CEP 宗次郎編・参 秘めたる力
大幅に遅れました
起きたら16時だったので....
宗次郎とラーンハルトはシンセンの街を出て、草原を進む馬車に揺られていた。
シンセンの湖で採れる魚料理が美味しすぎて、もう少し居ようと強請るラーンハルトの首を宗次郎が掴み、引きずって護衛依頼の馬車へと乗せたのだ。
「..............やっぱり今からでも戻れないかな」
「駄目だ。このような高報酬の護衛依頼は中々あるものではない。」
「分かったよ...」
二人が会話していると、前の席に座っている商人から声がかかる。
「お二人はどういう目的で旅をしてるんだい?」
「そうだな..........急遽出来た友人に勇気付けられ、過去に決着をつけるために旅をしている」
「僕は宗次郎と一緒に旅をしているだけだね。......宗次郎の旅が終わったら、僕も国に帰るけど。」
「へえ......腕は立つのかい?....正直急ぎの旅だから、お二人さんの事をよく知らず雇ったのさ。」
「それは..........拙者自身が自身の強さを評価するのはいかがなものか」
「宗次郎は強いよ。ブラッドハウンド....屍啜狼を一太刀で倒しちゃうからねえ」
「それはそれは....それで、ラーンハルト殿は....?」
「ぼ、僕は.........どうだろう、添え物?」
ラーンハルトが答えに詰まる。
そして、商人がラーンハルトの反応を見て笑った。
釣られてラーンハルトと宗次郎も笑った。
ヒュッ!
「っ!」
「伏せてください!」
「分かりました!」
直後、窓の格子をうまくすり抜け、矢が飛んできた。
それは誰にも当たらず、反対側の窓の格子に突き刺さった。
「.......襲撃か」
「やれやれ、盗賊ってのはどこの国にもいるんだねえ」
宗次郎とラーンハルトが外に出ると、周囲の草原から伏せていたのであろう人間たちがわらわらと出てくる。全員軽装だが、その手には刀や短刀が握られており、決して油断はできない相手だとわかる。
「ラーンハルト、馬車を守ってくれ」
「了解!じゃあ、任せたよ」
二人はそれだけ言って散開する。
宗次郎はまずは、矢の飛んできた方向に一気に駆ける。
「くっ、逃げる気か!?」
「逃すな!追え!」
宗次郎は草原を駆ける。
すると、先ほどのように矢が飛んできた。
それをさっと避け、宗次郎は矢の飛んできた方向へと跳んだ。
「クソっ、なんで俺の居場所が分かった!?」
「賊に語る口はない」
宗次郎に盗賊が至近距離で弓を放つが、難なく一閃にて矢は撃ち落された。
恐怖で目を瞑るという、戦場で絶対にやってはいけない行為をした盗賊を、宗次郎は袈裟斬りにて絶命させた。
刀についた血糊を簡単に払い、ラーンハルトの元に戻ろうとした宗次郎に、風を切って矢が飛んできた。
「チッ、またか」
それらをぞんざいに刀を振るって斬り飛ばし、そちらの方へと風を切って走る。
先ほどの盗賊とは違い、今度の盗賊はかなり油断の多い性格なのだろう。
姿が丸見え故、簡単に追いついた。
「は、速ッ.......!?」
「去ね」
あまりの速さに驚き、眼を見開く盗賊に刀を振るい、下から縦に切り裂いた。
素早く後ろに退き、飛び散った血を避ける。
「戻るか」
あまりに呆気ない盗賊に違和感を感じつつ、宗次郎は馬車へと戻ろうとする。
しかし、ふと後方に気配を感じて振り返る。
「....先程の矢は偶然ではなかったか」
馬車の格子の窓をすり抜けて矢を飛ばしてくるような弓の名手が、先程の二人のように弱いわけがない。
そう思った宗次郎だったが、その考えは確かに当たっていた。
振り向いた先には、宗次郎に向けて弓を構える、角を生やした金髪の少女が立っていた。
「........角だと?化生の類か」
「....これだからトーホウの蛮族は。至高の生物たる我々魔族を御存じないとは.......死になさい!」
素早く禍々しい弓から矢が放たれる。
宗次郎は先程の数倍の速度で放たれた矢を斬り飛ばそうとし....。
ギィィィン!
