CEP 龍神伝02 黄昏竜と竜魔法
(更新)竜魔法にルビを振ることにしました。
「ガァアアアア!」
遥か山奥…
竜の里と呼ばれる山々の連なる場所にて、
一匹の竜の咆哮が響いた。
いや、それは咆哮ではなく、苦痛の叫びだ。
今、悲鳴を上げた竜は投げ飛ばされ、地面に叩きつけられたのだ。
「ガ…何故…?」
しばらく呻いていた竜は、初めてそこで喋った。
自らを投げ飛ばした相手…黄昏のような橙の鱗を持った竜に。
「フン、竜王がここまで弱いなんてね。失望したよ」
「な、何だと…貴様ぁああああああ!」
馬鹿にされた濃い青の鱗を持つ竜は、爪に魔力を宿らせる。
「我を甘く見た罪、その命で償え!竜魔法!龍鱗砕撃!」
そしてその爪を振ると、そこから膨大な魔力を纏った斬撃が走り、橙竜に襲いかかる。
轟音と共に大地が震え、大爆発が起きる。
巻き上げられた粉塵が当たりを真っ白に染め上げる。
「フフフ…我ら竜王を甘く見るからだ!地獄で後悔しろ」
橙竜が死んだと思い、余裕を取り戻した竜王であったが…
粉塵が晴れると同時に絶望を味わうこととなる。
「どうした?命で償わせるんだろ?竜王!」
そう、橙竜は放たれた魔力の斬撃を指で掴んで止めていたのだ。
「ば…馬鹿な、馬鹿な!あり得ない!」
「そうら、お返しだ」
橙竜は歪んだ笑みを向けると、竜王に掴んでいた斬撃を投げ返す。
竜王は避けること叶わず、先程とは比べ物にならない轟音と、地響きが当たりを揺らした。
「ウィンドバレット」
再び舞う粉塵に顔を顰めた橙竜は、魔法を行使する。
風が粉塵を吹き散らし、辺りの視界が元に戻る。
そこに横たわる血塗れの竜王も、はっきりと見えた。
「見事だ…黄昏竜!だが…ここから先へは行かせぬ!竜王はもっと………尊く、強き存在なのだ!」
竜王がそう叫ぶと、その全身から膨大な魔力が噴出する。
「これは…捨て身の攻撃か?」
「そうだ!その名を竜王燃魂!我が生涯最後の一撃…受け止めよ!」
竜王が翼を広げ、光の奔流と共に橙竜に突撃する。
しかし…
ドシィ!
「なッ!?馬鹿な、我が全力の突撃を受け止めるとは…何たる膂力…!」
「まだだ!」
橙竜が、その首と肩を掴み、華麗な軌道を描かせ地面に思い切り叩き付ける。
ズガアアアアアアンと爆発並の爆音が周囲を覆い尽くし、世界から一瞬音が消え去る。衝撃波も凄まじく、近くに常人が居れば一瞬でミンチとなってしまっていただろう。
先程は上に昇っていた粉塵は、全て円状に拡散したため、煙はすぐに晴れた。
全身から光の粒子を漂わせ、竜王が消えていく。橙竜の勝ちである。
「な、何故…」
「どうして竜は考えない?これほどの力、考えて使えば必勝を齎す。何故力をぶつけることしか考えないんだ?」
「………なるほど、そうか。我の抱いていた初めての感覚は…死闘。竜であれば生涯経験しない、本気の死闘であったか。」
「最強の生物である竜は、強すぎるが故に鍛錬をしない。死闘も経験しないがゆえに段々と力をぶつけ合うだけの勝負になっていく。馬鹿だねえ、力を扱うコツさえ身につければ、こうして竜王だって倒せるのに」
「………お主の力は分かった。だが、死にゆく竜に教えてはくれまいか?その考えにどうして辿り着いた?お前にその技術を教えたのは誰だ?」
「雑魚に語る話じゃ無い。ただ、竜王。一つだけ教えておいてやろう。僕の名はアヴァロン。お前らのような竜を一掃し、この世界に最強の竜種が何たるかを広く分からせてやる。」
だが、橙竜…黄昏竜アヴァロンがそう言い終わった時、既に竜王は息絶えていた。
アヴァロンはチッと舌打ちすると、東の空へと飛び立った。
◇◆◇
同時刻、王都より少し離れた森ではーーーー
「ど、竜息術!」
「いいぞ!いい炎だ!」
杖を構え、フィーナが巨大な爆炎をリンドに向かって放っていた。
リンドは満面の笑みを浮かべ、それを爪で斬り払う。
「今度はこちらから行くぞ!」
「魔竜鎧!」
リンドが人間の体から翼を生やし、一気にフィーナへと接近するが…
フィーナは全身に魔力を纏い、リンドの鋭い握撃に対応した。
バゴオオオオンという鉄を石で叩いたような音が響く。
「竜爪撃!」
「いいタイミングだ!ふぅんぬ!」
フィーナが杖を打ち捨て、その両手に魔力の爪を発生させる。
