sideS-10 武神降身
物凄く遅れました。
ごめんなさい。
俺とシュナは東の森にある祠を訪れていた。
「ねえユカリ、ここに来て何をするの…?」
「まあまあ、ついて来れば分かるって!」
王都東の森(魔竜の森)は最近色々あった場所だが、
祠のある場所は森の奥底にある微弱な結界で守られた場所なので、そうそうバレることは無いし、爆風程度じゃ傷つきはしない。
俺は祠の前にインベントリからアイテムを出して供える。
《神授の種、聖樹の葉、神水の入った瓶.....そしてお供え物の薬草饅頭...以上です》
(ここの神様薬草饅頭好きだよなぁ)
俺はそれらをしっかりと順番通りに並べ、独特の祈りのポーズをとる。
すると、祠から翡翠色の光が噴き出す。
「わあぁぁ....何これ、ユカリ?」
「シッ、ちょっと黙ってて」
すると翡翠色の光から何やら人型が浮かび上がり.....
それは緑の髪を持つ少年の姿を取った。
少年は閉じていた眼を開くと視線を下にずらし.....
「うわーーーーーっ!」
思いっきり叫んだ。
それは怒りでも悲しみでもなく、喜びの声だ。
「薬草饅頭だ!うわーーー!何千年ぶりだろうなぁ....ここのところ人が来ないもんで、ずっと食べてなかったんだぁ....」
薬草饅頭に頬ずりする少年に、俺は問いかける。
「森神様!聞いてもらいたいことがあります!」
「はぁ~すりすり......ん?あ、そうか....薬草饅頭があるってことは人間が来たって事だもんね。昔だったら追い返してたけど、今は久しぶりに会ったこの薬草饅頭のお礼に何でも言うこと聞いちゃう!」
「ユカリ.....もしかして、神様にお願いして私のレベルを上げてくれるとかするの?」
「チッチッチッ、考えのスケールが小さいよシュナ。想像力が足らないよ全く」
俺は森神に向き直る。
この世界に神に準ずる存在がいるのは確認済みだが、どれほどの力があるかはよく分からない。ここは丁寧に事情を説明して....
「この者は魔力伝導効率が並外れてよいのです。もし出来るのならば、森神様のその素晴らしく静謐で奥深い魔力と神力を持ったその御身をこの者に降ろし—————」
「あー、分かった分かった!面倒臭いから、とりあえずやってみるよ!」
俺が事情を説明しつつ、協力を仰ごうとしたのだが、どうやって俺の意思を読み取ったのかは分からないけれど、森神は長話に飽きてシュナの中に飛び込んだ。
「ひぇっ!?....ゆ、ユカリ!助け......あ」
シュナの神が濃い緑色に変色し、全身に精緻な模様が浮かび上がる。
瞳も黄緑に発光し、神を降ろしている状態となった。
やっぱり、魔力伝導効率がいいとこうも簡単に神降ろしが出来るんだな。
羨ましくないといえばウソになるが、俺はシュナには出来ない強化方法と強力なスキルを多数持っているのであまり問題はない。
しかし、
『あ、こりゃダメだ』
「うあっ!」
スポッという音がなりそうな感じで森神様がシュナから抜け出す。
髪色と瞳が元に戻り、全身の模様......多分枝葉かな?この模様は。
「ダメでしたか...」
『うん、来る場所間違えたね.....この子、武神の加護....じゃないや多分寵愛を貰ってる』
「私が......神の?」
『うん。僕が降りる所までは上手くいった。けど、内部に干渉しようとした瞬間に弾かれたね......諦めて武神のところに行ったほうがいい......あ、薬草饅頭は置いて行ってよ?他の道具は持って行っていいから』
「分かりました。アドバイスありがとうございました。」
『さよならー!あ、出来ればこの祠のことを広めてくれると助かるなぁ。また山ほど薬草饅頭が食べたいよ』
というわけで、俺は神がすっぽ抜けた衝撃で気絶しているシュナを引きずって武神の聖域まで急ぐのであった.....
◇◆◇
武神の聖域は多分古代中国が元になってるハオン地方の南端にある。
なんと王都から馬車で進むとそもそもの距離と道のりの困難さで2年はかかる凄まじい道のりである。リンドに乗れれば1時間なのだが、今日は所用があるそうだ。
なので......
「マスター!....事前にお知らせいただいた条件の騎竜、ご用意できました!」
「ありがとう、ナイト」
「恐悦至極に存じます!」
俺はダンジョンの力を借りることにした。
俺はハオン地方に行ったことが無いので、ポータルアローは使えない。
ダンジョンはいくつものダンジョンを攻略して我が物としているので、結構な種類の魔物がいる。当然俺は期待していたのだが......
