Ep-89 Cランク昇格戦(後編)
ちょっぴり展開が早めかも?
あと長めです。
(12/02)軽微な修正とロシア語技にルビを振りました。
俺たちは[悪魔の巣窟]第五階層まで降りてきていた。
ゲーム時代はこのダンジョンに行ったことが無かったので分からなかったが、
ここは大ダンジョンにしては随分と狭く、五階層で一番下らしい。
そして、一番下ということは......
『永劫たる雷帝、ダンタリアンが命ず、雷よ我が敵の前に立ちはだかり、邪を隔てよ!』
「アレックス、クレル、シュナ、アラド、リンド、タツミ!行くよ!」
大量の魔物が押し寄せてくる。
本当はリンドの炎で全部燃やし尽くせばいいのだが、それだと魔石も素材も残らない。
というわけでダンタリアンが壁を張って足止めしている間に俺たちが突撃して、魔石を取る作戦だ。
「新たな俺の魔砲剣、見せてくれる!発動!」
「私も行くよ.......開封!」
アラドが走りながら魔砲剣とかいう前の武器を改造したらしい剣を構える。
それに合わせてタツミも仮面をつける。
なんかアレ性格変わって交友関係に大きな亀裂を入れたらしいから、タツミは戦闘中のみ身につけることにしたそうだ。
アラドの剣が変形して巨大な剣に変わり、タツミが仮面を被ると同時に前は結わえていた髪が翡翠色に変わりはためく。右に挿した刀の反対にもう一つ、風の魔力で作られた刀が鞘に入って出現する。
「では行くぞ.......魔力基盤・換装![攻撃]」
アラドの剣の柄部分....そこに輝いていた魔法陣が赤色に変わる。
すると、剣全体を浸透するように流れていた魔力が刃先のみに集中して流れ始めた。
「アインス・シュヴェーアト!」
そして、さらにアラドから魔力が流し込まれ、剣に紋様が一つ浮かぶ。
それをそのままアラドはダークボアに叩きつけると、まるでバターを斬るかのように切断された。
「凄い....!」
「ユカリぃ!私も忘れるなァ!」
俺が驚いていると、豹変したタツミが風を巻いて...いや、突風そのものになり敵に突進していき....
「邪魔だ」
風の方の刀で両断した。
それだけでは止まらず、その奥のサキュバス、更にその奥のスケルトン・シールダー、更に更にその奥のオブシド・ゴーレムまでを全て真っ二つにした。
勿論サキュバスの魔石は斬らなかったようだな。
「タツミも凄いよ!」
「だろう?こんな事も出来るんだよ!風迅撃!」
タツミと久々に一緒に戦ったけど、あんまり変化ないなあ......
性格が変わってしまうのは呪王の仮面から流れる膨大な呪王の呪いを制御出来ていないって証拠なんだけど......まあ、それはそれで扱いやすくなるからいいか......
「俺達も負けてられねえ!メテオスラッシュ!」
「サウザンドブレードレイン!」
「スパイラルスピアラッシュ!」
「喰らえ!我が竜の爪!」
仲間も一斉に攻撃を仕掛ける。
俺も手に持った大剣で攻撃する。
「グランドディバイド!」
衝撃波が地面を割って突き進み、魔物を巻き込みながら奥まで貫通する。
当然致命傷にはなり得ないが...
「ニュークリアフレイム!」
「光霊珠撃!」
『黒王雷槍!』
後方から支援の魔法が飛んできて、魔物を薙ぎ倒す。
よしよし、いいフォーメーションだ。
「このまま一気に突破する!私は魔石を回収するから、みんなガンガン突撃していいよ!」
「「「「了解!」」」」
全員が全員で前進しつつ攻撃を繰り返す。
しかし、この数…俺一人では良くて三層まで、悪くて二層の時点で途中撤退だっただろう。その場合溢れ出す魔物で王都は壊滅するが…
やっぱり頼れる仲間ってのは必要だな!
「アインス・カノーネ!」
「ライトニングソード!」
クレルとアラドが同時に遠距離攻撃を放つ。
.......流石、曲がりなりにも師弟、タイミングがバッチリ合ってる。
「私も全力でサポートいたしますわ!エレメント・エンチャント!」
そして、ユイナからの精霊術による支援で、俺の大剣、アレックスの剣、アラドの剣、クレルのナイフ、タツミの刀、リンドの爪に四大精霊の力が宿る。
それだけで、ただの剣の一振りが致命傷を確実に与えられるようになる。
俺たちは順調に突き進んで行った。
途中左右の壁が崩れ、中から出てきた魔物に後方組が狙われたこともあったが、
『ベルの目の前で仲間を傷つけはさせぬ!黒王遮雷壁!』
とダンタリアンが叫び、それらの魔物の攻撃は全て弾かれ…
「最近ね、水の応用魔術も覚えたのよ…アシッドレイン!」
ベルによる広範囲魔術で溶かされた。
正直言ってあの杖反則だろ...
