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【300万PV突破】不人気職の俺が貴族令嬢に転生して異世界で無双する話 ~武器使いの異世界冒険譚~  作者: 黴男
第一章 王都王宮編 前編

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Ep-79 カイ

新キャラ(正確には数十話前に名前だけ登場)が突然現れてユカリと親密な関係になるのはもはやお家芸と化した...

カイくんとノーラ爺さんはイルマ、ルドルフ、フィアスと同じ幹部で、彼ら全員に共通する辛い過去を持っています。

俺がエルミアを待たせて、チャートを無視してイベントを進めまくった数日後...


「はぁ~すっきりした」

「...情の欠片も無い冷徹な粛清、ご協力感謝します」


俺は学院のテラスですっきりした顔で休んでいた。

その傍ではエルミアが呆れ顔で佇んでいる。

それもそのはずだ。俺がゲームの知識を元に、裏切る貴族や裏切りそうな貴族、貴族と内通している賊、全てをチクったからだ。証拠もしっかりと集めてきた上であるから、王も疑いはしなかった。...あの王妙に俺に信頼を置いてるよな。...もしかして、これも罠だったりするのか?

うーむ、現時点であの『幻獣』が何体いるのか想像が付かないが、

あいつの口ぶりからして王国には何体も忍び込んでる。

俺が戦った時は余裕で倒せたが、アレは一般人には相当辛い相手だ。

王宮に潜り込んでいてもおかしくない。


「エルミア」

「...何でしょうか?」

「敬語をやめろ」

「はいはい、わっかりましたよ~...それで?」

「王族に何か変な噂とかない?」

「おおっ!?王宮騎士の目の前でそれを言っちゃうか?まあ、これでも王宮騎士の端くれ、それくらいの情報は網羅しているよ...けど、そういう噂はないね」


残念。

まあ、騎士にすらバレるような動き方はしないか。


「エルミア、今日は街へ行くけど、護衛は要らないから」

「了解です」


これはあのウー...ウーなんだっけ、まあいいや豚男爵をはっ倒した時にエルミアが言ってくれたのだが、1人になりたいときは別に言ってくれれば護衛はつかないらしい。

雇い主は王だが、今仕えているのは王ではなく俺だからだそうだ。

という訳で、俺は街へと向かうのであった。

もう以前のようにテレポートで、という訳にも行かないので、面倒臭い手続きを経て正門から出ていくのだ。...ああ、偉くなると大変だなぁ...........


◇◆◇


俺が学院の門から出ると、木陰から誰かが顔を出した。


「誰だ?」

「あっしです」


そいつは、ハンス解放団の幹部の.....確かカイだったか?の部下の一人のようだ。

カイは魚人族の男らしいので、配下はみんな海に関するものを身に着けている。

こいつの場合は巻貝だな。


「これを」

「ん?」


そいつは俺に近づくと何かを差し出した。

それは鈍色に光るナイフ...ではなく、普通のメモだった。


「あっしは口下手なもんで...これで分かってもらえるだろうとカイ様が書いてくださりました」

「うん、わかった」

「...すっかり姐御口調が消えましたね、姐さん」

「忘れてた」

「へへへ、じゃあそういうことで」


そう言ってカイの配下は素早く走り去った。

メモには、『王城前噴水広場にて』と書かれていた。

指定の場所へと向かう。最短距離にはスラム街が存在するが、

解放団関係者が言いふらしたのか誰も近寄ってこない。

俺は誰とも目を合わせずスラム街を抜けた。

スラムを抜けると大きな川が見える。川には大きな橋がかかっていて、スラムと王都住宅街を分断している。一応住宅街側の入り口には兵士と兵士の詰め所が立っている。

兵士は俺の顔を見るや否やサッと素早く礼をした。

はあ、降りかかる火の粉を払っているだけなのに、どうしてこんなにも上の立場になってしまったんだろうか...

