side-S11 果たされた約定
この話を書くに当たり、前のシュナの過去話にとある一文を入れさせてもらいました。
あまり内容は変わらないので見つけてみてください。
ユカリたちの時代より70年ほど前.....
シュナの父、カイエルは生まれ落ちた。
生まれた場所も、親も、何一つ他の平民たちと何も変わらないはずだった。
しかし、勝手気ままな神は、彼に特異な宿命を背負わせる。
彼は神より授かりし加護を以て、村一番の狩人となった。
そして、彼は村から離れる欲求に襲われるようになったのだ。
何一つ変化のない世界、生活。
それに飽きた彼は、村の祠で見つけた古い槍を持って村を飛び出した。
その後、紆余曲折の果てに仲間を集め、その槍術と加護から寵愛に進化したスキルを持って、伝説の冒険者とまで言われるほどへと昇りつめた。
だが.......
勿論常に退屈している神が、彼を放っておくはずがない。
彼が生まれ落ちてから42年後........
中堅冒険者となり、仲間も一人だけとなった彼の元に筋骨隆々の大男がやってきた。
「誰だお前?」
当然、カイエルは大男........武神に向かってそう問いかけた。
その言葉に、武神は拳を持って返した。
カイエルはそれを軽くかわす。
『おお!流石は俺が見込んだ男だ!』
「お前!カイエルに何しやがる!」
仲間が反応し、武神に向かって攻撃するが、攻撃は全てその筋肉の前に弾かれてしまった。
『ウハハハハ!効かぬわ!』
武神は攻撃した仲間に向かって一瞬で接近し、関節を固めて地面に押し付けた。
「あっ....ぐぅ!」
『我は今カイエルと話をしている。外野は黙って地面におれ』
「お前......何のつもりだ!」
当然何も知らないカイエルは武神に激昂し、槍をその体に叩きつける。
しかし、バチンと皮膚をたたく音がしたのにもかかわらず、槍は凄まじい勢いで弾かれる。
カイエルは何とか槍を押さえつけ、武神に再び斬りかかる。
だが、武神は槍を左手でつかみ、言った。
『もういい!面倒臭い!手短に言う!我は武神だ。お前に俺の全てを託すためにここに来た!』
「武神?託す?....一体何のことだ!」
『お前は気付かなかったのか?自分が他の者より強いことに。鍛錬を積むことで他人よりもっと成長できることに。それこそが我の寵愛!』
「話は分かった!だが、お前が俺に、一体何を託すんだ!?これ以上の力は不要だし、お前が背負う運命も背負いたくはない!」
『何故断る?我が武神になれと先代に頼まれたときも、我は断ることはしなかった。ならばお前も、同様に強さに貪欲であろう?』
その問いに、カイエルは少し俯いて答えた。
「もう冒険者稼業は終わりにすると決めたんだ。俺は仲間のウィルの故郷で、貯めた金で酪農でもやるんだ」
『まさか貴様、武の道を外れる気か!?』
「こんな年になってもう遅いかもしれないが、俺はもう気付いたんだ。俺は冒険者なんてタマじゃない。誰も守れなかったからな.........
