side-S8 最後の呪い
タツミ単話強化回。
ちょっと遅れました。
「お願い!私にもっと強くなる方法を教えて!」
俺にタツミがそんな事を言ってきたのは、Cランクに昇格し皆でお祝いをした翌日の事であった。まあ、そう言いたくもなる。
たった一撃で戦闘不能になり、床に倒れ伏すしか無かったのだから。
リンドとダンタリアンが時間稼ぎをしなければ(本人たちは決死の戦いだったが)、俺たちはガルムの言葉通り洗脳されて立派な手駒になり、王都の人々に襲いかかっていただろう。
「良いですけど…先輩はもう殆ど伸ばせるところがありませんよ…?」
「え?」
これはシュナやアラドにも言えるのだが、基本的にアレックスやクレル、ユイナのような規格外組以外の一般人は成長限界に達していることが多い。
シュナは技術で、アラドは魔砲剣と、シュナと同じく技術で規格外組に追い縋っているだけなのだ。
その事を懇切丁寧に伝えると、タツミは目に見えて落ち込んだ。
「そんなぁ…じゃあ私はどうすればいいの…?いっそ、ユカリちゃんみたいに代償がある強さでもいいのに…」
「あっ」
俺は思わずとあるアイデアを思い付いた。
だが、余りに危険すぎる。
最悪タツミの人格を破壊してしまう上に、それでなくとも過去のトラウマを発掘してしまうかもしれない。
しかしタツミは、俺が声を上げるや否や、縋り付くように抱きついてきた。
「わわっ、何ですか先輩」
「お願い!どんな方法でも!どんな困難な方法でもいいから!」
「それなら…分かりました」
「本当!?」
これまた目に見えて喜ぶ先輩だが、俺はキッと表情を締めて言う。
「ただし、この強化方法は遊びではありません。今までのような緩い態度で挑んでいると死んでもおかしくありませんよ」
「ひっ!?うん!分かったわ!ユカリちゃんのためだもの!」
俺が思いついた強化方法とは、タツミが現在持っている呪王シリーズ、
仮面、ピアス、チョーカー、ストラップ。
これらは呪王の意思を無くしている無害物体だが、ひとつだけ最後に1番ヤバいやつが残っている。呪王が住んでいたとされる呪王城、そこに残された〈呪王のローブ〉だ。コイツはゲーム中では呪王の復活儀式に使われていて、冥界にいる本人と直接繋がっているヤバい代物だ。着けたらどんな目に遭うか…。
それもまた説明するが、やはりタツミは折れなかった。
しょうがない、行くか....
「ポータルアロー!」
俺はその辺の壁にポータルアローを放って、転移門を開く。
….そういえば、ポータルアローだけは弓がなくても使えるんだよな。
アロー.......
「どこに行くの?」
「ちょっとそこまで」
俺はそう言いながらポータルに飛び込んだ。
プレイヤーのコモンスキルである[テレポート]と[ポータルアロー]の違いは、テレポートは戦闘中に使える、転移先が10個までしか登録できないことにある。ポータルアローは戦闘中には使えないが、一度行ったことのある場所ならどこにでも行ける。
というわけで——————
呪王城に到着である。
既に滅んだ古王国の首都の近くに立つ不気味な城で、本来ならレベル200級のダンジョンだが...
「ダンジョンパワー60%解放!」
ダンジョンパワー解放でレベル300相当になった俺ではここの魔物は相手にもならない。
コアを占領してもいいのだが、今回の目的は呪王のローブだ。さっさと最上階に行ってしまおう。
「邪魔だ!タイダルウェイブ!....スタティックフィールド!」
俺は水と雷の合わせ技で敵を打ち破る。
なんか俺魔王にも祝福されているらしく、スキル欄に〈魔王の加護:Lv1〉が追加されていた。まだこれだけでは不完全だが、雷魔法のダメージが上がるそうだ。
俺は階段を駆け上がり、同じコンボを再度放つ。
流石に3階層にもなると、このコンボで即死しない奴がいるな....カースブックか。
呪王の城に出るモンスターはカースブック、カースシェルフ、カースランプなど当時の城の備品が呪いで魔物化しているので、弱点属性とかはオークストーリーにはないものの、今の現実化では水と雷が効かない奴も出てくるわけだ。
「バーニングエリア!」
俺は魔法で回廊を炎の海にする。
「クリエイトウェポン、炎龍刀!....炎龍化!」
そして俺はその中を炎の竜となって歩く。
この城の魔物で炎耐性が高そうな魔物はいないので、皆倒されていく。
いいレベリングだな......レベル200まではここでレベリングするか?
まあ、レベル100以降のレベル上げは装備が整わないと苦痛以外の何物でもないからな....
装備がそろってからでいいか。
そんなこんなで、俺は最上階...呪王の部屋へとたどり着いた。
ここは本来であればボスがいるべき空間だが、呪王関連のイベントの最後で復活した呪王と戦う場所なので今は心配しなくていい。
俺は部屋の上座....というか王座だな。
王座に引っかかっているボロボロのローブに近づいた。
うっわ、凄い怪しいオーラ出てるな。
俺はローブを掴む。
『....呪え、殺せ......』
「あっ、そういうの良いんで....」
『嘘を吐くな....我が居城に忍び込んだ時点で.....誰かを呪いたいと願ったのだろう?』
「そういうわけじゃ無いんですけど...」
アレ?