「くっ....!」
「あら、私の魔銀の矢を受け止めるなんて..........やるじゃない」
刀と矢が激しくぶつかり合い、火花を散らす。
それを見て魔族の女は笑い、次の矢をつがえる。
「はぁッ!」
宗次郎は矢に込められた力を受け流し、矢を弾き飛ばす。
そして、右に跳ぶ様に回避する。そこを矢が貫くように飛んでいった。
宗次郎は魔族の周囲を円を描くように駆ける。
「あらあら、何とか私の隙を突いて攻撃しようとしているみたいですけれど....無駄ですよ。結界弓!」
「なに.....?」
魔族の女は上に向けて矢を放つ。
その隙を突くように宗次郎は一気に女へと距離を詰めようとするが........
「......何と、奇怪な」
「あらら、良かったわね。そのまま突進していたら、硬~い壁に真正面からどすん、だったわよ?」
空....いや空中に刺さった矢を起点に透明の壁が出現し、
宗次郎の行く手を阻んだ。
壁だというのに、相も変わらず矢はそれを突き抜けて飛来する。
「はぁッ!せいッ!とおおぉ!」
宗次郎は駆け、跳び、時に矢を弾き戦う。
これだけ矢を放って何故矢が尽きないのかと宗次郎は疑問に思ったが、
女が背負う矢筒.......抜かれた分だけ矢が現れているように感じる。
(このままではジリ貧か.......なら仕方がないという事なのだろうか......?)
宗次郎は刀の柄を手が白くなるほどに握りしめ、覚悟を決めるのだった。
◇◆◇
その頃、馬車では.......
既に襲ってきた盗賊は全滅しており、ラーンハルトが魔法の袋から出した水で剣を洗っていた。
「宗次郎さん、どこまで行ったんでしょうねえ」
「僕にもわからないや....あーあ、この血中々落ちないよ......はあああ」
「しっかし、宗次郎さんはわかりませんが、ラーンハルトさんも強いじゃないですか」
「僕は強くないさ。この神剣のおかげだよ」
「何か特別な剣なんですか?それにしてはそんな感じはしませんね.....魔剣でも無いし...神剣とは?」
「おおっと、間違えた。忘れてくれないかい?」
口を滑らせたラーンハルトが、商人に金貨を弾いて渡す。
「......こんなに頂いても困るんですけどね」
「それで二度と詮索してくれないなら安いものさ」
「何か便宜を図らせてもらいますよ、困ったら頼ってください」
二人はそんな会話を交わし、軽く笑う。
その後、ラーンハルトが洗い終わった剣を鞘に戻した時.....
突如、巨人の足音のような轟音が鳴り響き、凄まじい暴風のような衝撃がラーンハルトと商人を襲った。
「うわっ!?何が......!」
「宗次郎!?」
商人は咄嗟に目を覆ったため見ていなかったが、
ラーンハルトは草原の向こうで膨れ上がる膨大な魔力と、黒い光を見ていた。
「宗次郎っ!」
「あ、待って、置いていかないでください....」
背後で眼を抑えながら追いつこうとする商人を置き去りにし、ラーンハルトは戦場に吹く風のように駆けだした。
目指すは黒い爆発の起こった場所。
盗賊の死体や地面に刺さった弓を横目に走り抜け、
ラーンハルトがその場所に着くと......
「はぁ、はぁ...........」
「ま、まさかトーホウにこんな存在が.........魔王様、お許し.................」
刀を杖のように地面を突き立てて、立つ宗次郎と、
地面に横たわる魔族の女。ラーンハルトが慌てて駆け寄り介抱するが、既に見開いたままの瞳に光はなかった。女には全く外傷がなかったが、全身が欠食の限りを尽くしたように痩せこけていた。
「ラー....ンハル....ト」
「宗次郎....」
ラーンハルトは宗次郎の顔を見て、明らかに異常であることに気づいた。
宗次郎は眼の下に隈を浮かべ、青白い顔で何とか立っていたのだ。
「....それが、君の”隠している力”かい?」
「ああ.......そう...だ」
宗次郎はそれだけ言うと、どさりと地面に倒れた。
ラーンハルトが駆け寄ろうとすると、後方から足音が聞こえてきた。
振り返ると、商人が急いで走ってくるところだった。
「ラーンハルトさん、置いていかないでくださいよ....」
「商人さん、すまないんだけど、宗次郎を運ぶのを手伝ってくれるかい?」
「あ、はい........」
その後、宗次郎を商人とラーンハルトは頑張って運んだ。
次の街まではまだまだ先だが、その後は盗賊は出ず宿場町にて休憩することになった。
今年もそろそろ終わりですね.......
来年は今までより数倍忙しくなるので、更新ペースも落とさせていただきます。
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