Ep-94 王の憂鬱
どうしても王様とか貴族とか、難しいことを書くと筆が進まない....
戦闘回なら執筆は捗るのに........
「王?」
「.................そっとして置いて欲しいのだが」
「はっ」
この国の王、ロイアハイトが、ずーん....とでも言い表せそうな様子で王座に座るのを俺は見た。騎士が慌てて声を掛けるが、大丈夫だという風に王は額を抑えていた。
俺は、とりあえずアルバートを着替えさせて王宮まで連れて来たのだが、
当然謁見など貴族のそれも木っ端の令嬢の俺が直ぐに出来るわけではない。....のだが、
俺がアルバートを抱えて城門前に立っていたのを見かけたイケメン騎士、ジョセフ・カーラマイアが取り次いでくれたのだ。
俺がアルバートの出自と、母親から預かった、「いざという時に見せるアレ」こと紋章を交えて説明を終えると、
「あぁ.....またですか」
と額を抑えて呆れたようにつぶやいた。
思わず俺が何故その反応なのか尋ねると、ジョセフは呆れたように言った。
「ロイアハイト父さんが遊び人だったのは既に周知の事実ですが、発生する影響を無視して遊び続けた結果、今回のような不和の種が持ち込まれるわけです。...この間は3年分のカジノのツケが、カジノの記録整理時に出て来たとかで、国庫から痛い出費を強いられました。」
「ふーん.....でも、そんなお人には見えませんでした....」
「ええ。父が王になってからも、遊び癖は治りませんでしたが.....ある日突然父は変わられました。」
ある朝、ロイアハイトは急に真面目になったそうだ。
常に侍らせていた女性を朝起きるなり拒絶し、丁寧に謝罪した後充分な褒章と共に故郷に送り返し、暴飲暴食も辞めたそうだ。王城の外に遊びに行くことも無くなり、それまで放置していた王としての仕事も真面目に行うようになったそうだ。
そのせいで王の遊びのために雇われた人間たちが一気に城から消え、城はラーンハルト王時代の静けさと上品さを取り戻したそうだ。
「結局、父上が変わられた理由は誰にもわかりません。魔術による鑑定でも、別人と入れ替わったという訳ではないと証明できていますし....」
「そうなんだ.....」
「おっと、もうすぐ着きますよ」
というわけで、王の昔話を聞いた後に俺たちは王に謁見.....というか普通にお話をしたのだが、話を聞くなり王は先程説明したような状態となってしまったのだ。
「父上?」
「...........あー...アルバートと言ったかな?」
「は.........はい!」
急展開すぎてフリーズしていたアルバートが、王の問いかけに元気に答える。
それを見た王は、ますますどんよりとした雰囲気を強めた。
「...........自分のした事の責任は、自分でとらねばな.....はぁああああ....アルバートよ、王族になる気はあるか?」
「....えっと、それでお母さんが楽になれるのならば、僕は王族になります」
「父上!良いのですか!?....余りこう言ったことを言うのは出過ぎたことですが、悪しき前例を作ることになります!」
ロイアハイトが鬱屈とした雰囲気でアルバートに尋ねると、
ジョセフが急に身を乗り出し、叫んだ。
まあそりゃ、庶子とはいえ急に平民が王族に~なんて、面倒ごとの予感しかしないよな。
「大丈夫だ、ジョセフよ、余が何とかしよう」
「しかし.....一体どれほどの人物を黙らせればよいか....王権の崩壊に繋がってもおかしくないのですよ!?」
ジョセフはどうやら、ロイアハイトがアルバートを認知しないと思っていたようだな。
だが、この真面目そうな王様は.......多分責任とかに囚われてしまっている。
アルバートは服装こそ俺が整えたが、痩せているし薄汚れている。
この真面目そうで優しそうな王様がアルバートを見たら罪悪感でつぶれてしまうだろう...知らんけど。
それでもなお食い下がるジョセフを見て、王は一瞬顔をしかめた。
.......気のせいか?
「....ああああ!もう面倒くせぇ.......」
「ち、父上....?」
「どーせ汚名を被るのは俺じゃ無くて次の王だ。なら俺はこの件に関してはノーコメント!黙って引退させてもらいます!.................という訳だ、ジョセフよ、諦めろ」
「ち、父上!?その言葉遣いは...........分かりました。父上も御苦労なさって居るのですね。........藪蛇だったか」
気のせいではなかった。
王様は急に豹変し....というか昔は遊び人だったらしいし、あれが素なのかもな。
ジョセフも地雷を踏んでしまったと理解したのか、諦めて退出するよう俺に促した。
「あー、アルバートはどうしますか?」
「家族がいるだろう、今日のところは親もとへ帰してやるがよい」
「では、そうします」
というわけで、俺はアルバートを連れて王城から去った。
あ、勿論晩御飯は家族全員に奢ったよ?
アルバートとその妹....ナーナだっけ?がバカみたいに食べるせいで、
俺の食費の3倍くらい掛かったけど.....まあ、俺の資産からしたら誤差みたいなもんか。
場所は移り変わり........またもやどこかの貴族邸。
またもや暗い部屋で、ヴァーグと言う男と幻獣マルコシアスが会話を交わしていた。
「ちっ、してやられたな....」
「どうする、マルコシアスよ」
「どうするも何も、あのまま新王族としてアルバートとかいうガキが王族になれば、ほぼ100%あのユカリとかいう令嬢は王妃になってしまう。....ジルベールの誘いを断ってはいるが、アルバートの後見人になればいずれアルバートと結婚してしまうかもしれない。はぁああああ、何なんだよ!あの女は!」
「マルコシアス........」
「ああ、すまないね。多少のイレギュラーが混入したが計画に大きな支障は無い。今まで通り、第三王子を即位させる方向で行こう」
「ああ、分かった。それでいこう」
「ふふふ、君もだいぶ素直になってきたねえ。最初の頃は.......」
「....その話はやめてくれないか?」
「いいよ。揶揄うのも面白いじゃないか....これが人間でいう”友達”ってヤツなのかい?」
その言葉にヴァーグは一瞬黙り込む。
だが、すぐに口を開いて肯定する。
「そうだな、俺たちは.......”友”なのかもしれない」
「第三王子を次の王にできたら、私も任を解いてもらえるかもしれないし、そしたらヴァーグ、君とも...」
「だが、まだ不確定要素が多い。マルコシアス、捕らぬドレイクの皮算用をすれば、必ずや足元を掬われると俺は思うのだ。....全てが終わったら、またゆっくり語らおう」
「.....そうだね。じゃあ、私はそろそろ失礼するよ」
「また、な」
「おやすみ、ヴァーグ」
そして、二人は別れた。
だが、内心マルコシアス.....D-03はとある予想をしていた。
あの”ユカリ”という少女が、自分たちの幸福な未来を破壊することになるのだろうと。
その時が来たとき、自分は”ユカリ”と戦うことになる。
D-28があの少女に殺されたことは、あの少女の存在感からして確実である。
だが、私は死ぬわけにはいかない。.......大切な友達が出来たのだから。
そう思いつつ、マルコシアスは夜の闇に消えた。
結論から申し上げますと、ヴァーグとD-08のこの関係は引き裂かれます。
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