Ep-96 アルバート王子と謎の襲撃者
戦闘無しの話が余りにも少ない...
自分の経験不足のせいで戦っていない話は内容が薄くなりがち。
戦っている話の内容が必ずしも厚いという訳でもないんですが....
という訳で、俺たちはアルバートのお披露目式に出席していた。
物凄く申し訳なさそうな顔をした王様が国民みんなにアルバートの出自と王族に迎え入れるという事をしっかりと説明するという式である....が、
「ううう....ぼ...私、地方の領主の娘なのに.....こんな場所で....ドレスも着て......ううう、視線が怖いよ.......」
「まあまあ、終わったらケーキバイキングに連れてってあげるから」
勿論物語の中に出てくるような豪奢なドレスを着て王女様に負けず劣らずの雰囲気を持ち、髪も貴族の令嬢といえば....と考えれば思いつくようなセットをしてアルバートの隣に立っているのは俺ではない。ムスビだ。
そして俺は......
「くっ、その鎧ぼ...私にも貸してよ....!」
「おやおや、貴族の令嬢が騎士の真似事など...」
「うううううう.......」
騎士の鎧を借りて(エルミアサイズ)立っていた。
この鎧の中身も分身でよかったんだけど、アルバートの存在は幻獣たちにとっては寝耳に水。...更なるイレギュラー事態を防ぐために攻撃してくる可能性もあると思い、ここで待機しているという訳だ。
そして、今は王様の話が過去に移ったところだ。
「私は昔、ある女性を愛した。その名はソフィア。........既に国民皆知っている通り、私は何人もの女性関係を持った。だが、その殆ど幸か不幸かは子を授からず、私は改心した後関係を持った女性に補償を行ったが、その内の一人であるソフィアが、偶然にも私の関係を持った女子リストから外れてしまい、補償を受けられずに父親のいない子供を育てていたそうだ。一度貧民街の男と結婚したそうだが、子供ができた瞬間逃げたそうだな............哀れな。」
そこまで話すと、俺の目が端っこの方で慌てて逃げていく影をとらえた。
だが、貧民街にいるような男なんてえてしてそういうものである。
王すら目を奪われる自然な美貌を持つソフィアに近づいても仕方がないだろう。
捕まえる必要はない。
「私は昔、無責任に遊び、喰らい、国民に迷惑をかけた、だがある朝私は気づいたのだ。だから改心し、行動を改めた。だが、こうして自分でまいてしまった災いの種は王国全土に広がっている。もしこの先またアルバートのような例が出たとき、私は自らの手で一つ一つその災いの芽を摘もう。それが花になっていようと、私は必ず......!」
ゲーム時代は王族についての記述はほとんどなかったので知らなかったが、
ジルベールにウルウルお願いして王室記録を見てみたら、罪科が出るわ出るわ......
前王のラーンハルトが甘やかしまくって、しかも他の王族はゼロ。
そりゃ遊ぶよな。
各国が暗殺者を仕向けたこともあったようだが、その殆どの場合いるはずの場所には王がおらず、気づいたら街でカジノをやっていたとか、そんなのが当たり前のように行われていたようだ。
王が護衛も付けず....と思うが、一時期王城から逃げ出して冒険者もやっていたり、前王から受け継いだ王竜剣を持っていたりなど、その戦闘力はCランク冒険者に劣らずとも負けない。調子に乗り、遊びに遊び、酒池肉林の限りを尽くした。
しかし.....
(納得いかないなあ)
《納得いきませんね....》
そう、その前日まで何の反省もなかった王様がイキナリ「気づいた」位で考えを改めるかなあ.....
もしかして、これはジルベールと同じ類の現象なのでは?
昔から王城には幻獣が潜入していて、王族を操っているんじゃないか.....?
