Ep-97 フェンリル
遅れました。
最近ストーリーがどんどん薄くなってきてる気がする
王城から帰ってきたのだが、なんか凄いことになっていた。
ムスビが帰って来てアルバートがヤバイそうなので、空転・追憶で慌てて戻ってきたのだが、分身が恐らく幻獣だろう黒背広の男と激戦を繰り広げていた。
《ユカリ、気を付けて。あの男ボクより強いよ》
「ムスビよりは強くて当然なんじゃないの?」
《そうだけど......必要ならダンジョンパワーを使おうね》
「負荷分散か」
俺はムスビを解放したことで疑似的な魔力回路を二つ持っていることになったので、より低負荷でダンジョンの力を身体に流せるようになった———とナイトが説明してくれた。
ただ、相変わらずスピリットバーニングは何故か俺よりムスビの魂を優先して削る仕組みなので、今回は使えないだろう。
とりあえず俺は、分身のもとへと向かうことにした。
脳内で「バースト・クリエイトウェポン、氷結槍ヘイルスピア」と詠唱し、
氷を削って作ったかのような槍を呼び出す。
「ハハハハハ!どうした女!そのような攻撃では俺に傷一つ付けることは叶わんぞ!」
「くぅ.....!私じゃ敵わないよ~!早く来て本体ぃぃぃいいい!」
でっかいハンマーを振るって幻獣と戦う分身のもとに瞬時に駆け、幻獣が放った巨大な炎を槍でかき消した。
「ほう.....それがお前の言う『本体』、つまりユカリ・フォールかッ!」
「後はよろしくお願いします、本体......」
「任せろ」
分身はそう言うと、ハンマーを消して後方に下がった。
恐らく避難誘導に参加すべきだと自己判断したんだろう。
自由意思があるのは助かるなあ。
「アルバートというイレギュラーを消す、それだけがお前の目的か?」
俺はまず質疑応答から入る。
こういうノリノリの悪役って基本質問には全部答えてくれるからな。
「無論違う!アルバートなどというゴミは遠くから射撃でもすれば俺でなくとも殺害可能だ。俺の目的は王城を破壊し........」
「破壊し?」
「ハハハハ!お前の誘導尋問には引っかからんぞ!これでも喰らえ!」
ちっ、惜しいところだったのに........
まあ、王城をぶっ壊して王族皆殺しでこの国を乗っ取るとかそういう目的だろ。
俺は飛んできた炎弾を難なく弾き飛ばす。
切り裂こうと思ったが、中心点に感じる魔力が多い。斬ったら爆発しそうだ。
「王族を洗脳しているのはお前の仕業か?」
「ん?何のことだ?」
俺が質問すると、機関銃の連射のような炎弾の雨霰と共に、疑問の声が飛んできた。
俺はそれらをスピアラッシュで往なしつつ、考える。
とすると、こいつは本当に知らないという事だ。つまり、別の幻獣がその件には絡んでいるのかも。ジルベールを洗脳しているのはそっちなのかもな。
「まあいいや、終わらせる!」
「おおっと、簡単にやられる俺ではないぞ?」
俺はダンジョンパワーを80%ほど負荷分散で身体に流し、リミットオーバーを発動する。さらに、インベントリから[ボススレイヤーの秘薬]を出して飲む。
そういえばバフアイテムがあったな、という事で、それくらいなら待ってくれそうなこの幻獣の前で飲むことにした。
飲んだ瞬間、胸のあたりが熱くなり力が湧いてくる。
「ほう?それほど力が上昇する薬か........俺が勝ったらB-02あたりに渡して研究させるか」
「お前に私が負けるとでも言うのか?」
「ハハハハ、虚勢は俺に傷をつけてから張れ!」
「行くぞ!」
俺は空転・跳躍にて数倍の速度で幻獣に肉薄する。
しかし........
