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【300万PV突破】不人気職の俺が貴族令嬢に転生して異世界で無双する話 ~武器使いの異世界冒険譚~  作者: 黴男
第一章 王都王宮編 前編

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Ep-83 解放団の飯

ジャンルをアクションからハイファンタジーに変更しました。

今まで間違った検索に引っかかってたと思うので...

「え?」


俺はついそんな声を上げてしまった。

あまりに突然のお願いに困惑したのだ。

ここはもはや第一の寮、第二のエストニア家と続く第三の家かもしれない解放団、そこの四階である。


「頼みます!姐御!!」

「そんなこと言われても...」


ハンスが俺に頭を下げていた。

一体何が起こったかというと、俺は再び解放団に呼ばれてやってきたのだが、

ハンスが俺に話した頼みごとの内容が俺にはどうしようもないものだった。


「ウチは土曜日に皆で集まってメシを食うんだが、そのメシを作る係が歳で引退してしまって...姐御の力で何とかしてくれ!ください!」


と頼んできたのだが、俺は料理などしたことも無い。

料理の美味い奴に伝手も.......いや、あることにはあるが、

あいつは協力してはくれないだろう...


「分かった、出来る限り探してくる」

「有難うございます!!!」


それでも安請け合いしてしまうのが、俺の短所であった。

こんなんだから人生損ばっかなんだよな...


◇◆◇


土曜日、俺はベルと共に解放団の前にいた。

ベルは絶対に断るだろうと思っていたが、


「え?いいよ。私料理が嫌いってわけじゃないから、一回大人数の料理を作ってみたいと思ってたのよね」


などと答えたので、他に適材もいないし呼ぶことにした。

食材や調理道具は向こうで用意してくれているらしいので、後はベルに任せるだけである。


「ユカリ、まさか私だけにやらせる気じゃないよね?」

「ぎくっ」

「しっかり手伝ってもらうわよ」


ということで、俺も手伝うことになった。

...................................不安だ。

解放団の中に入ると、中は賑わっていた。

土曜日は基本全ての部隊が集結するので、一番人が多いらしい。


「おお、ユカリの姐御!そいつが俺たちに料理を作ってくれる奴ですかい?」


ロビーの端の机で俺の知らないやつとトランプをやっているらしい密偵部隊の下っ端であるイアンが、俺に話しかけて来た。


「そうだ」

「楽しみにしてやすぜ。これは宴なんで、料理の味より酒の味!って奴も沢山いやすが、酒に弱い奴にとってはご馳走なんすよ。俺は酒に弱いわけじゃ無いんでやすが、毎回楽しみにしてるんですぜ」


イアンはそうまくし立てながら、トランプを引き抜いた。

どうやらジョーカーでは無かったらしいな。

俺たちは一階を進み、食堂を通って厨房へとたどり着く。

誰もいないが、奥に小部屋があり、そこにエプロンとメモが置いてあった。

小部屋に入り、メモを見ると...


『メニューはなるべく多彩で、味付けは濃く。量は多ければ多いほどいい。生鮮食品は使い切ってしまって構わない』


と書いてあった。

魔導冷蔵庫を開くと、

トマト、キャベツ、胡瓜、ナス、人参、大根の生鮮野菜、

エビ、何かの肉、卵、魚っぽい何か等の生鮮食品が並んでいた。

奥を覗くと...これ、豆腐か?......何の料理に使うんだろう。


「これ、どうするの?」

「見たところ、高いものを除き調味料は全部揃ってる。小麦粉や米もある....と。...じゃあ、まずはパンを焼いてご飯を炊こうか。ユカリ」

「な、何?」

「野菜を切って。あと、出来たらエビや肉、魚も切ってくれると嬉しいんだけど」

「わかった」


ふふふ、俺は〈武器使い〉、この程度のこと出来なければ...いけないんだ!


「クリエイトウェポン、万能包丁!スキルセットチェンジ!セットクッカー!」


オークストーリーの歴史は長い。その中でネタ職業がいくつも出ては、歴史の闇に消えて行った。そう、〈料理人〉もそのうちの一つである。

そして料理人の初期武器は....「万能包丁」固定である。

さあ、〈料理人〉のパワーを見せてやるぜ!


トントントントントントン!


素早く取り出した野菜を左手で押さえ、普段の自分なら絶対にできないような速度で切る。

と言っても、これは俺の技量ではない。

万能包丁と、〈料理人〉のスキルによるものだ。


◇万能包丁 装備可能レベル:1

生物を切った時のあらゆるダメージが0になる。

食材を切る時の速度補正+999%

食材を切る時の筋力補正+999%

食材を切る時の重心・加力調整+999%


「完璧調理」

発動中、自動で調理行動を行う。


こんな便利なものがあるなら、何でベルをわざわざ呼んだかって?