それをそのままリンドへと叩きつける。
が…
「その程度では傷一つ付かんぞ!」
爪の一撃は難なくリンドの硬い鱗に阻まれる。
竜の鱗は年を追うごとに魔力を帯び、剥がれるたびに強く、硬くなっていく。
1000年は生きるリンドを傷付かせるためには、全力を持って掛からなければいけないのだ。
「っくぅ!魔竜翼!」
フィーナは杖を拾いながら後退し、魔法の翼を広げる。
そのまま羽ばたき、空へと消える。
「ふはは、空こそ本懐であるこの俺に空中戦を挑むか!その意気、よし…だが!」
リンドの全身が輝き、辺りは眩い光に包まれる。
その光が晴れると、緋色の鱗を持つ巨大な竜が現れる。
「空とあれば、我も本気を出すぞッ!」
リンドが羽ばたき、空へと跳ね上がる。
それだけで周辺はこの世の終わりのような大地震に見舞われ、風圧で木々が薙ぎ倒される。
リンドは周囲の空気を吹き飛ばしながら、一瞬でフィーナに追いつき、追随する。
「そんな、その巨体で…速過ぎる!」
「どうした?」
「アアァァァァ!竜鳴術!」
フィーナは空にて全力で咆哮する。
雲が消し飛び、周囲の魔素が全てフィーナの制御下に置かれる。
そう、リンドはフィーナの竜鳴術に特殊な効果があることに気づき、伸ばさせたのだ。
「これが私の全力全開!竜爪撃!」
周囲の魔素が爪に収束し、半透明で希薄な存在感だった爪が物質化する。
「さあ、かかって来い!」
「ああああああああああああああああああああああ!!!」
フィーナが全力で咆哮し、周囲の魔力を魔翼に集中させて急加速する。
「行くぞ!我の全力、避けてみよ!」
リンドがそう叫び、口からブレスを吐く。
それは最早ブレスなどというものではなかった。
正に、破壊の炎。余りの高熱に口から吐き出されて数秒でプラズマ化し、熱線のようにフィーナへと殺到する。
「魔竜…がぁぁぁぁああいい!」
フィーナはそれを、真正面から受け止めた。
そして…
「いっっけえええええええええぇぇぇぇぇ!」
「こぉぉぉぉおおおい!」
ブレスを貫くように突進し、リンドに接近したフィーナと、リンドの爪撃が交差する。凄まじい魔力同士の激突で大爆発が巻き起こり、魔力の爆発が周辺に浮いていた雲を全て消し飛ばした。地上も無事では済まず、森が見渡す限り薙ぎ倒され、ミステリーサークルのようになっていた。
そして閃光が晴れ、フィーナが目を開けると…
「やった…!傷を、傷を付けられた!」
「良くやった…!我は信じていたぞ!」
フィーナの目の前には、腹から少量の血を流すリンドが浮いていた。
そう、フィーナは竜魔法を全て使うことができたので、リンドに傷をつける事が勝利条件の決闘を行なったのだ。
最後に空へと決闘の場を変えたのも、全力でぶつかれば地形が変わってしまうからだ。
そして、リンドが人型に戻るのと同時に、地上の一角から1人の男が姿を現す。
竜戦士団副団長、ゼインである。
今日は審判役として来ていたのだが…
「………凄えな、これが神話の戦いか。リンドヴルム様が張ってくれた結界がなかったら、俺も命が無かったぜ…」
余りの戦いに怯えて、審判どころではなかったらしい。
「まあ、それはともかく…フィーナ、俺は間違いなく俺より強いぜ。副団長の座をやる」
「えっ!いいんですか?」
「ああ。俺ももっと強くなれるって、分かったからよ。強さにそぐわない座なんて要らねえ。もっともっと強くなって、いずれはリンドヴルム様にも追いついてみせる。それまではその座、お前に預けてやるよ」
「わかった!頑張ってね、ゼイン!」
3人は、その場でしばらく話をした。
リンドはユカリのクラン「セブンス」改め「エターナル・バンド」…「エタバ」に属しているので参加できないが、ゼインとフィーナでクランを結成するということに決まった。
そして、それらの段取りを決めて、リンドに乗って学院へと帰還した。
だが、3人は知らなかった。
ここでの戦いを見ていた人間がいて、そこは魔竜の森という名前になり、濃密な魔力から特殊な魔物が出現する場所になったことを…
アヴァロン・ドラゴンキングさんは大会出場枠のキャラです。
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