ベルは武闘大会に出るらしいが、あの杖は一人カウントにすべきだと俺は思う。
そんな感じで、俺たちは最奥...ダンジョンコア部屋手前まで辿り着いた。
◇◆◇
「ここが最奥か…?」
「ユカリ、誰か居るぜ?」
最奥にたどり着いた俺たちであったが、部屋の中央に誰かが蹲っているのを見つけた。こちらを向いていないので顔は見えない。
…絶対に只者ではない。味方でも、敵であっても。
良く見ると、その誰かは白髪に紛れて見えなかったが、獣の耳を持っているようだ。.........獣人かな?
「おーい!」
「クレル!軽率だぞ!」
「別に良いじゃんか…」
クレルが大声を出したのに反応したのか、白髪の…多分男は立ち上がる。
「あの〜、あなたは…」
『全く、折角の計画が成就すると思えば邪魔が入ったか........しかも特大級のイレギュラーか』
「へ...?一体何を」
「皆伏せろ!」
白髪の男がチラリと振り返った瞬間、俺は何かが来るのを感じて皆に命じる。
ダンタリアンの魔杖が輝き、即席の障壁を張る。
『Вспышка белого зверя』
バガアァァァァン!
男が何かを言った瞬間、俺たちは急激な浮遊感を覚える。床ごと障壁が叩き割られ、正体不明の攻撃に俺たちは纏めて巻き込まれたのだ。
直後、全身を激痛が襲った。
『D-28が失敗して死んだという話は聞いたが...もしやお前らイレギュラーの仕業か…ここで必ず始末してくれる』
「そうはさせんぞ!」
『我は魔王!故に強者!強者には弱者を守る義務がある!』
白髪の男が構えを取った瞬間、大怪我を負いながらもリンドが立ち上がる。
杖が輝き、そこからダンタリアンの魔法体が現れる。魔法体は杖を持ち、悠然と構えた。
「リンド、無茶だ...」
「ダンタリアン!戻りなさい!」
俺とベルが立ち上がった二人に戻るように呼びかけるが、リンドとダンタリアンは首を振った。
「ダメだ。奴の強さはこの我でさえ未知数だ。...足手まといは抜きで戦う」
『この魔王すら底が掴めぬ...リンドよ、心してかかるぞ』
「勿論」
リンドとダンタリアンはそう会話を交わし、構えを取る。
白髪の男は、それを見て薄く笑った。
『良いだろう、イレギュラー2人が消えれば残りのザコは洗脳して手駒にしてやる。俺に名は無いが...名乗ろう。俺はA-18、ガルムだ!』
三人が衝突する。
今までに感じたことの無い魔力の波動が激突によって生まれ、俺たちを吹き飛ばす。とりあえず俺に出来ることは...
「ドッペルシャドー!皆を回復しろ!」
分身を生み出し、皆をポーションで回復させる。
その間もガルムとの戦いは続く。
『黒王雷槍!』
「ラグナロク・フレイム!」
『無駄だ。Абсолютный барьер!』
雷の槍と神話の炎すら、ガルムが使った謎の障壁を破るには威力が足りないらしい。.........一体、どれほどの化け物なんだ…!
クソ、仲間がいると頼もしいとは思ったが、どうして俺は戦えないんだ…
もっと強くなるべきだったのか…?
『遥かなる天理の意思よ、黒王たる我が命ず。永劫たる悠久の果てより原初の雷を呼び寄せ、我が意を持って争いに終止符を打たん!…黒王終原雷!』
「ドゥームテンペスト!」
『Абсолютный барьер!』
二人が圧倒的な魔力を消費し攻撃を放つが、それらは全て防がれてしまう。
このままでは敗色は濃厚であった。
しかし…
ピロリン♪
どうやってこの状況を打ち破るか倒れながら考えていた俺に、軽快な音が脳内で鳴り響く。メニューを開くと、ナイトから通信が届いた。
「...なんだ」
『悪魔の巣窟のダンジョンコアと連絡が取れないので、慌てて連絡しました』
「あ~...その予感が当たって、全滅の危機だよ」
『なんと!?...では、直ちに我がダンジョン最強の魔物を集め部隊を組ませて送り出します!』
「ダメだ...今からじゃ間に合わない」
魔改造ダンジョンは王都から離れた位置にある。
そこから魔物を出撃させても2時間以上掛かる。到底間に合わない。
『そうですか...では、出来ることは何も無いのですね?』
「ああ...圧倒的な力が無ければこの状況を突破する方法は無い」
『圧倒的な...力...』
そこでナイトは言葉を切る。
そりゃあそうだ。今すぐ圧倒的な力を得る方法は、ほぼ無いからだ。
新規育成用のレベルアップポーションは味方の育成に使い、他のレベルポーションはリンドとダンタリアンに纏めて飲まれてしまった。
バフアイテムだけではこいつに到底敵わないし、装備はレベルが合わなければどんな強力な装備も身につけられない。俺はもはやとる手段がないことを確信していた。
だが、違った。
『なんだ、簡単じゃないですか』
「え?」
ナイトは笑顔で、そう言い切った。
当然湧いてくる疑問。なぜそう言い切れるのか?