そんなことを考えつつ、住宅街を抜ける。

住宅街は全部で5つの区画に分かれていて、その中央に十字の大きな道が走っている。

今進んでいる道のずっと先に見えている広場を左折すると、王城が見える。

王城までは真っ直ぐ進める。


「ゲーム時代散々通ったけど...やっぱりこの足で歩くと新鮮だな」


ゲーム時代は住宅街は全てイベントすら設定のされていない完全なオブジェクトだったので、一軒一軒に灯りが付き人気が感じられるのは新鮮だ。

それだけではなく、ゲーム時代は乗り物...ライディングを使用して一気に駆け抜けていたので、足で歩いてみるのもまた新たな発見があっていいものだ。

気が付くと、俺は十字路に辿り着いていた。

ゲーム時代にマップで見るととても狭い様に見えたが、これでも交通の大動脈、とても広大な十字路となっていた。

足を止めると、後ろから声が掛けられる。


「嬢ちゃん、ここの十字路が立派なのはわかるけど、退いちゃくれねえか?俺が通れねえからな」

「ああ、すいません」


重そうな荷を背負ったおっさんが、俺の横を通り抜けて歩いていく。

かつてはNPCとプレイヤーが居た街は、魂を得てより輝いていた。




噴水広場にたどり着くと、一人の少年が声を掛けて来た。

普通の子供かと思ったが、よくよく見れば動作に隙が無い。

戦士のものと分かる動きだ。


「お前がカイ?」

「...........よく分かったね、ユカリさん」


うーむ、ゲーム時代では見たことのない格好だ。

肌は白く普通の色だが、耳はひれのようになっていて、差し出された手は水かきが付いていた。足には殆どブーツとレッグガードのせいで見えないが、鱗がついているように見える。


「人間じゃない?」

「...ちょっと棘のある言い方だね。確かにボクは人間じゃない。魚人族だ。魚人族のカイ。亜人の一種だけど、獣王国には属してない。」

「それで、何の用だ?わざわざ呼びつけるってことは相当の用事だろ?事前に手紙まで出して」


そう、カイは事前に手紙を出してきていたのだ。

配下が来た時に驚かなかったのもそういうことだ。


「そう、そうなんだ。ボクは手紙でハンス団長の尊敬する姐御を呼びつけた。けれど、これは決して単なる悪戯じゃない。ボクは見た目こそ幼いけれど、魚人族ではもう見た目の二倍の歳なんだ。...だから、信じて?」

「勿論」


何をそんなに恐れているのかは知らないが、信用はしよう。


「それで?」

「ボクは亜人だから、亜人を蔑ろにするやつらが許せなくて、同じ獣人仲間のノーラと一緒に国内の亜人排斥派や違法な亜人マーケットを潰して回ってるんだ」

「ほうほう」

「そして数日前ボクは見つけてしまったんだよね。裏マーケットを」

「ふむふむ」

「それは王都の地下にあるんだ。地下に伸びる下水道に部屋を作ったらしい。...亜人の中でも質がいい奴隷を売りさばくマーケットらしいんだ。けど、そこの警備はとても厳しい。今日ノーラとボクの部隊は別任務で動かせない。だから、姐御...協力してください!」


うーん...協力してもいい。

この国は亜人奴隷を扱っていないと聞いていたが、やっぱ裏ではやってるんだな。

俺は正義という訳ではないが、やっぱり善行は積んでおくべきだよな。解放団幹部に協力し、信用を得るというのも重要だろうし、ちょっとぐらい協力はしてやってもいい。...けど!


「何故今日なんだ?今日部隊を動かせないなら明日、明後日動かせばいいだろう...何か理由があるな?話せば協力しよう」

「......わかった」


聞けば、カイには幼馴染の獣人がいるらしい。昔カイの住んでいた海底都市で果物屋をやっていた家の子で、美しい毛並みを持った猫に変身できる獣人らしい。

この世界では獣人は獣の部位を持った人間に過ぎず、獣の姿に変身しなければ普通の人間と同じだそうだ。そして、カイの幼馴染のその子に小さい頃のカイは一目惚れし、告白したそうだ。


「あの子は言った。数十年後ならいい。その時に私が認める立派な男になっていたなら付き合ってもいい、って言った。その数年後、彼女は引っ越していった。」

「そして?」

「その後は消息がつかめなかった。ボクは解放団になる前は傭兵として各地を巡り彼女を探したけど、名前すら分からなかったから...」

「ヘタレの長話は要らねえ。要件を言え」


ええい、話が長い!

一歩踏み出す勇気の出ないヘタレの話は聞いてるとイライラする。

ここは俺みたいに玉砕覚悟で挑....ダメだ、告白した経験がない。


「ッ...!その子が....奴隷として並ばされていたのを見たんだ。今夜彼女は売却され、その後は行方を追うことが難しくなる。貴族や裕福な商家に買われていたら解放団とは言え手出しができない。」


よし、面白そうじゃんか。

アジトに忍び込んで大乱闘をやらかす。

解放団でもやったからな、いっちょやってやるか!


「良いだろう」

「ほえ?....いいんですか?死ぬかもしれませんよ?」

「話を聞く気になった時点で死は承知の上。.....面白そうだから協力してやる」

「あ、ありがとうございます...!お礼はどうすれば...」

「お前にできることをお礼として返してくれればいい」

「......はっ!」


カイは俺が了承の意味で頷くと、真剣な顔でお辞儀した。

ただ...最近俺ってバトルジャンキーと化してないか?

段々と戦闘狂みたいになって来てるのは早めに何とかしないと元の世界に戻った時苦労しそうだな。


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