Ep-91 王宮での一幕
いつものアレです。
王子様にCランクに上がった報告をしに行かなければならなくなり、嫌々王宮まで行った帰り。どんな洗脳を受けているのか知らないが俺の....というかユカリの容姿や物腰、言葉遣いや仕草の可愛らしさを熱烈に語る王子の相手に疲れ果てた俺は、王宮の廊下を物憂げに歩いていた。すると、前方の角に人影が見えた。
「........誰だ?」
この廊下は西に位置しており、今年の鬼門なので下働き以外誰も通らない。
受けたくもない貴族たちの視線を受けないには丁度いいんだよね。
けど......
何でわざわざこんな時間にここにいる?
確かこの時間は社交パーティーをやるはずだ。王子から誘われてやんわり断った覚えがある。
俺の声に答えるような形で男が角から出てくる。
「ちっ、バレたか。流石は山猿、中々良いカンをしている」
「山猿?」
「そうとも。何の魔術を使ったかは知らないが王子を魅了し、成り上がろうとする平民の山猿。何か違うか?」
「私は貴族だけれど」
「平民と何も変わらんよ。冒険者でしかも女など」
「本気?」
確か貴族といえども正面から平民を蔑視するのは大罪だったはず。
「どうせ誰もいないのだから問題なかろう」
「私が陛下に言ってしまえばあなたは終わりだけどね」
「させると思うか?」
男がパチンと指を鳴らすと、この廊下を覆うように何かが形成されたのを感じた。
「何を?」
「なに、ちょっとした防音結界だよ。これから起こることを知らせないためのな」
「はあ...」
何かするつもりなら一々会話を交わす必要あるのか?と思いつつ、付き合ってやることにした。そして、しばらくすると男の後ろから何人かの武器を持った人間がやって来た。
「お前は武勇を立てて陛下に気に入られたようだが、所詮そんなものは幾らでも偽装できる。大方、あのエストニアとアーサーの男に取り入って誘惑し、陛下を貶める準備でもしているのだろう?ふふふ、そんな顔をするな。俺は全てお見通しだ。お前に戦闘能力が無く、丸腰なのもな。.......さて、ここで取れる選択肢は分かるか?」
「分からない」
「素直に俺様に屈服して俺の女になるか、俺の部下に殺されて俺に犯されるかのどちらかなんだよ!この売女がぁ!」
「それじゃあ.....」
俺が振り向くと、反対側からも武器を持った人間がやって来た。
どうやって武器を持った人間を忍び込ませたかは分からないが、退路は確かにふさがれたな...転移で逃げられるけど。
「逃がしはしない。生きるか死ぬか、どちらかを選べ」
「じゃあ.....生きようかな」
「ほう、そうか。では、服を脱いで股を開け」
「お下品な、本当に貴族か?メイクウェポン!スタティックソード!」
俺は斬ると麻痺する剣を呼び出す。
こいつで殴って終わらせよう。
「はぁ!?敵うと思ってるのか?俺の部下に?」
「当たり前よ。じゃなきゃCランクなんか上がらないって」
「舐めやがって、嘘をつくな!女如きが、平民と変わらないような家の女如きが調子に乗りやがって!大方、落とした男にやらせて後ろで別の男とでも遊んでたんだろう?」
ブチン。
どっかでそんな音がした時には、俺は既に男の前に立っていた。
「女だから.....皆そう言う。」
「なあ...っ!?速すぎる....護衛共、こいつを殺れ!」
「女だから、何だってんだァ――――ッ!」
俺は思いっきり剣を振って、バットの要領で男を吹き飛ばした。
男は物凄い勢いで廊下の向こうまでぶっ飛んでいった。
「アレックスとクレルをバカにするなァ―ッ!」
「お、おいこいつ、やべーんじゃねえか?」
「バカ、ジュリアス様の命令だぞ?やるんだよ」
「行くぞおおおおおお!」
一瞬呆けていた護衛達も、一斉に俺に向かって剣やら槍やらで攻撃してきた。
そんなもんで今さらダメージなんて食うか!
