちょっと震えて、構えを解いた。
「いや、精神集中さ。.......アラドに教えてもらったんだ」
「アラドに..........?あ。」
建物に隠れて見えなかったが、確かにそこでアラドが大剣を構えて目を瞑っていた。
流石はオークストーリーのキャラクター、顔が整っている......
「アラドは凄いよ。運動クラブの奴らの飛ばした球が当たっても、微動だにしないんだ」
「へえ......」
それだけ言うと、アレックスは再び構えを取り、眼を閉じた。
多分ひたすらこんな修行が続くんだろうな......剣術の道は深いなあ......
とにかく、これ以上は何も見れそうにも無いし、何より本人たちの邪魔になってしまう。
俺はその場を後にした。
だが、訓練場からある程度離れた後、金属と金属同士がぶつかるような重い音が訓練場のある森の奥から響いた。.........瞑想からの模擬戦もやるのか。
次はクレルのところでも...............と思ったのだが、
「え?クレルなら部屋でゆっくりしてるよ」
「はぁ?」
総合大会が近いのに奴は何をしているんだという心境で、男子寮のクレルとアレックスの寮部屋へと向かう。
「クレル!修行は!?............やってるんだね」
「その通り」
ドアを開けると、その先は暗闇だった。
灯りは消され、窓は塞がれ。
そんな暗闇を切って飛んできたナイフを俺は人差し指と中指でキャッチする。
「何やってるの?」
「視界を潰されても戦える練習」
「.......そんなの、昔からやってるんじゃないの?」
「ユカリと出会ってから、なんかスキルが芽生えるのが早くなった気がするんだ、新しいスキルや成長したスキルを上手く扱えなければ、あいつには届かない」
「ふ~ん......」
あいつが誰の事かは分からないが、まあ頑張っているのだろう。
もしかすると、アレックスに対抗心を燃やしてるのかも.....?
懐かしいな、俺も中学の時、成績で対抗した奴がいたっけな.....
クレルも何も見れそうなことは無さそうなので、俺は黙って扉を閉めた。
何でどいつもこいつも、ザ・トレーニング!みたいな事をしているんだ....
いや、基本が大事なのはわかるけどさ.....
「次はシュナ、ユイナ、ベル、リンド、タツミか......」
まあどうせ元々暇だったからいいけれど、多分シュナも.......地味な修行なんだろうなあ...
と思っていたのだが。
シュナは2日前から出かけていて、聞けば王都から遥か南にあるアスランドに帰郷しているらしい。
というわけなので.....
「ポータルアロー!」
アスランドに行ってみた。
ま、ポータルアローが使える以上俺に距離なんて関係ない。
そして、ゲートをくぐった先は.........更地だった。
「え?」
「どりゃああああああ!」
更地に降り立った俺が見たのは、雄たけびを上げながら自身の三倍はある樹木を吹っ飛ばすシュナの姿だった。
シュナは樹木を吹っ飛ばした後、振り返って俺を視認した。
よく見れば、シュナは金髪碧眼、全身に浮かぶ紋様。......武神降身モードか。
シュナはすぐに武神降身モードを解除して、俺に駆け寄ってきた。
「ユカリ、見に来たの?」
「うん。何やってるかなーって」
「今は、三段階目くらいかな.....ようやく武神の力を制御できるようになって来たから.....」
『我が武神の〈権能〉の制御を教えているのだ』
シュナの背中から、スタ○ドよろしく武神の半透明体が出てきて、俺に説明した。
武神の権能はいくつかあるが、今は全身を強化する権能の練習をしているようだ。
強化といっても〈身体強化〉とはレべチな力らしく、皮膚を強化して攻撃を弾いたり、
筋力を強化して地面を持ち上げてぶん投げたり、脚力を強化して即死の蹴りを放ったり高所まで大ジャンプしたりできるらしい。
「他にも、ユカリみたいに様々な武器を自在に扱ったり、普通は3割くらいで限界は6割くらいの武神の力を全て流して、一時的に超強化する権能もあるみたい.....これは私が常にやってるから意味ないね」
シュナは〈武神の卵〉が進化した〈武神の継承者〉を持っているので、
武神との相性が抜群だ。
シュナはまだ武神を完全に継ぐには不完全なので、武神の力を完全に扱えるわけではないようだ。
「私はこれから基本練習に入るけど、ユカリも見る?」
「あ~、それはいいや..........」
基本練習はもう見飽きた。
俺はテレポートの詠唱をする。
「あ、帰るとき一緒に帰る?」
「いや、私は走って帰るから......」
「走ってって.......どれだけ距離があると思ってるの」
「大丈夫。走った後は木々がなぎ倒されたり、道がなだらかになったりするけど!」
「頼むから普通に帰ってくれ.....」
そしてテレポートが発動して俺は学院へと戻った。
その後、アースランドから王都までの細い一人分の一本道が出来たという話を聞いたが......それはまた別の話である。
◇◆◇
さて次はユイナだが、聞けば実家に帰ったらしい。
ユイナの実家を知らないし、アレックスに聞くのもアレなので、ユイナは諦めるとしよう。
それに、テレポートやポータルアローは一度行った場所にしか使えない。
なので諦めて、ベルの練習を見ようとしたのだが......