それを口に出す前に、ナイトは言った。
『ダンジョンから得られる力、あるでしょう?』
「だが、アレはそこまで強力じゃ…」
『違いますよ。全体の力を振るえば人間のマスターには耐えられず、身体が壊れてしまいます。だから普段は抑えられているだけです。でも、一時的なら…』
「え...?」
それは衝撃的な事実だった。
ゲーム時代もダンジョンから得られるマナでルーンを強化していたが、
それは微々たるものだった。だが、その設定があったならたしかに話は通る。
そうか...それは盲点だったな。
俺は傷は癒えたが少し重い体を宥め、立ち上がる。
『ユカリ!無理だ!』
「ユカリ!退がれ!」
「退がるわけにはいかない...仲間が戦っているんだから!」
ダンタリアンとリンドが注意を促すが、俺は聞くつもりはない。
今なら万全、全力を出せる。
どうせここで何もしなければ全滅する。
だったら全力を出そうぜ!
「ダンジョンパワー、全開放!」
途端、凄まじい力が身体の中で膨れ上がる。
溢れ出る魔力で床が弾け飛び、風で髪を揺らす。
『ほう...貴様、ザコかと思っていたがそこそこやるようでは無いか?』
「バースト・クリエイトウェポン!ブラッディソード!」
俺が呼び出したのは、HPとMPを毎秒吸い取る代わりに膨大な性能を誇る赤黒い剣身を持つ剣だ。
「空転・略撃」
俺は空転術でガルムの前に移動して、剣を構える。
『ほう...大した覚悟だ。だが、結局お前はこれを越えられない!Абсолютный барьер!』
「はああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!」
俺の全力の一撃が奴の防御壁を叩く。
鼓膜をつん裂く言葉に出来ないほどの轟音が鳴り響き、剣と壁が激しくぶつかり合う。
『な、何ッ!?』
ガルムが驚きの声を上げる。
それはそうだ。自分の張った障壁に相当の自信があったようだが、その障壁にヒビが入っていたのだから。
『フン、ならば張り直せばいい!そしてお前…それほどの力、うまく制御できないのだろう?ならば…次の一手の前に踏み潰してくれる!Вспышка белого зверя‼︎』
「ぐあああああああぁぁぁ!」
俺はガルムの攻撃をモロに受けて吹き飛ぶ。一瞬意識が飛ぶが、さっきよりはダメージは少ない。これもダンジョンから得られる力の影響か...
だが、ダンジョンからの力だけでは奴の障壁を破れない…そうだ、アレを使おう!
「ユカリ...大丈夫か!?」
「...ーバー」
『何...?』
「リミットオーバー!ソウルバーニング!」
俺はゲームでは自爆技とまで言われたスキルを発動し、全身から光の粒子を噴き上げる。そして、踏み込む。
地面が砕ける感覚を感じた直後、俺は既にガルムの前に立っていた。
『何!?』
「だあぁぁぁぁぁあ!」
俺は無我夢中で剣を振った。
それだけで紙のように障壁が歪み消滅した。
『なァッ...!だが、もう一度!Абсолютный бар―――』
「させるかあああああぁぁぁぁ!」
俺はもう一度、渾身の力で剣を突き出した。
剣が確かにガルムに突き刺し、圧倒的な魔力でガルムを内側から爆散させようとする。
『成.....程.....!マルコシアス隊の奴がやられるはずだ.....見事だ、名も知れぬ戦士よ!ぐぎゃああああああああぁああああああっ!』
そして、それは叶い、ガルムは内側から爆発した。
ガルムでは俺の突き出した剣の威力は殺せず、そのまま俺の突き出した剣は迷いなくガルムの後ろの壁を消滅させた。かなり奥の方まで貫通し、大穴が開く。
『馬鹿な...人間如きが...』
「本当に倒すとは...!」
リンドとダンタリアンがそんな風に驚いている。
どうだ、思い知ったか...!
これが俺の本気だ!
そう思ってふふんと胸を張ろうと思った時、急に腕があり得ない方向に曲がった。
さらに、自分の内側から何かがごっそりと抜き取られるような感覚も覚えた。
それだけではなく、意識まで薄れていく。
これは一体...?
そんな疑問が湧いた時には腕どころか目すら動かせず、
俺は地面が迫ってくるのをただ見つめていた。
ユカリはリンドヴルムとダンタリアンですら敵わない相手と対等に戦う力を得た。
だが、その代償は決して小さいものでは無かった。
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