Ep-98 衝突
滅茶苦茶遅れました....
通勤・通学中に読んでくださる方々に申し訳ないです。
日常回を頑張って書いているので、時間がかかります。
王都、貴族街—————エストニア邸にて。
そこでは、激しい口論が行われていた。
時折テーブルに手を叩きつけたり、何かが割れるような音が響く。
「何度言ったら分かるんだ。クレル、あいつと仲良くするのはやめろ」
「この話は何度目だ?アレックス、お前にはユイナがいるだろう、何故執着する必要がある?」
「それを言うならクレル、お前だってシュナがいるだろ!」
エストニア邸の一室では、アレックスとクレルが険悪な雰囲気を漂わせていた。
久しぶりに男二人で語らおうという事で、アレックスが招待したのだが........
ユカリの話になった瞬間、急に険悪な雰囲気となった次第であった。
ならしなければ良いという話だが、二人はユカリの友人なのでこの先は王家と関わりが多くなる。しなければいけない話だったのだが......
「お前はなんでユイナと言う良家の許嫁が居ながら、ユカリみたいな王族に惚れられている女に手を出す!?」
「お前こそ、シュナと言う強くてお前にお似合いの女性が居るんだからユカリを諦めろよ!」
平行線の言い争いが続く。
アレックスが剣に手をかけ、クレルが懐に手を入れる。
「....じゃあ、お前は何でユカリに執着するんだ?、アレックス」
「........ユカリは、俺のスキルが使えないという体質を改善してくれたんだ。お前は?」
「......昔の恋人に似ているからだ」
「クレル。お前はそんな理由でユカリに執着するのか?そんなのユカリに迷惑だ、今すぐやめろ」
「なんだと!」
「てめえ!」
キィィィンと鋭い金属の反響音が響く。
アレックスの剣とクレルのナイフがぶつかり合っていた。
すぐに自分の過ちに気付いたクレルがナイフを引き、シャラという音がして剣とナイフが一瞬擦れる。
「.........ちょっと熱くなりすぎたな。今日は帰る」
「.........俺も頭を冷やすことにする、お前は帰れ」
二人は互いに別々の方向を向き、アレックスは窓際に、クレルは部屋の入り口へと向かった。アレックスはドアの開く音の後に、「お帰りですか?」「ああ」というエストニア家のメイドと親友との会話を聞いた。
「そうだな、俺にはユイナがいる......でも、それ以上にユカリの存在が俺にとって大きくなって来たんだ..............」
窓の外に広がる庭を眺めながら、アレックスは一人そう呟いた。
その頃、メイドに連れられ庭を進むクレルも、呟いた。
「俺だって、シュナがいる。けど.......どうしても、イリス、最愛の人の顔を持つユカリを諦められないんだ...........」
「?何か言いましたか、アーサー様」
「いや、何でもないさ」
クレルはメイドともに門へと向かっていった。
◇◆◇
その頃、女子寮でも話し合いが行われていた。
ユカリに現を抜かす男達に呆れた女子たちの会議である。
勿論、当の本人はアラドとタツミに連れられ、レッドキャップという人型の魔物討伐依頼に出ている。
「で、どうするの」
「どうするも何も......」
「ねえ私帰っていいかな........」
部屋では、机を挟んでシュナとユイナが談笑していた。
いや、談笑ではなく議論か......
そして、ソファの上ではベルが杖と共にぐったりしていた。
その顔は心底どうでもよさそうだ。
「クレル、最近ユカリの事ばっかり見てて、さっぱり私に興味無いの!」
「その話、数時間前から3回くらい聞いていますわよ.....確かに、アレックスも最近私とお話しすると、ユカリさんのことばかり口にしますわね.......少々、悔しい気持ちもありますわ.....」
「ねえこれ私関係なくない?帰りたいんだけど」
『女の恋模様というのはいつ見ても面白い物だな!ベルよもう少し見ていくのだ』
憂鬱といった風に話し合うシュナとユイナの横で、心底どうでもよさそうにベルが呟く。しかし、杖がカッと紫色に光り、ダンタリアンの野次馬根性に満ちた声が聞こえてくる。
それに諦めたような表情を作り、談話を見守るベル。
「それもこれも、全部ユカリのせいよ、私を強くしてくれたり、皆を助けてくれた恩はあるけど...........ユカリって怪しすぎない?」
「恩があるなら、猶更疑うべきではないと私は思いますが......そもそも、これはクレルとアレックスの話ですわよね?どうして怪しい怪しくないの話に?」
「不自然にいきなりやって来たユカリに彼氏を取られたんだよ?しかも、私たちの事情もある程度知ってるみたいだしおかしいよ」
「では、具体的にどう怪しいのでしょうか?」
「それは.........」
「お話になりませんわね。では、アレックスの話に戻りましょう」
そうして、同じ話を繰り返し、脇道に逸れたところをユイナが元の話に戻すという事を数十回繰り返したのち........
玄関のドアに付けられた扉飾りが鳴り響き、ユカリが帰ってきた。
そして、ポケットから大量の赤い帽子を取り出して部屋にばらまいた。
「......ユカリ、それは?」
「勿論、レッドキャップからはぎ取った帽子だよ!...討伐依頼だから、そんなに大量の部位は持ち帰らなくてもいいんだけど......ベルにあげようと思って。研究に役立つかなーと」
「私はそんなもの要らないわよ」
「そっか、残念」
赤い帽子を右手でクルクル回すユカリを見て、シュナが目を細める。
そして、尋ねた。
「ねえ、ユカリって好きな人とかいるの?」
「え?」
「仲いい男の中で好きな人とかいるの?アレックスとか、クレルとか!」
「......居ないよ。大体、アレックスはユイナの、クレルはシュナの彼氏でしょ?仮に好きだったとしても、泥棒猫にはなりたくないよ」
「..................」
シュナはしばらくユカリの眼を見つめ........
目を瞑って溜息をついた。
「嘘は無いのよね?」
「何で嘘つく必要があるの?」
「そう.......もしクレルに手を出したら許さないからね」
シュナはユカリに顔を近づけて言った。
しかし、ユカリは心底驚いたような顔で言った。
「ああ、なんだそんなことか......」
「そんな事って!」
「さっさと付き合ってしまえばいいのに.....」
「うっ!」
カウンター攻撃を受け、悶絶するシュナ。
ユイナはそんなシュナに一言だけ言った。
「シュナさん、私思っていたのですが.....奪われたくないなら、思いを素直に打ち明けてしまえばいいのでは?」
「で、でも.......」
「このままだと、ユカリさんがいくら二人に興味が無くとも二人の心は私たちから離れていきますわ。ここで引き止めないと」
「そ、そうね!.......ユカリ、お邪魔したわ」
「即断即決で行きましょう、シュナ様。まずはお二人を見つけないと.....」
呆然とするユカリと、呆れ果てた顔をしたベルを置いて、シュナとユイナは部屋から出た。
その後、無事にユイナはアレックスと互いの気持ちを認め合った恋人同士となることができた。だが.........
クレルは、シュナの言葉を真摯に受け止めつつも、イリスへの妄執を捨てることは出来なかった。
前の恋人が忘れられないクレル......
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