「ん?どしたのユカリ」
「ベルは........修行とかしないの?」
「私は別にいいよ。魔術の訓練なら今もやってるし」
「え?」
見ると、ベルの机の真ん中に置いてあるスノードームの雪が不自然に動いていた。
「この雪、外部からの干渉で動くけど制御が難しいの」
「ああ、だから....」
「魔術は伸びに限界があるけど、魔力制御は幾らでも伸ばせるからね」
そういえば魔力制御って何だろうか......
俺が魔法スキルを使う時に、射角や魔法の動きを意識して制御することとかと関係があるのかな?興味を持ったが、ベルに聞くと大論文発表会になるので俺はそそくさとその場を離れた。
そして、リンドも同じく身体を動かしてなどの修行はしていないと思いきや、
中庭で何かの塊を持ち上げたり投げたりお手玉をしたりして遊んでいた。
その塊は何かと聞けば、魔鉛の塊らしい。手乗りサイズでも重くて持てないほどの金属なのに...........
普通に修行なのかと思って聞いたが、
「ただの手慰みだ」
「ソ、ソウデスカ......」
やっぱり竜族は全体的にイカレてるのしか居ないよな。身体能力が高い故に驕るやつばっかりだけど、リンドはそうじゃないからまともなんだろうけど。
リンドの驚異的な筋力に今さらながら衝撃を受けた俺は、『エターナル・バンド』最後のメンバーであるタツミ・フウカのもとへと向かった。
「かあぁぁッ!」
シュパン!カラカラ.......
今までの地味な感じとは違い、やっぱり腐ってもサムライ、かっこいい修行をしていた。
一刀のもとに立てた丸太を斬り飛ばしたのだ。
だが、タツミは何か不満そうだ。
「先輩......?何か不満なんですか?」
「あら、ユカリちゃん......そうね。私は不満だわ。こんな剣技じゃ大会には出れない.....」
「でも、これくらいなら別にいいんじゃないですか?仮面とローブの力があれば....」
「そうだけど、それに頼ってばかりではいけないわ。私のトーホウ時代の師匠は、『刀を抜いて斬れるのは当たり前だ、なら次は、抜かずに斬れ』とか言うの。だから....せめて刀を抜いたことに”気付かせない”斬り方を練習しているのよ」
「は、はあ.........えっと、呪王のローブの方は.....?」
「勿論、練習しているわ。最近は、破壊衝動を抑えることができたわ。ユカリちゃんのことを強く想うことで、あの呪いの声を跳ね除けることができたの!」
「へえ.........」
呪王を狂わせた呪いの声すら跳ね除けるとは、先輩パワー恐るべし.....まあ、
呪王の呪具たちの精神結界も合わさっているんだろうな。
これは楽しみだ....
俺はその後、タツミとしばらく話し、タツミの奥義を見せてもらってから闘技場を後にした。
さて、仲間たちの修行を紹介してきたわけだが、
俺の修行はどうなっているのか........当然気になるだろう。
だが、クリエイトウェポンとかはゲーム時代とほぼ感覚が変わらないので練習の必要はないし、後はムスビの修業だけなのだ。ムスビは日々クリエイトウェポンを使ったり、空転術、エアー系魔術を使って移動する術を練習している。是非是非頑張って、優秀な分身となってほしいものである。
大会まで、後一週間なのだから.....
ユカリ 準備完了
シュナ 修行中
ユイナ 不明
アレックス 修行中
クレル 修行中
ベル 準備完了
リンドヴルム 準備完了
タツミ 修行中
アラド 修行中
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