「見てください!中心部の魔石を破壊されない限り疲れ知らずで飛び続けられるグレータースカルドラゴン!最高時速はここから王都までを一瞬で往復できるほどです!」
「へえ........」
というわけで、東の森(しつこいようだが魔竜の森)の開けた場所に、
スカルドラゴンを呼んでもらった。
俺がダンジョンを支配してることはまだまだ他人に明かすべきではないからな。
「ゆ、ユカリ.......本当にこれに乗るの?」
「大丈夫大丈夫」
俺はスカルドラゴンに乗る。
シュナも恐る恐る尻尾から登って乗る。
「これは、命令したら動いてくれるのか?」
俺が呟くと、ムスビが代わりに答えてくれる。
《神眼で見た限りではゴーレムとあまり変わりません。命令したら飛んでくれます。ただし、ロングディフェンシブエンチャントを掛けることをおすすめします》
「エッジ!ロングディフェンシブエンチャントだ!」
(了解)
「ユカリ....飛ばないの?」
「しっかり掴まっててね?全速力で発進!うわ―—————!」
「ひぃぃいいいいいい―———————!」
全速力で発進と言った瞬間、グレータースカルドラゴンは凄まじい速度で飛び立つ。
ちなみに、今度は地元の人間だけではなく遠くの街の人間もこの光景を見ていたので、誰も魔竜の森には近寄らなくなったそうだ。
ハオン地方は本当に古代中国のような建物が並ぶ場所で、
そこの奥地に武道を極める者のみが辿り着ける神殿があるのだ。
ま、空を行ける俺たちには関係ないがな!
そこに辿り着くと、同情のような建物....というか神殿が立っていた。
「スカルドラゴン、ここで待っていてくれ。襲われたら反撃していい。攻撃されない限りは何もするな」
「...............」
いやしかし、この気分は何なんだろうな......
凄まじい速度......ロングディフェンシブエンチャントが無かったら俺はともかくシュナは衝撃で身体がバラバラになっていただろうな。
ジェットコースターに乗った後のようだ....
「さ、行くよ」
「...............うん」
俺たちは神殿の中に入る。
本当に何もないんだよな。奥にある神像と祭壇くらいしかない。
「えーっと、武神の儀式に必要なものはっと.....」
俺はインベントリに手を突っ込んで武神を呼び出す儀式に使うものを探そうとする。
しかしそれは突如静寂を打ち破った声にて破られた。
『儀式などというものは要らん』
「なっ!?」
「だ、誰.......?」
後方から聞こえた声に俺たちが振り向くと、そこには筋骨隆々の大男が立っていた。
扉との大きさの差から察するに180㎝くらいはあるかなあ....
『ありがとう、強き人間の女子よ。我が力を受け継ぐ資格持ちし者を連れて来てくれて』
「資格、だと....?寵愛ではないのですか?....それに、あなたは....」
「ユカリ.....?何で敬語なの?」
『如何にも。我こそは武神。そして、どこのバカ神から聞いたかは知らんが、我が武の神髄を受け継げる者に加護や寵愛で済ませるわけが無かろう。我の能力の卵....そう、いわば〈武神の卵〉を与えた。』
はええ.....
そうか、じゃあ....
「魔力伝導効率が極端に良いシュナが武神の卵を開放し、貴方を更にその身に降ろせば...」
『我を超えることも不可能では....いや、可能だ。』
「ユカリ.......もしかして、もしかしてその人は....神?」
あ、そうか。シュナは話についてこれてないのか。
俺はシュナに事情を説明する。
分からない所はきちんと説明し、数十分後にシュナはやっとわかったような顔をした。
「あっなるほど。じゃあユカリはあの武神の力を私が宿してて、そこにいるお兄さんが武神で、その武神を私に降ろして超強化することを狙ってるって事なのね?」
「そうそう」
『そういう事だ』
しかしシュナは、良くも悪くも一般人である。
そんな少年漫画のバトル展開みたいな展開について行けるはずがなかった。
「まさかぁ...ユカリもそこのお兄さんも、物語の読みすぎだって。そんな才能を私が持ってるわけないし、神を降ろすってどういうことよ?」
「だからシュナ.....」
『うおおおおおお!面倒臭い!我は理屈っぽい奴が昔から大嫌いなのだ!大人しく俺を受け入れろおおおお!』
「え、ちょ........」
俺が止める間もなく、武神は半透明になるとシュナの中に飛び込んだ。
「ま、またこれ.........ッ!?」
シュナの髪が黒髪から金髪に変わり、全身に枝葉ではない幾何学的な模様が浮かぶ。
眼は元々茶色だったけど碧眼?って奴に変わって光ってるな。
「ゆ.....ユカリ?」
「うーん....可愛くなったね」
「うううう.....何でいつもこうなるの?ふあああああああ....」
「あ、ちょっと待っ」
シュナは思いっきり伸びをした。
伸びをした.....のだが....
「うわああああ!?」
凄まじい轟音と共に空気が振動し、建物が吹っ飛ぶ。
俺は頑丈なので何とかなったが、周囲は全部吹っ飛んでしまった。
『ウハハハハハ、やはり我が力を振るうのは楽しいものよ!』
「わーん、ユカリ~これなんとかしてよぉ~」
見れば、武神降身状態のシュナは周囲の状況を見て顔を青ざめさせ、俺に助けを懇願しているが、半透明で下半身が見えない。
新手のスタ○ドか!?
そしてスタ○ドと化した武神は周囲の物を手当たり次第に拳で破壊していた。
なるほど、本人が持つスキルが開花し全力を出せばそこそこ強くなり、武神を降ろすことで神をも超えた超絶パッワーを振るえるようになるわけね。
で、本人とは別に武神は武神で独自の力を使えると......
チートを超えたチートだなあ...俺より強いかも。
しかし、どうして武神はシュナに〈武神の卵〉を渡したんだろうなぁ......?
武神とシュナの話をもう一話投稿します。
あと薬草饅頭好きの森神様は二章まで出てこないと思います。
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