それは、昨日寝る前にメニューをチェックしていたらネタ職業のスキルがあることに気づいたからだ。レベル100を越えたからか、幻獣を倒した影響かは知らないが、

今まで呼び出せなかったり使えなかった職業や武器が使えるようになっていたのだ。

それはそうとして、俺の後ろでベルも頑張っている。

大鍋に入るくらいの米を頑張って研ぎ、小麦粉を頑張って練っている。


「負けられないなぁ!」


俺は魚を放り投げ、空中で三枚におろして包丁で受け止めた。

こんなプロでもそうそうできないような事ができるとは、やっぱり〈武器使い〉は

強いな...

そんなこんなで、俺は指定されたものを綺麗にカットした。

その頃にはもう、ベルも米をデカい釜で炊き始め、オーブンに大量のパンを入れていた。


「次はどうする?」

「料理よ!ユカリはサラダでも作っておいて」


扱いが酷いなあ...と思いつつ、切ったトマトなどの瑞々しい野菜たちを大皿に盛りつけて行く。前世では手先は決して器用ではなかったのだが、ステータスの影響か俺は手先が滅茶苦茶器用になって来ていた。今なら足でピアノが弾ける。


「えーと、エビが結構あるなぁ....これを使い切るなら、アレがよさそう」


等と言って、何かを作り始めた。


「何を作るの?」

「エビと肉を炒めて、魚を混ぜてオリジナルの料理にしようかな。もしかしたら既に別の料理があるかもしれないけど、私は知らないから」

「ふーーーん...」


作り方だけ聞く限りでは普通においしそうではある。

でも、サラダを作ったら俺はすることが無いような...

うん?

俺は残った卵、茄子を見た。

……..冷蔵庫に豆腐があったな。これで麻婆茄子でも作れないかな?

あれに豆腐は要らないけれど、麻婆茄子豆腐として作っちまおう。

行ける行ける、たぶん行けるはずだ。

俺は早速材料を並べるのだった。




ダメだった...ダメダメだった...

自信ありげに材料を並べたが、こんなに大変だとは思わなかった。

結局「完璧調理」の力を借りてようやく完成できた。

ベルの方はよく分からないオリジナル料理を完成させ、時刻は気が付けばもう夜だ。


「おう、姐御!出来たか?」

「ああ。ベルが殆どやってくれた」

「忝ねぇ!ベルさん、あんたは俺の恩人だ」

「いえ、それほどの事でもありませんが......」

「さあさ、仲間も待ってる。早く運んで一杯やろう」


そんなやり取りを交わし、頑張って大釜とか大皿とか大鍋とかを食堂まで運んだ。


「ユカリの姐御だ!」

「姐御!」

「ユカリ様!」

「姐御だっ!」


俺が登場すると、見覚えのある顔が何人か叫んだ。

その声に反応して何人かが俺に疑問の視線を叩きつける。

どうやら幹部クラスは全員俺のことを信用しているが、下っ端はそうでも無い奴がいるんだろうな...

俺は運んできた大釜を置く。大釜の蓋の上に置いてあった大皿をテーブルの上に置く。

ベルも同じように、大鍋と皿を置いていく。


「姐御、この方は?」

「ああ、こいつはベル———」

「お前ら!この料理を作ったのは殆どベルさんのお陰だ!感謝して食えよ!」


俺が紹介する前にハンスが声を張り上げ、皆が一瞬黙る。

そして、


「おおおおお!前の料理番の料理とはまた違った趣向だな!」

「美味そうだ...」

「ベル姉に感謝!」


と皆一斉にベルへ感謝を向けた。

ベルはこんな大勢に見つめられたことも感謝されたことも無いようで、微笑んだまま固まっている。皆はそれを勘違いしたようで、さらに盛り上がっていく。


「よぉぉぉぉし!今週も順調にこの国の腐った部分の切除に成功した!これからも励むために、今日は飲んで食って、暴れるぞ!」

「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」


ハンスの声と共に一斉に飯に食らいつく。

飯を食わずに酒をあおっている奴もいるが、基本的に皆無言で食べたり飲んだりである。


「私たちも食べようか」

「そうね」


俺達も食べることにした。

ただ、大量に作ったパンとご飯、そして大根と人参が入ったスープ以外は大食いの獣人たちに纏めて食われてしまったようで、俺たちは結局自分の作った料理にありつくことは出来なかった。

この出来事以降、毎週土曜日の夜にベルは報酬を貰って飯を作る係に自らなり、

解放団の面々に解放団の母として知られるようになる。

もっとも、本人はそのことを知らないのだが....










暗い部屋で、男が泣いていた。

部下たちにバレぬように押し殺した声で、泣いていた。


「っく、思い出しちまったなあ....あの頃も、これと同じくらいっ...楽しかったのによ...今じゃ俺一人だ....リリア、ユーリ............どうして俺を、置いて行っちまったんだ?」


男の視線の先には、月明かりに照らされた一枚の写真があった。


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