「どりゃーっ!」
「ぐああああああ!」
「痛てえええええええ!?」
「無念ンンンン!」
という訳で、全員ぶっ飛ばした。
怒りのあまりダンジョンパワーを解放しそうになったが、今のダンジョンの力で10%でもパワー開放すれば、王宮が消し飛びかねないので自重した。ただでさえ[悪魔の巣窟]が戻ってあの時よりダンジョンパワーは増大しているしな。
……さて、非常にまずい。
「何でいつもぶっ飛ばしてしまうのだろうか....」
おかしい、俺は元々善良で健全な一般人だったはず。
なのに、異世界に来てそこまで酷い目にも合っていないのに、ここまで性格が荒んでいる。
襲われたら返り討ち、キレたら即殴打。
….とりあえず信頼できる彼女に相談しよう。
『はーい、何でしょうかマスター!』
「早速だけど貴族ぶっ飛ばしちゃった、どうにかして」
『分かりました~!』
「どうにか出来るのか!?」
俺が驚いていると、俺のメニューに謎の表示が出る。
これは.......
『転移申請:受諾しますか?(Y/N)』
「イエスだ」
何が転移してくるかは分からないが、変なものは来ないだろう....多分。
そして、俺のすぐそばに光と共に魔法陣が出現し、黒い影のようなものが現れる。
「こいつは?」
『ドッペルゲンガーっていう闇系統の一番下の魔物です。これでマスターが思いつく限りこの状況を打破してくれる人物を思い浮かべれば、後はマスターの思考を読み取って勝手に弁解してくれるはずですよ!』
「そうかぁ........ありがとう」
『いえいえ!マスターの為ならば』
最近ダンジョンの魔物たちがレベルで劣る俺をどうして恐れるかわかってきた。
俺は管理者だから気に入らない魔物はいつでも消せるし、ダンジョンパワーをフルパワーにするとあのガルム.....推定レベル3000以上にも追い縋れるからだ。
「じゃあ..............」
俺は考える。アスキーの真似は絶対ぼろが出るから.......うーん、王宮で影響力があって怪しまれない奴.......うーん、うーん..........。
あ、そうだ。
「エルミアに変身してくれ。演技は適当でいい」
「.....御イ」
ドッペルゲンガーはもぞもぞと震えた後、エルミアそっくりに変身する。
これ、俺の記憶から作られてるんだよな.......ちょっとスカートめくって再現がどうなってるか見てみたい気持ちに駆られたが、自重する。
◇◆◇
「というわけで、この方達は不埒にもユカリ様に罵詈雑言を吐き、その上でアレックス・エストニア様とクレル・アーサー様を指名ではありませんが侮辱し、そしてユカリ様に性交渉を強要しました」
「ななななななな、何という......許せん!即刻その男を処刑せよ!」
「恐れながら殿下、その程度のことで処刑を実行しては悪しき前例を作ることになります」
「.........では爵位剥奪の上国外追放しろ」
「はっ」
という具合で、エルミアの報告をあっさり信じる王子様とそれを動揺することなく処理する騎士。....慣れてるんだろうな。
エルミアには申し訳ないが、こちらも襲われたから反撃したんですと言う体を取らないと今後王宮で動きにくくなってしまう。
俺の円滑な異世界攻略を邪魔する存在はなるべく柔らかめに排除していかないと。
(大会で勝てば王子を説得しつつ洗脳を解くこともできるかもしれない。これで王宮は万事解決かな)
俺は秘かにそう思った。
だがこの時の俺は知らなかった。
この後の出会いがちょっとした騒動をもたらすことを...
貴族が喧嘩売ってくる→ボコす→改心の流れがありきたりすぎるな....どこかで変えないと。
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