(ムスビ。後は任せた)
《えっ!?.....まさか逃げるつもりじゃ無いよね.....?》
(その通りさ)
そう言い残し、俺はテレポートで最低限の警備しかない王城へと飛んだ。
少し調べ物をするために。
◇◆◇
ユカリが行ってしまった。
というわけで、ボク...じゃない私ムスビが取り残されてしまった。
庶民から王族に迎えられたアルバートは、一応王族から護衛として付けられた人に囲まれている。だが、本当の意味でアルバートを歓迎している人間はこの国にはいない。
王は「過去の責任を取るため仕方なくこの子を王族として迎えなければ」と思い、
王族は「余計な王位継承者が増えやがった」と思い、
貴族たちは「権力争いに使えそうな駒がやって来たな」と思い、
平民たちは王族が増えようが増えまいが日々の生活さえよくなればそれでいいと思っている。
ユカリが何を考えているかは私にもわからない。
星幽核にも分からないことはあるのだ。
特にユカリは異世界から来た人間だ、きっと私には図り切れない理由があるのだろう。
こんな誰からも必要とされていない、敵だらけの人間を王位につかせるなんて。
「あー、本日はアルバート王子のお披露目式にお集まりいただきありがとうございます。これから、新王子の誕生に関しまして王城大ホールを開放しまして、盛大なパーティーを開催させていただきます!」
集まっただけで、アルバートが出てきた時も歓声一つ上げなかった国民が、ワーーッ!と大歓声を上げた。....現金なものである。
まあ、アルバートは国民からの知名度も支持度も0なので、当たり前ではある。
当然ながら私....じゃないユカリが王妃になっても、国民からの知名度と支持度がないので、誰も喜んではくれないだろう。
そして、何故こんなに集まったのかと言うと、まあこれも......現金な人間という訳である。
アルバート王子誕生記念で、王城のホールが解放されて盛大なパーティーが開かれる、料理も豪勢なものが振舞われ、王都民は食いだめするためにパーティーに参加するだろう。
さらに、税もちょっとだけ安くなる。そりゃ、喜ぶよね。
私がポーっと閉会式を眺めているとき、事は起こった。
『危険』
「ッ!クリエイトウェポン、不沈盾!」
潜ませていた分身から声が届く。
私は盾を構えて空中に飛び上がる。
しっかりスカートを抑えるのも忘れない。パンツを見たらぶっ飛ばすよ。
そして、私が飛んだ先には.........青白い炎弾。
それは不沈盾に接触した瞬間轟音と共に大爆発を起こし、王宮テラスのちょうど直上に白い爆風が発生する。
「な、何だ!?」
「王族をお守りしろ!」
アルバート王子を守るはずの護衛も、一斉に他の王族を守ろうとする。.....やっぱり。
「分身!」
「はぁ~い!」
私の影から分身が飛び出し、アルバート王子の傍に降り立つ。
分身の性格って、エッジ以外はランダムなのか固定なのか、分身のバリエーションが多すぎてわからない.......まあ、悪い性格の分身はいないからいいや。
「デリートウェポン!クリエイトウェポン、時空剣クロノスソード!スキルセットチェンジ、セットグラディエーター!」
私は柄に時計の付いた、全体的に青い剣を創り出す。
これはユカリ曰く、「エピックとレジェンダリーの間くらいで、そこそこの性能」らしい。
だが、今は剣の性能などどうでもいい。
アルバートを攻撃したのは誰だ.....?
私は空を仰ぎ見る。そこには、黒い背広を着たケモミミの男が立っていた。.....獣人かな?
「誰だ!何故攻撃した!?」
「...........フン、マルコシアスの奴が頭を下げて協力を頼むから来てやったが......何とも小さい存在よ。.....跡形もなく消え去るがいいわ」
私が大声で正体を明かすように言ったが、帰ってきたのは先ほどより一回り大きい炎弾だった。
「—————〈スロータイム〉」
私はクロノスソードの能力を使用する。剣の柄にある時計の針の速度が低下し、同時に世界もまた遅くなる。
「ハァッ!」
私は飛び上がり、炎の弾へと追いつく。
そして、一閃。
「空転・雷動!」
さらに、空転・雷動にて炎弾の背後に回り、更に斬り付ける。
何とかこれで.....
「ほう?この速度で動けるとはまあまあやるようだな」
クロノスソードにより、最大で100倍の速度で動けるはずの私に、声がかかる。
声のしたほうを向けば、黒背広の獣人がこちらを見て、笑っていた。
「これも避けられるのか?」
獣人?は私に手を向ける。
そこから、青白い炎弾が雨あられと吐き出された。
「空転・滑走!」
何とか横に避ける。
「ハハハハハ!避けた!避けたぞ!マルコシアスの奴、ついに耄碌したかと思ったが.....偶にはやるではないかッ!」
「悪く思わないでね!」
私はクロノスソードのもう一つの能力を発動させる。
その名も.....「ウラヌスソード」。名称の由来はわからないが、発動の瞬間柄の時計にゆがみが生じたような気がする。そして私は、ウラヌスソードで獣人?の傍へと転移して斬りかかる。.........が、
「ハーッハッハッハッハァ!見えているものが必ずしも真実とは限らないのだよ!」
「分身....だと?」
「残念、幻影だァ!」
その声が響いた途端、獣人の姿が膨れ上がる。
そして、私を巻き込んだ大爆発が起こった。
ごめんなさい、ユカリ.....私では敵わなかった............
後はよろしく!
そう思い、私はスキルへと戻った。
最近飽きられないように頑張ってますが、果たしてどうなんでしょうか.....?
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