俺は故郷で麦でも育てるんだ。」
『な.....』
武神はカイエルの答えに絶句した。
武人ともあろうものが自らの武の道を放棄し、せっかく人を越えた力を手に入れられるチャンスをむざむざ逃すなど、神として数百年を生きて来た武神には信じられぬものであった。
『では、生まれたお前の子供に....』
「俺の子供には俺と同じ運命を背負わせたくはない。.......だが」
『だが?』
「俺の子供が.....俺のような勇気と決意、そして高潔さを身に着けることが出来たなら、そいつにお前の全てとやらを託してみるがいい」
『言ったな?では、そうさせてもらおう』
「ああ、じゃあ帰ってくれ」
そうして二人は別れた。
しかしこの出会いは、後々大きな波乱を齎すのだ。
◇◆◇
それから7年ほど後....故郷に戻り、家庭を築いたカイエルには一人の子供が出来ていた。
その名をシュナ。
カイエルが好きなシュリカという、どんな環境でも力強く咲く花の名前を少し変えた名前である。
シュナが生まれた時、産婆がシュナの性別を女だと断定した瞬間カイエルは安堵した。
(女なら、武神も手を出そうとは思わないだろう)
しかし、やはりカイエルの子供であるからなのかシュナは好戦的な性格となり、日々狩りに槍を持って出ていた。
子供が大事であるカイエルは仕方なく、シュナに槍術を教えた。
だが、カイエルは絶対にシュナを村から出すまいと決意していた。
(早めに男を見つけさせてくっ付かせよう。村から出せばあいつは武神の餌食になる。変な気を起こす前に夢見る乙女にしてしまおう....)
愛する娘を絶対に武神なんかに渡してなるものかと努力するカイエルであったが、
それらは全て無駄となった。
それから9年後、村に魔族がやって来たのだ。
最初は村の入り口にいた少年が惨殺されたのが始まりだった。
それを見ていたその家の女が叫んだことで、村全員の戦士が集合した。
しかし......
「村に火を放て!」
「女子供を狙って殺せ!」
「お前らの攻撃などなんの痛痒にもならんわ!」
17人の戦士はカイエルを除いて成す術も無く殺された。
カイエルだけは冒険者時代から持っていた槍で奮戦したが、あまりの力の差に倒れそうになりながら、必死に戦った。
全ては事情を察した愛娘シュナが逃げてくれることを願って。
だが.....
シュナは来てしまった。
こうなった以上、もはやシュナは武神から逃げることは出来ない。
カイエルは自分が賭けに負けたことを悟った。
しかし、
「俺はもう長くない、持っていけ」
同時に、自分の真の気持ちにも気付いたのだ。
自分は愛娘に宿命を背負いたくないと思いつつ、自分を超す勢いで強くなる娘を見て武の道に進ませたいとも思っていたことに。
そして、過剰な出血により霞む考えを絞りだし、言葉を紡ぐ。
——————祝福か、呪縛か。
だが....自分の娘ならそんなもの乗り越えてくれると。
「俺が守れなかった村人たちは、自慢の娘が守るもんだろ?.......頼んだぜ。お前がどんな困難にぶつかろうとも...........」
—————必ず乗り越えてくれると信じてるぜ。
その言葉を紡ぐことなくカイエルは息絶えたが、死の間際に「わかった!」
という声が聞こえた。
そして.......カイエルの目の前に武神が立っていた。
『カイエル、賭けは俺の勝ちだな。俺の全てを彼女に託す』
「ああ........いいぜ。多分そういう宿命だったんだろう」
『宿命だと?』
「蛙の子は蛙。村を飛び出して武の道を歩んだ俺の子が、武と無縁であるはずがない」
『そうか.....そしてお前は残酷な宿命を背負わせてしまうのだな?』
「フン、俺は仲間を失ってなお戦い続けるしかなかった。だが....きっとあいつなら沢山の仲間も、守ってくれる強い男も見つけるさ。頼んだぞ、シュナ!」
こうしてカイエルの〈武神の寵愛〉は〈武神の卵〉に分かたれ、シュナへと受け継がれた。
だが、単身魔族に向かっていったシュナは既に別の宿命を背負ってもいた。
それ故武神はシュナに手出しが出来なくなった。
カイエルはそれを狙っていたのかもしれない。
だが..........
ユカリという少女が、シュナを武神のもとへと連れてきてしまった。
それ故、シュナと言う少女に刻まれた、「戦いから逃れることは出来ない」という残酷な運命の歯車は、
再び音を立てて動き出すのであった...
シュナが持つ祝福にも呪縛にも変わる運命は....
〈武神〉と〈英雄〉。
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