SEP-08 アラドの剣
遅くなってしまい申し訳ありません!
日曜日なのでスペシャルエピソードですが、思った以上に表現が難しく執筆が遅れてしまいました!
「俺の剣を修理してくれないか?」
「はい?」
ベルは思わず、疑問の声を上げた。
それもそのはず、アラドという学院を裏から潰そうとし、親友のユカリにすら襲い掛かった男が、折れた剣を持って自分の元へ来てそんな台詞を吐いたからである。
「頼む。今までずっと店売りの大剣を使っていたが、クランに貢献するためには上位の魔物と戦う必要がある。だが.....」
アラドが言うには、ユカリと戦った時に使った技では『マグナ・シュヴェーアト』や『マグナ・カノーネ』は店売り品でも問題ないらしいが、『リヒト・シュヴェーアト』や『リヒト・カノーネ』からは店売り品が耐えられないそうだ。
「じゃあ私なんかじゃなくて、魔剣鍛冶師に任せればいいじゃない」
「いや、俺が頼んでいるのは”新造”ではなく”修理”だ。どうも俺のこの剣は相当の腕の魔剣鍛冶師が作ったもののようで、『メルティングアダマン』の爺さんでも無理らしい。あの爺さんは魔剣も造れるが、俺のを修復するには技量が足りないそうだ。その時、引き合いにお前を出していたぞ」
「私?」
「ああ。『ハハハ、遺跡荒ら...遺跡探索者のベルなら古代から伝わる魔法の武器に精通しておる。確か学院で研究を続けているはずじゃ。会ってみたらどうかね?』と言っていた」
「あのクソ爺....」
思わずベルは本性を出してしまった。
まさかこんな特大の面倒ごとを持ってくるなんて...
「頼む、魔術回路の接合だけでもいいんだ!金なら払う!」
「........あなたは確か、活動拠点は王都ではないのでしょう?なら、これを打った魔剣鍛冶師に会って、直してもらえばいいでしょう」
「いや、幾ら俺でも死者に会うことはできない....いや、仮に会えたとしても祖母の代には既に齢90を越えていたという.....無理だ。」
「はぁ.....わかりました。やりましょう。ただし、修復の際には私の趣味も入れさせてもらいます」
「本当か!?ありがとう!」
というわけで、ベルはアラドの剣を直すことになってしまったのである。
◇◆◇
「何これ.......よく今まで耐えられてきたわね」
「酷いのか?」
「酷いも何も、内部魔力回路がぐっちゃぐちゃ......多分、これを直せればもっと多くの魔力が流せるようになるわ。.....けれど、それをやっても剣自体にかかる負荷は変化しない...」
「そうか...まあ、直ればいい」
「そうねえ...じゃあ、やるわよ?」
「ああ。」
ベルは右手に魔法陣を描き、何やらぶつぶつと詠唱を始める。
魔法の知識のないアラドはそれを眺めつつ、魔法のポーチから本を取り出し、読み始めた。
しばらく部屋の中に静かな空気が満ちる。
そして、数十分が経ち.........
「あ、終わった」
「本当か!?」
その一言で、ベルは右手に描いていた魔法陣を握りつぶす。
アラドがベルが振り返るよりも早く本を仕舞い、ベルの元へと駆け寄る。
そこには、『出資者』と戦う前の、壮健な剣身が戻った大剣があった。
「これで再びリヒト系統の魔術が使えるのか......」
「待って」
「...何だ?」
「この剣はそういう使い方をするためにあるけど、製作者の技量か資金不足で、素材も悪いし、何より魔法剣にしては薄すぎる。このままじゃまた直ぐ修理することになる。」
「で、では.....どうすればいいのだ?」
分かりやすく落ち込むアラドに、ベルは「収納空間」から青みのかかった銀色の液体の入った瓶を出した。
「.....それは?」
「これは.....オリハルコンの亜種、オレイカルコス。.......魔力伝導率が良く、丈夫で、軽い。...でも、大昔に滅びた技術無しでは液体から固体にする方法はない........だから、現代ではオレイカルコス製の武器は全てオリハルコン武器として扱われてる。液体のオレイカルコスも誰も価値がないと思ってる。」
「では、それも価値が無いのではないか?」
「私は遺跡探索者だよ?当然オレイカルコスをオリハルコン合金へと変化させる技術も知ってる…断片的にだけど。」
「何!?それを公開すれば億万長者になれるのではないか?」
「ダメ。こればっかりは公開できない。」
「何故だ?」
頑なに、強く拒絶したベルにアラドは戸惑いの表情を見せる。
この世には億万長者になれる方法などそう転がっていない。
ただでさえ女性の立場が弱いこの世界で、儲け話を拒絶するとは思わなかったのだ。
「大昔の国々は、今では失われた大量の技術を使って恐るべき兵器を量産して、戦争をして滅びた。今更掘り返して戦争に利用されたら、大昔の焼き直しになっちゃう。…それだけは遺跡探索者として許せない。だから、あなたの剣にだけ…。」
「分かった。…今作るのか?」