てっきり狂気に支配された呪いの王かと思ったら、意外と意思疎通できるんだな。
ちょっと話してみるか。
「呪王様は何であんなことをしたんですか?」
『我に張り付いた呪いを抑えるためよ』
「呪い?」
ゲーム中でも聞いたことのない単語が飛び出したぞ?
気になるな....
『我は呪子として生まれ、呪いは我を苦しめた。常人を超えた魔力と呪力、気力を持ち合わせていたことも我にとっては苦しかったのだ.....呪いは常に我に憎き人間を呪え、殺せ、そして絶滅させよと囁いてくる。』
「それで狂ったと?」
『狂えるものならさっさと狂ってしまいたかった...呪いは我の精神を常に安定させ、冷徹な思考を促した。それは冥界へと行った今でも変わらぬ...誰か、我を開放してくれ....』
この王口が軽すぎないか?
そのことを言うと、呪王が笑い声をあげた。
『数千年も狂え殺せ呪えと言われ続け、おまけに独り.......久方の客人に喜ばずにいられるものか』
「.........」
なんか俺の抱いていた呪王のイメージと違うな。
ひょっとして、呪王はとってもいい人で、ゲーム中で戦うのは呪いそのものだったのかもな。...じゃあゲームでは、俺たちは呪王を呪いと言う苦しみから解放してあげたということなのかも...
「その呪い、一瞬でも消えたなら何でもしてくれますか?」
『ああ....今なら我のローブを着ればその人物に呪いを移せるが.....誰一人として正気を保てはしなかった。....ローブを着れば我の生前の魔力、気力、呪力全てを扱えるというのに、勿体無いことよ』
「耐えられるかもしれない人物を紹介します」
『おお!?.....しかし、その人物を壊してしまうかもしれないのは耐えられぬな....』
「大丈夫ですよ。貴方が遺した4つの遺物、全てを所持して正気を保っています。」
まあそれは、俺が改造したからなんだけどな。
了承さえ得られれば、直ぐに錬金術で改造してやるぜ。
さあ、どうだ?
『何!?...我の呪物を付けて無事とは.......いいだろう、その人物の御許まで連れていくがよい。我が力を授ける..............む?呪物の反応がおかしい。....................貴様、まさかとはお思うがアレに何かしたのか?......待て!なんだその笑顔は!?』
どうやらこっちが見えている呪王らしいが、もう関係ない。
了承を得た今、俺がすることは1つだけである。
「錬金改造だあああああああああ!」
『や、やめっ!やめるのだ!アッ———————!』
こうして〈超危険な狂気の呪王のローブ〉は〈制御さえできれば安全な呪王のローブ〉に変わり、俺はそれを持って王都へと帰還するのだった.....
◇◆◇
「それが最後の呪王の遺物?」
「うん。ローブだね。着けてみて?」
俺は学院の闘技場にて、タツミにローブを見せた。
タツミはローブを受け取り、着る。
「うっ!?」
着た瞬間、タツミはそんな声を上げて崩れ落ちた。
恐らくローブを着たことで呪いが精神を蝕み、流れ込む呪力が制御できていないのだろう。
だが.......大丈夫だ。
身に着けた4つの呪物が輝き、タツミに移った呪いを制御する手助けをする。
これが呪王の遺物5つを装備したときのコンプリート効果、[強心]だ。呪いに狂わされた王が、自らの呪いを抑えたい一心で願いを込めて作り上げた遺物たちの真なる力。
「ゆ、ユカリちゃ......ん」
「頑張って、タツミ先輩」
「う.....ん!」
タツミはしばらく汗を浮かべて耐えた後、立ち上がった。
気づけば、タツミの仮面の効果だった翡翠色の髪は、白色に変色していた。
銀じゃなく、普通に真っ白である。白髪みたいな感じじゃなくて、滑らかな白の髪か....
「はぁ、はぁ.....何とか耐えた。.....ユカリが話してた呪王の苦労が少しわかった気がするな」
「あれ?呪王は話しかけて来ないの?」
「..........あ、意識したら話しかけてくるようだ。....ジジイの戯言は無視したいところだが、どうやら得た膨大な魔力呪力気力の制御や戦闘のサポートをしてくれるようだ。助かるな....どうも肌で感じた限りでは、遺物による呪いの制御は完璧だが、それでも漏れるほど強い呪いのようだから、助かるな....これで私もユカリを守れる」
「へえ、そりゃ良かった」
俺はガルムのような強さの者と相対したときのタツミのすべき行動を考えていたので、つい生返事になってしまったが、まあ良いだろう。
「先輩、そのローブは常に着けないほうがいいかもです。呪いがどんな影響をもたらすか分かりませんし、遺物もメンテナンスが面倒ですから」
「....そうね。じゃあ普段は....」
『我の魔法で収納しておいてやろう。千年呪いに耐えるのに比べたら、一瞬呪いが戻ってくることなど大したことではない』
やっと呪王が喋り、自分で仕舞うと説明してくれた。
これで呪い問題は解決か。
呪王が「収納空間」の魔術を発動させ、ローブを仕舞う。
タツミの髪が元の翡翠色に戻る。
そしてタツミも、仮面を外す。
髪色が元に戻り、放っていた圧力も消え去る。
「これで私も戦力的には問題ないわ!よろしくね、ユカリちゃん!」
「あ、うん..........」
やっぱり、戦力的に雑魚だから置いて行かれることを心配してたのかな.....
別にそんなことはないと思うんだけどなあ...
俺は足早に闘技場を去るタツミを見つめていた。
ユカリと同じで魂を削り、精神を削る強化ですが、時間制限は特にありません。
1日戦ったらどうなるかはわかりませんが...
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