「ハッ、遅い!」
「空転・重落!」
俺の速度を認識しているようだ。やはり一筋縄ではいかないか。
空転・重落が間に合わなければ全身骨折だったであろう拳が空振る。
それだけで衝撃波が発生し地面を抉る。
俺は落下しながら次の動きを決める。
そして、地面についた瞬間落下の勢いを殺すように地面を蹴る。
ダンジョンパワーで強化された脚力は地面を難なく蹴り砕き、俺に反作用を与える。
地面を砕いてしまったがゆえに跳ぶ方向は滅茶苦茶だが、反作用の力を上手く制御して真っ直ぐにする。
「受けてみろ!」
「クリエイトウェポン、時空盾クロノスシールド!」
久しぶりに武器と盾で行くか。
俺は盾の武器スキル〈フィーバーワールド〉で俺だけ時間を加速させる。
そして、ウラヌスシールドを展開して周囲の空間を歪めて炎弾を消滅させる。
「ほう?」
「行くぞおおおお!」
俺は〈フィーバーワールド〉で加速した状態で空転・跳躍を使う。
それだけで、俺は今までの強化されたステータスで2倍になっていた速度、その更に2倍、4倍の速度で幻獣に迫る。
「はあああっ!」
「ぬうぅっ!」
流石に躱されたが、今の一瞬奴の眼が迷った。一瞬俺を見失ったのだ。
もしかすると、これで意表を突けるかもしれない。
「オーバークロック!フィーバータイム!」
クロノスシールドの時計が進む速度がより速くなり、
俺の速度がさらに増加する。
オーバークロックでは効果時間が発生する代わり速度が「スロー」なら10倍の遅さに、「フィーバー」なら10倍の速さとなる。
「ウラヌスシールド!ショートジャンプ!」
しかし、たかが一つの武器にこれだけの系統のスキルがあるのだ、俺以外はどうしているんだろうか......?
あまりに多すぎる武器スキル、系統スキル、進化スキル、職業固有スキル.........
そんなことを考えながら、俺はウラヌスシールドに盾を換装し、空間に穴をあけて短い距離をテレポートする。空転・略撃でもよかったが、ステータス強化状態だと何が起こるか分からないからなあ........
そして......
「一体どこへ......」
「ここだああああああぁぁぁあああ!」
「ぐおっ!?」
俺は黒背広の後方、さらに3m上にテレポートし、そこから不意をついて一気にその身体を槍で貫いた。
「........がはあっ!..やるではないか、人間!」
「ユカリだ!幻獣!」
「.......もしや最近倒されている幻獣は、お前の仕業か.....いいだろう、俺も本気で相手してやる。俺の名はフェンリル!フェンリル隊E-07だッ!」
そして、貫かれたはずの腹部を押さえもせずにフェンリルが俺に向かって走ってくる。
いや、走っているというよりは飛んできている。
炎を纏いながら。
「当たったら、ただでは済まない....!こっちも全力で行かなきゃ......」
俺は意を決し、ヘイルスピアを放り捨てる。
「クリエイトウェポン!ミスリルナックル!」
「何!?」
俺はミスリル製のガントレットを呼び出し、手にはめる。
そして.....
「スキルセットチェンジ!セットグラップラー!......エクストラ・ジェットフィストボンバー!」
俺は拳を構え、そのまま光を纏って突進する。
拳にすべての力を集め、自分ごと突進して相手をぶん殴る、〈拳闘士〉の極意ともいえるスキルだ。そして、俺の拳と、同じく炎を纏って突進してきたフェンリルの伸ばした拳が衝突し.........
バキィン!
「ぐあっ!」
轟音と共に、爆発が起きた。
一瞬拮抗した力が、別の方向に逃げてしまい爆発したのだ。
奴はまだ生きている。
早く体勢を立て直さなければ....と思っていると、爆煙の中から声が聞こえて来た。
「ハ....ハハハ......ハハハハハ、素晴らしい拳であったぞ。致命傷にもなりうる傷も負わされたし、手負いで貴様の仲間を相手にするのも骨が折れる、今日のところは逃げさせてもらうッ!」
「あっ、待て!逃げるなーーーーーー!」
しかし、時既に遅し煙が晴れた後には何も残っていなかった。
倒しきれなかった事に悔しさを覚える俺だったが、少し遠くから聞こえる声に振り返った。
「ユカリーーーーーー大丈夫かああああ!?」
「今行くぜえええええええ!」
見れば、王宮庭園入り口にアレックスとクレルがいて、頑張って走って来ていた。
俺は二人をこれ以上疲れさせないために、急いで二人のもとに向かうのであった。
そしてその後.....
「あー.....えー、食材を無駄にしたくないのでパーティーは予定通り行う!」
俺の全力のウルウル懇願でジルベールが落ち、出来る限りの安全を確保してからパーティーが開かれた。仲間たちも全員で集まり豪勢な食事を楽しんだ。
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願い致します。