「いや、流石にこればっかりは2日くらい掛かるかな…一応その剣は返すから、2日後また来て」
「分かった。」
その日は一応、アラドとベルは別れた。
そして…2日が経った。
アラドがベルの学院から貸し出されている部屋にやってくると、既にベルはそこで待っていた。
「完成したのか?」
「うん。あなたの剣に付ける付属品。ただ、固定するためにあなたの剣を一回バラすわ。…いい?」
「ああ。やってくれ」
アラドが剣を渡す。
その剣は昨日より綺麗になっている。
「うん…?磨いたの?」
「ああ。あの後魔物を狩るのに使ってな…血臭のする剣を持っていくわけにも行かないと思い、磨いた。」
「ああそう…」
そういった気遣いは要らないと思いつつ、ベルは部屋の中央に置かれた机に預かった剣を置く。
「〈解除〉」
そう呟くと、大剣が一瞬光る。
「何をしたんだ?」
「ロックを解除したの。アラドのこの剣も、折れる前は製作者の保護施錠が掛かってたはずだよ。剣が折れたことによって外れたみたいだけど…」
ベルは大剣に右手をかざして、柄の部分をバラバラにしていく。
そして、「収納空間」から魔石の嵌った謎の物体を取り出す。
「それは?」
「直接見たほうが分かりやすいから…」
ベルは右手に紫と赤の二重の魔法陣を浮かべ、柄の部分を錬金術で変形させていく。そして、空いた部分に謎の物体を嵌め込む。
そこを覆うように流動させた柄の金属を絡ませて、
剣と再び接合した。
「これで終わりなのか?」
「いや、これだけだと魔石が壊れたらおしまい。だから…こうする」
ベルは金属板を取り出し、それを魔石の上にくっ付けてネジで止めた。
「これで完成よ」
「おお…と言っても、この装置はどう動かせばいいんだ?」
「えーと…こうやって、こんな感じで魔力を流して…」
「………そうか、こうやって、こうか」
二人とも、道は違えど感覚派なので、アラドはベルの言いたいことを瞬時に理解し、普段剣に魔力を流すのとは違った方法で魔力を流す。
すると…
フォオオオン!
「なんだ!?」
「そのまま持ち続けて!」
大剣の柄に魔法陣が浮かび、柄を覆うように柄から光が噴き出す。
そしてそれは、今までより大きな柄を形成した。
さらに、柄の根元から青みを帯びた銀色の液体が吹き出し、大剣に纏わりついていく。そして、それらが固まり、一つの大きな剣身を形作った。
「…これが完全状態か?」
「うん。設計上問題が無ければ今までより多くの魔力を流すことが出来るはず。」
「ありがとう。早速試してみよう」
「そうね。中庭に行きましょう」
二人は、そう会話を交わすと中庭へと向かった。
◆◇◆
「では…行くぞ」
「うん…あ、そのままだとなんか格好良くないから、なんか言いながら発動して!」
「ああ…」
アラドは心底理解できなさそうな顔をして、仕方なく剣を天へと構え、息を吸う。
「発動」
先程のように魔力によって柄が形成され、オレイカルコスが剣を覆ってオリハルコンとなる。
「マグナ・シュヴェーアト!」
アラドがそう叫ぶと、正に大剣といった風貌へと変化した大剣が光り輝く。
そしてアラドは、それを思いっきり地面へと叩きつけた。
大剣に溜め込まれた魔力が解放され、衝撃波に乗って地面を砕く。
アラドはそのまま剣を地面から引き抜き、水平に構える。
「マグナ………カノーネ!」
一瞬大きな剣身自体が光の剣と見紛うほどに光り輝き、
膨大な魔力が放たれる。
そしてそれは、アラドが狙っていた中庭の大岩に当たり、それを粉々に打ち砕く。
それを確認したアラドは、剣を下向き、斜めに構えた。
「解放」
大剣が魔力を失い液体と化し、剣の柄へと戻る。
それと同時に、巨大な柄も魔力に戻ってアラドへ還元される。
そして、ベルが歓喜の声を上げる。
「凄い!凄いわ!…予想以上の成果。素晴らしい出来よ。…けど、アラド」
「なんだ?報酬ならしっかり払う」
「そうじゃないわ。その武器は換えが効かない。大事に扱って。そして、これは当然だけど…それをユカリに向けたら私の魔導兵器でぶっ飛ばすから」
「…了承した。それと、誤解して貰っては困るが、俺は別にユカリ様の事を恨んでなどいない。全てはあの『出資者』が仕組んだことだからな。」
「そう、そうならいいわ…」
そして、アラドのこの武器は『魔砲剣』と名付けられ、今後ずっと役に立っていくということを、ベルはまだ知らないでいた。
当然アラドも、ユカリを見てまだ激しい戦いは終わらないのだという直感を抱いていて、ベルに剣の修理を依頼したのだ。
更なる戦いのため、アラドは古きを捨て新しき剣で未来に挑むのだ。
大剣が折れてもオリハルコン大剣モードで戦闘可能…
オリハルコン大剣は振り回しにくいが、いつでも解除できる…
まあまあいい武器ですよね。
文中にはありませんが、魔砲剣は流した魔力に応じて表面に紋様が浮かんでいきます。
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